親戚の畑を借りる、同居していない子に家の農地を耕してもらう。借賃を払わずに農地を貸し借りするときに作るのが「農地使用貸借契約書」です。無償の貸し借りは民法で使用貸借といいます。農地の場合も、農地法第3条により農業委員会の許可が必要で、許可を受けずに結んだ契約は効力を生じません。
この記事では、民法の使用貸借の規定と農地法の条文をもとに、契約書の各欄の書き方、賃貸借との違い、借主が亡くなったときの扱い、収入印紙の考え方を説明します。書式や必要書類は農業委員会ごとに違うことがあるので、契約を結ぶ前に農地のある市町村の農業委員会に相談してください。
農地使用貸借契約書 の無料テンプレート(Word・PDF/記入例つき)
農地使用貸借契約書とは/なぜ必要か
使用貸借は無償で借りて、終わったら返す契約
民法第593条は、使用貸借を次のように定めています。貸主が物を引き渡すことを約し、借主がその物を無償で使用・収益して、契約が終了したときに返すことを約すると、効力が生じます。農地の使用貸借では、借主が無償で耕作し、収穫物は借主のものです。
借賃を払う貸し借りは賃貸借です。借賃の有無で、借りる側を守る規定の範囲が変わります。有償で貸し借りする場合は、農地賃貸借契約書の書き方を見てください。
無償でも農地法第3条の許可が要る
農地法第3条第1項は、使用貸借による権利を設定する場合にも、当事者が農業委員会の許可を受けなければならないと定めています。許可を受けないでした行為は効力を生じず(同条第6項)、第3条第1項に違反した人は、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金の対象になります(第64条)。
農用地利用集積等促進計画の公告によって権利が設定される場合など、第3条の許可が要らない例外もあります(同条第1項第7号など)。農地バンクを通す貸し借りは、機構の手続きと様式で進みます。
書面は法律上の義務ではないが、作っておく
農地法第21条の契約の文書化は、条文上は農地の賃貸借契約が対象です。使用貸借に同じ義務が条文で課されているわけではありません。ただし、民法第593条の2は、書面による使用貸借では、借主が借用物を受け取る前に貸主が一方的に契約を解除できないと定めています。
農業委員会によっては、許可申請のときに契約書の写しの提出を求めます。期間・費用・返す時期を書面に残しておくと、貸主が代替わりしたときの説明にも便利です。
記入例
下の記入例は、架空の貸主・鈴木花子(甲)が、畑1筆1,320㎡を借主・山田太郎(乙)に、野菜の栽培のため無償で5年間貸す想定です。期間は2026年4月1日から2031年3月31日で、契約日は2026年3月1日とします。固定資産税は甲、水利費・土地改良区の経常賦課金と草刈り・水路の管理は乙が負担します。

契約書は第1条から第12条までの条文と署名欄で構成し、後ろに土地の目録と費用の負担を書く別表と、使用貸借と賃貸借の違いを確かめる表を付けています。記入例の人名・地名は架空です。
第3条で期間満了後の扱い、第4条で期間の途中での返還、第9条で借主が亡くなったときの扱いを決めているのが、賃貸借の契約書にはない部分です。使用貸借には法定更新も、知事の許可を前提にした解約の制限もありません。この3か条で、借りる側が先の見通しを立てられます。
書き方(項目ごと)
記入例の条文の順に、書き方を説明します。条文の番号はテンプレートのものです。
貸主と借主(前文)
貸主(甲)と借主(乙)の住所と氏名を書き、無償で使用させることを前文にはっきり書きます。法人が当事者のときは、主たる事務所の所在地と、法人の名称・代表者の氏名を書きます。
農作業に常時従事しない個人や、農地所有適格法人以外の法人が借りる場合は、後述の解除の条件が必要です。
使用貸借の目的物と使用の目的(第1条)
土地は別表に1筆ごとに書き、本文には「別表の土地を」とだけ書きます。使用の目的は「野菜の栽培」「水稲の作付け」のように、何を作るかで書きます。
目的を書いておくと、期間を決めなかった場合でも、借主がその目的に従って使用・収益を終えたときに契約が終わります(民法第597条第2項)。貸主は、目的に従って使うのに足りる期間が過ぎたとき、契約を解除できます(第598条第1項)。
使用貸借の期間(第2条)
始期と終期を日付で書き、何年間かも添えます。期間を定めると、使用貸借はその期間の満了で終わります(民法第597条第1項)。
始期は、農業委員会の許可の見込みに合わせます。許可の前に耕作を始めると、許可のない行為になります。
期間満了後の扱いと途中での返還(第3条・第4条)
使用貸借には、賃貸借の法定更新(農地法第17条)にあたる規定がありません。期間が来ると契約は終わるので、続けたいときは満了前に話し合い、改めて契約します。記入例は、満了の3か月前までに協議すると書いています。
貸主が途中で返してほしいと言う場合の申し出の時期と、作付け中の作物の扱いも書く項目です。記入例は、3か月前までに申し出て協議し、乙は収穫が終わってから返すとしています。民法には、借主が用法に違反した場合などを除き、期間を定めた使用貸借を貸主が途中で解除できる規定が見当たりません。期間の途中で返す条件を決めるなら、契約書に書いておきます。借主はいつでも契約を解除できます(第598条第3項)。
転貸(第5条)
借主は、貸主の承諾がなければ、第三者に借用物を使用・収益させることができません(民法第594条第2項)。違反したときは、貸主が契約を解除できます(同条第3項)。
農地法の側でも、借りた農地を他人に貸すことは、世帯員への貸付や一時的な貸付などを除いて許可されません(第3条第2項第5号)。病気で一時的に耕作できない場合の例外を契約書に入れるかどうかは、農業委員会に確認してから決めます。
修繕と改良(第6条)
修繕を誰が行うかを書きます。記入例は、修繕は貸主、借主の責任で必要になった修繕は借主、改良は借主ができる、という内容です。
暗渠や客土など借主が費用を出した改良の扱いは、返還のときにもめやすい点です。費用を貸主に請求しない場合も、請求できる場合も、書面に書いておきます。
費用の負担(第7条)
民法第595条第1項は、借用物の通常の必要費を借主が負担すると定めています。固定資産税、水利費、土地改良区の賦課金、草刈り、用水路の清掃を、1項目ずつ「甲」「乙」のどちらかに決めてください。
記入例は、固定資産税を甲、水利費・賦課金と草刈りなどの管理を乙としました。筆ごとの負担は別表の列に書きます。借主が固定資産税まで払う場合の扱いは、農業委員会か専門家に確認してください。
返還と原状回復(第8条)
契約終了日から何日以内に返すか、何を取り除くかを書きます。民法第599条は、借主が付けた物は取り除き、借主の責めで生じた損傷は元に戻すと定めています。
分離できない物や、分離に過分の費用がかかる物は、取り除く必要はありません。損傷が借主の責めによらない場合も、元に戻す義務はありません。支柱やハウス資材のように、取り除くものを具体的に書くと確認しやすくなります。
乙が亡くなったとき(第9条)
使用貸借は、借主が亡くなると終わります(民法第597条第3項)。賃貸借にはこの規定がありません。契約書には、契約が終わること、家族が続けたいときは貸主と協議して改めて手続きをすることを書きます。
農地法第3条の許可が改めて必要かどうかは、農業委員会に確認します。
付随する権利と義務、契約の変更(第10条・第11条)
一緒に使う小屋や井戸などがあれば第10条に書き、ない場合は「なし」と書いてください。空欄にせず「なし」と記入すると、あとで読み返す人に伝わります。
第11条には、契約内容を変えるときは書面に明記すること、定めのない事項は甲乙で協議して決めることを書きます。口頭で変えた内容は、あとで食い違いがちです。
その他の特約(第12条)
当事者で決めたことを書きます。記入例は、乙が毎年4月末までに作付けの予定を甲に伝えるとしました。農薬や化学肥料を使わない約束、収穫物の一部を渡す約束なども、ここに書きます。
収穫物を渡す約束が借賃にあたるかどうかは、内容によって変わります。決める前に農業委員会か専門家に確認してください。
解除の条件(該当する場合)
農作業に常時従事しない個人や、農地所有適格法人以外の法人が借りる場合は、適正に利用していないと認められるときに使用貸借を解除する旨の条件を、書面の契約に付けることが許可の要件の一つです(農地法第3条第3項第1号)。この場合は、農業委員会が示す書き方に合わせます。
自ら耕作する個人が借りる場合は、この条件は要りません。
契約日・署名
契約日を書き、甲乙が住所・氏名を書いて押印します。契約書は2通作り、各1通を保管します。許可申請に写しを添えるかどうかは、農業委員会の指示に従ってください。
気をつけること・よくある間違い
無償だから許可は要らないと思う
使用貸借も農地法第3条の許可の対象です。許可を受けずに貸し借りを始めても、契約は効力を生じません。許可の審議日程は農業委員会ごとに決まっているので、作付けに間に合うよう早めに申請します。
期間も目的も書かない
期間も使用の目的も決めなかった使用貸借は、貸主がいつでも解除できます(民法第598条第2項)。借りる側は、少なくとも期間か目的を契約書に書いておきます。期間が長すぎる契約は、貸主の事情が変わったときに話し合いが難しくなります。
「更新される」と思い込む
賃貸借では、満了の1年前から6か月前までに通知がなければ同じ条件で更新されます(農地法第17条)。使用貸借にこの規定はなく、期間の満了で終わります。続けたいなら、満了前に話し合って、改めて契約を結びます。
借主が亡くなったあと、そのまま耕作を続ける
使用貸借は借主の死亡で終わる契約です。家族が引き続き耕作する場合は、貸主と話し合って改めて契約します。貸主が亡くなったときの扱いは、民法の使用貸借の条文に終了の定めがないため、相続人との間で確認しておきます。
賃貸借と同じ規定が使えると思う
農地法第16条(引渡しによる対抗力)、第17条(法定更新)、第18条(解約等の制限)、第21条(契約の文書化)は、条文の見出しのとおり賃貸借についての規定です。使用貸借では、これらをあてにせず、期間と返還の時期を契約書で決めます。
費用の負担を決めていない
固定資産税、水利費、土地改良区の賦課金、草刈り、水路の泥上げは、あとから負担を巡って話がこじれやすい項目です。1項目ずつ負担者を決めて、別表に書きます。
返還のときの原状回復を決めていない
支柱、マルチ、ハウス資材は、借主が付けたものを取り除きます。何を、いつまでに取り除くかを書いておくと、返還の日に確認しやすい書き方です。民法第600条は、損害賠償と費用の償還の請求を、貸主が返還を受けた時から1年以内にするよう定めています。
収入印紙
国税庁のタックスアンサー No.7101 は、印紙税の第1号文書として「地上権または土地の賃借権の設定または譲渡に関する契約書」を挙げ、具体例を土地賃貸借契約書などとしています。使用貸借契約書は、この説明に挙げられていません。記載金額に当たるのは、返還されない権利金などで、使用収益の対価である賃貸料は含まれません。
契約書の内容によって、課税文書に当たるかどうかが変わる可能性があります。借賃とは別に金銭を受け渡すなど、判断に迷うときは税務署に確認してください。
紙・Excelで続かないときは
無償で借りた農地は、借りた経緯が口頭のまま残りやすく、何年かたつと、どの圃場がどの貸主のものか、いつまで借りられるのかが分からなくなります。圃場ごとの作業と収穫を記録しておくと、返還のときや更新の話し合いのときに、これまでの使い方を説明できます。
当社が提供しているミノリス日誌は、借りた圃場を含めて栽培の記録を付けるための無料アプリです。
- 圃場マップで、借りた圃場を名前を付けて地図上に登録できる
- 圃場ごとに住所やメモを残せるので、地番や貸主の名前を控えられる
- 圃場・作付けごとに作業・肥料・農薬・収穫を記録でき、写真も残せる
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力できる
契約書の作成や、農業委員会への許可申請の機能はありません。契約の終期の通知や、貸主への連絡の管理にも対応していません。借りている農地の一覧は、台帳で管理してください。GPSによる作業の自動記録にも対応していません。
借りた圃場の栽培記録をスマホで
圃場を地図に登録し、作付けごとの作業・肥料・農薬・収穫を無料で記録できます。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
賃貸借と使用貸借は、何で分かれますか?
借賃を払うかどうかで分かれます。借賃を払う貸し借りは賃貸借で、更新や解約の制限など農地法の規定が働きます。借賃を払わない貸し借りは使用貸借で、民法の使用貸借の規定の対象です。借賃を払う場合は農地賃貸借契約書を使ってください。
固定資産税を借主が払うと、賃貸借になりますか?
民法では、借用物の通常の必要費は借主が負担するとされています(第595条第1項)。ただし、どこまでの支払いが使用貸借の範囲に収まるかは事情によって変わります。固定資産税や謝礼の扱いを決める前に、農業委員会か専門家に確認してください。
使用貸借の契約書は、農業委員会に出しますか?
農地法第3条の許可申請に、契約書の写しを求める農業委員会があります。新潟県見附市のように参考様式を公開している農業委員会もあります。提出書類は農業委員会ごとに違うので、申請前に窓口で確認してください。
期間を決めないで貸した場合は、どうなりますか?
期間も使用の目的も決めなかった場合は、貸主がいつでも契約を解除できます(民法第598条第2項)。借主は、いつでも解除できます(同条第3項)。借りる側は、少なくとも期間か目的を契約書に書いておくと安心です。
借主が亡くなったら、家族がそのまま耕作できますか?
使用貸借は借主の死亡で終わります(民法第597条第3項)。家族が耕作を続けるときは、貸主と話し合って改めて契約します。農地法第3条の許可も必要になるかどうかを、農業委員会に確認してください。
まとめ
農地使用貸借契約書は、目的物、使用の目的、期間、期間満了後の扱い、途中での返還、転貸、修繕・改良、費用の負担、返還と原状回復、借主が亡くなったときの扱いを書く書類です。無償でも農地法第3条の許可が必要で、許可を受けないでした貸し借りは効力を生じません。
使用貸借には、賃貸借の法定更新や引渡しによる対抗力の規定が及びません。期間と返還の時期を契約書で決めておくと、借りる側の立場が安定します。テンプレートで条件を下書きしたら、農地のある市町村の農業委員会に確認し、必要に応じて行政書士や税理士にも相談してください。
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