「営農計画書を出してください」と言われたとき、最初に困るのは様式の書き方よりも中に書く数字ではないでしょうか。何を何アール作り、10aあたり何kg採れて、いくらで売れて、経費がいくらかかるのか。この数字さえ固まれば、市町村やJA、金融機関の様式にはほぼそのまま書き写せます。
営農計画書は、新規就農の相談や青年等就農計画の認定申請、資金の借入れ、補助事業の申請などで求められる「これからの営農の計画」です。この記事では、営農計画書と呼ばれる書類の種類を農林水産省の資料で整理したうえで、作物ごとの収支を面積×単収×単価で組み立てる手順、記入例、差し戻されやすいポイントをまとめます。
営農計画書(作物別の収支試算シート)の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
営農計画書とは/なぜ必要か
「営農計画書」という名前の書類は1種類ではありません。同じ名前で、目的のまったく違う書類が出回っています。自分が求められているのがどれかを最初に確認しておくと、書く内容で迷わずに済みます。
新規就農・認定を受けるための計画(青年等就農計画など)
新しく農業を始める人が市町村の認定を受ける「青年等就農計画」は、営農計画書の代表例です。農林水産省の説明では、原則18歳以上45歳未満の青年、または特定の知識・技能を持つ65歳未満の中高年齢者が計画を作り、市町村に申請して認定を受けます。認定を受けた「認定新規就農者」は、就農直後(3年以内)の所得を確保する経営開始資金(年間最大165万円)や、無利子の青年等就農資金などの対象になります。
農林水産省が公開している申請書の様式には、次のような欄があります。
- 目標とする営農類型と、将来の農業経営の構想
- 年間農業所得と年間労働時間の「現状」と「目標」
- 作目ごとの作付面積と生産量の「現状」と「目標」
- 機械・施設の台数や規模
- 目標を達成するために必要な措置(機械の購入などの事業費と資金名)
- 農業経営の構成(家族の年間従事日数、雇用の見通し)
同省の記入イメージでは、露地野菜の例として、タマネギの作付面積を40a(生産量15,600kg)から80a(31,200kg)に広げ、年間農業所得を2,000千円から4,000千円に、年間労働時間を2,000時間から1,800時間にする目標が書かれています。どちらも10aあたり3,900kgで計算されていて、面積を倍にすれば生産量も倍になる、という筋の通った数字になっています。審査する側が見ているのは、こうした数字どうしのつながりです。
なお農林水産省は、申請様式を作る前に都道府県の普及指導センターや市町村に必ず相談するよう案内しています。いきなり清書を持って行くより、この記事で扱う収支の下書きを持って相談に行くほうが話が早く進みます。
経営所得安定対策の「営農計画書」
もう1つよく目にするのが、経営所得安定対策等の交付申請で使う「営農計画書」です。正式には様式第2号「水稲生産実施計画書兼営農計画書」といい、農林水産省のページで様式と記入例が公開されています。令和8年の提出期間は4月1日から6月30日です。
こちらは所得の見込みを書く書類ではなく、どの農地に何をどれだけ作付けするかを申請するための書類です。農林水産省の「記入上の注意」では、面積は畦畔を含まない本地面積を書くこと、作物の作付面積は1㎡未満を切り捨てること、農地の番号は水稲共済と一体の番号にすることなどが示されています。収支の試算とは性格が違うので、この記事の後半で扱う試算シートは主に1つ目のタイプ(就農・認定・借入・補助事業)向けの下書きとして使ってください。
借入れや補助事業の事業計画
農業機械やハウスの資金を借りるとき、補助事業に申し込むときにも、提出先ごとの様式で営農の計画を求められます。書き方は様式ごとに違っても、中身の骨格は「作付け」「売上」「経費」「所得」「必要な投資」です。作物ごとの収支を一度きちんと試算しておけば、どの様式にも使い回せます。
記入例
ミニトマト・キャベツ・たまねぎの3品目で、合計45aを作る新規就農者を想定した記入例です。

1行目のミニトマトは、面積10a、単収5,000kg/10a、単価500円/kgで、生産量5,000kg、売上2,500,000円です。経費を1,500,000円と見込み、所得は1,000,000円になります。根拠・メモの欄には「研修先の実績」と書いています。
キャベツは20aで単収4,000kg/10a、生産量8,000kg、単価100円で売上800,000円。たまねぎは15aで単収5,000kg/10a、生産量7,500kg、単価120円で売上900,000円です。3品目の合計は売上4,200,000円、経費2,550,000円、所得1,650,000円になります。記入例の単収・単価・経費は架空の数字なので、自分の計画では必ず地域の数字に置き換えてください。
書き方(項目ごと)
試算は「作付けを決める → 生産量 → 売上 → 経費 → 所得」の順に進めます。途中の式はすべて単純な掛け算と引き算です。
| 欄 | 書くこと・単位 | 書き方の例 |
|---|---|---|
| 作物 | 作物名。同じ作物でも作期(春作・秋作など)が違えば行を分ける | ミニトマト(雨よけ) |
| 面積 | 作付面積(a)。圃場全体の面積ではなく実際に作る面積 | 10 |
| 単収 | 10aあたりの収量の見込み(kg/10a) | 5,000 |
| 生産量 | 面積(a)÷10×単収(kg) | 10÷10×5,000=5,000 |
| 単価 | 1kgあたりの販売単価(円/kg)。手数料を引く前か後かをそろえる | 500 |
| 売上 | 生産量×単価(円) | 5,000×500=2,500,000 |
| 経費 | 種苗・肥料・農薬・資材・出荷経費・減価償却費などの合計(円) | 1,500,000 |
| 所得 | 売上−経費(円) | 1,000,000 |
| 根拠・メモ | 単収・単価をどこから持ってきたか | 研修先の3年平均、県の経営指標 |
単収は「根拠」とセットで書く
計画の数字でいちばん突っ込まれるのが単収です。都道府県の経営指標は、根拠として使いやすい資料の1つです。たとえば長野県の農業経営指標(作目別経営指標一覧表)では、ミニトマト(雨よけ)を10aあたり生産量6,000kg、単価600円、粗収益3,600,000円、経営費2,648,616円、農業所得951,384円、労働時間986時間としています。
ただし長野県は、この指標が「効率的・安定的な経営体」を想定したモデルであり、資本装備をすべて新規に整備したものとして経営費を算定していること、地域や経営によって実態とずれることがあることを注意書きしています。就農1年目からこの数字を使うのではなく、1年目は7〜8割程度に抑え、年ごとに近づけていく書き方のほうが現実的です。
経費は費目ごとに積み上げる
経費を「売上の6割くらい」とまとめて書くと、相談の場で内訳を聞かれて答えに詰まります。テンプレートの「経費の内訳」シートのように、費目ごとに金額を入れて合計を出しておきます。書き漏れが多いのは次の費目です。
- 出荷経費:市場手数料、運賃、段ボール・パック代
- 動力光熱費:ハウスの暖房燃料、ポンプの電気代
- 減価償却費:トラクター、ハウス、選果機などを使う年数で割った1年分
- 地代・賃借料:借りた農地の賃借料
- 雇用労賃:収穫期のパートの人件費
所得の目標と労働時間
青年等就農計画のように年間農業所得と年間労働時間の目標を書く様式では、試算シートの所得の合計がそのまま目標の根拠になります。所得の目標水準は、市町村が定める基本構想が目安になるため、担当窓口に確認してください。労働時間は、経営指標に載っている10aあたりの労働時間×面積で見積もると、家族の人数で回せる規模かどうかがわかります。先ほどのミニトマト(雨よけ)なら10aで986時間なので、20aに広げると約2,000時間になります。
気をつけること・よくある間違い
1. 提出先の様式を確認せずに書き始める
営農計画書は提出先ごとに様式が決まっています。市町村・JA・金融機関から様式を渡されたら、必ずその様式に書きます。試算シートはあくまで数字を固める下書きです。
2. 経営所得安定対策の営農計画書と混同する
様式第2号「水稲生産実施計画書兼営農計画書」は作付面積を申請する書類で、所得の見込みは書きません。反対に、就農計画で求められているのに作付面積だけを書いて出すと、収支の説明が足りないと言われます。
3. 単収を最初から地域平均以上に見込む
研修先の実績や県の指標は、経験を積んだ経営の数字です。立ち上がりの年は控えめに書き、何年目に指標並みにするかを目標として示すほうが、審査する側にも伝わりやすくなります。
4. 単価が「手取り」か「販売価格」かそろっていない
市場出荷の単価を手数料を引く前の価格で書き、出荷経費も経費に入れ忘れると、所得が大きく見えてしまいます。単価を手取りで書くか、出荷経費を経費に入れるか、どちらかにそろえます。
5. 減価償却費を入れていない
国税庁の説明のとおり、機械や建物など減価償却資産の取得費は、買った年に全額を経費にするのではなく、使用できる期間(法定耐用年数)に分けて各年の経費にします。計画でも、トラクターやハウスは1年あたりの額を経費に入れておきます。入れないと、機械を買い替える年に資金が足りなくなる計画になってしまいます。
6. 面積の合計と各表の数字が合っていない
作付面積の合計が、農地の一覧(所有地・借入地)の合計を超えていないか確認します。二毛作をする場合は、作付面積の合計が経営面積より大きくなって当然なので、その旨をメモに書いておくと誤解されません。
7. 生産量を「去年くらい」で書く
生産量は面積×単収で出しておくと、面積を変えたときに自動で見直せます。先ほどの農林水産省の記入イメージのように、面積を倍にしたら生産量も倍になっているか、比率が崩れていないかを見ます。
紙・Excelで続かないときは
営農計画書は、書いて出したら終わりではありません。青年等就農計画のように数年先の目標を書く計画は、実際の経営と見比べてこそ意味がありますし、翌年の計画や借入れの相談では「実際に10aあたり何kg採れたか」「どの作業に何時間かかったか」が根拠になります。計画の数字を実績の記録で確かめられるかどうかで、2年目以降の計画の説得力が変わります。
当社のミノリス日誌は、この「実績の記録」の側を受け持つ無料の栽培記録アプリです。
- 作付けごとに、農薬・肥料・作業・収穫を記録できる
- 収穫の記録が作付け単位でまとまるので、翌年の単収を実績から見積もれる
- 予定と実績をカレンダーで見比べられる
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力できる
- 圃場マップや衛星画像で圃場を管理できる
一方で、ミノリス日誌には収支管理(売上や経費の集計)の機能はありません。GPSによる作業の自動記録にも対応していません。営農計画書の所得の計算そのものは、この記事の試算シートや会計ソフトで行い、アプリは「どれだけ作って、どれだけ採れたか」の記録に使う、という分担になります。作業時間の集計には、同じミノリスシリーズのミノリスタイマーも使えます。
よくある質問
JAや市町村から指定の様式を渡されています。このテンプレートは使えますか?
提出は必ず指定の様式で行ってください。このテンプレートは、様式に書き込む前に数字を固める下書きとして使えます。作物ごとの売上・経費・所得の数字が決まっていれば、様式への転記はすぐに終わります。
単収や単価の目安はどこで調べればよいですか?
都道府県が公開している農業経営指標や、農林水産省の「営農類型別経営統計」が参考になります。経営統計は営農類型ごとの平均的な経営収支をまとめたもので、令和6年分まで公表されています。研修先の実績がある場合は、それも根拠として書き添えます。
所得の目標はどれくらいにすればよいですか?
認定新規就農者や認定農業者の計画では、市町村が定める基本構想の所得目標が目安になります。農林水産省の記入イメージでは「地域の認定農業者の8割程度の所得水準を目指す」という書き方が例示されています。具体的な水準は、市町村の担当窓口や普及指導センターに確認してください。
労働時間も計画に書く必要がありますか?
青年等就農計画の様式には、年間労働時間の現状と目標を書く欄があります。家族の年間従事日数を書く欄もあるので、経営指標の10aあたり労働時間×面積で見積もり、家族の人数で回せるかを確認しておきます。
夫婦で就農する場合はどう書きますか?
青年等就農計画の様式の備考では、夫婦などが共同で1つの計画の認定を申請する場合、申請者欄に全員の氏名と生年月日を連記するとされています。そのうえで、収益が共同申請者に帰属することなどを明確にしておく必要があります。詳しい条件は申請先の市町村に確認してください。
まとめ
「営農計画書」には、新規就農や認定のための計画(青年等就農計画など)と、経営所得安定対策で作付面積を申請する様式第2号など、性格の違う書類があります。まず自分が求められている書類を確認し、提出先の様式を使うのが前提です。
どの様式でも中身の骨格は同じで、作物ごとの面積×単収=生産量、生産量×単価=売上、売上−経費=所得です。単収には根拠を添え、経費は出荷経費と減価償却費まで積み上げ、1年目は控えめに見込みます。無料の収支試算シートで数字を固めてから、提出先の様式に書き写してください。
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