ドローンで農薬を散布するなら、飛行日誌の記載は義務です。自分の田んぼに自分の機体でまく場合も例外ではありません。航空法では、農薬の散布は「特定飛行」に当たり、特定飛行をする人は飛行日誌を備えて、飛ばすたび・整備するたびに遅滞なく書くことが定められています。書かなかったり、うその記載をしたりすると罰金の対象にもなります。
とはいえ、書く中身は決まっていて、1回の飛行につき1行で済みます。この記事では、国土交通省の「無人航空機の飛行日誌の取扱要領」にもとづいて、飛行日誌を構成する3つの記録、各欄の書き方、農薬散布ならではの記入例、そしてよくある書き間違いを整理します。
ドローン(無人航空機)の飛行日誌の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
ドローンの飛行日誌とは/なぜ必要か
農薬散布は「特定飛行」に当たる
農林水産省の「無人航空機による農薬等の空中散布に関するQ&A」(Q1)によると、無人ヘリコプターやドローンなどの無人航空機で農薬・肥料・種子・融雪剤などを空中散布することは、航空法でいう「危険物の輸送」と「物件投下」に当たります。このため、あらかじめ国土交通大臣の承認を受ける必要があり、空港周辺や人口集中地区の上空など決められた空域で散布する場合は許可も必要です。申請は、散布予定日の少なくとも10開庁日前までに出すこととされています。
さらに、特定飛行をする人は、飛行の日時や経路などを記載した飛行計画を事前に国土交通大臣に通報しなければなりません(航空法第132条の88)。飛行日誌は、この一連の手続きの「飛ばしたあと」を受け持つ記録です。
飛行日誌を備え、書くことは法律上の義務
航空法第132条の89は、特定飛行を行う場合には飛行日誌を備えなければならないこと、そして無人航空機を飛行させたり、整備・改造したりした場合には、遅滞なく飛行日誌に決められた事項を記載しなければならないことを定めています。
違反した場合の罰則は航空法第157条の11にあり、飛行日誌を備えなかったとき、記載すべき事項を記載しなかったとき、または虚偽の記載をしたときは、10万円以下の罰金の対象です。農林水産省の「無人マルチローターによる農薬の空中散布に係る安全ガイドライン」でも、特定飛行を行った場合は飛行記録・日常点検記録などを遅滞なく飛行日誌に記載するよう求めています。
飛行日誌は3つの記録でできている
国土交通省の取扱要領では、飛行日誌は次の3つで構成されます。様式1〜3が示されていますが、記載事項を満たしていれば、項目を加えた独自の様式や、電子データでの記録・保管も認められています。
- 飛行記録(様式1):飛ばすたびに、いつ・誰が・どこからどこへ・何分飛ばしたか。不具合があればその内容と処置
- 日常点検記録(様式2):飛ばす前の点検の結果。飛行後点検をしたらその結果も
- 点検整備記録(様式3):定期点検、部品交換、修理、改造(散布装置の取り付け・取り外しを含む)をしたとき
飛行日誌は操縦者ごとではなく機体ごとに備え、機体が登録されている間はずっと記載と保管を続けます。特定飛行をしない場合は記載の義務はありませんが、取扱要領は同じように記録することを推奨しています。
記入例
水稲の病害虫防除で、同じ日に3つの圃場を順番に散布した場合の飛行記録の記入例です。

1行目は前の日誌からの繰越しで、総飛行時間1,250分から始まっています。2026年7月20日、6時10分に東1号わきの農道から離陸して東1号・東2号を散布し、6時21分に着陸。飛行時間は11分で、総飛行時間は1,261分になります。バッテリーを交換して電源を入れ直した6時35分からの東3号の散布は別の行、7時5分からの西1号も別の行に書いています。
最後の行の「飛行の安全に影響のあった事項」には「風が強まったため散布を中断して着陸。機体に異常なし」と書いています。何もなければ「なし」と書き、空欄にはしません。
書き方(項目ごと)
飛行記録の各欄
| 欄 | 書くこと | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 登録記号・型式など(冒頭) | 登録記号、種類・型式、型式認証書番号、機体認証の区分と番号、製造者と製造番号。冒頭に1回まとめて書けばよい | 国土交通大臣から通知された登録記号 |
| 飛行年月日 | 西暦で書く | 2026/7/20 |
| 操縦者の氏名 | 氏名。技能証明を受けていれば技能証明書番号も | 山田 太郎 |
| 飛行の目的・経路 | 目的と、経由地など経路の情報 | 農林水産業(水稲の病害虫防除)/東1号・東2号 |
| 特定飛行の種類 | 該当する飛行の形態をすべて | 危険物輸送・物件投下 |
| 離陸場所・着陸場所 | 緯度経度、または都道府県+市区郡+町村名や固有名称 | 〇〇県△△市□□町 東1号わきの農道 |
| 離陸時刻・着陸時刻 | 日本時間の24時間制、1分単位 | 6:10/6:21 |
| 飛行時間 | 離陸から着陸までの分数(1分単位) | 11 |
| 総飛行時間 | 機体の製造後の積算時間(1分単位) | 1,261 |
| 飛行の安全に影響のあった事項 | 影響した、または影響しそうだったことと、その前後の機体の状況。なければ「なし」 | なし |
不具合が起きたときは、発生年月日と不具合の内容、処置した年月日と処置の内容、処置を確認した人の氏名も記録します。テンプレートでは「不具合と処置」のシートにまとめて書けるようにしています。
「1飛行」の数え方
取扱要領では、電源を入れて離陸し、目的地に着陸して電源を切るまでを1飛行としています。バッテリー交換や薬剤の補充で電源を切ったら、次は新しい行です。反対に、電源を入れたまま続けて離着陸を繰り返した場合は、最終的に電源を切るまでを1飛行とし、途中の地点は経由地として書きます。
日常点検記録の書き方
飛ばすたびに、飛行前の点検結果を項目ごとに「正常」「異常」などで記入します。様式2の点検項目は、機体全般(ネジ・コネクタ・ケーブルなどの取り付け状態)、プロペラ、フレーム、通信系統、推進系統、電源系統、自動制御系統、操縦装置、バッテリー・燃料です。見つけた不具合は特記事項に書き、飛行後点検をしたら「飛行後点検:異常なし」のように結果も残します。
農薬散布では、農林水産省のガイドラインが、散布装置が適正に散布できること(所定の吐出量で途切れないことなど)を使用前に確認するよう求めています。テンプレートではこのため散布装置の欄を加えています。機体メーカーが点検項目や様式を指定している場合は、そちらに従います。
点検整備記録の書き方
定期点検、部品交換、修理、改造をしたときに、実施年月日、場所、実施者、内容(交換した部品名を含む)、理由、総飛行時間を書きます。散布装置の取り付け・取り外しもここに記録します。紙で書く場合は、前回の記録と区別しやすいように上下を1行ずつ空け、空けた行に「〆」を書くことになっています。
気をつけること・よくある間違い
1. その日の散布をまとめて1行で書く
飛行記録は1飛行ごとに書きます。1日に10回バッテリーを替えて電源を切り入れしたなら、10行になります。「7/20 東1号〜西1号 合計28分」のようなまとめ書きは、取扱要領の数え方と合いません。
2. 総飛行時間をその日の合計にしてしまう
総飛行時間は、機体の製造後の積算です。日誌を新しくしても、前の日誌の最後の値から続けます。中古で機体を買った場合や使用者が変わった場合は、前の使用者から総飛行時間と点検・整備の記録を確実に引き継ぐよう取扱要領に定められています。
3. 散布が終わってから数日後にまとめて書く
法律の文言は「遅滞なく」です。時刻を1分単位で書く必要があるので、着陸のたびにメモを取るか、機体やアプリのログを見ながらその日のうちに転記します。
4. 紙の日誌を事務所に置いたまま圃場に出る
取扱要領では、飛ばすときは飛行日誌を紙か電子で常に携行し、確認を求められたら提示できるようにしておくこととされています。紙の場合は、直近の点検整備以降の飛行記録と日常点検記録、そしてすべての点検整備記録を持ち歩きます。
5. 不具合を点検整備記録に書き忘れる
日常点検や飛行中に見つけた不具合と、それを直した整備の内容は、点検整備記録にも記入しなければなりません。飛行記録の欄に「プロペラ交換」と書いただけで終わらせないようにします。
6. 消せるペンや鉛筆で書く
紙の飛行日誌は、日本語か英語で、黒か青のインクのボールペンなどで正確に書くこととされています。後から書き換えられる筆記具は使いません。
7. 飛行日誌だけで農薬の記録も済ませる
飛行日誌には、農薬の名称や希釈倍数、10aあたりの使用量を書く欄がありません。どの農薬をどれだけ使ったかは、農薬使用記録簿(防除日誌)などに別に残します。農薬を使う人は、使用した年月日・場所・農作物・農薬の種類・使用量などを帳簿に記載するよう努めることが省令で定められています(農林水産省Q&A Q24)。
紙・Excelで続かないときは
ドローン防除の記録は、飛行日誌と農薬の記録の二本立てになります。飛行日誌は機体の記録、農薬の記録は作物の記録です。散布の多い時期は1日に何十行も書くことになるので、どちらか一方が抜けがちになります。
当社のミノリス日誌は、このうち農薬の記録の側を受け持つ無料の栽培記録アプリです。飛行日誌そのものを作る機能はないので、飛行日誌はこの記事のテンプレートやメーカーのアプリで付けてください。
- ドローンで散布した農薬を、散布したその場でスマホに記録できる
- 農薬適用情報10万件以上のデータから登録農薬を選ぶだけで、使用回数や収穫前日数を確認できる
- 作付けごとに農薬・肥料・作業・収穫の記録がまとまる
- 散布の様子を写真で残せる
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力し、JAや取引先への提出に使える
収支管理やGPSによる作業の自動記録には対応していません。飛行経路の記録が必要な場合は、機体側のログを使ってください。
よくある質問
自分の田んぼに自分のドローンで散布するだけでも必要ですか?
必要です。農薬の散布は、自分の圃場でも「危険物輸送」「物件投下」に当たる特定飛行なので、飛行日誌の記載は義務になります。どの飛行が特定飛行に当たるか、許可・承認の手続きがどうなるかは、国土交通省の案内や無人航空機ヘルプデスクで確認してください。
メーカーのアプリや点検表を使っています。それでもよいですか?
取扱要領では、メーカーが日常点検の様式を指定していればそれを日常点検記録にでき、メーカーなどが点検整備をして専用の様式に記録すれば、それを点検整備記録にできるとされています。電子での記録・保管も、様式1〜3の内容を網羅していれば認められています。足りない項目がないかを取扱要領と見比べてください。
飛行日誌を国や県に提出する必要はありますか?
農林水産省のQ&A(Q25)では、定期的な報告は不要とされています。ただし、国土交通省航空局から飛行日誌の報告を求められた場合は速やかに報告する必要があります。都道府県によっては、飛行日誌とは別にドローン防除の実施計画書や報告書の提出を求めていることがあります。
どのくらいの期間保存すればよいですか?
取扱要領では、飛行日誌の記載と保管は無人航空機が登録されている間は続けなければならないとされています。機体を手放すときは、総飛行時間や点検整備の記録を次の使用者に引き継ぎます。
散布を代行業者に頼んだ場合、飛行日誌は誰が書きますか?
飛行日誌は機体を飛ばす人(操縦者)と機体の使用者が備えて記載するものなので、代行業者の側で付けることになります。一方、農薬の使用記録は作物の記録なので、委託した農家も写しを受け取って自分の防除日誌に残しておくと、使用回数の管理がしやすくなります。
まとめ
ドローンによる農薬散布は航空法上の特定飛行で、飛行日誌を備えて遅滞なく記載することが義務です(航空法第132条の89)。飛行日誌は、飛行記録・日常点検記録・点検整備記録の3つでできていて、機体ごとに、登録されている間ずっと付け続けます。
飛行記録は電源を入れてから切るまでの1飛行ごとに1行、時刻と飛行時間は1分単位、総飛行時間は製造後の積算で書きます。農薬の名前や使用量は飛行日誌には書く欄がないので、防除日誌に別に残します。まずは無料の飛行日誌テンプレートで、次の散布から1飛行1行で付けてみてください。
関連記事
- 圃場管理アプリ・農業アプリ無料おすすめ14選【2026年比較】
- 防除日誌(農薬使用記録簿)の書き方|記帳する5項目・記入例と無料テンプレート・アプリ
- ドローン農薬散布・遮熱遮光剤散布Q&A — 費用・注文先・メリット・導入状況まとめ
- 農薬散布ドローンの料金【2026年版】代行費用・機体価格・ランニングコストを徹底比較
- ドローン農薬散布の代行業者16社を比較【2026年】料金・対応エリア・機体
- 農薬の使用回数に上限がある理由と正しい数え方|違反時のリスクと確認・記録の実務


