ほ場管理システムとは?ほ場管理システムの活用事例を5つ紹介

農場のデータを紙媒体で管理していると、複数の圃場を何年も作付けするうちに膨大な量になってしまいます。そこで、電子管理によって多くの情報をコンパクトに管理するために、圃場管理システムが開発されました。圃場管理システムの導入により、各種データの一元管理が可能になり、検索も素早くできるようになります。さらに、遠く離れた人との情報共有が可能になるため、専門家への相談、離れた圃場への作業指示など、外部との連携で活躍するでしょう。本記事では、圃場管理システムの概要を解説し、実績のあるシステムを紹介します。

圃場管理システムとは

圃場管理システムとは、農作物の生産量や栽培環境をタブレットなどで可視化するシステムです。これまで紙媒体で記録していた作業記録や圃場の情報を、電子管理によって一元的に扱えるようにします。データの記録と検索が容易になるため、せっかく記録したデータを紙に埋もれさせずに済みます。

クラウド型が一般的

圃場管理システムは、クラウドコンピューティングという形式で提供されるもの(クラウド型)が一般的です。クラウドコンピューティングとは、提供企業がサーバーやソフトウェアの保守運用を行い、利用者(農家)はインターネットを通してそれらを利用するというサービス形式です。利用者は定期的に料金を支払いますが、その代わり自力でソフトウェアを設計・保守する必要はありません

クラウド型の逆がオンプレミスという形式で、こちらは農家が自前でサーバーやソフトウェアを運用します。自由に機能を組み替えられますが、高い初期投資と保守のための人材が必要となるため、クラウド型の方が主流です。

圃場管理システムでできること

地図の表示

圃場の位置を地図上に表示し、場所や面積を把握しやすくします。作業動線の設定や、圃場毎の作付計画策定に活用できます。

作業・施肥・農薬散布記録

作業記録を残しておくことで、作業の引継ぎや段取り計画がスムーズにできます。肥料と農薬の使用記録を提出する際も、記録を検索して正確に報告できるでしょう。

財務管理

投入した資材、水道光熱費、人件費、各種固定費、売上高などを記録できます。生産計画や販売計画の策定、確定申告などに活かせます。

在庫管理

いつ、どの資材をどの程度使用したかを記録し、アプリケーションですぐ確認できるように管理できます。必要な在庫量を策定したり、購入量の目安を決めたりするうえで重要なデータです。

データのメンバー間共有

スマートフォンやパソコンを持っていれば、圃場にいないスタッフもクラウド上で情報を共有できます。

圃場管理システムのメリット

圃場管理システムを用いることで得られるメリットを紹介します。

「やったつもり」「伝えたつもり」を予防する

メモ書きや記憶だけで情報を管理していると、体系化されないまま情報量ばかり増えてしまい、見落としや散逸、失念のおそれが出てきます。その結果、圃場の位置や作業内容を間違えてしまい、やり直しによる無駄が発生するでしょう。

アルバイトや技能実習生に作業を任せる場合も、情報を体系化して正しく指示を出すことが重要です。作業マニュアルが古いバージョンであったり、そもそもマニュアルがなく口頭説明だけであったりすると、作業内容を間違える原因になります。散布農薬の種類を間違えて出荷できなくなってしまう場合もあるため、「やったつもり」「伝えたつもり」で曖昧なまま進めてしまうのは危険です。

一方、圃場管理システムを導入することで、作業進捗、圃場の位置、作業手順書のバージョンなどを整理できます。これにより、「やったつもり」「伝えたつもり」のミスは大幅に減らせるでしょう。

紙媒体よりも情報の更新・検索が容易

一度紙に印刷した情報に修正を加えてゆくと、手書きメモや訂正印が徐々に増えて煩雑になります。また、書類を大幅に修正して印刷し直した場合、修正前とのバージョン管理が混乱することもあるでしょう。電子情報であれば逐次更新できるため、こまめに記録できていれば、常に最新の圃場データが見られます。

さらに紙媒体で記録を続けていると、記録書の量が膨大になってしまい、ファイルの分類や保管場所も煩雑になってきます。そのため、記録したデータを必要なときに速やかに検索することが難しくなり、やがて書類の確認すら疎かにされてしまう危険性もあるでしょう。圃場管理システムでは情報が体系的に管理されるため、検索にかかる手間を大幅に軽減できます。

スタッフ全員で進捗状況を共有できる

クラウドで管理されている情報は、ログインできるメンバーであればパソコンやスマートフォンで確認できます。そのため、どのような作業がどの圃場で行われ、どの段階まで進んだのか、圃場に行かなくても共有可能です。作業を途中で別のスタッフに引き継ぐとき、あらかじめ進捗状況を共有しておけば作業指示の抜け・漏れを予防できます。

さらに進捗具合を全員が把握しておくことで、遅れている作業へ臨機応変に応援を送ることもできるでしょう。

圃場管理システム導入時の留意点

圃場管理システム導入にあたって留意しておきたい点を紹介します。

導入費用がかかる

クラウド型の圃場管理システムの場合、毎月または毎年、提供企業に利用料を支払わなければなりません。価格は年間3~5万円のサービスが多く、機能を多くすればそれだけ費用も上がります。しかし最近は機能を抑えた安価なものあるため、導入目的を決めて機能を絞ることで、費用を抑えられるでしょう。

導入時の作業者への教育が必要

日頃からパソコンやスマートフォンを扱い慣れている作業者であれば、圃場管理システムにもすぐ順応できるでしょう。しかし電子機器を使い慣れていなスタッフが多い場合は、指導に時間を取られてしまうかもしれません。

サポート終了に要注意

クラウド型のサービスは、何らかの事情で提供企業がサポートを終了するリスクがあります。その場合、サポート終了までに代替サービスへの乗り換えを済ませなければ、クラウドに保存してきたデータの蓄積を失う危険性があります。

システム提供企業からの告知はこまめに確認し、サポート終了が予定されている場合は、代替サービスを探してデータ移管を進めなければなりません。

圃場管理システム導入の流れ

目的を明確にする

機能を詰め込みすぎると高額になり、あまり使わない機能にまで利用料を支払うことになりかねません。そのため、まず導入目的を明確にすることが大切です。目的に対して過不足ない機能を盛り込んだとき、利用料に見合う効用が得られるかを判断して導入を検討します。

クラウドサービスを機能と容量で選ぶ

圃場管理システムは様々な企業が提供していますが、選ぶポイントは機能とデータ容量です。機能が増えるほど扱うデータ量も多くなると予想されるため、クラウドのデータ容量は多い方が望ましいと思われます。

使用するデータ量が分からない場合は、契約後でも容量を拡張しやすいサービスを選択すると良いでしょう。

圃場にセンサーを設置する

製品によっては、センサーで気温や湿度などを測定しクラウドに送信できます。使用する場合は圃場にセンサーを設置し、通信環境を確認する作業が必要です。

ネット回線があれば、すぐに利用開始できる

クラウド型の圃場管理システムは、運用に必要なサーバーなどの設備を提供企業が保有し管理しています。そのため、利用者側で用意する必要はありません。

実績のある圃場管理システム

圃場管理システムを導入することで、実際にどのような結果が出たのでしょうか。これまでの実績を活用事例の中で見ていきましょう。5つの活用事例を、企業名・目的・導入したシステム・結果に分けて紹介します。

1.水田作への活用①

企業:有限会社中条農産サービス(埼玉県熊谷市)

目的:管理する農地の急増に伴い、圃場ごとの情報を社員間で共有するため。

導入:QAgriSupport(農研機構中央農業総合研究センターが開発したフリーソフト)

結果:

  • 圃場の位置や作業の進捗状況を簡単に共有できるようになった。
  • 圃場マップと作業内容が一体となった指示書により、作業指示の時間が削減できた。
  • 適正な人員配置ができるようになり、作業ミスも減って効率化された。

2.水田作への活用②

企業:(株)ふるさと未来(新潟県上越市)

目的:雇用拡大に伴い、圃場の間違い防止や指示の徹底のため。

導入:未来ファームMINORI(上越ICT事業協同組合) 

結果:

  • 圃場のタグを読み込むことで圃場名・作業内容・担当者名がわかるようになった。
  • コストと売り上げが自動集計され、収支実績の確認が簡単になった。
  • 作業を可視化でき、若手従業員の育成が効率的になった。

3.水田作・畑作への活用

企業:農事組合法人熊本すぎかみ農場 (熊本県熊本市)

目的:営農と農地管理の効率化のため。

導入:営農管理システムKSAS((株)クボタ製)

結果:

  • 圃場確認のための紙の地図が不要になった。
  • GPSの位置情報を使うことで、圃場の場所を間違えなくなった。
  • 作業が効率的になり、作付面積を増やすことができた。

4.畑作への活用

企業:(株)ジェイエイフーズみやざき(宮城県西都市)

目的:効率的かつ高品質な野菜の製造販売、および生産から販売までの一貫した管理のため。

導入:栽培管理のマニュアル化・工程管理のシステム化(ジェイエイフーズみやざき製)

結果:

  • 栽培管理マニュアルを作成したことで、契約農家が指示に従って栽培可能となった。
  • 複数の場所に点在する圃場を一括管理し、的確な指示ができた。
  • 効率的な指導により、収量の多い圃場が増加した。

5.果樹栽培への活用

企業:もりやま園株式会社(青森県弘前市)

目的:親からの経営継承時に、品種や樹の場所などの細かい管理・指示をするため。

導入:Agrion果樹(株式会社TrexEdge製)(旧ADAM もりやま園製)

結果:

  • 労働生産性の低い作業をやめるなど作業の見直しができた。
  • 作業時間と進捗状況を管理できることで、指示が的確になった。
  • 作業員全員が品種と場所を把握できるようになった。

参考サイト