知り合いの田畑を借りる、使わなくなった農地を近所の担い手に貸す。そうした農地の貸し借りを当事者どうしで決めるときに作るのが「農地賃貸借契約書」です。農地法は、農地の賃貸借について存続期間・借賃・支払条件などを書面で明らかにするよう定めていて、相対で貸し借りする場合は農業委員会の許可(農地法第3条)も必要です。許可を受けずに結んだ契約は効力を生じません。
この記事では、国の「農地法関係事務処理要領」にある契約書の様式例と農地法の条文をもとに、契約書の各欄の書き方、更新や解約のルール、2025年4月以降に変わった貸し借りの経路、収入印紙までを説明します。書式や必要書類は農業委員会ごとに違うことがあるので、契約を結ぶ前に必ず農地のある市町村の農業委員会に相談してください。
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農地賃貸借契約書とは/なぜ必要か
農地を貸し借りするには許可か計画が要る
農地に賃借権や使用貸借による権利を設定するときは、原則として当事者が農業委員会の許可を受けなければなりません(農地法第3条第1項)。許可を受けないでした行為は効力を生じないとされ(同条第6項)、無許可で権利を設定した場合は罰則の対象にもなります(第64条)。
一方、農地中間管理機構(農地バンク)が定める「農用地利用集積等促進計画」の公告によって権利が設定される場合などは、第3条の許可は不要です(同条第1項第7号)。
2025年4月からの変化(利用権設定は農地バンク経由へ)
以前は、市町村が定める「農用地利用集積計画」(農業経営基盤強化促進法)による利用権設定が、相対の3条許可と並ぶもう一つの方法として広く使われていました。2022年の法改正で、この計画は農地バンクの計画と統合されて「農用地利用集積等促進計画」になり、市町村が新たに農用地利用集積計画を定められるのは、改正法の施行(2023年4月1日)から2年を経過する日まで(地域計画が先に公告された区域はその前日まで)とされました。すでに公告された集積計画は、改正法の附則で引き続き効力を持つとされています。
そのため2025年4月以降、農地を貸し借りする主な方法は次の2つです。
- 相対で契約する:当事者で契約を結び、農業委員会の許可(農地法第3条)を受ける。この記事の契約書はこちらで使う
- 農地バンクを通す:機構が借り受けて貸し付け、農用地利用集積等促進計画の公告で権利が設定される。契約内容は機構の手続き・様式による
地域計画(目標地図)に位置づけられた人へ農地バンクを通して貸す場合は、添付書類が省略できるなど手続きが簡素化されています。どちらが合うかは、市町村・農業委員会・農地バンクに相談してください。なお、2023年4月の改正で、農地の権利を取得するときの下限面積要件は廃止されています。
契約書に書くべきことは法律で決まっている
農地法第21条は、農地の賃貸借契約について、当事者が書面で存続期間、借賃等の額と支払条件、その他の契約と付随する契約の内容を明らかにしなければならないと定めています。口約束で続いてきた貸し借りも、書面に切り替えておくと、相続や代替わりのときにもめにくくなります。
記入例
下の記入例は、架空の貸し手(甲)が田1筆2,150㎡を、借り手(乙)に10年間貸す想定で書いたものです。借賃は10a当たり年6,000円なので、年額は6,000円×2,150㎡÷1,000㎡=12,900円になります。

右端の「記入のポイント」は契約書本体には書かない補足です。期間の始期は第3条の許可の見込みに合わせ、許可前に耕作を始めないようにしています。固定資産税は甲、水利費・土地改良区の経常賦課金・共済掛金は乙と、費用の負担を1項目ずつ分けているのも、あとでもめないための工夫です。
書き方(項目ごと)
国の事務処理要領の様式例(第10号の1)の項目順に、書き方を説明します。
当事者(貸し手・借り手)
住所と氏名を書きます。法人は主たる事務所の所在地と、法人の名称・代表者の氏名を書きます。当事者が未成年者や成年被後見人などの場合は、法定代理人の同意や代理が必要になることがあるので、農業委員会に相談してください。
目的物(別表1:土地の目録)
土地は1筆ごとに、大字・字、地番、地目、面積を書きます。記載要領では、登記簿の地積と実際の面積が違う場合は、登記簿の地積のほかに契約で決めた実際の面積を書き、畦畔や溝の面積も書くこととされています。農機具小屋などを一緒に貸す場合は、それも目録に入れます。
賃貸借の期間
始期と終期、何年間かを書きます。民法上、賃貸借の期間は最長50年です。果樹など永年作物を植える場合は、要領で少なくとも10年以上とするのが適当とされています。また、期間を10年以上にしておくと、満了時に更新しない旨の通知をするときに知事の許可が要らず、農業委員会への通知で足ります(第18条第1項第3号)。
更新
様式例では、満了の1年前から6か月前までに相手方へ更新しない旨を通知しないときは、従前と同じ期間で更新すると書きます。これは農地法第17条の法定更新と同じ内容です。
借賃の額と支払期日・方法
1筆ごとに借賃の額(10a当たりの額と総額)、支払期日、支払方法を書きます。口座振込なら「甲の指定する口座に振り込む」、振込手数料の負担も書いておきます。米などで払う物納の場合は、品目・等級・量・渡し方を書きます。借賃の額は地域で大きく違うので、農業委員会が提供している借賃等の情報(農地法第52条)を目安に、当事者で話し合って決めます。
支払の猶予と減額
災害などやむを得ない事由で期日までに払えないときの猶予と、借り手の責任によらず一部が使えなくなったときの減額を書きます。様式例では、一部が滅失した場合は使えなくなった部分の割合に応じて減額し、程度や期間を協議すると定めています。
転貸・譲渡
貸し手の承諾なしに転貸や賃借権の譲渡をしない旨を書きます。借り手本人や世帯員が病気などで一時的に耕作できない場合の一時転貸は例外として書かれています。
修繕・改良
様式例では、修繕は原則貸し手、借り手の責任で必要になった修繕は借り手、改良は借り手ができる、と定めています。暗渠や客土など借り手が費用を出した改良を契約終了時にどう扱うか(償還するか、しないか)は、別表2に決めておきます。
経常費用の負担
事務処理要領では、目的物の租税と保険料は貸し手、農業保険法にもとづく共済掛金は借り手、土地改良区の賦課金は原則として耕作者である借り手の負担とされています。そのほか、水利費、草刈り、用水路の清掃などの負担も、別表3で1項目ずつ決めておくと安心です。
返還・原状回復・立毛補償
契約終了日から何日以内に返すか、どこまで元に戻すかを書きます。天災や通常の利用による変化、修繕・改良による変更は原状回復の対象外とするのが様式例の書き方です。貸し手の承諾を得て植えた果樹などの永年性作物があれば、借り手の請求で貸し手が買い取る旨も入っています。
解除の条件(該当する場合)
農作業に常時従事しない個人や、農地所有適格法人以外の法人が借りる場合は、借り手が農地を適正に利用していないときに契約を解除する旨の条件を書面の契約に付けることが、許可の要件の一つになっています(農地法第3条第3項)。この場合は様式例第10号の2を参考にし、原状回復や違約金も書いておくことが望ましいとされています。自ら耕作する個人が借りる場合は「該当なし」とします。
付随する権利・義務、契約の変更、その他
一緒に使う小屋や井戸などの設備、契約内容を変えるときは書面に明記すること、定めのない事項は協議することを書きます。契約書は2通作り、それぞれ1通ずつ持ちます。様式例では、写し1通を農業委員会に提出する形になっています。
気をつけること・よくある間違い
許可の前に耕作を始める
相対の賃貸借は、第3条の許可がないと効力を生じません。許可は農業委員会で審議され、申請の締切日や審議の日程は農業委員会ごとに決まっています。作付けに間に合うよう早めに日程を確認して申請し、期間の始期は許可の見込みに合わせて決めます。
解約や更新の条件を当事者だけで自由に決める
賃貸借の解除、解約の申入れ、合意解約、更新しない旨の通知は、原則として都道府県知事の許可が必要です(第18条第1項)。例外として、引き渡す期限の前6か月以内に成立して書面で明らかな合意解約や、10年以上の賃貸借で更新しない通知をする場合などは許可が要りませんが、その場合も農業委員会への通知が必要です(同条第6項)。また、法定更新や民法の解約の規定より借り手に不利な条件は「定めないもの」とみなされます(同条第7項)。「貸し手が求めたらいつでも返す」といった特約を入れても、そのとおりの効力は認められない可能性があります。解約に関する条件は農業委員会に確認してから書いてください。
面積を登記のまま書く
登記簿の地積と実際に耕作できる面積が違うことはよくあります。借賃を面積で計算するなら、契約で決めた面積と畦畔の面積を書いておくと、あとで借賃の計算でもめません。
水利費・草刈りなどの負担を決めていない
固定資産税、水利費、土地改良区の賦課金、畦畔や法面の草刈り、用水路の泥上げなど、経常的な費用や作業の負担は後からもめやすいところです。1項目ずつ「甲」「乙」を決め、別表に書いておきます。
借賃の見直しのルールがない
借賃が経済事情の変動などで不相当になったときは、契約の条件にかかわらず当事者が増減を請求できます(第20条)。見直しの時期や協議の方法を決めておくと、請求しあう事態を避けやすくなります。
更新しない通知の時期を逃す
期間の満了の1年前から6か月前までに通知しないと、同じ条件で更新したものとみなされます(第17条)。返してほしい、または借りるのをやめたい場合は、この時期を手帳などに書いておきます。
無償なのに賃貸借の契約書を使う
借賃を払わない貸し借りは使用貸借で、法定更新や解約の制限など賃貸借のルールは適用されません。無償の場合は使用貸借の契約書を使います。
収入印紙
国税庁によると、土地の賃貸借契約書は印紙税の第1号の2文書「土地の賃借権の設定に関する契約書」に当たります。記載金額は返還されない権利金などの額で、賃料は含まれないとされており、契約金額の記載がない場合の税額は200円です。権利金を払う場合など、判断に迷うときは税務署に確認してください。
紙・Excelで続かないときは
借りる農地が増えてくると、どの圃場がどの地主さんのものか、どこで何を作ったかを把握するだけでも一苦労です。とくに農地を返すときや更新のときに「この田は毎年どう使っていたか」を説明できると、地主さんとの話もスムーズになります。
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よくある質問
口約束で貸し借りしている農地はどうすればいいですか?
許可や計画の手続きを経ていない貸し借りは、法律上の賃借権として効力が認められない可能性があります。まずは農業委員会に相談し、相対で許可を受けるか、農地バンクを通すかを決めたうえで、書面の契約に切り替えてください。
農地バンクを通して借りる場合もこの契約書を使いますか?
農地バンクを通す場合は、機構が貸し手から借り受けて借り手に貸し付け、農用地利用集積等促進計画の公告で権利が設定されます。契約内容や賃料の払い方は機構の手続き・様式に従うので、都道府県の機構や市町村の窓口の案内を確認してください。
登記は必要ですか?
農地の賃貸借は、登記がなくても農地の引渡しがあれば、その後に所有権などを取得した第三者に賃借権を主張できます(農地法第16条)。登記するかどうかは当事者の判断ですが、迷う場合は専門家に相談してください。
借賃はいくらが相場ですか?
地域や田・畑の条件で大きく違います。農業委員会は借賃等の動向などの情報を提供することとされているので(農地法第52条)、市町村の農業委員会が公表している賃借料の情報を目安にしてください。
途中で解約したくなったら?
原則として都道府県知事の許可が必要です。引き渡す期限の前6か月以内に成立した、書面で明らかな合意解約であれば許可は不要ですが、農業委員会への通知が必要です。まずは相手と話し合い、農業委員会に手続きを確認してください。
まとめ
農地賃貸借契約書は、目的物、期間、借賃と支払方法、支払の猶予・減額、転貸、修繕・改良、経常費用、返還・原状回復、(必要なら)解除の条件を書く書類です。相対の賃貸借は農業委員会の許可を受けて初めて効力を生じ、解約や更新しない通知にも農地法のルールがあります。2025年4月以降は、相対の3条許可か、農地バンク経由かの2つが主な経路です。
契約書の書式や添付書類は農業委員会ごとに違うことがあります。テンプレートで条件を下書きしたら、農地のある市町村の農業委員会に確認し、必要に応じて行政書士などの専門家にも相談してください。
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