土壌診断カルテは、土壌分析の結果を基準値(改良目標)と並べて「低い・適正・高い」を判定し、次の施肥や土づくりに何を反映したかを1圃場1枚にまとめる記録です。JAや普及センター、分析機関から分析結果票が届いたあと、「で、何をどれだけ変えればいいのか」を整理するために使います。
結論を先に書くと、カルテで見るべきはpHやリン酸の数字単体ではなく、基準値との差と前回からの変化、そして石灰・苦土・加里のバランスです。土壌診断に法令上の義務はありませんが、国の「地力増進基本指針」が土壌の改善目標を示しています。この記事では、その目標値とJA全農の資料にある塩基バランスの計算方法を確認したうえで、各欄の書き方、記入例、よくある間違いを整理します。
土壌診断カルテとは/なぜ必要か
分析結果票だけでは次の一手が決まらない
分析結果票には十数項目の数値が並びますが、それだけでは「石灰を入れるべきか」「リン酸を減らせるか」が一目ではわかりません。カルテにして基準値と並べ、判定と対策を1行ずつ書くことで、施肥設計に反映する内容がはっきりします。前回の値も並べておけば、土づくりの効果が出ているかも確かめられます。
リン酸や加里が十分にたまっている圃場なら、その分の肥料を減らせる可能性があります。土壌診断は「足りないものを足す」だけでなく、「多すぎるものを減らす」判断の根拠にもなります。
国の「地力増進基本指針」が示す改善目標
地力増進法にもとづく農林水産省の「地力増進基本指針」は、水田・普通畑・樹園地ごとに土壌の基本的な改善目標を示しています。普通畑のうち、褐色森林土・灰色低地土・黄色土などの区分の主な値は次のとおりです。
| 項目 | 改善目標(普通畑・褐色森林土、灰色低地土など) |
|---|---|
| pH | 6.0以上6.5以下(石灰質土壌では6.0以上8.0以下) |
| 陽イオン交換容量(CEC) | 乾土100gあたり12meq以上(中粗粒質の土壌では8meq以上) |
| 塩基飽和度 | 石灰・苦土・加里がCECの70〜90% |
| 塩基組成 | 石灰:苦土:加里の当量比が(65〜75):(20〜25):(2〜10) |
| 有効態りん酸 | 乾土100gあたりP2O5として10mg以上75mg以下 |
| 可給態窒素 | 乾土100gあたり5mg以上 |
| 土壌有機物 | 乾土100gあたり3g以上 |
| 電気伝導度(EC) | 0.3mS以下 |
黒ボク土ではCECが15meq以上、塩基飽和度が60〜90%、有効態りん酸が10mg以上100mg以下となるなど、土壌の種類によって値が違います。水田では、有効態けい酸(乾土100gあたりSiO2として15mg以上)などの項目も加わります。また指針自身が、pHと有効態りん酸は作物や品種によって好適な範囲が違うので、土壌診断等で適正な範囲にするよう求めています。
実際にカルテの「改良目標」欄に書くのは、分析を頼んだJAや分析機関の結果票、または県の土壌診断基準にある値です。国の指針は、その値がどのくらいの水準なのかを確かめる物差しとして使います。
法令上の位置づけ
土壌診断を受けることやカルテを作ることは、法令上の義務ではありません。施肥の量は、県の施肥基準やJA・普及センターの指導に従って決めてください。
記入例
普通畑(灰色低地土)で、今回と前回の分析値を並べた記入例です。分析値は架空のものです。

この例では、pH 5.6(目標6.0〜6.5)で「低」、可給態リン酸85mg/100g(目標10〜75)で「高」、塩基飽和度59%(目標70〜90%)で「低」、土壌有機物2.5%で「低」と判定しています。対策欄には「苦土石灰で矯正(量は分析機関・JAの処方に従う)」「リン酸の少ない肥料を選ぶ」「加里は増やさない」「堆肥を2t/10aほど入れる」と書き、次作の施肥設計に何を反映するかを明確にしています。
書き方(項目ごと)
表の上には、圃場名、採土日、次に作る作物、土壌の種類、分析した機関を書きます。明細の各欄は次のとおりです。
| 欄 | 書くこと | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 分析項目 | 結果票にある項目名。測定方法があれば括弧で | 可給態リン酸(トルオーグ法) |
| 単位 | 結果票の単位をそのまま | mg/100g、meq/100g、mS/cm |
| 改良目標(基準値) | 結果票や県・JAの土壌診断基準の範囲 | 10〜75 |
| 今回・前回 | 今回と前回の分析値 | 85・80 |
| 判定 | 基準値と比べて低・適・高 | 高 |
| 対策・施肥への反映 | 石灰資材・堆肥・肥料をどう変えるか | リン酸の少ない肥料を選ぶ |
塩基飽和度と塩基バランスの計算方法
結果票に塩基飽和度が載っていない場合は、自分で計算できます。JA全農の「土壌診断なるほどガイド」では、次の2段階で計算する方法が示されています。
- mg/100gをmeq/100gに換算する:石灰(CaO)は28、苦土(MgO)は20、加里(K2O)は47で割る
- それぞれをCECで割って100を掛けたものが各塩基の飽和度で、その合計が塩基飽和度
記入例(CEC 15meq、CaO 180mg、MgO 30mg、K2O 45mg)で計算すると、次のようになります。
- 石灰:180÷28=6.43meq
- 苦土:30÷20=1.50meq
- 加里:45÷47=0.96meq
- 合計8.89meq÷CEC 15×100=塩基飽和度 約59%
同じガイドは、石灰/苦土比を5〜8、苦土/加里比を2〜6にするのが望ましいとしています(いずれも当量比)。記入例では石灰/苦土比が6.43÷1.50=4.3、苦土/加里比が1.50÷0.96=1.6です。苦土/加里比が低いのは、加里に対して苦土が少ないということなので、「石灰と苦土を補い、加里は控える」という判断になります。
土の採り方も書いておく
分析値は土の採り方で大きく変わります。農林水産省のサイトに掲載されている都道府県の施肥基準資料「土壌診断の方法と活用」では、次のような採り方が示されています。
- 時期:原則として作物の収穫後、後作の耕起・施肥の前
- 場所:圃場の対角線上の5地点から、1地点500g程度を採って混ぜる
- 深さ:目的の深さまでV字型に掘り、その面に沿って一定の厚さで採る
- うね立てしてある場合:うね間から隣のうね間までの土を採る
毎回同じ時期・同じ深さで採ると前回と比べやすくなります。カルテの上の欄に採土日と深さを書いておきます。
気をつけること・よくある間違い
1. 単位を取り違える
同じリン酸でも、mg/100gとmg/kgでは値が10倍違います。分析機関によって単位が違うことがあるので、結果票の単位をそのまま写し、基準値も同じ単位のものを使います。
2. 測定方法の違いを見落とす
可給態リン酸はトルオーグ法が一般的ですが、JA全農のガイドにもあるとおり、地域や作物によってはブレイ第2法で測ることもあります。基準値は同じ測定方法のものと比べます。
3. pHだけ見て石灰を入れすぎる
pHが低いからといって石灰資材を多く入れると、苦土や加里とのバランスが崩れることがあります。塩基飽和度や塩基バランス、ECもあわせて見て、石灰資材の種類と量は分析機関やJAの処方に従います。
4. 土壌の種類に合わない基準値と比べる
地力増進基本指針でも、黒ボク土と灰色低地土ではCECや有効態りん酸の目標が違います。水田と畑でも項目や値が違います。カルテの上の欄に土壌の種類と、水田か畑かを書き、それに合った基準値を使います。
5. 前回と違う時期・深さで採った値を比べる
施肥の直後に採った土は、肥料の成分で値が高く出ることがあります。前回と条件が違うと、変化が土づくりの効果なのか採り方の違いなのか判断できません。
6. 判定だけ書いて対策を書かない
「低」「高」の判定だけでは、次の作付けで何も変わりません。対策欄に「何を」「どのくらい」「いつ」変えるかまで書き、実際に施肥設計に反映したかを次回の診断で確かめます。
7. 1回の診断で全部直そうとする
たまりすぎたリン酸や加里は、施肥を控えてもすぐには下がりません。1回の診断で目標に届かせようとせず、次の診断で推移を確かめながら調整します。
紙・Excelで続かないときは
土壌診断カルテは数年に1回の記録なので、Excelで十分に管理できます。続かなくなるのは、むしろ「診断で決めた対策を、実際の施肥でどれだけ守れたか」の記録です。リン酸を減らすと決めたのに、忙しい時期にいつもの肥料を入れてしまった、ということはよくあります。
当社のミノリス日誌は、作付けごとに肥料・農薬・作業・収穫の記録を付けられる無料の栽培記録アプリです。土壌診断カルテと組み合わせると、次のように使えます。
- 肥料1.8万件以上のデータから肥料を選んで、施用した量を記録する
- 作付けごとの施肥の記録を栽培履歴としてCSV・Excelで出力し、次の土壌診断のときにカルテと並べて見返す
- 堆肥の散布や石灰資材の施用を作業として日付と写真つきで残す
- 衛星画像で圃場の生育のムラを見て、採土地点や土づくりの優先順位を考える材料にする
土壌分析の値を取り込んで判定したり、施肥量を自動で計算したりする機能はありません。収支管理やGPSによる作業の自動記録にも対応していません。カルテと判定はExcelで、日々の施肥の記録はアプリで、という分担がおすすめです。
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よくある質問
どのくらいの間隔で診断すればいいですか?
法令で決まった間隔はありません。作付けや土づくりを大きく変えたとき、生育に問題が出たときのほか、「3年に1回」のように決めておくと推移を追いやすくなります。産地やJAが定期的な診断を勧めている場合は、その間隔に合わせてください。
水田でも使えますか?
使えます。水田では有効態けい酸なども大事な項目になり、地力増進基本指針の水田の改善目標は普通畑と違います。改良目標の欄には水田の基準値を写してください。
分析はどこに頼めばいいですか?
JAや県の普及センター、民間の分析機関などが受け付けています。依頼先によって分析項目や料金、結果票の形式が違うので、事前に確認してください。毎回同じ依頼先にすると、前回との比較がしやすくなります。
結果票に基準値が載っていない項目はどうすればいいですか?
県の土壌診断基準や施肥基準に載っていることが多いので、普及センターやJAに確認してください。参考として、国の地力増進基本指針の改善目標を書いておき、「国の指針」と出典をメモしておく方法もあります。
家庭菜園でも使えますか?
使えます。市販の簡易測定キットでpHやECを測った場合も、測った日と方法を書いておけば、年ごとの変化を追えます。ただし、簡易キットと分析機関の値は測り方が違うので、同じ方法どうしで比べてください。
まとめ
土壌診断カルテは、分析値を基準値と並べて判定し、次の施肥や土づくりに何を反映したかを残す記録です。国の地力増進基本指針は、普通畑でpH 6.0〜6.5、塩基飽和度70〜90%、有効態りん酸10〜75mg/100gなどの改善目標を示していますが、実際には土壌の種類や作物に合った県・JAの基準値と比べます。塩基飽和度や石灰/苦土比、苦土/加里比は、結果票に載っていなくても換算係数を使って計算できます。
まずは手元の分析結果票を1圃場ずつカルテに写し、判定と対策を書き込むところから始めてみてください。土壌診断カルテの無料テンプレートには、記入例と年ごとの推移表のシートも入っています。
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