農業用アシストスーツとは?アシストスーツの種類やできることについて解説

農業では、腰を曲げたままの作業、手を上げたままの作業、重いものの上げ下げなど、体に負担のかかる動作が頻繁にあります。そんな動作をサポートするのがアシストスーツです。数年前まで高すぎてとても買えるようなものではありませんでしたが、近年価格が下がってきており、簡易的なものなら数万円で手に入るようになりました。その一方で性能は向上しているため、使える場面はさらに広がってゆくでしょう。今回はそんなアシストスーツを紹介します。

アシストスーツとは?

装着型の動作補助機器

アシストスーツとは、作業者の体に装着することで動作を補助する機器です。農業分野に限らず、介護や工場作業、小売業の荷運び、災害救助など様々な場面で活躍が期待されている技術です。

アシストスーツは、使用目的によって自立支援型と作業支援型に分類されます。

  • 自立支援型:高齢者や足腰に障碍のある人の歩行介助を目的としたもの。
  • 作業支援型:荷物の持ち上げや傾斜地での姿勢維持など、作業現場での作業者補助を目的としたもの。

農業用アシストスーツは、後者の作業支援型にあたります。

農業におけるアシストスーツの役割

農業におけるアシストスーツには以下の機能があります。

  • 重量の軽減:重量物を持ち上げたり、下ろしたりする動作を補助します。
  • 姿勢維持:収穫時や坂道の上り下りの際、肩や腰の姿勢を保ちます。

これらの機能を支えているのは、アシストスーツに組み込まれているセンサーとモーターの協働です。アシストスーツを装着した状態で作業者が動くと、モーションセンサーがその動きを感知します。「持ち上げる動作」を感知すれば、腕や腰を上げるようにモーターが駆動します。「ゆっくり降ろす動作」を感知すれば、腕や腰が徐々に下がってゆくようにモーターで適度に支持します。一定の姿勢を維持している時は、あまり力を入れなくても同じ姿勢を保てるよう支えてくれます。

このような動作サポートによって、作業者の心臓や骨格筋への負担が軽減されます。これにより作業者の疲労が減るため、作業効率の向上が期待できるでしょう。

アシストスーツの歴史

アシストスーツの歴史はまだ浅く、ベンチャー企業や大学がアシストスーツの開発に乗り出したのは2014年ごろです。まだ市場規模は小さく、2018年時点での日本国内でのアシストスーツ販売台数は、農業以外の分野を含めても約2,000台にとどまっています。

アシストスーツが求められる背景

農業現場でアシストスーツが求められる背景として、以下のキーワードが挙げられます。

  • 農業従事者の高齢化
  • 労働災害の微増傾向
  • 肉体労働へのマイナスイメージ

それぞれについて解説します。

農業従事者の高齢化

2019年の時点で農業従事者の平均年齢は66.8歳であり、農業従事者約140万人のうち約100万人が65歳以上です。業種別で最も高齢化が進んでおり、加齢や怪我・病気による運動機能の低下が課題となっています。そこで、作業者の運動機能を補助するためにアシストスーツが求められるようになり、開発が進められてきました。

労働災害の微増傾向

労働災害の件数は1970年代から大幅に減りましたが、2000年代に入ってから微増してきています。2019年には、「休業4日以上の死傷災害」の被災人数は延べ12.6万人にのぼりました(全産業含めた統計値です)。

これらの死傷災害のうち、約4割が「転倒」「動作の反動、無理な動作」で占められています。その根本的原因は加齢による運動能力の低下だと考えられており、アシストスーツで予防できる可能性があります。

肉体労働へのマイナスイメージ

機械化が進んできたとはいえ、農業は肉体労働が多いのが実情です。傾斜のある中山間部での作業が多いこと、日本の地形や営農形式に対応できるような自動化技術があまり普及していないことなど、様々な要因があるでしょう。そして、肉体労働は「危険」「きつい」などマイナスイメージを持たれて敬遠される傾向があります。

そこで、作業者の負担を軽減することで肉体労働のイメージを改善する役割も、アシストスーツに期待されています。アシストスーツは比較的小額で導入でき、大型機械が入れないような中山間農業や施設園芸にも対応できるため、農業現場にも浸透してゆくでしょう。その結果、「きつい肉体労働」というイメージも変わる可能性があります。

アシストスーツの使い方

選び方

アシストスーツを選ぶ際のポイントは、本体重量アシスト力です。本体重量は4〜8kgくらいあり、一般的にアシスト力が大きい機種ほど重くなる傾向があります。アシストスーツの重量自体が作業者の負担になってしまう可能性もあるため、作業者の体力や作業内容に応じた機種を選んでください。

アシスト力は、動作を補助するときにモーターが生み出す力を表します。アシスト力を表す単位には、kgだけでなくkgf(キログラム重量)やN(ニュートン)、N・m(ニュートンメートル)も使われます。日常生活であまり使わない単位なので、意味を確認しておきましょう。

  • kgf:力の大きさの単位です。1kgfとは質量1kgの物体に加わる重力の大きさなので、結局「質量(kg)」と値が一致します。たとえば、カタログで「5kgf」と書かれていたら、「5kgを持ち上げる力」と読みかえて差し支えありません。
  • N:力の大きさの単位です。1N=0.102kgfで換算できます。
  • N・m:モーメント(回転を生み出す力)の大きさの単位です。イメージとしては、長さ1mの棒の端を持ち、もう片方の端に100gの重りをぶら下げたとき、手に加わる荷重がおおよそ1N・mです。

装着

アシストスーツ本体はハーネスのような形をしており、腰や背中の部分にセンサー、モーターなどを搭載しています。

装着時はショルダーストラップに腕を通し、腰や脚部に装具を取り付けてください。ずれた状態で作業していると、センサーが動作を読み取れなかったり、予期せぬ方向にモーターの力が加わったりするおそれがあります。

作業

装着が完了したら装置の電源を入れ、バッテリー残量を確認してから作業を始めます。バッテリーを満タンにした状態では、およそ4時間の連続稼働が可能です。

重量物を持ち上げている最中にバッテリーが切れると、ぎっくり腰や転倒事故の原因になってしまうため、バッテリー残量はこまめに確認してください。交換用のバッテリーがあると安心です。

アシストスーツを製品ごとに紹介

ここからは農業のアシストスーツを製品ごとに紹介します。

和歌山大学パワーアシストスーツ

和歌山大学が企業と共同で開発したアシストスーツです。アシストスーツの欠点はアシストスーツ自体に重量があり、農業従事者が装着できないことでした。しかし研究を重ねてバッテリーの軽量化に成功し、もともと7㎏だったアシストスーツは5㎏にまで減量させることに成功しています。

現在が全国各地で実証実験が行われており、野菜や果物の収穫、傾斜地での農作業、樹木の運搬、荷物の持ち運びなどの場でアシストスーツは活躍しています。

このアシストスーツの特徴は次の通りです。

  • ある程度の防水機能があり、屋外での農作業に対応している
  • 荷物の持ち運びでは素早く動くことが可能
  • 中腰での作業時には姿勢を保持するようにサポート
  • 歩行時には脚の上げ下げをサポート

このように農作業の多くを1台のアシストスーツでサポートします。

サポートジャケットEp+ROBO

このアシストスーツはユーピーアール株式会社が2019年に発売しました。この製品には次のような特徴があります。

  • 全重量は約3.4㎏でアシストスーツの中ではとても軽量
  • モーターのサポートの力加減や動きの速さをボタン1つで調節でき、あらゆる動きに対応している
  • 上半身や太ももにベルトを装着するタイプであるため、農作業中もストレスが少ない

アシストスーツの中には装置を背負うタイプもありますが、サポートジャケットEp+ROBOはモーターが取り付けてあるベルトを上半身や太ももに巻いて取り付けます。そのため体と密着している部分も比較的少ないので装着した時の違和感があまりないのが特徴です

アシストスーツのこれから

日本能率協会総合研究所の予測によると、2023年度にはアシストスーツの市場規模は、販売台数にして8000台に達する可能性があります。特に農業は他の産業よりも高齢化が進んでいるため、アシストスーツを導入する動機付けも大きいと思われます。また、アシストスーツ普及により「農業はきつい」というイメージが一変することで、若者や女性の農業人口増加も期待できるでしょう。

参考サイト