農薬の保管庫を開けたら、同じ農薬が3本出てきた、有効年月が切れた袋が奥に残っていた、という経験はないでしょうか。農薬の在庫管理表(受け払い簿)は、いつ・何を・何本買い、いつ・どこで使うために出し、いま何本残っているかを1行ずつ残す帳簿です。
結論から書くと、農家が自分で使う農薬の受け払い簿は法律上の義務ではありません。ただし「医薬用外劇物」「医薬用外毒物」と表示された農薬には毒物及び劇物取締法の保管ルールがかかり、国の通知でも保管量の把握と利用状況の記録が求められています。GAPでも農薬の在庫管理は取組事項の1つです。この記事では、根拠を一次情報で確認したうえで、在庫管理表の書き方と記入例、棚卸と保管庫点検のポイントを説明します。
農薬の在庫管理表(受け払い簿)の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
劇物・毒物の区分と有効年月の欄がある受け払い簿に、棚卸表と保管庫の点検表を付けた3シート。
農薬の在庫管理表とは/なぜ必要か
劇物・毒物に当たる農薬は、保管の決まりが法律にある
容器やラベルに「医薬用外劇物」「医薬用外毒物」と表示された農薬は、毒物及び劇物取締法の対象です。販売業の登録がない農家も、業務上これらを取り扱う者として、同法第22条第5項により次の規定が準用されます(対象となる毒物・劇物は、施行規則第18条の2で「すべての毒物及び劇物」とされています)。国立医薬品食品衛生研究所の解説でも、農業者は「業務上取扱者」として規制の対象になると説明されています。
- 盗難・紛失を防ぐ措置、飛散・漏れ・流出を防ぐ措置をとる。飲食物の容器として通常使われる物(ペットボトルなど)を容器に使わない(第11条)
- 保管・陳列する場所に「医薬用外」の文字と、「毒物」または「劇物」の文字を表示する(第12条第3項)
- 盗難・紛失があったら、直ちに警察署に届け出る。飛散・流出などで危害のおそれがあるときは保健所・警察署・消防機関に届け出る(第17条)
同研究所の解説では、保管場所を鍵のかかる丈夫なものにして必ず施錠すること、在庫量を定期的に点検し使用量を把握することも挙げられています。盗難や紛失に「気づく」ためには、帳簿の数と実物を照らし合わせる仕組みが必要です。
国の通知は「保管量の把握」と「利用状況の記録」を求めている
農林水産省の通知「農薬の保管管理等の徹底について」(平成13年10月10日 13生産第5344号)は、農薬使用者を含む関係者に、農薬の保管管理の徹底と盗難・紛失の防止、事故があった場合の警察署への届出を求めています。さらに毒物・劇物に当たる農薬については、鍵のかかる保管庫の整備と、農薬の保管量の定期的な把握、利用状況の記録の整備に努めるよう求めています。在庫管理表は、この「保管量の把握」と「利用状況の記録」をそのまま形にしたものです。
帳簿の備え付けが義務なのは販売者など
農薬取締法第20条で帳簿の備え付けが義務づけられているのは、農薬の製造者・輸入者・販売者です。農家が自分で使う農薬の受け払い簿については、法律上の義務はありません。一方、国際水準GAPガイドラインの取組事項(青果物)では、番号59で「容器移し替え禁止、いたずら防止の施錠等」「流出防止対策等」「毒劇・危険物表示、通気性の確保等」に配慮した農薬の保管、在庫管理の実施が挙げられています。GAPに取り組む場合は、在庫の記録を求められると考えておくのが無難です。
記入例

記入例では、年度初めの4月1日に△△乳剤2本を「前年度から繰り越し」として1行目に書き、そこから出し入れを1行ずつ追っています。4月3日に〇〇水和剤(500g)を4袋購入して在庫4、4月12日に東1号のミニトマトに使うため1袋出して在庫3。4月20日には劇物の□□粒剤(3kg)を2袋購入し、「劇物の棚へ」と保管場所まで書いています。「在庫」の欄は、出し入れした後に残っている数です。
書き方(項目ごと)
| 欄 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 年月日 | 買って保管庫に入れた日、使うために出した日 | 2026/4/12 |
| 農薬の名称 | ラベルに書かれた商品名 | 〇〇水和剤 |
| 区分 | ラベルの表示で、普通・劇物・毒物のどれか | 劇物 |
| 容量・剤型 | 1本(袋)の容量と剤型 | 500g・水和剤 |
| 入庫/出庫 | 入れた数、出した数(本・袋) | 4/1 |
| 在庫 | 出し入れの後に残っている数 | 3 |
| 購入先/使った圃場・作物 | 入庫なら購入先、出庫なら使った圃場と作物 | 東1号・ミニトマト |
| 有効年月 | ラベルに書かれた有効年月 | 2028/10 |
| 記入者 | 書いた人 | 山田 |
農薬ごとにページを分ける
全部の農薬を1枚に時系列で書くと、特定の農薬の在庫を追うのが大変になります。Excelならシートを、紙ならページを農薬ごとに分けると、在庫の数が一目でわかります。記入例のように1枚にまとめる場合は、農薬名で並べ替えられるようにしておきます。
防除の記録と突き合わせる
散布の中身(希釈倍数、散布液量、使用回数)は防除日誌に書き、在庫管理表は「数の出入り」だけを追います。2つを並べると、使った量と減った数が合っているかを確かめられます。たとえば〇〇水和剤を1,000倍で10a当たり200Lまいた場合、薬量は10a当たり200gです。東1号が25aなら500gで、ちょうど1袋分になります。防除日誌に25a散布と書いてあるのに在庫が2袋減っていれば、どちらかの記録が間違っているか、どこかで使った記録が漏れています。防除日誌の書き方は防除日誌(農薬使用記録簿)の書き方で解説しています。
棚卸表(2枚目)
帳簿の在庫と実物の数を並べ、差があればその理由と処置を書く表です。作付けが始まる前や年度の変わり目など、時期を決めて数えます。差が出たときは、出庫の書き忘れか、使いかけの容器の数え方の違いであることが多いですが、劇物・毒物で説明のつかない不足があれば、紛失・盗難を疑って警察署への届出を検討します。
保管庫の点検表(3枚目)
鍵がかかっているか、劇物・毒物の表示があるか、他の容器に移し替えていないか、液漏れや容器の破損がないか、食品や飼料と同じ場所に置いていないか、を○×で確かめる表です。棚卸と同じ日にまとめて行うと手間が減ります。
気をつけること・よくある間違い
使いかけの容器を数えない
開けた容器も1本として数え、残りが少ないときは「残り3分の1程度」のように目安を書き添えます。数えないと、棚卸で帳簿と実物が合わなくなります。
ペットボトルに小分けして置いておく
劇物・毒物では、飲食物の容器として通常使われる物に入れることが法律で禁じられています。普通物でも誤飲事故につながるので、元の容器のまま保管します。
出庫だけ書いて、入庫を書き忘れる
買ったときに書かないと、在庫の数がすぐにずれます。納品書を受け取ったときに書く習慣にし、納品書は帳簿と一緒に綴じておきます。
劇物・毒物を普通物と同じ棚に置く
劇物・毒物は、鍵のかかる場所に他の農薬と分けて保管し、保管場所に「医薬用外劇物」などの表示をします。区分の欄を設けているのは、保管場所の確認を忘れないためでもあります。
有効年月を見ない
有効年月を過ぎた農薬は、使わないまま保管庫にたまりがちです。棚卸のときに有効年月も確かめ、近いものから使う予定を立てます。
使わなくなった農薬を自分で処分する
毒物・劇物は、政令で定める技術上の基準に従わなければ廃棄できないと定められています(毒物及び劇物取締法第15条の2)。普通物も含め、購入先の販売店や都道府県・市町村の窓口に処分方法を相談し、処分した日と数量を在庫管理表に「廃棄」として書いておきます。
紙・Excelで続かないときは
在庫管理表がずれる原因の多くは、「使った記録」が付いていないことです。保管庫から出した日と、実際に散布した日・量が記録されていれば、月に1回まとめて在庫を直すこともできます。
当社のミノリス日誌は、散布したその場で農薬の使用記録をスマホに残せる無料アプリです。登録農薬の一覧から選ぶだけで記録でき、使用回数の上限と収穫前日数もその場で確認できます(農薬適用情報10万件以上)。作付けごとの農薬・肥料・作業・収穫の記録はCSV・Excelで出力できるので、「この期間にどの農薬をどれだけ使ったか」を在庫管理表と突き合わせる元データになります。
ただし、在庫の数を自動で計算したり、入庫を記録したりする機能はありません。在庫はこの受け払い簿で管理し、アプリは使用記録の側で使ってください。収支管理やGPSによる作業の自動記録にも対応していません。
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よくある質問
劇物に当たる農薬かどうかは、どこで確かめますか?
容器やラベルに「医薬用外劇物」「医薬用外毒物」と表示されています。表示がないものは普通物です。
棚卸はどのくらいの間隔で行えばいいですか?
法令で決まった間隔はありません。作付けが始まる前や年度の変わり目など、自分で時期を決めておくと続けやすくなります。GAPの認証を受けている場合は、その基準で求められる時期に合わせてください。
普通物の農薬も記録したほうがいいですか?
法律上の保管ルールが直接かかるのは劇物・毒物ですが、国の通知は農薬全般の保管管理の徹底と盗難・紛失の防止を求めています。在庫を把握しておけば二重購入や期限切れも減るので、普通物も同じ帳簿で管理するのがおすすめです。
農薬が盗まれたかもしれません。どうすればいいですか?
劇物・毒物は、盗難・紛失に気づいたら直ちに警察署に届け出ることが法律で決められています(第17条)。国の通知も、農薬の盗難・紛失があった場合は直ちに警察署に届けるよう求めています。届出の際に、帳簿で「いつ時点で何本あったか」を示せると説明がスムーズです。
使いきれない農薬はどうすればいいですか?
購入先の販売店や、都道府県・市町村の窓口に処分の方法を相談してください。自分で燃やしたり、流したりしてはいけません。
まとめ
農家の農薬の受け払い簿は法律上の義務ではありませんが、劇物・毒物に当たる農薬には毒物及び劇物取締法の保管ルール(盗難防止、表示、移し替え禁止、盗難時の届出)がかかり、国の通知でも保管量の把握と利用状況の記録が求められています。GAPでも農薬の在庫管理は取組事項です。
入庫と出庫を1行ずつ書き、時期を決めて棚卸をし、防除の記録と数を突き合わせれば、紛失や期限切れ、二重購入に早く気づけます。無料の在庫管理表で、まずは保管庫の中身を数えて繰り越しの行を書くところから始めてみてください。
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