菌根菌(マイコス菌)とは?農業への効果・使い方・おすすめ資材を徹底解説

近年、持続可能な農業への関心が高まるなかで、「菌根菌(きんこんきん)」という微生物が注目を集めています。菌根菌は植物の根と共生関係を結び、リンや水分の吸収を大幅に促進する菌類の総称です。海外では「mycorrhizal fungi」として数十年にわたる研究が蓄積されており、メタアナリシス(複数の研究を統合した分析)では、菌根菌の接種によって作物の収量が平均23%向上するという結果も報告されています。化学肥料の使用量削減や土壌環境の改善にもつながることから、日本でも農研機構をはじめとする研究機関が実用化に向けた取り組みを進めています。本記事では、菌根菌の基礎知識から農業への具体的な効果、使い方、おすすめ資材まで、学術論文や公的機関の情報をもとに徹底解説します。

菌根菌とは

定義と基本的な仕組み

菌根菌とは、植物の根に感染・共生して「菌根(mycorrhiza)」と呼ばれる構造を形成する菌類の総称です。この用語は、1885年にドイツの植物学者アルベルト・ベルンハルト・フランク(A.B. Frank)によって初めて提唱されました。フランクはプロイセン王の依頼でトリュフの増産研究を行う過程で、樹木の根と菌類が密接に結びついた構造を発見し、ギリシャ語の「myco(菌)」と「rhiza(根)」を組み合わせて「mycorrhiza」と命名しました。

菌根菌と植物の共生関係は、双方に利益をもたらす「相利共生」です。菌根菌は土壌中に細い菌糸を張り巡らせ、植物の根だけでは届かない範囲からリン酸や水分、微量元素を吸収して植物に供給します。一方、植物は光合成で生産した糖類を菌根菌に提供します。菌根菌の菌糸ネットワークは、植物の根の吸収面積を最大で数百倍に拡大することが知られており、栄養吸収の効率を飛躍的に高めます。

陸上植物の約80%が何らかの菌根菌と共生関係を持っており、菌根共生は植物が陸上に進出した4億年以上前から存在していたと考えられています。

菌根菌の種類

菌根菌は、植物の根との共生の形態によっていくつかの種類に分類されます。農業分野で特に重要なのは以下の3タイプです。

VA菌根菌(アーバスキュラー菌根菌、AMF)

正式名称は「アーバスキュラー菌根菌(Arbuscular Mycorrhizal Fungi)」で、以前は「VA菌根菌(Vesicular-Arbuscular Mycorrhizal Fungi)」と呼ばれていました。グロムス門(Glomeromycota)に属する菌類で、植物の根の細胞内に「アーバスキュル(樹枝状体)」と呼ばれる分岐構造を形成し、ここで植物との栄養交換を行います。

AMFは穀物、野菜、豆類、果樹など、農業で栽培される多くの作物と共生するため、農業への応用において最も重要な菌根菌です。代表的な菌種として、Rhizophagus irregularis(旧名 Glomus intraradices)や Funneliformis mosseae(旧名 Glomus mosseae)などがあります。

外生菌根菌(ECM: Ectomycorrhizal Fungi)

主にマツ、ブナ、ナラ、カバノキなどの樹木と共生する菌根菌です。根の細胞の外側に菌糸の鞘(マントル)を形成し、細胞間隙に菌糸のネットワーク(ハルティヒネット)を構築します。トリュフ、マツタケ、ポルチーニなどの食用きのこの多くが外生菌根菌に分類されます。林業や森林管理において重要ですが、一般的な畑作物との共生は限定的です。

その他の菌根菌

ツツジ科植物と共生するエリコイド菌根菌、ラン科植物と共生するラン菌根菌など、特定の植物群に特化した菌根菌も存在します。ブルーベリー栽培においてはエリコイド菌根菌が注目されていますが、一般的な農業での活用はAMFが中心です。

歴史的背景

1885年のフランクによる発見以降、菌根菌の研究は段階的に発展してきました。20世紀前半には、菌根共生が特定の環境下に限られた現象ではなく、ほとんどの陸上植物に普遍的に見られることが明らかになりました。1950年代以降、放射性同位体を用いた実験によって、菌根菌が実際にリンを植物に輸送していることが科学的に証明されました。

農業への応用が本格化したのは1990年代以降です。接種技術の発展や、持続可能な農業への関心の高まりを背景に、菌根菌資材の商業生産が始まりました。2019年には、理化学研究所と大阪府立大学(現・大阪公立大学)の研究チームがアーバスキュラー菌根菌の純粋培養に世界で初めて成功し、大量生産への道が開かれました。

菌根菌の農業への効果

リン吸収の促進

菌根菌の最も重要な農業的効果は、リン酸の吸収促進です。リンは植物の生育に不可欠な三大栄養素の一つですが、土壌中では不溶性のリン酸塩として固定されやすく、植物が直接吸収できる形態のリンは土壌溶液中にごくわずかしか存在しません。

菌根菌の菌糸は直径わずか数マイクロメートルと非常に細く、根毛が入り込めない微細な土壌孔隙にまで到達してリンを吸収します。Wang et al.(2023)の研究では、AMFが菌糸圏(ハイフォスフィア)の微生物群集を活性化させることで土壌中のリンの可給化を促進するメカニズムが明らかにされています。また、土壌中のリン濃度が8〜15 mg/kgの範囲では、菌根菌を介したリン吸収が根からの直接吸収よりも効率的になることが報告されています。

農研機構の研究では、アーバスキュラー菌根菌の宿主作物を前作として栽培した畑でダイズを栽培した場合、リン酸施肥を3割削減しても収量が維持できることが示されています。

水分吸収の改善・乾燥ストレス耐性

菌根菌は水分の吸収にも大きく貢献します。菌糸ネットワークが土壌中の水分を効率よく集め、植物に供給することで、特に乾燥条件下での植物の生存率と生産性を向上させます。

Cheng et al.(2022)によるメタアナリシスでは、干ばつストレス下において菌根菌を接種した植物は、接種していない植物と比較して生育が平均49%向上したことが報告されています。菌根菌は植物の気孔の調節にも関与し、水利用効率を高めることで乾燥への適応力を向上させます。

土壌構造の改善(グロマリン)

アーバスキュラー菌根菌は、菌糸から「グロマリン」と呼ばれる糖タンパク質を分泌します。グロマリンは1996年に米国農務省(USDA)のSara F. Wright博士によって発見された物質で、土壌粒子を結合させて団粒構造を形成・安定化する働きがあります。

研究によると、グロマリンは土壌中で7〜42年にわたって分解されずに残存し、菌根菌が存在する土壌の炭素の最大30%を占める場合があることが示されています。Conti et al.(2025)のメタアナリシスでは、AMFが土壌有機炭素を平均21.5%増加させることが報告されており、土壌の炭素隔離にも貢献しています。団粒構造が改善されることで、土壌の通気性、保水性、排水性がバランスよく向上し、根の生育環境が改善されます。

病害抵抗性の向上

菌根菌は植物の病害抵抗性を高めることも複数の研究で確認されています。AMFは誘導全身抵抗性(ISR)を活性化させ、植物が病原菌に対する防御能力を強化します。具体的なメカニズムとしては、以下が知られています。

  • 根の形態や構造を変化させ、病原菌の侵入を物理的に阻害する
  • 根圏の微生物環境を変化させ、病原菌との競合を有利にする
  • フェノール化合物などの防御物質の産生を促進する
  • ジャスモン酸経路などの植物免疫システムを活性化させる

2023年にNature Microbiology誌に掲載されたスイスでの54圃場を対象とした大規模実験では、土壌中の病原性菌類が多い圃場ほどAMF接種の効果が大きいことが明らかになりました。菌根菌が病原菌に対する「防御シールド」として機能していることを示す重要な知見です。

収量への影響

菌根菌の接種が作物の収量に与える影響については、複数のメタアナリシスで定量的に評価されています。

Zhang et al.(2022)が546組のデータを統合したメタアナリシスでは、天水農業(灌漑に頼らない農業)の条件下でAMF接種によって作物の収量が平均23.0%向上することが示されました。作物別では以下のような結果でした。

  • コムギ: 34.1%増
  • ヒヨコマメ: 18.1%増
  • 窒素固定作物(マメ科)全体: 29.4%増
  • 非窒素固定作物: 20.4%増

また、種子数が32.2%増加、莢・果実数が20.8%増加するなど、生殖器官の発達が特に促進されることも報告されています。葉緑素含量は40.6%増加し、地上部のリン濃度は46.0%上昇しました。

一方で、Koziol et al.(2025)によるNew Phytologist誌のメタアナリシスでは、市販の菌根菌接種剤の88%は作物生育の促進効果が不十分か、十分なAMF定着を達成できていないという結果も報告されており、製品選択の重要性が指摘されています。

化学肥料削減の可能性

菌根菌の活用は、化学肥料の使用量削減に直結します。特にリン酸肥料の削減効果は顕著です。リンは有限の鉱物資源であるリン鉱石から生産されており、その枯渇が世界的に懸念されています。また、過剰なリン酸肥料の施用は河川や湖沼の富栄養化を引き起こすなど、環境への悪影響も問題となっています。

農研機構の研究では、菌根菌の宿主作物の後作としてダイズを栽培する場合、リン酸施肥を3割削減できることが実証されています。さらに、前作の宿主作物跡地では、リン酸を半分以下に減肥しても収量がほとんど変わらなかったという試験結果も得られています。

菌根菌の使い方

接種方法

菌根菌を農業に活用するには、作物の根と菌根菌が接触する必要があります。主な接種方法は以下の通りです。

種子コーティング

播種前に菌根菌の胞子を種子に直接コーティングする方法です。発芽した根が最初から菌根菌と接触するため、初期定着が促進されます。使用する菌根菌資材の量が少なくて済み、コスト効率が良いのが利点です。種子と資材をよく混合して均一にコーティングし、播種前に乾燥させることがポイントです。

土壌混和

粒状や粉末の菌根菌資材を土壌や培土に混合する方法です。育苗培土に混合する場合や、播種溝に施用する場合があります。広い面積への対応がしやすい方法です。

移植時接種

苗の移植時に、根や植穴に直接菌根菌資材を施用する方法です。根と菌根菌の接触が確実で、定着率が高い方法です。ジェル状やペースト状の資材を用いる場合は、苗のドブ漬け処理も可能です。

灌注・点滴灌水

液状やWP(水和剤)タイプの菌根菌資材を灌水と同時に施用する方法です。既に定植済みの作物にも適用でき、点滴灌漑システムとの併用も可能です。

接種のタイミングと注意点

菌根菌の接種は、植物の生育の初期段階で行うのが最も効果的です。根が活発に伸長している時期に接種することで、菌根菌の定着率が高まります。具体的には、播種時、育苗時、または定植時が最適なタイミングです。

接種後のポイントとして、以下の点に注意が必要です。

  • 菌根菌は紫外線に弱いため、土壌中に確実に施用し、地表面に露出させないこと
  • 接種後すぐに灌水し、菌根菌が乾燥しないようにすること
  • 菌根菌資材によっては、接種後約15日間は化成肥料(特に水溶性リン酸を多く含むもの)や殺菌剤の使用を控えること

効果を高めるポイント

リン肥料との関係

土壌中のリン濃度が高い場合、植物は菌根菌に頼らずにリンを吸収できるため、共生関係が弱まり、菌根菌の定着率が低下します。菌根菌の効果を最大限に引き出すには、リン酸肥料の施用量を低〜中程度に抑えることが重要です。特に接種時期前後のリン酸施肥は控えめにすることが推奨されます。

殺菌剤の影響

一部の殺菌剤(特に土壌くん蒸剤やベンゾイミダゾール系殺菌剤)は菌根菌に対して有害であり、菌の定着や増殖を阻害する場合があります。菌根菌の接種前後には、菌根菌への影響が少ない農薬を選択するか、使用時期を調整することが望ましいです。

宿主作物の輪作

菌根菌の宿主となる作物を輪作体系に組み込むことで、土壌中の菌根菌の密度を自然に高めることができます。農研機構の研究でも、前作に宿主作物を栽培した圃場では後作の作物における菌根菌の感染率が高く、リン吸収が促進されることが確認されています。

効果が出にくい条件

菌根菌の効果が十分に発揮されない条件も存在します。以下の場合には注意が必要です。

  • 非宿主作物: アブラナ科(キャベツ、ダイコン、ブロッコリー等)、ヒユ科(テンサイ、ホウレンソウ等)、タデ科(ソバ等)はAMFと共生しません。これらの作物を連作すると、土壌中の菌根菌密度が低下します
  • 高リン酸土壌: リン酸が十分に供給されている土壌では、菌根菌の効果が限定的になります
  • 過度の耕起: 頻繁な耕起は菌根菌の菌糸ネットワークを物理的に破壊し、定着を妨げます
  • 土壌くん蒸後: 化学的な土壌消毒は菌根菌を含む土壌微生物を広範に死滅させます
  • 土壌条件: 土壌の種類や品種によって菌根菌の感染程度が異なるため、効果にばらつきが出る場合があります

主要な菌根菌資材・製品比較

AGTIV 菌根菌接種剤 Premier Tech
出典:Premier Tech(AGTIV)
Symborg 菌根菌 MycoUp
出典:Symborg

国内外で入手可能な主要な菌根菌資材を以下にまとめます。

製品名 メーカー / ブランド 主要菌種 対象作物 施用方法
MycoApply DR Mycorrhizal Applications(Valent BioSciences) 米国 AMF 4種混合 野菜、果樹、穀物 灌注、播種溝施用
MycoApply EndoThrive Mycorrhizal Applications(Valent BioSciences) 米国 AMF(液体濃縮) 野菜、果樹、穀物 灌注、点滴灌水
MycoApply Ultrafine Endo/Ecto Mycorrhizal Applications(Valent BioSciences) 米国 AMF + ECM 農作物、樹木全般 土壌混和、播種時
AGTIV REACH Premier Tech(Lallemandグループ) カナダ AMF(R. irregularis 穀物、牧草、野菜、豆類 種子コーティング、播種溝施用、灌注
AGTIV THRIVE Premier Tech(Lallemandグループ) カナダ AMF + 根粒菌 ダイズ 種子コーティング、粒状施用
MycoUp / MycoUp 360 Symborg(Corteva Agriscience) スペイン Glomus iranicum var. tenuihypharum 野菜、果樹、穀物全般 灌注、点滴灌水
INOQ AGRI INOQ GmbH ドイツ AMF 複数種 農作物全般(有機農業認定) 土壌混和、播種時
Smart Rotations PlantWorks Ltd 英国 AMF + PGPR 穀物、野菜 播種溝施用
MYKOS Xtreme Gardening 米国 Rhizophagus intraradices 単一種 野菜、果樹、花卉 土壌混和、移植時
マイコジェル(MYCOGEL) ハイポネックスジャパン(Symborg / キミテック社製) 日本 Rhizophagus irregularis 野菜、果樹全般 灌注、点滴灌水、ドブ漬け
マイコス菌根菌 WP水和剤 日本代理店各社(Xtreme Gardening製) 日本(輸入品) Rhizophagus intraradices 水稲、大豆、野菜 種子処理、灌注、土壌混和

製品選択にあたっては、対象作物との適合性、施用方法の利便性、菌の生存率(品質管理体制)を総合的に判断することが重要です。前述のKoziol et al.(2025)のメタアナリシスが示すように、市販製品の品質には大きなばらつきがあるため、実績のあるメーカーの製品を選ぶことが推奨されます。

INOQ AGRI 菌根菌接種剤 有機農業認定
出典:INOQ GmbH

研究データ・エビデンス

主要な学術論文の紹介

菌根菌の農業への効果を裏付ける主要な研究を紹介します。

Zhang et al. (2022) – PeerJ「Arbuscular mycorrhizal fungi increase crop yields by improving biomass under rainfed condition: a meta-analysis」。546組のデータを統合し、天水条件下でAMF接種により作物収量が平均23%向上することを報告。13種類の主要作物を対象とした包括的な分析です。

Lutz et al. (2023) – Nature Microbiology「Soil microbiome indicators can predict crop growth response to large-scale inoculation with arbuscular mycorrhizal fungi」。スイスの54圃場での大規模実験で、AMF接種による生育促進効果が−12%〜+40%の範囲であること、土壌微生物指標によって接種成功率の86%が予測可能であることを報告しました。

Koziol et al. (2025) – New Phytologist「Meta-analysis reveals globally sourced commercial mycorrhizal inoculants fall short」。市販の菌根菌接種剤の88%が十分な効果を発揮できていないことを示し、製品品質の改善の必要性を提起しました。

Conti et al. (2025) – Functional Ecology「The potential of arbuscular mycorrhizal fungi to improve soil organic carbon in agricultural ecosystems: a meta-analytical approach」。AMFが土壌有機炭素を平均21.5%増加させることを報告し、気候変動対策への貢献可能性を示しました。

Wang et al. (2023) – New Phytologist「Arbuscular mycorrhizal fungi enhance plant phosphorus uptake through stimulating hyphosphere soil microbiome functional profiles for phosphorus turnover」。AMFが菌糸圏の微生物を活性化することでリンの可給化を促進するメカニズムを解明しました。

作物別の効果

穀物

コムギではAMF接種により天水条件下で収量が34.1%増加したというメタアナリシスの結果があります。トウモロコシでは、AMF接種によりバイオマスが10%増加、リン含有量が24%増加したことがScientific Reports誌の研究で報告されています。水稲においても、日本国内で菌根菌を活用した乾田直播栽培(DDSR)の取り組みが進められています。

野菜

トマトにおいてはAMFがフザリウム萎凋病(Fusarium oxysporum)に対する抵抗性を誘導することが確認されています。ネギ、ショウガ、ジャガイモ、トウガラシなどでも菌根菌の利用による収量増が報告されています。

果樹

キウイフルーツ、ブドウなどの果樹においてもAMFの効果が確認されています。Symborg社のGlomus iranicum var. tenuihypharumを用いたブドウ園での研究では、根系の発達促進と栄養吸収の改善が報告されています。

日本での研究事例

日本では、農研機構(農業・食品産業技術総合研究機構)が菌根菌研究の中心的な役割を担っています。主な成果として以下があります。

  • 北海道農業研究センター: 輪作体系における菌根菌の前作効果を研究し、宿主作物跡でのリン酸施肥3割削減を実証
  • 理化学研究所: 2019年にアーバスキュラー菌根菌の純粋培養に世界初成功。微生物肥料としての大量生産への道を開拓
  • 酪農学園大学: 菌根菌の働きの可視化研究を推進

菌根菌と有機農業

有機農業との親和性

菌根菌は有機農業と高い親和性を持っています。有機農業では化学合成肥料や農薬の使用が制限されるため、土壌微生物の機能を最大限に活用することが重要になります。研究によると、有機農業圃場では慣行農業圃場と比較して、AMFの根への定着率が高く、菌種の多様性も豊富であることが確認されています。

有機質肥料の使用は化学肥料よりも土壌中のリン濃度の急激な上昇を抑えるため、菌根菌の共生が維持されやすいという利点もあります。ドイツのINOQ社やカナダのPremier Tech社など、有機農業認定を取得した菌根菌製品も増えています。

不耕起栽培との関係

不耕起栽培(ノーティル)は、菌根菌の菌糸ネットワークの維持に最も適した栽培方法の一つです。耕起は菌根菌の菌糸を物理的に切断し、ネットワークの再構築を強いるため、菌根菌の機能を低下させます。

研究では、不耕起栽培の土壌は慣行耕起の土壌と比較して、土壌中の菌類菌糸密度が高く、土壌炭素量および大型団粒が多いことが確認されています。また、カバークロップ(被覆作物)の導入によってAMFの総定着率が34.42%、胞子密度が54.66%、菌糸長密度が47.50%増加するという報告もあります。

土壌微生物多様性との関係

菌根菌は単独で機能するのではなく、土壌微生物群集全体のなかで相互作用しながら働いています。菌根菌の菌糸圏(ハイフォスフィア)には特有の細菌群集が形成され、リンの可溶化やその他の栄養循環に関与する微生物が集積します。

健全な土壌微生物多様性は菌根菌の機能を支える基盤であり、逆に菌根菌の存在が土壌微生物の多様性を高める相乗効果も報告されています。不耕起栽培や有機農業の実践は、共生栄養型の微生物を優占させ、生態系全体のレジリエンス(回復力)を高めることにつながります。

まとめ

菌根菌は、4億年以上にわたって植物と共進化してきた「自然界のパートナー」です。リン吸収の促進、乾燥ストレス耐性の向上、土壌構造の改善、病害抵抗性の強化など、農業における多面的な効果が学術研究によって裏付けられています。メタアナリシスでは収量が平均23%向上するという結果が示されている一方、市販製品の品質にはばらつきがあることも明らかになっており、信頼性の高い製品を選択し、適切な方法で使用することが成功の鍵となります。

リン資源の枯渇や環境負荷の低減が求められる現代の農業において、菌根菌の活用は化学肥料を削減しながら収量を維持・向上させるための有力な手段です。有機農業や不耕起栽培との組み合わせによって、さらに高い効果が期待できます。今後、理化学研究所による純粋培養技術の発展やAIを活用した接種成功予測など、菌根菌の農業利用はますます進化していくでしょう。

参考URL