「出荷前に防除日誌を出してください」とJAや取引先から言われて、何をどこまで書けばいいのか迷っていませんか。防除日誌(農薬使用記録簿)は、農薬をいつ・どこで・何に・どれだけ使ったかを残す帳簿です。書く項目は法令で示されていて、慣れてしまえば1回の散布につき1行で済みます。
この記事では、農薬の記帳が法律上どう位置づけられているのかを一次情報で確認したうえで、書くべき項目、記入例、よくある書き間違い、そして紙・Excel・アプリそれぞれの付け方を整理します。
防除日誌と農薬使用記録簿の違い
呼び方は地域や組織によってさまざまで、「防除日誌」「農薬使用記録簿」「農薬散布記録簿」「防除記録」「生産日誌」などと呼ばれています。中身はほぼ同じで、農薬を使った事実を記録する帳簿です。
あえて違いを挙げると、次のように使い分けられることが多いようです。
- 農薬使用記録簿:法令が示す記帳項目(後述の5項目)を中心に、散布の事実を淡々と残すもの
- 防除日誌:散布の記録に加えて、病害虫の発生状況や見回りの結果など「なぜ防除したか」も書き込むもの
JAに提出する様式は、品目ごとに独自のものが用意されていることがほとんどです。提出先の様式がある場合はそれに合わせ、ない場合は自分で使いやすい形で記録しておけば問題ありません。
農薬の記帳は義務?法律上の位置づけ
帳簿への記載は「努力義務」
農薬の使い方のルールは、農薬取締法にもとづく「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」(平成15年農林水産省・環境省令第5号)に定められています。記帳について定めているのは第9条で、農薬を使ったときは次の事項を帳簿に記載するよう努めなければならないとされています。
- 農薬を使用した年月日
- 農薬を使用した場所
- 農薬を使用した農作物等
- 使用した農薬の種類又は名称
- 使用した農薬の単位面積当たりの使用量又は希釈倍数
「努めなければならない」という書き方なので、条文上は努力義務です。記帳しなかったこと自体に罰則はありません。
罰則があるのは「使用基準」を守らなかったとき
一方で、同じ省令の第2条は、食用・飼料用の農作物に農薬を使うときに守らなければならない基準を定めています。ラベルに書かれた適用作物以外に使わないこと、使用量や希釈倍数の限度を守ること、使用時期を守ること、そして有効成分ごとの総使用回数を超えないことです。
こちらは農薬取締法第25条第3項で違反が禁じられており、違反すると同法第47条により3年以下の拘禁刑もしくは100万円以下の罰金(または併科)の対象になります。
つまり、記帳そのものは努力義務でも、記録がなければ「総使用回数を超えていないか」「収穫前日数を守れているか」を自分で確かめる手段がありません。記帳は、罰則のある使用基準を守るための道具だと考えるとわかりやすいと思います。回数の数え方は農薬の使用回数に上限がある理由と正しい数え方で詳しく解説しています。
実際には「出さないと出荷できない」場面が多い
法律上は努力義務でも、現場では記録の提出が事実上の条件になっていることが少なくありません。
- JAの共選・共販:出荷前に防除日誌や栽培履歴の提出を求める産地が多くあります
- スーパー・生協・加工業者との取引:残留農薬の自主検査とあわせて使用履歴の提出を求められることがあります
- GAPの取り組みや認証:農林水産省の国際水準GAPガイドラインでも、農薬の適正な使用と記録が取組事項に含まれています
- 農林水産省の補助事業(みどりチェック):補助金の申請時に提出するチェックシート(農業経営体向け)に「農薬の使用状況等の記録・保存」という項目があります
- 病害虫防除を他人に委託した場合:国の「住宅地等における農薬使用について」通知では、使用記録を一定期間保管し、委託者も記録の写しを保管することとされています
栽培履歴の提出方法については栽培履歴(生産履歴)の書き方と提出方法にまとめています。
防除日誌に書く項目
必ず書く5項目と書き方のコツ
省令第9条の5項目を、実務でどう書けばよいかを整理します。
- 年月日:散布した日。午前・午後や時刻まで書いておくと、雨や風のタイミングと照らし合わせやすくなります
- 場所:圃場名や圃場番号。「家の前」「川沿い」のような呼び名でもかまいませんが、毎回同じ名前を使うことが大切です。ハウスは棟番号まで書きます
- 農作物:ラベルの適用作物名と照らし合わせられるように書きます。品種や作型(抑制、半促成など)まで書いておくと後で役立ちます
- 農薬の名称:商品名をラベルどおりに書きます。似た名前の剤が多いので、農薬登録番号も添えておくと確実です
- 使用量または希釈倍数:液剤なら「1,000倍」、粒剤なら「10a当たり3kg」のように単位まで書きます
書いておくと後で困らない項目
法定の5項目だけでは、使用基準を守れているかを判断できない場合があります。次の項目も一緒に書いておくことをおすすめします。
- 散布液量(10a当たり何Lまいたか)と散布面積
- 対象の病害虫・雑草
- 有効成分と、今作での使用回数(何回目か)
- ラベルの使用時期(収穫何日前まで)と、そこから計算した収穫可能日
- 散布者、散布機(動噴、ブームスプレーヤ、ドローンなど)
- 天候・風の強さ、周辺への配慮(事前の周知など)
- 病害虫の発生状況や散布後の効き具合
記入例
ミニトマト(促成)で殺菌剤を散布した場合の記入例です。
- 年月日:2026年10月3日 午前8時ごろ(晴れ・微風)
- 場所:第2ハウス(東)
- 農作物:ミニトマト(品種〇〇、促成作型)
- 農薬名:〇〇水和剤(農林水産省登録第〇〇〇〇〇号)
- 希釈倍数・散布液量:2,000倍、10a当たり200L(散布面積5a、散布液100L、薬量50g)
- 対象:灰色かび病(下葉に初発を確認)
- 使用回数:この有効成分は今作2回目(ラベル上限3回)
- 収穫前日数:収穫前日まで使用可 → 10月4日から収穫可
- 散布者:本人、動力噴霧機
「今作何回目か」は、種子消毒や育苗期に使った分も含めて数える必要があります。苗を購入した場合は、苗の販売時に示される使用履歴も確認してください。
よくある書き間違いと見落とし
使用回数を「商品」単位で数えてしまう
総使用回数は、商品ごとではなく有効成分ごとに数えます。商品名が違っても同じ有効成分を含んでいれば、回数は合算されます。2種類以上の有効成分を含む混合剤を使った場合は、含まれるそれぞれの有効成分について1回ずつ数えます。
希釈倍数と使用量を取り違える
ラベルには「希釈倍数」と「使用液量(10a当たり)」の両方が書かれていることが多く、どちらか一方だけ記録すると、あとで使用量の上限を守れていたか確認できません。液剤は倍数と液量をセットで残すのが確実です。
作物名が登録の範囲に入っているか確認していない
ラベルの適用作物が「野菜類」「かんきつ」のようにグループ名で書かれている場合、自分の作物がそこに含まれるかどうかを確認しておく必要があります。登録内容は、農林水産省の農薬登録情報提供システムで作物名や農薬名から調べられます。
まとめて後から書く
1週間分をまとめて書こうとすると、日付や倍数の記憶があいまいになります。記録は散布したその日のうちに、できれば散布直後に残すのが基本です。
紙・Excel・アプリ、どれで付ける?
紙(手書き)
JAから配られる様式に手書きする方法です。電波のない圃場でも書け、そのまま提出できるのが利点です。一方で、回数の数え間違いや転記ミスが起きやすく、過去の記録を探すのに時間がかかります。
Excel(テンプレート)
パソコンに入力する方法です。有効成分ごとの回数や収穫可能日を計算式で出せるので、手書きより確認が楽になります。自分で様式を作るのが手間なら、無料テンプレートを使うと早く始められます。
無料テンプレート:農薬使用記録簿
法令で記帳に努めるとされる5項目に、使用回数と収穫前日数を確かめる欄を加えた様式です。Excel(入力用)と手書き用PDFがあります。
アプリ
スマホで圃場にいるまま記録する方法です。農薬を一覧から選べるアプリなら、商品名の書き間違いが起きず、使用回数や収穫前日数もその場で確認できます。提出が必要なときは、記録をまとめて出力できます。
当社が提供しているミノリス日誌は、防除日誌をスマホで付けることを想定して作った無料の栽培記録アプリです。
- 農薬適用情報10万件以上のデータから、登録農薬を選ぶだけで記録できる
- 選んだその場で、使用回数や収穫前日数を確認できる
- 農薬・肥料・作業・収穫の記録を作付けごとに時系列で見返せる
- 記録を栽培履歴としてCSV・Excelで出力し、JAや取引先への提出に使える
- 散布前後の様子を写真で残せる
収支管理やGPSによる作業の自動記録には対応していません。そうした機能も必要な場合は、圃場管理アプリおすすめ11選で他のアプリと比べてみてください。
防除日誌をスマホで付けるなら「ミノリス日誌」
登録農薬を選ぶだけで、使用回数と収穫前日数をその場で確認できます。記録はそのまま栽培履歴としてExcel・CSVで出力できます。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要/登録後すぐ使えます
提出を求められたときの進め方
- 提出先の様式と締め切りを確認する(品目ごと、作型ごとに様式が違うことがあります)
- 作付けごとに防除の記録を並べ、抜けている散布がないか確認する
- 有効成分ごとの使用回数がラベルの上限内か、最後の散布から収穫までの日数が足りているかを確認する
- 提出先の様式に転記する。Excelやアプリで記録していれば、出力したものを添付できるか問い合わせる
- 提出した控えを、自分の記録と一緒に保管する
よくある質問
家庭菜園でも防除日誌は必要ですか?
省令は「農薬を使用する者」全般を対象にしており、家庭菜園で食べる野菜に農薬を使う場合も使用基準(適用作物、使用量、使用時期、総使用回数)は守る必要があります。記帳は努力義務ですが、回数の管理のためには記録しておくほうが安心です。
防除日誌はどのくらいの期間保存すればよいですか?
省令第9条には保存期間の定めはありません。「住宅地等における農薬使用について」の通知では「一定期間保管すること」とされています。実務上は、取引先やGAPの基準、JAの指示がある場合はそれに従い、ない場合も少なくとも出荷した作物について問い合わせを受ける可能性がある期間は保管しておくのが無難です。
除草剤も記録が必要ですか?
農作物や圃場に使う除草剤も農薬として登録されたものであり、使用基準の対象です。使用回数にも数えるので、殺虫剤・殺菌剤と同じように記録します。
散布を業者やJAに委託した場合は?
散布した側が記録を作成し、委託した側もその写しを保管することが国の通知で求められています。回数の管理は作物ごとに通算する必要があるので、委託分も自分の防除日誌に書き写しておくと管理しやすくなります。
紙とアプリを併用してもいいですか?
問題ありません。たとえば、JAの様式は紙で提出しつつ、日々の記録はアプリで付けて提出時に転記する、という使い分けもできます。大切なのは、1つの作付けの記録がどこかにまとまっていることです。
まとめ
農薬の記帳は、省令第9条で5項目を「帳簿に記載するよう努める」とされた努力義務です。ただ、罰則のある使用基準(適用作物、使用量・希釈倍数、使用時期、有効成分ごとの総使用回数)を守るには記録が欠かせず、JAや取引先、補助事業のチェックでも提出や保存を求められます。
まずは5項目に「散布液量」「有効成分と使用回数」「収穫可能日」を加えた形で、散布したその日のうちに記録することから始めてみてください。紙やExcelで始めるなら無料テンプレート、スマホで回数まで確認したいならアプリが便利です。
防除の記録と回数確認を、無料アプリで
ミノリス日誌は全機能0円。登録は約1分、クレジットカードは不要です。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要/登録後すぐ使えます


