県GAPやJGAPに取り組むことになったり、取引先から「GAPの記録を見せてほしい」と言われたりして、何の書類をどう作ればいいのか迷っていませんか。農作業日誌と農薬の記録は付けていても、リスク評価表・教育訓練の記録・衛生点検の記録・記録の保管ルールの4つは手元にないことが多く、審査や点検の直前にあわてて作るケースをよく見かけます。
結論から書くと、GAPの記録は農林水産省の「国際水準GAPガイドライン」の取組事項に沿って作れば、県GAPでも民間認証でも土台として使えます。この記事では、ガイドラインのどの項目がどの記録に当たるのかを一次情報で確認したうえで、4つの様式の書き方と記入例、よくある間違いを順に説明します。
GAP記録様式セットの無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
リスク評価表・教育訓練の記録・衛生点検の記録・記録の保管ルールの4シート。Excel(点数は自動計算)と手書き用PDF。
GAPの記録とは/なぜ必要か
GAPは「実施・記録・点検・評価」の繰り返し
農林水産省は、GAP(Good Agricultural Practices:農業生産工程管理)を「農業生産の各工程の実施、記録、点検及び評価を行うことによる持続的な改善活動」と説明しています。食品安全・環境保全・労働安全・人権保護・農場経営管理の5分野を満たすものを「国際水準GAP」と呼び、令和4年3月に国の共通の取組基準として「国際水準GAPガイドライン」が策定されました。ガイドラインは青果物・穀物・茶・飼料作物・その他非食用の5つの分類別に作られています。
GAPの中で記録が重視されるのは、取り組んだことを後から第三者が確かめられる形にするためです。ガイドラインの解説書でも、記録はクレームや農場ルール違反が起きたときの原因調査や、作業記録と出荷記録を結び付けたトレーサビリティの確保に使えると整理されています。
記録に関係する主な取組事項(青果物の番号)
ガイドラインの取組事項(青果物)のうち、記録に直接かかわるものを抜き出すと次のとおりです。番号は青果物のもので、穀物や茶では番号がずれるので、自分の品目のPDFで確認してください。
- 番号6:生産計画を立て、実施した農作業を記録し、計画に対して評価する
- 番号7:農場の管理を実証するために必要な記録の内容と保管期間を特定し、記録を作成・保存する
- 番号8・9・10:食品安全の危害要因分析、労働安全・環境保全のリスク評価と対策(農場のルールの設定、実施、検証、見直し)
- 番号11:収穫記録と結び付いた出荷記録の作成・保存
- 番号20:作業者が必要な力量を身に付けるための教育訓練
- 番号26:手洗い設備やトイレ設備の確保などによる衛生管理
- 番号33:農産物取扱施設の保守・点検・清掃と、有害生物の侵入防止
- 番号52・58・59:農薬使用計画の策定、農薬の使用記録の作成・保存、農薬の保管と在庫管理
- 番号64:肥料等の使用記録の作成・保存
このうち農薬と作業の記録は、ふだんの防除日誌や農作業日誌でまかなえます。書き方は防除日誌(農薬使用記録簿)の書き方と農作業日誌の書き方で解説しています。この記事で扱うのは、日誌では埋まらない番号7・8〜10・20・26・33に対応する記録です。
認証を取らなくても求められる場面がある
GAPの記録は、認証を受ける農場だけのものではありません。都道府県が独自にGAPを定め、国のガイドラインへの準拠確認を受けている例が多くあり、農林水産省のページに一覧が掲載されています。同じページでは、取組状況を確認する体制がある都道府県のGAP(一覧で*印が付いたもの)について、補助事業で求められる「みどりチェック」のチェックシートの提出を省略できると案内されています。
JGAPやASIAGAPなどの民間認証を目指す場合も、ここで作る記録はそのまま活用できます。ただし、認証で求められる管理点と適合基準は認証ごとに決まっているので、日本GAP協会などの基準書で必ず確認してください。
記入例

上はリスク評価表の記入例です。井戸水のかん水、収穫・調製、トラクター作業、農薬散布の4つの工程について、危害要因と対策を1行ずつ書いています。たとえば「作業者の手指から作物が汚染される」は、起こりやすさ「中」、影響の大きさ「高」なので、点数は2×3=6点です。重点的に管理すると決めたので○を付け、対策として「作業前に手洗い。手洗い場に石けん・ペーパーを常備」という農場のルールを書き、担当者と対策を確認した日まで埋めています。
テンプレートには、このリスク評価表のほかに、教育訓練の記録、衛生点検の記録、記録の保管ルールの3シートが入っています。Excel版では点数が自動で計算されます。
書き方(シートごと)
リスク評価表
ガイドラインの解説書では、リスク管理を「危害要因の洗い出し→評価→対策の決定→対策の実施と記録→検証・見直し」の5段階で進めるよう示しています。リスク評価表は、この流れを1枚にまとめたものです。
| 欄 | 書くこと | 記入例 |
|---|---|---|
| 分野 | 食品安全・労働安全・環境保全のどれか | 食品安全 |
| 工程・場所 | 危害が起こりうる作業や場所。生産工程の順に並べると漏れにくい | 収穫・調製 |
| 想定される危害要因 | 「何が起きると困るか」を具体的に | 作業者の手指から作物が汚染される |
| 起こりやすさ/影響の大きさ | 高・中・低の3段階 | 中/高 |
| 点数 | 高=3・中=2・低=1として掛け合わせる(1〜9点) | 6 |
| 重点管理 | 対策を決めて管理するものに○ | ○ |
| 対策(農場のルール) | 誰が読んでも同じ行動になる書き方にする | 作業前に手洗い。石けん・ペーパーを常備 |
| 担当者/対策の確認日 | 対策を実行する人と、実行を確かめた日 | 佐藤/2026/5/10 |
危害要因を洗い出すときは、ほ場の図面や作業の流れを見ながら、実際に現場を歩いて確かめると漏れが減ります。農林水産省のガイドラインのページには、日本GAP協会の品目別危害要因リストなど、評価の参考になるリンク集も掲載されています。
教育訓練の記録
番号20の「作業者が必要な力量を身に付けるための教育訓練」を実施した証拠になる記録です。1回の教育につき1行で、次の項目を書きます。
- 実施日:2026/4/15 のように年月日で
- テーマ・内容:「農薬散布時の保護具の着け方」「乗用トラクターの傾斜地での操作」など、何を教えたか
- 講師:教えた人。外部の講習会なら主催者名
- 受講者:受けた人の名前を1人ずつ。「全員」とは書かない
- 理解の確認方法:「実際に着けてもらい確認」「手順を口頭で説明してもらった」など
JAや普及指導センターの講習会に参加した場合も、この表に1行書き、配布資料や修了証の保管場所を備考に残しておくと、あとで説明しやすくなります。
衛生点検の記録
番号26・33に対応し、手洗い設備・トイレ・調製作業場・保管庫などを定期的に点検した結果を残します。点検項目を縦に並べ、点検日ごとに問題がなければ○、あれば×を付けます。×を付けたときは、同じ行の「異常と対応」に、見つけた異常と、した対応、直った日を書きます。たとえば「調製場の壁にネズミのかじり跡→侵入口を金網でふさいだ(5/12)」のように書きます。
点検の頻度は法令で決まっているわけではありません。収穫・出荷の期間中は週1回、それ以外は月1回のように、農場のルールとして決めてその通りに付けるのが現実的です。
記録の保管ルール
番号7の「記録の内容と保管期間を特定する」に対応するシートです。農場で作っている記録を一覧にし、記録ごとに担当者、保管場所(紙のファイル、パソコンのフォルダ、アプリなど)、保管期間を書きます。
ガイドラインは保管期間の年数を一律には決めていないので、農場で決める必要があります。決めるときは、取引先や認証の基準で求められる期間、出荷した農産物について問い合わせを受ける可能性がある期間を目安にします。法律で期間が決まっている記録もあり、たとえば米の取引等の記録は米トレーサビリティ法で原則3年間の保存が義務づけられています。記入例では多くの記録を「3年」としていますが、これは一例です。
気をつけること・よくある間違い
リスク評価を一度作ったまま見直さない
作物・作業・設備・人が変われば、危害要因も変わります。新しい井戸を使い始めた、乗用の機械を入れた、パートを雇った、というときは評価をやり直し、見直した日を表に残します。変化がなくても年1回は見直すと決めておくと、審査の前にあわてずに済みます。
点数だけで重点管理を決めてしまう
点数は判断の目安です。起こりやすさが「低」でも、影響が命に関わる転倒事故のようなものは、点数が低くても重点管理にしてかまいません。どの点数以上を重点管理にするかという基準も、農場で決めて書いておきます。
対策が「気をつける」で終わっている
「転倒に注意する」では、誰が何をするのかがわかりません。「急傾斜のほ場(どの程度から該当するかは農場で決めておく)では乗用機械を使わない」「散布は風速が弱い朝に行い、飛散低減ノズルを使う」のように、行動が決まる書き方にします。
教育訓練の受講者を「全員」と書く
あとから入った人が受けたかどうかが確かめられなくなります。受講者は名前で書き、途中から加わった人には同じ内容を教えた記録を追加します。
点検で×を付けたのに対応を書いていない
×だけの記録は「異常を放置した」と読まれてしまいます。何をしたか、いつ直ったかまで書いて、ようやく記録として意味を持ちます。
記録がばらばらで、どこにあるか説明できない
作業日誌はノート、農薬はJAの様式、出荷はExcel、とばらばらになるのはよくあることです。それ自体は問題ありませんが、保管ルールのシートに置き場所を書いておかないと、審査や問い合わせのときに探せません。
自作様式を「公式様式」だと思い込む
このテンプレートを含め、自作の記録様式は認証の公式様式ではなく、使えば認証が取れるものでもありません。JA・部会・都道府県のGAPで指定の様式がある場合は、そちらを優先してください。
紙・Excelで続かないときは
GAPの記録のうち、毎日のように発生するのは作業・農薬・肥料・収穫の記録です。リスク評価表や保管ルールは年に数回の見直しで済みますが、日々の記録はためると書けなくなり、GAPの記録全体が止まる原因になります。
当社のミノリス日誌は、この「日々の記録」をスマホで付けるための無料アプリです。GAPの番号6・58・64で求められる作業・農薬・肥料の記録と、出荷記録に結び付ける収穫の記録を、作付けごとに残せます。
- 作付けごとに農薬・肥料・作業・収穫を記録でき、写真も一緒に残せる
- 登録農薬を選ぶだけで、使用回数と収穫前日数をその場で確認できる(農薬適用情報10万件以上、肥料1.8万件以上)
- 予定と実績をカレンダーで見比べられるので、番号6の「計画に対して評価する」にも使いやすい
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力し、審査や取引先への提出資料にできる
一方で、リスク評価表・教育訓練・衛生点検の記録や、GAPの点検項目を管理する機能はありません。収支管理やGPSによる作業の自動記録にも対応していません。4つの様式はExcelテンプレートで、日々の記録はアプリで、と分けて使うのがおすすめです。完全無料で、ミノリス全体では毎月100軒以上の農家が登録しています。
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作付けごとに農薬・肥料・作業・収穫を記録し、栽培履歴としてCSV・Excelで出力できます。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
JA・部会や県GAPの指定様式があります。このテンプレートは使えますか?
指定の様式がある場合は、そちらを使ってください。このテンプレートは、指定がない記録を補う自作用や、指定様式に書き写す前の下書きとして使えます。
家族だけで営農していても、教育訓練の記録は必要ですか?
ガイドラインの取組事項は「作業者が必要な力量を身に付けるための教育訓練の実施」で、家族経営を除外する書き方にはなっていません。家族だけでも、農薬の扱い方や機械の安全な使い方を確認し合った日と内容を残しておくと、取り組みを説明できます。どこまで求められるかは、取り組むGAPの基準や指導員に確認してください。
リスク評価表はどのくらいの行数が必要ですか?
決まった行数はありません。生産工程(種苗の入手、育苗、定植、防除、かん水、収穫、調製、保管、出荷)ごとに、食品安全・労働安全・環境保全の3つの目で危害要因を考えていくと、工程の数だけ行が増えていきます。行数を競う必要はなく、重点管理にした項目の対策が実行されていることのほうが大事です。
記録は紙とデータのどちらで残すべきですか?
どちらでもかまいません。ガイドラインの解説書では、記録に写真や動画を使うことや、営農管理アプリを活用することも勧めています。保管ルールのシートに「どこに・何年」を書いておけば、紙とデータが混在していても問題ありません。
米を作っている場合は、青果物と同じ番号で書けばいいですか?
米は「穀物」のガイドラインが対象です。取組事項の中身は青果物と似ていますが番号がずれ、たとえば穀物では教育訓練が番号22、手洗い設備・トイレが番号29、農産物取扱施設の管理が番号37、農薬の使用記録が番号62になっています。記録の内容と保管期間の特定は、穀物でも番号7です。米の場合は、米トレーサビリティ法の取引等の記録も保管ルールのシートに加えておくと安心です。
まとめ
GAPの記録は、国際水準GAPガイドラインの取組事項に沿って作るのが近道です。農薬・作業・肥料・収穫の記録はふだんの日誌で、リスク評価(番号8〜10)、教育訓練(番号20)、衛生点検(番号26・33)、記録の保管ルール(番号7)は専用の様式で残します。
リスク評価表は「作って終わり」ではなく、変化があったときと年1回の見直しまで含めて記録にしてください。まずは無料テンプレートで4つの様式の枠を用意し、日々の記録はアプリやノートで途切れないようにするところから始めてみてください。
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