JAや県から配られる防除暦は、地域の標準的な防除の目安です。ただ、定植日も品種も病害虫の出方も圃場ごとに違うので、そのまま使うと「この時期にこの薬を使っていいのか」「回数は足りているのか」と迷う場面が出てきます。
この記事では、防除暦の読み方を確認したうえで、配られた防除暦を自分の圃場の防除計画に作り直す手順を説明します。使用回数や収穫前日数の確認方法、系統(RACコード)の並べ方、計画と実績の突き合わせ方まで順に見ていきます。
防除暦とは
防除暦(防除こよみ)は、作物の生育ステージや時期に合わせて、どの病害虫にどの農薬を何倍で使うかを一覧にした表です。多くはJAや都道府県の普及指導機関が、地域の病害虫の発生状況や農薬の登録内容をもとに作物ごとに作成し、毎年改訂しています。
似た言葉に「防除日誌」がありますが、役割は逆です。
- 防除暦:これから行う防除の計画
- 防除日誌:実際に行った防除の記録
計画(防除暦)と記録(防除日誌)を突き合わせることで、使用回数の管理や翌年の計画の見直しができるようになります。防除日誌の書き方は防除日誌(農薬使用記録簿)の書き方で解説しています。
防除暦の読み方
様式は発行元によって違いますが、たいてい次のような欄があります。
- 時期・生育ステージ:「4月上旬」「開花前」「落花後10日」など
- 対象病害虫:その時期に防除したい病気・害虫・雑草
- 薬剤名:推奨される農薬の商品名。複数の候補が並ぶこともあります
- 希釈倍数・使用量:「2,000倍」「10a当たり3kg」など
- 散布量:10a当たりの散布液量の目安
- 備考:収穫前日数、使用回数の上限、混用の注意、系統(RACコード)など
必ず行う基幹防除と、発生状況を見て判断する防除を記号で分けている防除暦も多いので、凡例を最初に確認しておきましょう。
防除暦をそのまま使えない理由
作型や定植日が違う
防除暦は地域の標準的な作型を前提にしています。定植が2週間遅ければ、防除のタイミングも2週間ずれます。「何月何日」ではなく「生育ステージ」を基準に読み替える必要があります。
病害虫の出方が年や圃場で違う
同じ地域でも、前年に病気が多発した圃場と、発生がなかった圃場では防除の必要性が違います。都道府県の病害虫防除所が出す発生予察情報(注意報・警報など)も、その年の判断材料になります。
農薬の登録内容は変わる
農薬の登録内容(適用作物、使用時期、使用回数など)は変更されることがあり、登録が失効する剤もあります。2018年の農薬取締法改正で、すべての農薬について最新の科学的知見にもとづいて定期的に見直す再評価制度も導入されました。防除暦の作成時点から変わっている可能性があるので、使う前に必ずラベルと最新の登録情報を確認します。
自分の防除計画を作る手順
手順1:作型と生育ステージを日付に落とす
播種日・定植日・開花・収穫開始・収穫終了の見込み日を書き出します。防除暦の時期欄を、この見込み日に合わせて読み替えます。
手順2:防除暦から候補の薬剤を書き写す
時期ごとに、対象病害虫と候補の薬剤、希釈倍数を書き写します。この段階では候補を多めに挙げておき、次の手順で絞り込みます。
手順3:ラベルと登録情報で使えるか確認する
候補の薬剤ごとに、自分の作物が適用作物に含まれるか、使用時期(収穫何日前まで)、有効成分ごとの総使用回数、希釈倍数を確認します。これらは「農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令」第2条で守ることが義務づけられた項目で、違反すると農薬取締法による罰則の対象になります。登録内容は農林水産省の農薬登録情報提供システムで調べられます。
手順4:系統(RACコード)で並べ替える
同じ作用の仕組みを持つ薬剤を続けて使うと、効きにくい病原菌や害虫が増えやすくなります。農薬の作用機構は、殺菌剤はFRACコード、殺虫剤はIRACコード、除草剤はHRACコードとして国際的に分類されています。計画表に各薬剤のコードを書き込み、同じコードが連続しないように並べ替えます。
手順5:有効成分ごとの回数を積み上げて確認する
総使用回数は、商品ごとではなく有効成分ごとに数えます。種子消毒や育苗期に使った分、混合剤に含まれる成分も合算します。計画段階で、有効成分ごとに「予定回数/上限回数」を書き出しておくと、途中で上限に達して困ることがなくなります。数え方の詳細は農薬の使用回数に上限がある理由と正しい数え方をご覧ください。
手順6:収穫期の防除は収穫前日数から逆算する
収穫が始まったあとに使う薬剤は、「収穫前日まで」「収穫7日前まで」といった使用時期の制限が特に重要です。収穫を続けながら防除する果菜類などでは、収穫前日数の短い剤を収穫期に回すように組み立てます。
手順7:必要な薬量を計算しておく
散布1回に必要な薬量は「10a当たり散布液量 × 面積 ÷ 希釈倍数」で計算できます。たとえば1,000倍液を10a当たり150Lで30aにまく場合、散布液は450Lで、必要な薬量は450mL(水和剤なら450g)です。1作分を合計すると購入量の目安になり、在庫の過不足も防げます。
「やる防除」と「見て決める防除」を分けておく
計画どおりにすべて散布するのではなく、見回りで発生を確認してから判断する防除を計画の中に残しておくと、無駄な散布を減らせます。病害虫の発生を予防し、発生状況を見て必要なときに防除する考え方は「総合防除(IPM)」と呼ばれ、農林水産省も植物防疫法にもとづく基本指針で推進しています。
計画表には、たとえば次のように印をつけておくと分かりやすくなります。
- 基幹防除:発生の有無にかかわらず予防のために実施する
- 発生時防除:見回りで発生を確認したら実施する(確認する日も書いておく)
- 予備:上の防除で効果が不十分なときの代替剤(系統を変えておく)
無料テンプレート:防除計画表(防除暦の作り方)
JAや県の防除暦をもとに、自分の圃場の防除計画を立てるための様式です。系統(FRAC・IRACコード)と実施日の欄、ローテーションの確認表つき。Excelでは薬剤ごと・系統ごとの予定回数を自動で数えます。
計画と実績を突き合わせる
防除計画を作ったら、実際に散布するたびに実績を記録し、計画と見比べます。天候や発生状況で計画を変えた場合は、その理由も一緒に残しておくと、翌年の計画を作るときの一番の材料になります。
- 予定どおり散布したか、日付がどれだけずれたか
- 予定と違う薬剤を使った場合、その理由
- 散布後の効果(効いた・効かなかった)
- 有効成分ごとの実際の使用回数
紙やExcelで運用するなら、計画表と防除日誌を同じファイル・同じバインダーにまとめておくと突き合わせが楽です。
スマホで管理したい場合は、当社の無料アプリミノリス日誌も使えます。防除計画を予定としてカレンダーに入れておき、散布したら実績として記録する流れです。
- これからの予定と完了した作業を、1つのカレンダーで管理できる
- 散布の記録は登録農薬から選ぶだけ。使用回数や収穫前日数をその場で確認できる(農薬適用情報10万件以上)
- 記録は作付けごとに時系列で残り、栽培履歴としてExcel・CSVで出力できる
- 見回りのときの病害虫の様子を写真で残せる
ほかの栽培管理アプリと比べたい方は、圃場管理アプリおすすめ11選も参考にしてください。
防除の予定と実績を1つのカレンダーで
ミノリス日誌は無料。散布を記録すると、使用回数と収穫前日数をその場で確認できます。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要/登録後すぐ使えます
防除計画を作るときの注意点
防除暦とラベルが違ったらラベルを優先する
防除暦の作成後に登録内容が変わっている場合があります。記載が食い違っていたら、手元の農薬のラベルと最新の登録情報に従い、防除暦の発行元にも確認してください。
住宅地や学校の近くでは事前の周知を計画に入れる
農林水産省と環境省の通知「住宅地等における農薬使用について」では、住宅地やその周辺で農薬を使う場合、散布の目的・日時・農薬の種類・連絡先を周辺住民に事前に周知することや、風の弱い日時を選ぶことが求められています。計画の段階で、周知の日程も入れておくと慌てずに済みます。
ドローンや委託散布は日程に余裕を持たせる
ドローン散布や作業委託の場合、希望日にできるとは限りません。天候で延期される分も見込み、収穫前日数や使用回数に余裕のある組み立てにしておくと安心です。
よくある質問
防除暦はどこで手に入りますか?
JAの営農指導部門や生産部会、都道府県の普及指導センター、病害虫防除所などが作成・配布しています。都道府県が作物ごとの「病害虫防除指針」を公開している場合もあります。
家庭菜園でも防除暦は必要ですか?
必須ではありませんが、同じ薬を何度も使ってしまうのを防ぐため、使う薬と回数の上限を書き出しておくだけでも役立ちます。家庭菜園でも、食べる作物に農薬を使うときの使用基準は同じように守る必要があります。
同じ系統の薬剤を続けて使ってもいいですか?
ラベルの使用回数の範囲内であれば法的には問題ありませんが、効きにくい病原菌や害虫が出るリスクが高まります。FRAC・IRACコードの異なる薬剤と交互に使う(ローテーション)のが基本です。
防除暦に載っている農薬が登録失効していたら?
登録が失効した農薬は、新たに販売されなくなります。手元に残っている剤の扱いは、使用が禁止された農薬に当たるかどうかなどで変わるため、自己判断で使わず、FAMICの登録・失効農薬情報で状況を確認したうえで、JAや防除暦の発行元に相談してください。計画を立てる段階では、現在登録のある剤に切り替えておくのが確実です。
まとめ
防除暦は地域の標準的な目安なので、自分の作型の生育ステージに合わせて読み替え、ラベルと最新の登録情報で使用時期・回数を確認し、系統が重ならないように並べ替えてはじめて「自分の防除計画」になります。
計画を作ったら、散布のたびに実績を記録して突き合わせることが大切です。計画と記録がそろっていれば、使用回数の管理も、翌年の計画づくりもずっと楽になります。
防除計画と防除日誌を、無料アプリで一緒に管理
ミノリス日誌の登録は約1分。初期費用・月額0円、クレジットカード不要です。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要/登録後すぐ使えます
参考URL
- 農薬を使用する者が遵守すべき基準を定める省令(e-Gov法令検索)
- 農薬取締法(e-Gov法令検索)
- 農薬登録情報提供システム(農林水産省)
- 農薬の再評価(農林水産省)
- 登録・失効農薬情報(FAMIC)
- 総合防除(IPM)の推進について(農林水産省)
- 指定有害動植物の総合防除を推進するための基本的な指針(農林水産省植物防疫所)
- 病害虫発生予察情報(農林水産省)
- 住宅地等における農薬使用について(農林水産省・環境省通知)
- 薬剤抵抗性管理活動 RAC(クロップライフジャパン)
- IRAC(Insecticide Resistance Action Committee)
- FRAC(Fungicide Resistance Action Committee)
- HRAC(Herbicide Resistance Action Committee)


