田植えや稲刈りを近所の担い手に頼む、大型機械を持っていて毎年同じ農家から作業を引き受けている。こうした農作業の受委託は、口約束で続いていることが少なくありません。ただ、雨で作業が遅れたとき、機械が石に当たって壊れたとき、畦を傷めたときに誰が負担するのかを決めていないと、長年の付き合いでももめる原因になります。
「農作業受委託契約書」は、対象の圃場と作業、料金、支払い、事故や天候のときの扱いを書面にしておくための契約書です。経営所得安定対策の交付金の申請で、作業受託の面積を受託者の経営面積に入れる「特定農作業受委託」を使う場合にも、契約書が必要になります。この記事では、市町村や農地中間管理機構が公開している様式と国の要綱をもとに、欄ごとの書き方と注意点を説明します。交付金の申請に使う場合の様式や提出先は、市町村や地域農業再生協議会によって違うので、必ず事前に確認してください。
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農作業受委託契約書とは/なぜ必要か
作業の受委託は「農地の貸し借り」とは別の契約
農作業の受委託は、農地の所有者(または借りている人)が耕作を続けたまま、作業の一部または全部をほかの人に頼む契約です。農地の賃借権や使用貸借の設定には農地法第3条の許可などの手続きが要りますが、作業の受委託はそれとは別の契約で、許可は必要ありません。
十和田市は受委託契約書の様式を公開するにあたり、この様式は法律にもとづく賃貸借契約書ではないので、正式な貸借の契約を結ぶ場合は農地中間管理事業または農地法第3条の手続きの窓口に来るよう案内しています。日南町農業委員会も、特定農作業受委託契約は農地の貸借契約ではないと注意を促しています。受託者が自分の判断で耕作・販売し、委託者は地代のような額を受け取るだけ、といった実態が貸し借りに近い場合の扱いは、農業委員会に相談してください。
国も作業受託を後押ししている
農業経営基盤強化促進法では、市町村が農作業受託事業の情報提供や農作業の委託のあっせんを促すよう努めること(第26条の2)、農業協同組合が農作業の委託のあっせんや自らの受託に努めること(第27条)が定められています。頼める相手を探すときや、受託先を広げたいときは、市町村・農業委員会・JAに相談できます。
特定農作業受委託(基幹三作業+受託者名義の販売)
経営所得安定対策等実施要綱では、次の3つをすべて約した農作業委託契約にもとづいて受託した田・畑の面積を、受託者の経営面積に入れられるとされています。
- 受託者が基幹三作業を受託し、自ら作業を行うこと
- 受託して生産した農産物を、受託者の名義で販売すること
- 販売収入に応じて、その収入を作業と販売の受託の対価に充てること
畑作物の直接支払交付金の面積払では、基幹三作業を「耕起・整地、は種及び収穫」としています。認定農業者の農業経営改善計画の記入要領では、水稲の場合の主な基幹作業を「耕起・代かき、田植え及び収穫・脱穀」としています。なお、委託した側が同じ年にその田畑で生産・販売をしていない場合、委託者はその面積を自分の経営面積に入れられないとされています。
記入例
下の記入例は、架空の委託者(甲)が、字北田125ほか2筆・計65aの水稲の耕起・代かき・田植え・稲刈りを、受託者(乙)に1年間頼む想定で書いたものです。作物の販売は甲が行う「部分作業の受委託」です。

市町村などが公開している様式は、対象の農地・作業・期間・料金を定めるものが中心です。記入例では、それに加えて「作業前の圃場の準備」「資材・燃料の負担」「天候・災害による延期」「事故・損害の責任」の欄を設けています。どれも、実際にもめごとが起きやすい部分です。
書き方(項目ごと)
受委託の種類
作業だけを頼む「部分作業の受委託」か、基幹三作業から販売までを受託者名義で行う「特定農作業受委託」かを書きます。特定農作業受委託の場合は、後述する販売の委託や、所有者に納める額の欄が必要になります。
当事者
委託者(甲)・受託者(乙)の住所と氏名を書きます。法人は所在地、名称、代表者名を書きます。仲介者がいる場合は、契約書を3通作る様式もあります(大崎土地改良区の様式)。
対象の圃場と作業(別表)
圃場ごとに、所在・地番、地目、面積、作物、委託する作業、作業の時期を書きます。大崎土地改良区の様式の別表は、作物、字、地番、地積、作業の種類、作業面積、委託料の単価と額、支払の方法と時期を1行にまとめる形です。日南町の特定農作業受委託の記入例では、水張面積や、委託者の権利の種類(所有権・賃借権)も書く欄があります。
契約期間
始期と終期を書きます。十和田市の様式のように年度ごとに作る様式もあります。毎年結び直すのか、自動で続けるのかも書いておきます。
作業の時期と連絡の方法
作業日を誰がどう決めるか(例:乙が天候と圃場の状態を見て決め、前日までに甲に電話で知らせる)と、立ち会いの要否を書きます。
作業前の圃場の準備
石、杭、暗渠の出口、マンホールなど、機械の支障になる物を委託者が取り除くか目印を付けることを書きます。事故や機械の故障を防ぐうえで大切な項目です。
資材・燃料の負担
苗、肥料、農薬、燃料、機械の消耗品を誰が用意し、料金に含むかどうかを書きます。「燃料は料金に含む、資材は甲が用意」のように分けておくと、請求の段階でもめません。
作業料金と支払
10a当たりの単価×面積など料金の計算方法、税込か税抜か、締め日と支払日、支払方法を書きます。単価の目安には、市町村の農業委員会などが公表している農作業の標準料金が参考になります。福島県農業振興公社(農地中間管理機構)の様式では、対価の改定に当たって農地法第52条にもとづき農業委員会が提供する標準作業料金等の動向を勘案するとしています。
作業の報告
作業日・面積を記録し、完了したら報告する旨を書きます。大崎土地改良区の様式では、受託者は作業を実施するときと完了したときにその都度委託者に通知し、年間の作業がすべて完了したら農作業完了報告書を出すとしています。福島県農業振興公社の様式でも、受託者は作業の経過と結果を書面等で記録し、完了したら委託者に直接報告するとされています。
事故・損害の責任、天候による延期
受託者の過失で作物・畦畔・施設を傷めたときの賠償、委託者の圃場の見えない障害物で機械が壊れたときの扱い、天候など双方の責任でない減収の負担、賠償責任保険の加入の有無を書きます。福島県農業振興公社の様式では、双方の責任に帰すことができない事由による減収の負担は委託者が負うとされています。雨などで延期したときに料金を増減するかどうかも決めておきます。
特定農作業受委託の場合に加える欄
日南町の記入例では、委託者が生産物の販売を受託者に委託すること、交付金は受託者が加入して受け取ること、受託者が販売収入の中から所有者へ納める額(例:水張10a当たり5,000円、または米30kg)と納め方を定めています。契約書は2通作り、写しを町(農業再生協議会)に提出する形です。交付金の申請に使う場合は、市町村や地域農業再生協議会が指定する様式・提出先と期限を必ず確認してください。岡山市も、経営所得安定対策の申請で必要に応じて提出する受委託契約書の参考様式を公開しています。
気をつけること・よくある間違い
料金に何が含まれるかを書いていない
燃料、苗の運搬、肥料や農薬の代金、乾燥調製が料金に含まれるかで、請求額は大きく変わります。「含むもの・含まないもの」を先に決め、契約書と料金表をそろえます。
圃場の障害物を伝えていない
石や杭、暗渠の出口は機械の破損や事故のもとです。作業前に委託者が片付けるか、目印を付けることを決めておきます。受託者側も、初めての圃場は事前に見に行くと安心です。
天候で遅れたときの扱いを決めていない
雨が続いて稲刈りが遅れ、品質が落ちたときに誰の責任とするかは、あらかじめ決めておかないと話がこじれやすいところです。延期の判断を誰がするか、連絡方法、延期による料金の扱いを書いておきます。
特定農作業受委託の要件が欠けている
交付金の申請に使うなら、基幹三作業を受託者が自ら行うこと、受託者の名義で販売すること、販売収入を対価に充てることがそろっている必要があります。作業だけ受けて販売は委託者が行う契約では、特定農作業受委託になりません。
実態が農地の貸し借りになっている
名目は作業受託でも、受託者が全面的に自分の判断で耕作し、委託者は定額を受け取るだけという形は、実態として貸し借りと見られることがあります。長期にわたって全面的に任せるなら、農地法第3条の許可や農地バンクを通した貸し借りも含めて、農業委員会に相談してください。
毎年の面積や単価の変更を反映していない
圃場が増えた、単価を上げたといった変更を口頭で済ませると、請求や交付金の申請で数字が合わなくなります。変更は書面に明記し、交付金に使う場合は指定の期間どおりに作り直します。
収入印紙の要否を確認していない
国税庁は、仕事の完成を約して報酬を払う請負についての契約書を、印紙税の第2号文書「請負に関する契約書」としています。作業の完了に対して料金を払う内容の受委託契約書は、これに当たる可能性があります。印紙税は契約書の内容によって扱いが異なるので、判断に迷う場合は税務署に確認してください。
紙・Excelで続かないときは
受託する圃場が増えると、「どの圃場を、いつ、どこまで作業したか」を正確に残すことが難しくなります。完了報告や請求、翌年の段取りのもとになるのはこの作業記録です。
当社が提供しているミノリス日誌は、圃場ごとの作業記録をスマホで付けるための無料アプリです。
- 受託した圃場を圃場マップに登録し、地図で確認できる
- 圃場・作付けごとに作業の記録を付け、作業前後の様子を写真で残せる
- 予定・実績カレンダーで、作業の予定と済んだ作業を見比べられる
- 記録をCSV・Excelで出力し、作業完了の報告資料づくりに使える
作業料金の計算や請求書の発行など、収支管理の機能はありません。GPSによる作業軌跡の自動記録にも対応していないので、作業面積は圃場の面積をもとに記録してください。
受託作業の記録を圃場ごとにスマホで
圃場を地図に登録して、作業の記録と写真を無料で残せます。完了報告や翌年の段取りに使えます。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
毎年同じ内容でも、毎年契約書を作るべきですか?
十和田市の様式のように、年度ごとに作る様式もあります。交付金の申請に使う場合は、指定された期間どおりに作り直してください。そうでない場合も、料金や面積が変わったときは書面を作り直しておくと安心です。
作業料金はどう決めればよいですか?
市町村の農業委員会などが公表している農作業の標準料金が目安になります。圃場の形や大きさ、資材・燃料の扱い、乾燥調製を含むかどうかで変わるので、「含むもの・含まないもの」を決めてから話し合うと決めやすくなります。
受託した作業の一部をほかの人に頼めますか?
契約で再委託を認めるかどうかを決めておきます。特定農作業受委託で交付金の面積に入れる場合、実施要綱では、受託した基幹三作業のうちいずれか一つを再委託することが受託者の効率的な経営に明らかに役立つときは、その面積を経営面積に算入できるとされています。扱いは窓口で確認してください。
事故に備えて保険に入るべきですか?
受託作業中の事故で委託者の作物や施設に損害を与えた場合に備え、受託者が賠償責任保険に入っているかを確認しておくと安心です。どこまで補償されるかは保険の内容で変わるので、加入している保険の窓口に確認し、契約書には加入の有無を書いておきます。
JAや法人に頼む場合もこの契約書でよいですか?
JAや受託組織が独自の申込書や約款を用意している場合があるので、その場合は相手方の様式に従います。資材の負担や事故の扱いなど、この記事で挙げた項目がどう定められているかを確認しておきます。
まとめ
農作業受委託契約書は、対象の圃場と作業、期間、料金と支払、作業の報告に加えて、圃場の準備、資材・燃料の負担、天候による延期、事故・損害の責任を決めておく書類です。作業の受委託は農地の貸し借りとは別の契約ですが、実態が貸し借りに近い場合は農業委員会に相談してください。交付金の申請に使う特定農作業受委託では、基幹三作業・受託者名義の販売・対価の充当という要件と、市町村や地域農業再生協議会の様式を確認することが欠かせません。
テンプレートで条件を下書きしたら、相手と一緒に1項目ずつ確認し、必要に応じて市町村や専門家(弁護士・行政書士など)にも相談してから結んでください。
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