認定農業者になるとき、そして5年ごとの再認定のときに市町村へ出すのが「農業経営改善計画書(農業経営改善計画認定申請書)」です。様式は農林水産省が示していて、書く中身は大きく「今の経営の数字」と「5年後の目標」と「目標に向けて何をするか(措置)」の3つです。
数字の欄は決算書や作付けの記録から埋められますが、多くの人が手を止めるのは「生産方式の合理化」「経営管理の合理化」「農業従事の態様等の改善」の文章欄です。この記事では、記入要領と記載方法の資料をもとに、各欄に何をどの単位で書くか、審査で聞かれやすい点はどこかを、架空の記入例を使って説明します。様式は市町村が項目を足していることがあるので、書き始める前に申請先の市町村(農政担当課)で最新の様式をもらっておいてください。
農業経営改善計画の下書き(現状・目標・措置)の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
農業経営改善計画書とは/なぜ必要か
認定農業者制度の申請書類
認定農業者制度は農業経営基盤強化促進法にもとづく制度です。農業者が、市町村の「基本構想」に示された経営の目標に向けて5年後までの経営改善計画を作り、それを市町村が認定します。農林水産省の説明では、計画書には次の目標を書くこととされています。
- 経営規模の拡大に関する目標(作付面積、飼養頭数、作業受託面積)
- 生産方式の合理化の目標(機械・施設の導入、ほ場の連担化、新技術の導入など)
- 経営管理の合理化の目標(複式簿記での記帳など)
- 農業従事の態様等に関する改善の目標(休日制の導入など)
提出先は、農地や施設が1つの市町村にだけあるなら市町村です。同じ都道府県の2つ以上の市町村にまたがる場合は都道府県、2つ以上の都道府県にまたがる場合は地方農政局などに一括で申請します。国や都道府県への申請は、農林水産省共通申請サービス(eMAFF)での電子申請もできます(gBizIDプライムが必要)。標準処理期間は1か月とされています。
認定の基準と有効期間
認定のおもな基準は、計画が市町村の基本構想に照らして適切であること、農用地の効率的かつ総合的な利用を図るために適切であること、計画が達成される見込みが確実であることの3つです。基本構想には目標とする所得や労働時間の水準が示されていて、その水準は市町村によって違います。
計画の有効期間は認定日から5年です。期間が終わる前に新しい計画を出して、続けて認定を受けます。国の基本要綱では、再認定を希望する人は、前の計画の実践結果について専門家などの助言を受けながら達成状況を分析し、課題を把握したうえで新しい計画を作るよう努めることとされています。
認定を受けると何が変わるか
認定を受けるかどうかは任意ですが、認定農業者は国のさまざまな支援の対象になります。農林水産省の資料に挙がっているおもなものは次のとおりです。
- 経営所得安定対策(畑作物の直接支払交付金、米・畑作物の収入減少影響緩和交付金)
- 日本政策金融公庫の農業経営基盤強化資金(スーパーL資金)などの制度資金
- 農業経営基盤強化準備金(青色申告を行い、地域計画に位置づけられた認定農業者等が対象)
- 農業者年金の保険料支援(青色申告などの要件あり)
- 計画の認定と合わせて、農業用施設の農地転用の審査を受けられるワンストップ化
2025年の認定農業者数は21.2万経営体(うち法人3.0万)と公表されています。家族経営協定を結んだ夫婦や親子は、共同で申請することもできます。
記入例
下の記入例は、父・母・長男の3人で水稲8haと施設ミニトマトを営む架空の経営を想定して、書き方に迷いやすい「現状・目標・措置」の欄を下書きしたものです。1行に1つの目標を書き、右端に「いつ・誰が」を入れています。

この下書きのポイントは、同じ区分に複数の行を書いてよいことと、現状と目標がどれも「5年後に達成できたか確かめられる形」になっていることです。たとえば「経営管理の合理化」では、現状「単式簿記で青色申告」に対し、目標「複式簿記で記帳し、作物ごとの収支を出す」、措置「会計ソフトを導入し、簿記研修を受講する」と、現状・目標・措置がそれぞれ別の内容になっています。
書き方(項目ごと)
ここでは農林水産省の「農業経営改善計画記入要領」と「農業経営改善計画認定申請書の記載方法」に沿って、様式の順に説明します。
申請者欄
提出先の行政庁(市町村長、都道府県知事、農政局長など)に丸を付け、住所・氏名・生年月日を書きます。夫婦や親子で共同申請するときは、「個人・法人名」欄に全員の氏名、フリガナ、生年月日を連記します。法人は法人番号と代表者氏名も書きます。
営農類型と、年間所得・年間労働時間
営農類型は、稲作、露地野菜、施設野菜、果樹類などから現状と目標それぞれ1つにチェックします。販売金額1位の部門が総販売金額の80%以上なら単一経営、80%未満なら「複合経営」です。
年間所得は、農畜産物の生産と、加工・販売などの関連・附帯事業にかかる所得を、現状と5年後の目標で書きます。単位は万円です。「主たる従事者1人当たりの年間所得」の欄もあり、農林水産省の算出例では「(収入金額−経費)÷主たる従事者の人数」で計算します。青色申告決算書(農業所得用)があれば、そこから数字を拾えます。年間労働時間も同じく、生産と関連・附帯事業にかかる時間を現状と目標で書きます。
農業経営の規模拡大に関する現状と目標
- 生産:作目・部門ごとの作付面積と生産量(畜産は飼養頭数と生産量)。作付面積の単位はa(アール)なので、haや反で覚えている場合は換算します(10a=1,000㎡)
- 関連・附帯事業:加工、直売、作業受託(特定作業受託は除く)、農泊、観光農園などの売上を万円で
- 農用地:所有地・借入地・その他ごとに、都道府県名・市町村名・地目・面積の現状と目標。「その他」には特定作業受託の面積だけを書きます
- 農業生産施設:ハウスや畜舎などを棟数と面積(㎡)で
- 経営面積合計:所有地・借入地・その他の合計
生産方式の合理化
ほ場の区画や団地化といった農用地の利用条件と、作目・部門ごとの合理化の方向について、①現状、②目標、③目標を達成するための具体的な方策(措置)を書きます。記載方法の資料では、農地の集積・集約化、GAPの導入、スマート農業の推進、新技術の導入、有機農業の推進などが例に挙がっています。
記入例:現状「水稲8ha、ほ場が12か所に分散」→目標「地域計画にもとづく集約で4団地にまとめる」→措置「農地中間管理機構を通じて借入れ・交換を進める。田植機を大型化」。
経営管理の合理化
簿記記帳などの会計処理、経営内の役割分担、法人化、ブランド化、販路の拡大などについて、同じく現状・目標・措置を書きます。たとえば現状「販売はJA出荷のみ」→目標「契約販売を売上の2割にする」→措置「地元スーパー2店と契約販売の商談をする」のように書きます。
農業従事の態様等の改善
就業規則の整備、休日制、相続・経営継承などの取組を書きます。記入要領では、家族経営協定を結んでいる場合は、その旨と協定にもとづく家族間の役割分担などを書くこととされています。記入例:現状「家族3人で従事、休日は不定期」→目標「家族経営協定を結び、月4日の休日を確保」→措置「協定を締結し、毎年12月に見直す」。
その他の農業経営の改善
上の3区分に入らない取組を書きます。農業近代化資金などの制度資金を借りる予定があるときは、予定年度・予定資金・予定貸付額をここに書くこととされています。金額がまだ決まっていなければ、融資機関に相談中である旨を書き、申請前に窓口に書き方を確認してください。
経営の構成と雇用者
代表者を含め、経営に携わる人の氏名、年齢、代表者との続柄(法人は役職)、担当業務、年間の農業従事時間を、現状と見通しで書きます。5年以内に離農する見込みの人と、5年以内に経営に加わる見込みの人も書くことになっています。常時雇・臨時雇の人数(臨時雇は延べ人数も)もここに入れます。
別紙:機械等の取得計画・農業用施設の整備
生産方式の合理化のために取得する予定の機械・装置、器具・備品、建物、構築物、ソフトウェアなどを、名称と数量で「別紙1」に書きます。ハウスなど、規模拡大の欄の「農業生産施設」に書いたものは不要です。計画にもとづいて畜舎や加工施設などを農地に建てる場合は「別紙2」を作り、図面などを添付します。
気をつけること・よくある間違い
措置が「目標の言い換え」になっている
「複式簿記にする」は目標で、措置ではありません。措置は「会計ソフトを導入し、1年目に簿記研修を受講する」のように、何を・いつ・誰がするかまで書きます。「効率化を図る」「経営の安定に努める」だけの書き方は、審査で具体化を求められやすい部分です。
所得・面積の目標と措置がつながっていない
作付面積を増やす目標なら、農地の借入れ、機械、人手の確保が措置のどこかに出てくるはずです。所得を増やす目標なら、単収、単価、面積、コストのどれを動かすのかを説明できるようにしておきます。数字の欄と文章の欄を別々に書くと、ここが食い違いやすくなります。
単位の取り違え
様式の単位は、作付面積がa、施設面積が㎡、所得や売上が万円です。決算書は円、ほ場の面積は反やhaで覚えていることが多いので、書き写すときに桁を間違えないようにします。
所得を売上で書いてしまう
年間所得の欄に販売金額をそのまま書く間違いがあります。所得は収入から経費を引いた額です。青色申告をしていない場合も、帳簿や伝票から決算書に当たる科目の金額を出して計算するよう、農林水産省の算出例に書かれています。
機械の導入を書いたのに別紙に入れていない
措置の欄で「田植機を大型化」「環境制御装置を導入」と書いたら、別紙1にも名称と数量を書きます。措置の欄と別紙の中身がそろっているかを、提出前に見比べておきます。
これから加わる家族を書いていない
経営の構成には、5年以内に就農予定の後継者や、離農予定の家族も書きます。共同申請や家族経営協定、経営継承の措置とも関係するので、話し合っておくと書きやすくなります。
市町村の様式・目標水準を確かめずに書く
農林水産省は、市町村が審査のために記載事項を追加している場合があるとしています。目標とする所得の水準も市町村の基本構想によって違います。書き始める前に市町村の窓口か、都道府県の普及指導センターに相談しておくと手戻りが減ります。
紙・Excelで続かないときは
計画書そのものは5年に1回ですが、中身を支えるのは日々の記録です。とくに再認定のときは、前の計画の目標に対して単収や規模がどうだったかを振り返る必要があり、記録が残っていないと「なぜ達成できなかったか」を説明しにくくなります。
当社が提供しているミノリス日誌は、計画書のうち「栽培と作業の記録」の側で役に立つ無料アプリです。
- 作付けごとに農薬・肥料・作業・収穫を記録でき、作目ごとの収穫量を後から確かめられる
- 予定・実績カレンダーで、作業が計画どおり進んだかを見返せる
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力でき、単収などの集計に使える
- 圃場マップで借入地を含めた圃場を登録でき、写真も残せる
一方で、ミノリス日誌には収支管理の機能はありません。計画書の年間所得や主たる従事者1人当たり所得は、青色申告決算書や会計ソフトの数字から出してください。GPSによる作業の自動記録にも対応していません。
5年後の振り返りに使える記録を今から
作付けごとの作業・肥料・農薬・収穫を無料で記録できます。再認定のときに、単収や作業の実績を記録から確かめられます。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
青年等就農計画とどう違いますか?
青年等就農計画は、新たに農業経営を始める人(原則18歳以上45歳未満の青年など)が作る計画で、認定されると認定新規就農者になります。農業経営改善計画は、すでに経営している人が経営を改善するための計画で、認定されると認定農業者になります。青年等就農計画の有効期間内に経営改善計画の認定を受けると、青年等就農計画はその日から効力を失います。規模や所得の数字を先に整理したい場合は、青年等就農計画・経営改善計画の下書きシートも使えます。
5年たったらどうすればいいですか?
続けて認定を受けたい場合は、有効期間が終わる前に新しい計画を作って申請します。国の基本要綱では、市町村等が満了日までに時間的な余裕をもって新しい計画の作成を促すこととされています。前の計画の目標と実績を比べ、できたこと・できなかったことの理由を整理しておくと新しい計画を作りやすくなります。
計画どおりにいかなかったら認定は取り消されますか?
目標に届かなかったことだけで直ちに取り消されるとは限りませんが、計画に従った措置を講じていない状態が続くと、是正指導や認定取消しの対象になり得るとされています。天候や病気などで計画を変える必要があるときは、市町村に計画の変更について相談してください。
法人でも同じ様式ですか?
同じ様式を使い、申請者欄に法人名・代表者名・法人設立年月日・法人番号を書きます。経営の構成欄には役員の氏名と役職を書きます。出資や役員兼務の特例を使う場合は、その他の欄に書く事項が増えます。
家族で共同申請するには何が必要ですか?
申請者が全員同じ世帯(またはかつて同じ世帯)に属していること、家族経営協定などで収益が全員に帰属することと、経営の基本的事項を全員の合意で決めることが明確になっていること、その協定が守られていることが条件です。家族経営協定の相談先は、市町村、農業委員会、JA、普及指導センターです。
まとめ
農業経営改善計画書は、今の経営の数字と5年後の目標、そして目標に向けた措置を書く書類です。文章欄は「現状→目標→措置」の順に、措置を「何を・いつ・誰が」まで具体的に書くと、審査で説明しやすい計画になります。単位(a・㎡・万円)と、所得・面積の目標と措置のつながりも確認しておきましょう。
様式や目標とする所得の水準は市町村によって違うので、最終的には申請先の市町村の様式に書き写し、窓口で確認してから提出してください。
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