農業版BCP(事業継続計画)の書き方と記入例|リスクチェックリストつき無料テンプレート(Word・PDF)

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台風や大雨、大雪、長い停電が起きたとき、誰が何を最初にして、どの仕事から再開するのか。それをあらかじめ紙に決めておく書類が、農業版BCP(事業継続計画)です。農林水産省は、農業者が災害への備えに取り組みやすいよう、耕種・園芸・畜産の3種類のチェックリストと「農業版BCP」の様式を公開しています。

この記事では、同省の様式とパンフレット「もし明日、災害が起きたら」の内容をもとに、無料テンプレートの8項目の書き方、リスクチェックリストの使い方、緊急連絡先と見直しの記録の付け方を説明します。国の様式とは構成が一部異なる独自のテンプレートなので、補助事業の申請などで指定様式がある場合は、そちらを優先してください。

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農業版BCP(事業継続計画)とリスクチェックリストの無料テンプレート(Word・PDF/記入例つき)

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目次

農業版BCPとは/なぜ必要か

BCPは災害後に事業を続けるための事前の取り決め

農林水産省は、BCPを「自然災害や感染症、大事故が発生した場合においても、中核となる事業を継続させたり、可能な限り短時間で事業を復旧させたりするための方法、手法などをあらかじめ取り決めておく計画」と説明しています。作物を守る対策だけでなく、機械、設備、用水、取引先、人手まで含めて、経営が止まらないようにする考え方です。

同省のパンフレットには、実際の被災事例が載っています。福岡県の水稲10haの農家は、令和5年7月の豪雨で圃場と倉庫が浸水しました。水が引くまで2日以上かかり、苗の流失と食害も重なって、その年の収穫量は約4割減りました。倉庫の農機具が故障していたため、苗の再移植もできなかったと書かれています。

福島県のかすみ草農家は、令和7年2月の大雪でハウス15棟のうち9棟がほぼ全壊しました。再建用の資材は7月下旬にやっと納品され、春から夏に咲く花の栽培と出荷ができなかったそうです。作物の被害だけでなく、資材の調達に時間がかかる点も経営に響くことが、この2件から読み取れます。

国の様式は3種類・2編構成

農林水産省の公開資料には、耕種用、園芸用、畜産用の3パターンがあります。どれも「チェックリスト」と「農業版BCP」の組で、チェックリストは「リスクマネジメント編」と「事業継続編」に分かれる構成です。リスクマネジメント編は、平時と台風などの直前の備えを確かめる内容です。事業継続編では、被災後の早期復旧に向けて、ヒト、モノ、カネ、セーフティネット、情報を確かめます。

事業継続編の項目ごとに答えを書き込むだけで、農業版BCPの簡易版が作れる仕組みです。事業継続編を使わずに作る場合は、同省の「農業版事業継続計画ブランクシート」(Excel)を使えます。この様式は令和3年1月に公表されました。

作成は任意で、補助事業の加点対象になることがある

農林水産省の案内を読むと、BCPの作成を農業者一般に義務づける記述は見当たりません。一方で、農業版BCPに取り組む場合に採択時のポイントを加算する補助事業が、同省のページに列挙されています。農地利用効率化等支援事業、新規就農者育成総合対策の経営発展支援事業、担い手確保・経営強化支援事業などです。

対象になる事業や求められる様式は年度ごとに変わります。申請を考えている場合は、その年度の公募要領と窓口で確認してください。

企業向けの事業継続ガイドラインも参考になる

内閣府(防災担当)は、企業や組織向けに「事業継続ガイドライン」を公開しており、令和5年3月に改訂されました。農業者向けの様式より詳しく、事業継続マネジメントの全体像を知りたい人に向いた資料です。農業経営の規模が大きく、従業員や取引先が多い法人は、あわせて目を通すと考え方を整理しやすくなります。

記入例

下の記入例は、架空の施設園芸(トマト)経営体「山田農園」が、2026年5月20日に作った想定です。ハウスの温度とかん水の管理、収穫と出荷を最優先の業務とし、再開の目標を発生から3日以内に置いています。発電機と燃料20L、貯水タンク2tを備え、収入保険と園芸施設共済に加入している設定です。

農業版BCP(事業継続計画)の記入例
農業版BCP(事業継続計画)の記入例(出典:ミノリス 無料テンプレート)

記入例のPDFは6ページ構成で、計画の本文のあとに、リスクチェックリスト、緊急連絡先、見直しの記録の順で続きます。「停電したときは、暖房機とかん水ポンプが止まる。倉庫の発電機で動かす」のように、困りごとと代わりの手段を1組にして書いている点に注目してください。

基本方針は3つに絞り、再開の目標は日数で書いています。責任者には代理も決めてあり、初動は「安否の確認、被害の確認と写真、共済と市町村への連絡、取引先への連絡」の順に並んでいます。氏名や電話番号は架空の値です。

書き方(項目ごと)

テンプレートの計画本文は、1基本方針から8見直しと訓練までの8項目です。そのあとにリスクチェックリスト、緊急連絡先、見直しの記録が付きます。順に説明します。

1 基本方針

災害のときに優先する事柄を、3つ程度書いてください。記入例は「人の命と安全を最優先にする」「ハウスのトマトを守り、出荷を早く再開する」「パート従業員の仕事と給与を続ける」の3つです。

1番目に人の安全を置くと、後の項目の判断がぶれにくくなります。農林水産省のパンフレットも、人の安全確保が何より大事だと述べ、家族や従業員の安否確認の方法と避難ルートを共有しているか問いかけています。

2 想定する災害

自分の経営で起こりうる災害を、根拠をつけて書いてください。まず市町村のハザードマップで圃場と施設の場所を調べ、浸水の深さや土砂災害の区域を確認してください。そのうえで、これまで地域で起きた被害も思い出して加えてください。

記入例は「ハザードマップで浸水0.5〜3mの区域」と書き、台風・大雨による浸水、大雪、長時間の停電を想定しています。パンフレットには、これまで被害のなかった地域や時期にも災害が起きている事例が複数あります。過去になかった災害も外さず、起こりうるものは幅を持たせて書いてください。

3 最優先で再開する業務と目標の時期

止まると影響が大きい業務を選び、いつまでに再開するかを日数で書きます。すべてを再開しようとすると、人手も時間も足りなくなります。施設園芸なら温度管理とかん水、稲作なら用水管理、畜産なら給餌や搾乳が候補です。

記入例は、ハウスの温度・かん水の管理と、収穫・出荷を最優先にして、発生から3日以内の再開を目標にしています。目標の日数に決まりはなく、作物が持ちこたえられる期間や取引先との約束から逆算して決めるとよいでしょう。

4 ライフライン・施設が使えないときの代わりの手段

停電、断水、通信、道路、施設の5つについて、使えなくなると何が止まるか、代わりの手段は何かを書きます。「困る」で終わらせず、何を動かすのか、燃料や水がどれだけあるのかまで具体的にしてください。

パンフレットには参考になる工夫が載っています。千葉県の農業者は、震災後に自家発電機を入れたことで、台風の停電時にもかん水とハウス換気の開閉をスムーズに行えました。秋田県の農業者は、井戸水が枯れた経験から井戸を増やし、2系統の水脈を使っています。

道路が使えない場合の備えも書いておきます。熊本県の農業者は、豪雨で圃場への道が陥没して1週間ほど車で通れず、出荷先の生協に道路の写真を送って事情を伝えました。別ルートを地図に書き、出荷方法を取引先やJAと相談しておくと、似た状況で動きやすくなります。

5 人・物・お金・情報の備え

国の様式の「事業継続編」に沿って、4つの分野を書きます。人は安否確認の方法、避難場所、欠員時の対応です。物は機械や資材の予備と、調達できないときの手段です。お金は手元資金と保険、情報は連絡先や帳簿の保管場所を指します。

記入例では、種苗・肥料・農薬を1作分、予備として置いています。手元資金は経費2か月分を目安にして、収入保険と園芸施設共済に加入している設定です。帳簿と栽培記録のデータは、別の場所にも保存します。

資材の確保には時間がかかります。福島県のミニトマト農家は、雪害の直後に付き合いのある資材業者へ連絡して資材を確保してもらい、約2か月後の4月に育苗ハウスの再建を終えました。同じ地域で、調達が遅れて露地で育苗した農家もいたと紹介されています。

6 緊急時の体制と初動

災害のときの責任者と、不在時の代理を書きます。そのうえで、発生から24時間の行動を、最初にすることから順に並べてください。国の様式も、初動対応フェーズの目安を「緊急事態発生から24時間以内」としています。

記入例の順序は、安否の確認、ハウス・機械・作物の被害の確認、片付けの前の写真撮影、共済と市町村への連絡、取引先への連絡です。写真を片付けの前に撮るのは、共済や保険の請求、取引先への説明に使えるからです。福岡県のビワ苗木の農家は、豪雨の被害状況を写真に撮って取引先を回り、出荷できない事情を直接伝えました。取引はいまも続いているとのことです。

出勤と帰宅の決まりもここに書きます。記入例は「警報が出ているときは出勤しない」「作業中に避難指示が出たら作業を止めて避難する」です。広島県のミニトマト農家は、危険日の前日までに休む日を決め、次の休みを出勤に振り替えてもらう運用をしています。

7 備蓄

備えておく物と量を書きます。記入例は、飲料水と食料を3日分、救急箱、懐中電灯、ヘルメット、発電機の燃料です。農作業に使う燃料は、軽油の在庫が十分かを日ごろから確認している農業者の例がパンフレットにあります。

備蓄品は置いてあるだけでは使えるか分かりません。発電機は実際に動かして、燃料が古くなっていないか確かめてください。点検した日を、リスクチェックリストの確認日に合わせて記録しておくと、抜けが出にくくなります。

8 見直しと訓練

見直しの時期と方法を書いてください。国のパンフレットは、BCPを機能させるには少なくとも年に1回は見直し、備えが足りているか確かめるよう勧めています。国の様式には、家族・従業員への共有日を、原則として策定・改定日から1か月以内とする欄もあります。

記入例は「毎年、梅雨の前に家族・従業員と読み合わせ、リスクチェックリストをやり直す。災害のあとも見直す」と書き、共有した日と次の見直しの月を入れています。時期は、台風や大雨の前に間に合う月を選んでください。

リスクチェックリストの使い方

計画の後ろに、備えができているかを「はい・いいえ」で確かめるページが付きます。区分は、リスクを知る、平時の備え、保険・資金、直前の備え、事業を続ける、の5つです。確認した日と確認した人を書き、いいえの項目には「いつまでに何をするか」を右の欄に入れます。

記入例では、「ハウスの傷みを点検し補修している」が「いいえ」で、期限は6月末です。機械を浸水から避難させる場所は6月中に相談すると書いています。いいえの内容は、計画本文の該当する項目にも反映させます。直前の備えの欄は、台風や大雪の予報が出たときに使う項目なので、平時の確認では空白でも構いません。

緊急連絡先と見直しの記録

緊急連絡先の表には、連絡先、担当者、電話番号、つながらないときの連絡方法、証券番号や組合員番号などを書きます。家族と従業員、市町村の農政・防災の担当、農業共済組合、JA、取引先、電力会社、施工業者、農機販売店、金融機関、保険会社まで並べます。

スマホが使えない場合に備えて、紙にも書いておいてください。千葉県の養豚農家は、出荷先、施設関係者、保健所などの連絡先と担当者、災害時の対応をまとめた表を作り、農場の管理室に貼っています。見直しの記録の表には、見直した日、きっかけ(定期、災害のあとなど)、変えたところ、共有した人を残します。

気をつけること・よくある間違い

作って終わりにして共有しない

家族や従業員が内容を知らないBCPは、災害のときに使われません。作ったら読み合わせをして、共有した日を計画に書きます。国の様式が共有日を作成から1か月以内の目安にしているので、同じ期間を目標にすると進めやすくなります。

代わりの手段に具体性がない

「停電したら困る」「水が止まったら対応する」といった書き方では、当日の行動が決まりません。発電機で何を動かすのか、燃料は何リットルあるのか、貯水タンクの水で何日かん水できるのかまで書きます。数値が分からない項目は、確かめる日を決めて、リスクチェックリストの期限欄に入れておくと確実です。

連絡先がスマホの中だけにある

停電や故障で、スマホが使えない場面は起こりえます。緊急連絡先は紙に書き、事務所や管理室など決まった場所に貼るか、しまっておきましょう。電話がつながらないときの代わりの連絡方法も、表の専用欄に書いておきましょう。

保険の中身を確かめていない

農林水産省の資料では、収入保険は青色申告を行っている農業者が対象で、自然災害や価格低下による収入減少を広く補償するとされています。農業共済は全ての農業者が対象で、米、麦、果樹、家畜、農業用ハウスなどの自然災害による損失が補償の対象です。どちらも国の公的保険制度で、掛金に国庫補助があります。

加入しているだけでは、請求の段取りが分かりません。何が補償の対象か、被害が出たらいつまでにどこへ連絡するかを、加入先に確かめてBCPに書いてください。園芸施設のフィルムを災害前に切って外す場合など、事前連絡が必要なケースは、共済組合に聞いておきます。

人手と資材の確保を考えていない

復旧には想像以上の人手が要ります。福島県の雪害の事例では、JAの職員が3日間で延べ40〜50人、ハウスの撤去を手伝いました。再建ではシルバー人材も活用しています。長野県の農業者は、SNSで呼びかけて約50人のボランティアに撤去を手伝ってもらいました。復旧に必要な人数と、頼める先を事前に書いておきます。

取引先と緊急時の話をしていない

千葉県の養豚農家は、普段からと畜場の担当者に事情を話していたので、台風で畜舎が壊れて出荷を早めたときも、小さい個体を受け入れてもらえました。出荷先の火災を経験し、出荷先を2か所に増やした農家もいます。出荷先が1つに偏っている経営は、緊急時の対応を取引先とあらかじめ相談してください。

片付けの前に写真を撮らない

被害の写真は、共済や保険の請求、市町村への報告、取引先への説明に使います。片付けを始めてからでは撮れません。初動の手順に「片付けの前に撮る」と書き、撮る場所と順番を決めておくと、慌てていても動けます。被害の写真と届出の記録は、同じミノリスの別テンプレート「災害被害の記録(写真台帳)・被災の届出の下書き」にまとめられます。

被災後の資金繰りと届出

被災後は復旧の費用がかさみ、収入が入るのはそのあとです。山形県の農業者は、豪雨のあとに収入保険のつなぎ融資を使い、毎月の運転費用と肥料代の支払いに充てました。熊本県の農業者は、収入保険に加入していたため、豪雨の際に補てん金を受け取れて助かったと話しています。

BCPの「お金」の欄には、手元資金の目安、保険の種類、融資の相談先を書いてください。補償の請求や融資の相談で、被害の写真、帳簿、栽培記録を求められる場面もあるでしょう。ふだんから記録を残しておくと、申請の準備に使えます。

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紙・Excelで続かないときは

BCPは作ったあとが長く続きます。見直しの時期に前回の内容を探し出し、圃場や作付けの変化を反映させる作業が、年に1回は必要です。被害を受けたときに、何をどれだけ作っていたかを説明できる記録があると、共済や取引先への連絡も進めやすくなります。

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  • 衛星画像で圃場の様子を確認できる
  • 栽培履歴をCSV・Excelで出力できる

BCPの作成機能や、災害時の安否確認、緊急連絡の機能はありません。リスクチェックリストの管理や、保険の請求手続きにも対応していません。BCPの本文と連絡先の表は、テンプレートに書いて紙でも保管してください。

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よくある質問

小さな家族経営でも作る意味はありますか?

あります。農林水産省の様式は、個人の農業者が使うことを想定しています。分量が少なくても、誰が判断するか、最初に何をするか、連絡先はどこかが決まっているだけで、災害時の迷いが減ります。まずは基本方針、最優先の業務、責任者、緊急連絡先の4つから書き始めてください。

耕種・園芸・畜産のどの様式で書けばよいですか?

このテンプレートは3つに共通する項目で作っています。ハウスや畜舎に固有の備え(被覆材の点検、停電時の換気や給水など)は、農林水産省の該当するチェックリストでも確かめてください。国のチェックリストは、耕種用、園芸用、畜産用のそれぞれにリスクマネジメント編と事業継続編があります。

BCPを作ると補助金がもらえますか?

BCPを作るだけで補助金が出るわけではありません。農林水産省は、農地利用効率化等支援事業や新規就農者育成総合対策の経営発展支援事業など、いくつかの補助事業で、農業版BCPに取り組む場合に採択時のポイントを加算しています。対象の事業と様式は年度で変わるため、公募要領で確認してください。

どのくらいの頻度で見直せばよいですか?

国のパンフレットは、少なくとも年に1回の見直しを勧めています。台風や大雨の前に間に合うよう、梅雨の前など時期を決めておくと続けやすくなります。大きな災害を経験したあとや、経営の規模、作物、従業員が変わったときも、見直しの機会です。

収入保険と農業共済はどちらに入ればよいですか?

農林水産省の資料では、自然災害だけでなく価格低下なども含めて広くカバーしたい人には収入保険、自然災害の損失に絞って備えたい人には農業共済が案内されています。収入保険は青色申告をしている農業者が対象です。どちらが合うかは、お近くの農業共済組合に相談してください。

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まとめ

農業版BCPは、基本方針、想定する災害、最優先で再開する業務と目標の時期、ライフライン等の代わりの手段、人・物・お金・情報の備え、緊急時の体制と初動、備蓄、見直しの8項目で構成します。そこに、備えを確かめるリスクチェックリストと、緊急連絡先、見直しの記録を加える形です。作成は任意ですが、補助事業では加点の対象になる場合があります。

書くときは、困りごとと代わりの手段を組にして、数量と担当者まで具体的にします。作ったら家族と従業員に共有し、年に1回は見直してください。国の様式や補助事業の最新の扱いは、農林水産省のページで確認できます。

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