「この化成を100kg入れたら、窒素は何kgになるのか」「追肥まで足したら多すぎないか」。施肥計画と施肥記録は、こうした疑問に数字で答えるための表です。施した肥料を、10aあたりの窒素(N)・りん酸(P)・加里(K)の成分量に直して残す。やることはこれだけで、計算式も1本しかありません。
この記事では、施肥の記録がどんな場面で求められるのかを一次情報で確認したうえで、成分量の計算と逆算のしかた、施肥基準との比べ方、各欄の書き方、よくある間違いを記入例つきで解説します。
施肥計画・施肥記録の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
施肥計画・施肥記録とは/なぜ必要か
「計画」と「記録」の違い
- 施肥計画:作付けの前に、作物ごとに元肥と追肥で何kgの成分を入れるかを決め、県の施肥基準と比べる表
- 施肥記録:実際に施肥するたびに、日付・圃場・肥料名・施用量を書き、成分量に直して残す表
計画を立てて記録を付け、作が終わったら記録を合計して計画と比べる。この往復で、施肥が自分の圃場に合ってきます。
施肥基準に沿うことが「適正な施肥」の基本
農林水産省の「都道府県施肥基準等」のページでは、過剰な施肥はコスト面のデメリットが大きいだけでなく環境に悪影響を及ぼすことがあるとしたうえで、適正な施肥のためには都道府県の施肥基準に則した施肥を行い、定期的に土壌分析を行って土壌診断基準値と照らし合わせ、肥料成分が過剰に蓄積している場合は減肥基準を参考に肥料の種類や施肥量を見直すことが重要だとしています。同ページには各都道府県の施肥基準がまとめて掲載されています。
施肥基準は「窒素◯kg/10a」のように成分量で書かれています。肥料袋の重さのまま記録していると基準と比べられないので、成分量に直す作業が欠かせません。
記録を求められる場面
- 補助事業の「みどりチェック」:農林水産省の補助事業で提出するチェックシート(農業経営体向け)には、「肥料の使用状況等の記録・保存に努める」「作物特性やデータに基づく施肥設計を検討」という項目があります
- 特別栽培農産物:表示ガイドラインでは、化学肥料の窒素成分量が地域の慣行レベルの5割以下であることが条件の1つで、化学肥料由来の窒素を数えて示す必要があります
- JAや出荷先への栽培履歴の提出:肥料名・施用日・施用量を求められることが多く、施肥記録がその元データになります(提出のしかたは栽培履歴の書き方と提出方法を参照)
記入例
ミニトマトとキャベツの施肥を記録した例です(肥料名・量は説明用の架空のものです)。

ミニトマト(東1号)は、4月5日に8-8-8の化成を元肥で100kg/10a、5月25日に10-4-8の液肥(原液)を追肥で20kg/10a施しています。成分量は元肥が窒素8.0kg、追肥が2.0kgで、合計窒素10.0kg/10aです。キャベツ(西2号)は14-14-14の化成60kg/10aで窒素8.4kg、硫安(窒素21%)30kg/10aで6.3kg、合計14.7kg/10aになります。この合計を「施肥計画」シートに入れると、施肥基準との差が出ます。
書き方(項目ごと)
成分量の計算方法
肥料袋の保証票(成分の表示)には、窒素・りん酸・加里の割合が「8-8-8」のように%で書かれています。10aあたりの成分量は次の式で出します。
成分量(kg/10a)= 施用量(kg/10a)× 成分の割合(%)÷ 100
- 8-8-8の化成を100kg/10a:窒素 100×8÷100=8.0kg、りん酸・加里も各8.0kg
- 14-14-14の化成を60kg/10a:各成分 60×14÷100=8.4kg
- 硫安(窒素21%)を30kg/10a:窒素 30×21÷100=6.3kg
圃場が10aでないときは、先に10aあたりに直します。5aの圃場に50kg施したなら、50÷5×10=100kg/10aです。30aに150kgなら、150÷30×10=50kg/10aになります。
計画を立てるときの逆算
施肥計画では逆に、「窒素を◯kg入れたいから、この肥料を何kg施すか」を出します。
施用量(kg/10a)= 入れたい成分量(kg/10a)÷ 成分の割合(%)× 100
たとえば元肥で窒素10kg/10aを8-8-8の化成で入れるなら、10÷8×100=125kg/10a。20kg袋なら10aあたり6.25袋、30aの圃場なら375kg(18.75袋)です。袋数まで出しておくと、資材の注文と圃場での散布がそのままできます。
施用日・圃場・作物
施した日、圃場名(毎回同じ呼び方で)、作付けしている(する予定の)作物を書きます。元肥は定植前に入れるので、作物名は予定の作物を書きます。
肥料名と元肥/追肥
肥料名は袋に書かれた名称をそのまま書きます。元肥か追肥かは必ず区別してください。施肥基準も元肥と追肥に分けて示されていることが多く、比べるときに必要になります。
N・P・K(%)
保証票の窒素・りん酸・加里の%を1つずつ書きます。「りん酸」「加里」は、りんやカリウムの元素そのものではなく、それぞれ酸化物(P2O5、K2O)に換算した量で表示されています。施肥基準も同じ表し方なので、そのまま比べてかまいません。
施用量(kg/10a)と成分量
10aあたりに直した量を書きます。テンプレートのExcel版は、%と施用量を入れると成分量が自動で出ます。手書き用PDFでは、上の式で計算した値を書き込みます。
施用者
作業した人を書きます。家族や従業員で分担している場合、誰がどの圃場に入れたかがわかると、施し忘れや二重施肥に気づけます。
施肥計画シートの使い方
作物ごとに、元肥と追肥の成分量を入れると、合計(元肥+追肥)と施肥基準との差(合計−基準)が出ます。差がプラスなら入れすぎ、マイナスなら不足の可能性があります。ただし、施肥基準は土壌診断の結果や前作の残り、堆肥の量で調整する前提の目安です。数字だけで判断せず、普及指導センターやJAの指導とあわせて見てください。
Excel版と手書き用PDF、記入例はミノリスの施肥計画・施肥記録テンプレートのページからダウンロードできます。
気をつけること・よくある間違い
施用量を圃場全体の量のまま書く
「東1号に化成を3袋」と書いても、基準と比べられません。圃場の面積で割って、10aあたりに直してから書きます。圃場の面積は圃場台帳などで一度きちんと確認しておきます。
追肥の成分量を足し忘れる
元肥だけで基準と比べると問題なく見えても、追肥を合わせると多すぎることがあります。作が終わるまで、元肥と追肥を合計して見ます。
液肥を希釈倍率のまま書く
液肥は、薄める前の原液の量とその成分%で成分量を出します。「500倍で200L」と書くだけでは成分量が出ないので、使った原液の量を書きます。原液をLで量った場合は、ラベルの表示を確かめて重さに直してください。
堆肥や有機質肥料の成分を無視する
堆肥にも肥料成分が含まれます。肥料の品質の確保等に関する法律では、堆肥などは「特殊肥料」に分類されます。堆肥の成分をどれだけ差し引くかは、県の施肥基準や普及指導センターの指導に従ってください。
化学肥料と有機質肥料の窒素を分けていない
特別栽培では、化学肥料由来の窒素成分量だけを数えて慣行レベルと比べます。県の施肥基準にも、窒素を「化学肥料由来」と「有機質肥料由来」に分けて示している例があります。有機配合肥料などは、どの部分が化学肥料由来かを販売店やメーカーの資料で確認し、欄を分けて記録しておくと後で困りません。
肥料を変えたのに量を変えない
去年と同じ「100kg」でも、8-8-8から14-14-14に替えれば窒素は8kgから14kgに増えます。肥料を替えたときは、成分量で同じになるように施用量を計算し直します。
成分%を記憶で書く
似た名前の肥料で成分が違うことはよくあります。毎回、袋の保証票を見て書くか、袋の表示を写真に撮っておきます。
紙・Excelで続かないときは
施肥記録が続かなくなるのは、畑で施した直後に書けず、あとで「何袋入れたか」を思い出して書くことになるからです。成分量の計算はExcelに任せられても、元になる施用量を忘れてしまっては意味がありません。
当社の無料アプリミノリス日誌では、作付けごとに肥料の施用を圃場からスマホで記録できます。肥料の使用記録も作付けごとに残せます(肥料情報1.8万件以上)。記録は農薬・作業・収穫と同じ作付けの時系列に並び、栽培履歴としてCSV・Excelで出力できるので、JAや出荷先への提出、みどりチェックの記録の保存にそのまま使えます。
ただし、施肥基準との比較や施肥設計そのものは、アプリではなくこのテンプレートの「施肥計画」シートで行う想定です。どの肥料をどれだけ施すかは、施肥基準や土壌診断の結果をもとに自分で決める必要があります。収支管理(肥料代の集計など)やGPSによる作業の自動記録にも対応していません。
肥料の記録を、作付けごとにスマホで
ミノリス日誌なら、肥料の施用を作付けごとに記録でき(肥料データ1.8万件以上)、農薬・作業・収穫の記録と一緒に栽培履歴としてCSV・Excelで出力できます。全機能0円です。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
施肥基準はどこで調べられますか?
農林水産省の「都道府県施肥基準等」のページに、各都道府県の施肥基準、土壌診断基準値、減肥基準へのリンクがまとめられています。自分の県の基準がない作物は、近隣県の基準を参考にできる場合がありますが、その際は普及指導員など地域の施肥指導者に相談するよう同ページでも案内されています。
JAや部会の様式で施肥の記録を出す必要があります。
提出先に指定の様式がある場合は、そちらを使ってください。このテンプレートは、指定様式に書き写す前の下書きや、成分量の確認用として使えます。
施肥設計まで自動で計算してくれますか?
テンプレートのExcelは、成分%と施用量から成分量を、「施肥計画」シートでは元肥・追肥の合計と基準との差を計算します。どの肥料を何kg施すかという施肥設計は、上の逆算の式を使って自分で決めます。
土壌分析はどこで頼めますか?
JAや都道府県の普及指導センター、民間の分析機関などで受け付けていることがあります。地域の窓口に問い合わせてください。分析結果を施肥計画と同じファイルに残しておくと、翌年の減肥の判断に使えます。
記録はどのくらい保存すればよいですか?
施肥記録そのものに保存期間を定めた一般的な法令はありません。ただし、特別栽培では確認責任者が栽培管理記録などを受領後3年間保管するとされており、GAPや取引先の基準で期間が決まっている場合もあります。提出先の指示を確認し、指示がない場合も輪作や土壌の変化を見るために数年分は残しておくのがおすすめです。
まとめ
施肥計画・施肥記録の要は、施した量を10aあたりの成分量に直すことです。「施用量×成分%÷100」で成分量を出し、元肥と追肥を合計して県の施肥基準と比べる。計画のときは「入れたい成分量÷成分%×100」で施用量と袋数を逆算する。この2本の式と、化学肥料由来の窒素を分けておく習慣があれば、補助事業のチェックや特別栽培、出荷先への提出にも困りません。
関連記事
- 栽培履歴(生産履歴)の書き方と提出方法|記録すべき項目から提出先別の形式まで実務解説
- 作付け計画の作り方|作付け計画表(エクセル)の書き方と輪作・記録の管理方法
- 農作業日誌の書き方とテンプレート|エクセル・ノート・無料アプリの選び方と記入例
- 肥料・飼料・燃料の価格推移【2026年最新グラフ】農業資材は2020年比3割高
- 菌根菌でリン酸肥料は3割減らせるか 農研機構データで読む節肥効果
- 圃場管理アプリ・農業アプリ無料おすすめ比較


