収穫期にパートを頼む、季節雇用の人に毎年来てもらう。人を雇ったとき、労働基準法第107条は、使用者が事業場ごとに労働者1人ずつの名簿を作るよう定めています。この名簿が「労働者名簿」です。雇う人が1人でも、農業でもこの義務は変わりません。
この記事では、労働基準法・労働基準法施行規則の条文と厚生労働省の資料をもとに、労働者名簿の記載事項、各欄の書き方、保存の期間、農業で迷いやすい点を説明します。常時30人未満の事業では記入しなくてよい欄や、日々雇い入れる人の扱いは、実際の契約の形によって変わります。使う前に、労働基準監督署や社会保険労務士にも確認してください。
労働者名簿(農業)の無料テンプレート(Word・Excel・PDF/記入例つき)
労働者名簿(農業)とは/なぜ必要か
雇った人1人ずつの記録を残す帳簿
労働者名簿は、雇っている人について、誰を、いつから、どんな仕事で雇い、いつ辞めたかを記録する帳簿です。賃金台帳や出勤簿と並んで、人を雇ったら作っておく書類です。
次のような場面で、作成や書き直しが必要になります。
- パートや季節雇用の人を新しく雇ったとき
- 住所が変わった、退職したなど、記載事項に変更があったとき
- 労働基準監督署の調査や、助成金の申請で、雇用の記録を求められたとき
農業でも作る書類
農業は、労働時間・休憩・休日の規定が適用されない事業です(労働基準法第41条)。ただし、労働者名簿の規定は、この適用除外に入っていません。厚生労働省の「農業者・農業法人 労務管理のポイント」でも、労働者名簿は賃金台帳や出勤簿などと並べて、日頃から整備しておく書類とされています。
作る対象は日々雇い入れる人を除く労働者
第107条の対象は、日々雇い入れる人を除く労働者です。収穫期だけ数か月雇う季節雇用の人や、パートの人も対象になります。契約期間が短いという理由だけで、名簿を作らなくてよいことにはなりません。
同居の親族だけを使用する事業には、労働基準法は適用されません(第116条第2項)。家族以外の人を1人でも雇った事業場では、その人の名簿を作ります。
法律で決まっている記載事項
記載事項は、労働基準法第107条と労働基準法施行規則第53条で、次の9つに決まっています。
| 番号 | 記載事項 | 補足 |
|---|---|---|
| 1 | 氏名 | |
| 2 | 生年月日 | |
| 3 | 履歴 | 職歴などを簡単に書く |
| 4 | 性別 | |
| 5 | 住所 | 引っ越したら書き直す |
| 6 | 従事する業務の種類 | 常時30人未満の労働者を使用する事業では記入しなくてよい |
| 7 | 雇入の年月日 | |
| 8 | 退職の年月日とその事由 | 解雇の場合は、その理由を含む |
| 9 | 死亡の年月日とその原因 | 在職中に亡くなったとき |
厚生労働省には様式第19号の様式があります。ただし、施行規則第59条の2により、様式は必要な事項の最少限度を定めたものです。横書きなど異なる様式を使うことは妨げられていません。このテンプレートは、9つの記載事項の欄をそろえた様式です。
記入例
下の記入例は、架空の山田農園が、季節雇用の佐藤花子さんを2026年4月1日から11月30日まで雇う想定で書いたものです。氏名、住所、経歴、日付はすべて架空のものです。実際の名簿には、雇う人本人の情報を書いてください。

記入例には、法定の記載事項に加えて、任意の欄として雇用の形態と契約期間、書き直した日と内容、備考を置いています。住所は2026年7月1日に変更があった想定で、旧住所と書き直した日を残しました。
テンプレートには、1人1枚の様式がWordで、全員を1行ずつ並べる一覧がExcelで、手書き用がPDFで付いています。一覧に書ききれない履歴や変更は、1人1枚の様式に書き足します。
書き方(項目ごと)
記入例の順に、各欄の書き方を説明します。法定の記載事項に当たる欄には、その旨を添えました。
氏名(ふりがな)・生年月日・性別・住所
氏名は戸籍上の氏名を書き、読み方を間違えやすい名前にはふりがなを付けます。記入例は「佐藤 花子(さとう はなこ)」です。氏名、生年月日、性別、住所は、いずれも法定の記載事項です。
生年月日は、本人の申告や身分証の記載をもとに、年月日まで書きます。性別の欄も、本人に確認した内容を書いてください。
住所は現住所を書きます。引っ越しがあったら、書き直した日と内容を「書き直した日・内容」の欄に残したうえで、住所を新しいものに直します。記入例は、2026年7月1日に旧住所から変わった想定です。
従事する業務の種類
主にしてもらう仕事を書きます。記入例は「野菜の収穫・調製・出荷作業」です。「農作業全般」と広く書くより、収穫、選別、出荷のように、実際の仕事が分かる言葉で書くほうが、後から見返したときに役立ちます。
常時30人未満の労働者を使用する事業では、この欄は記入しなくてもよいとされています(労働基準法施行規則第53条)。多くの農園が該当しますが、書いておくと雇用の記録として使えます。
雇入年月日
雇い入れた日を書きます。実際に働き始めた日と、契約書の始期が一致しているかを確かめてください。記入例は2026年4月1日です。
同じ人を翌年も季節雇用で雇うときは、前回の退職日と今回の雇入年月日を、同じ名簿の中で続けて記録しておくと経過が分かります。
雇用の形態・契約期間(任意の欄)
無期か有期か、有期なら契約期間を書く欄です。法定の記載事項には入っていないので、書かなくても名簿として成り立ちます。記入例は「有期(2026年4月1日〜2026年11月30日)・季節雇用」です。
この欄を書いておけば、契約期間の満了日を名簿で確認できます。雇用契約書の内容と合わせてください。契約書の書き方は、雇用契約書・労働条件通知書の記事で説明しています。
履歴
職歴などを簡単に書きます。記入例は「2012年〜2025年 食品工場で包装作業に従事」です。履歴書に書かれた職歴を、要点だけ写せば足ります。
履歴書そのものを名簿に代えることはできません。履歴書には、雇入年月日や退職の事由などの欄がないためです。履歴書は別に保管し、名簿には履歴の要点を書きます。
退職年月日・退職の事由
辞めた日と、その理由を書きます。記入例は「2026年11月30日・契約期間の満了」です。自己都合なら「自己都合」、契約期間の満了なら「契約期間の満了」と書きます。
解雇の場合は、解雇の理由も書く必要があります。この欄が空欄だと、記載事項の足りない名簿です。退職の日は、保存期間の起算日にもなるので、正確に書いてください。
死亡年月日・死亡の原因
在職中に労働者が亡くなったときに書く欄です。通常は空欄のままです。記入例も空欄にしてあります。
書き直した日・内容、備考
記載事項に変更があったとき、書き直した日と内容を残す欄です。記入例は「2026年7月1日 住所を変更(旧 〇〇市△△町4-5)」です。
労働基準法第107条は、記載事項に変更があったときに、遅れずに書き直すよう求めています。変更の履歴を残しておけば、いつ時点の情報かが後から分かります。備考欄には、名簿に残したい補足を自由に書いてください。
気をつけること・よくある間違い
季節雇用やパートの人の名簿を作っていない
日々雇い入れる人を除けば、期間が短い人も名簿の対象です。収穫期の2か月だけ来る人でも、雇い入れたら名簿を作ります。毎年来る人は、前の年の名簿に続けて記録します。
住所や退職の欄を直していない
記載事項に変更があったら、遅れずに書き直します。引っ越しの連絡を受けたその日に直す習慣をつけると、書き忘れを防げます。
退職した人の名簿も、すぐに捨てないでください。退職の日から3年間は保存します。
退職の事由が空欄
退職の事由は、「自己都合」「契約期間の満了」「解雇(理由)」のように書きます。解雇のときは、解雇の理由も書きます。退職日だけを書いて事由を空欄にした名簿は、法定の記載事項が足りません。
履歴書や雇用契約書で済ませてしまう
履歴書や雇用契約書は、名簿の一部の項目を含みます。しかし、どちらも名簿の記載事項を全部そろえた書類ではありません。名簿は名簿として、別に作ります。
農業は適用除外だから名簿も要らないと考える
労働基準法第41条が外すのは、労働時間・休憩・休日の規定です。名簿の規定は外されていません。名簿は、農業でも作る書類です。
家族を雇っている扱いかどうかを確認していない
同居の親族だけを使用する事業には、労働基準法が適用されません。ただし、家族の働き方や賃金の払い方によっては、労働者として扱われる場合があります。迷うときは、労働基準監督署や社会保険労務士に確かめてください。
保存と提出
保存期間は退職日から3年間
労働基準法第109条は、労働者名簿を5年間保存するよう定めています。ただし、同法第143条の経過措置により、当分の間は3年間とされています。
起算日は、労働者が死亡、退職、解雇された日です(労働基準法施行規則第56条)。在職中は名簿を保存し続け、辞めた日から3年間残します。
たとえば、2026年11月30日に契約期間が満了して辞めた人の名簿は、2029年11月30日まで残します。同じ人が翌年も来る場合の名簿の続け方は、労働基準監督署に確認してください。
ほかの帳簿と合わせて作ることもできる
労働者名簿は、賃金台帳や年次有給休暇管理簿と合わせて作ることもできます(労働基準法施行規則第55条の2)。別々の帳簿として持つか、1つにまとめるかは、事業場で選べます。
賃金台帳の書き方や、休日と労働時間の考え方は、農業の労務管理入門で説明しています。給与明細書の作り方は、給与明細書の記事を参照してください。
提出するときは
労働者名簿は、役所に定期的に提出する書類ではありません。労働基準監督署の調査や、助成金の申請で、提示を求められたときに出します。提出先によっては、指定の様式や添付書類が決まっていることがあります。事前に提出先へ確認してください。
紙・Excelで続かないときは
人を雇うと、誰がどの圃場でいつ何をしたかを、事業主が把握しておく場面が増えます。名簿は雇い入れと退職のときに書けば足りますが、日々の作業の記録は毎日の手間になります。紙やExcelの名簿に作業の記録まで書き込むと、続かなくなる農園もあります。
当社が提供しているミノリス日誌は、圃場ごとの栽培記録を付けるための無料アプリです。
- 圃場マップで、圃場に名前を付けて地図上に登録できる
- 圃場・作付けごとに作業・肥料・農薬・収穫を記録でき、写真も残せる
- 衛星画像で圃場の様子を確認できる
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力できる
ミノリス日誌には、労働者名簿の作成や、雇用・退職の管理の機能はありません。労働者ごとの出退勤の管理にも向いていません。
作業に入る人を名前で登録しておきたい場合は、無料の作業時間記録アプリ「ミノリスタイマー」が使えます。作業者の設定では、メールアドレスの無い人も名前だけで登録できます。辞めた人をアーカイブすると選択肢から外れ、過去の打刻や作業記録は残ったままです。ただし、ミノリスタイマーにも労働者名簿を作る機能はありません。詳しくはミノリスタイマーの解説記事と、作業時間の記録のはじめ方をご覧ください。
よくある質問
履歴書を保管していれば、労働者名簿の代わりになりますか?
履歴書には、雇入年月日、従事する業務、退職の年月日と事由などの記載事項がありません。記載事項がそろった名簿を別に作っておいてください。
家族だけで農業をしている場合も必要ですか?
同居の親族だけを使用する事業には、労働基準法は適用されません(労働基準法第116条第2項)。家族以外の人を雇ったら、その人の名簿を作ります。家族を雇っている扱いになるかどうか迷う場合は、労働基準監督署や社会保険労務士に確かめてください。
外国人技能実習生を受け入れている場合は?
技能実習生も労働者なので、労働者名簿を作ります。これとは別に、実習実施者は技能実習法にもとづく帳簿を備える必要があります。必要な帳簿は監理団体の案内に従ってください。
収穫の日だけ頼む日雇いの人も、名簿に載せますか?
労働基準法第107条は、日々雇い入れる人を除くと定めています。日々雇い入れるのか、数日から数か月の契約で雇うのかによって扱いが変わるので、契約の形に迷うときは労働基準監督署に確認してください。
退職した人の名簿は、いつまで残しますか?
労働基準法第109条は5年間の保存を定めていますが、同法第143条の経過措置で、当分の間は3年間です。起算日は、労働者が退職、解雇、死亡した日です。
厚生労働省の様式でなくても使えますか?
使えます。労働基準法施行規則第59条の2は、様式を必要な事項の最少限度を定めたものとしており、横書きなど異なる様式の使用を妨げていません。記載事項がそろっていれば、このテンプレートの様式で足ります。
まとめ
労働者名簿は、雇っている人1人ずつについて、氏名、生年月日、履歴、性別、住所、従事する業務の種類、雇入年月日、退職の年月日と事由、死亡の年月日と原因を記録する帳簿です。農業は労働時間・休憩・休日の規定が適用されない事業ですが、名簿の規定は適用されます。
日々雇い入れる人を除き、季節雇用やパートの人も対象です。記載事項に変更があったら遅れずに書き直し、退職した人の名簿は退職の日から3年間保存します。契約の形や家族の扱いで迷うときは、労働基準監督署や社会保険労務士に確認してください。
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