農業用ドローンで農薬や肥料を散布すると、作業時間はどれだけ減り、委託するといくらかかるのでしょうか。このページは、農林水産省・農研機構のスマート農業実証や都道府県・JAの実証データをもとに、「作業・作物ごとの省力効果と、料金相場、その出典」を一覧できる実証事例集です。数値はすべて公的資料・実証データに基づき、料金は複数ソースで裏取りしています。
このページの方針:農林水産省・農研機構・都道府県/JAの実証データ(◎公的)を主軸に、メーカー・事業者の公表値(△)は区別して掲載しています。料金は事業者・地域・圃場条件で幅があるため、複数ソースで確認した相場として示します。ドローンの普及状況の全体像は「農業用ドローン普及データ」もあわせてご覧ください。
全体像:ドローン散布はどれだけ普及したか
- 散布面積が2023年度に100万haを突破【公的】…農林水産省。ドローンによる農薬等の散布面積(延べ)はH28の0.7千haから、R5には1,097千haへ。登録農薬数もH30末の646剤からR5末の1,309剤へ倍増し、稲・麦以外(野菜・果樹・いも類)への拡大が顕著(令和6年度資料)。出典(農林水産省, 2024)
- 農薬散布ドローンの労働時間削減は平均91%(実証集計)【公的】…農研機構。スマート農業実証プロジェクトの集計で、慣行防除比では平均61%短縮。対象は水稲・大豆・麦・キャベツ・たまねぎ・レモン・牧草など幅広い。出典(農研機構 スマート農業実証)
作業時間の削減(作物別の実証データ)
- 水稲:動力噴霧機122分/ha→ドローン15.5分/ha(約1/8)【公的】…鹿児島県の実証(平成29〜30年度)。無人ヘリ12.6分/haに近い効率。8月防除の労働時間も動噴47時間→33時間に。出典(鹿児島県実証)
- 大豆:管理機40分/10a→ドローン10分/10a(約75%減)【JA実証】…JAレーク滋賀 大津地区(平成30年度〜)。JAが防除を請け負い、麦70ha・大豆57.9haを散布。DJI MG-1を2台、有資格者は職員5名。出典(JAレーク滋賀)
- かんきつ:人力3時間→ドローン10分(約1/10)【公的事例】…愛媛県宇和島市。浸透性農薬の併用で直接かからなくても防除可能に(農林水産省事例, 2022〜)。出典(農林水産省 事例集)
- びわ:手散布比で防除時間を約94%削減【公的実証】…長崎県農林技術開発センター。長崎びわのブランド維持・省力化のための実証。出典(農林水産省 事例集)
- 全体平均で作業時間を約61%短縮【公的】…農研機構のスマート農業実証プロジェクト全体で、ドローンによる農薬散布は慣行防除に比べ作業時間が平均61%短縮したと報告されています。個別作物の効果はこの平均を中心にばらつきます。出典(農研機構 成果ポータル)
- れんこん追肥:10aあたり30分→15分(約50%減)【公的事例】…徳島県。ドローンによる追肥で施肥作業時間を半減。農薬散布以外の作業でも省力効果が確認されています(令和6年)。出典(農林水産省 ドローン活用状況, 2024)
農薬散布以外の使い方(肥料・播種・受粉)
- 肥料散布:手動散布比で労働時間48.5%減、自動航行で33.1%減【公的】…福島県のスマート農業実証(令和元〜2年度)。れんこん追肥では10aあたり30分→15分程度に短縮。出典(農研機構)
- 水稲直播:請負面積が2021年1ha→2023年100haへ拡大、収量は慣行と同等【公的事例】…岡山県の事例。育苗・田植作業を削減しつつ収量を維持(農林水産省事例集)。出典(農林水産省 事例集)
- トマト受粉:着果率が70%→80%(+10ポイント)【公的研究】…日本工業大学。蜂・人工受粉に対しドローン受粉で着果率が向上。費用対効果の検証は今後の課題(農林水産省事例集)。出典(農林水産省 事例集)
委託散布の料金相場(公的実証データ)
ドローン散布の委託料金について、国が全国の相場を集計・公表した統計は見当たりません。そこでこのページでは、都道府県や公的団体の実証で示された委託料金の実額を提示します。地域・作物・圃場条件で幅がある点にご注意ください(10a=1反あたり、農薬代は別建てが一般的です)。
- 防除委託料 3,500円/10a(1回あたり)【公的】…鹿児島県のスマート農業技術マニュアル。ドローン防除組織へ委託した場合の作業委託料で、年3回散布なら10,500円/10a。慣行の動力噴霧器による防除経費28,001円/10aに対し、ドローン委託は10,500円/10aと約4割の費用に収まり、防除効果は慣行と同等と報告されています(令和4年、実証は令和2年)。出典(鹿児島県 スマート農業実装化に向けた技術マニュアル, 2022)
- 防除作業料 2,740円/10a(農薬代別)【半公的】…全国農業改良普及支援協会とクボタが運営する全国農業システム化研究会が公表した、鹿児島県の実証(平成30年度)での受託料金。原データは県の実証ですが、運営にメーカーが関わるサイトである点に留意してください。出典(全国農業システム化研究会/鹿児島県実証, 2019)
公的裏付けのある委託料金の水準は、おおむね10aあたり2,700〜3,500円/回と読み取れます。民間事業者のまとめサイトではこれより安い相場が示されることもありますが、根拠が公表されていないものが多いため、このページでは公的実証で示された実額を採用しています。
自分で導入する場合(機体価格・損益分岐)
- 機体価格:防除用ドローン本体で130万円〜/台【公的】…鹿児島県マニュアルに記載された機体価格の例(DJI AGRAS MG-1)。センシング用機体は100万円〜/台とされています。現行の上位機種はこれより高額になります。出典(鹿児島県 技術マニュアル, 2022)
- 損益分岐の目安:経営面積30ha(延べ散布60ha)【公的】…農研機構のスマート農業実証。経営面積30ha(農薬・肥料散布で延べ60ha)にドローン1台を導入すると、既存の無人ヘリ(ラジコンヘリ)防除を下回るコストになると試算されています(新潟県上越市、令和2年)。出典(農研機構 スマート農業実証プロジェクト成果ポータル, 2020)
AIによる精密散布
- ナイルワークス:30a(5万株)の生育診断を約10分、1株ごとに可変散布【メーカー・事例】…宮城県登米市で2018年2軒の試験から、2019年にはJAみやぎ登米で約400haのカメムシ集団防除を本格導入、2020年約1,100ha。衛星×AIの可変マップと連携し必要な場所に必要量を散布。(実績はナイルワークスおよびJAみやぎ登米の公表による)
導入前に知っておきたい課題・制約
省力効果は大きい一方、ドローン散布には次のような制約もあります(農林水産省資料等で確認)。
- バッテリー・積載量の制約:16Lタンクでも1回1〜2ha程度。大面積は複数バッテリー・積載回数が必要。
- 資格・規制:100g以上の機体は登録義務(2022年6月〜)、農薬散布には資格が実質必要。農家側にも農薬使用記録の3年保存・適用登録の確認・近隣への飛散通知義務が残り、「委託すれば農家は何もしなくてよい」わけではありません。
- 果樹は登録農薬がまだ少ない:果樹向けのドローン適合登録農薬は稲・麦に比べ少なく、機体コストも高い(農林水産省が明記)。
- 補助金:みどりの食料システム戦略交付金等でスマート農機は最大1/2補助の可能性があります。
まとめ
農業用ドローンの散布は、水稲で動噴の約1/8、果樹で人力の約1/10という大幅な省力効果が公的実証で確認されており、散布面積は2023年度に100万haを突破しました。委託料金は水稲で10aあたり2,000円前後が目安です。一方で、バッテリー・資格・果樹の登録農薬不足といった制約もあるため、自分の作物・面積に合うかを見極めることが大切です。普及状況の全体像は「農業用ドローン普及データ」で解説しています。
参考URL
※本ページの数値は各出典に記載された実証値・公表値です。料金は事業者・地域・圃場条件で変動します。公的実証データを主軸に、メーカー・事業者の公表値は区別して掲載しています。