就業規則は、始業・終業の時刻、賃金、退職などの労働条件と、職場のルールをまとめた規則です。労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使う使用者に、決められた事項を就業規則に書いて労働基準監督署へ届け出ることを求めています。農業法人が従業員を増やしていくと、この人数に届く時期が来ます。
この記事では、記載事項に抜けがないかを確かめる「就業規則の記載事項チェック表(農業)」の使い方を説明する記事です。農業には労働時間・休憩・休日の規定が適用されない(第41条)という特例があり、書き方で迷う人が多い分野です。根拠は労働基準法の条文と、厚生労働省のモデル就業規則、同省の「農業者・農業法人 労務管理のポイント」に限っています。自社の規則を作る前に、社会保険労務士や労働基準監督署にも確認してください。
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就業規則の記載事項とは/なぜ必要か
10人以上なら作成と届出が義務になる
労働基準法第89条は、常時10人以上の労働者を使用する使用者に、就業規則の作成と行政官庁への届出を義務づけています。記載する事項を変更したときも同じです。厚生労働省のモデル就業規則のページは、届出先を所轄の労働基準監督署長と説明しています。
人数は、農場や作業場といった事業場ごとに数えるのが行政の取り扱いです。会社全体の合計では数えません。パートや季節雇用の人も、常時使っていれば人数に入ります。正確な数え方は、労働基準監督署で確認してください。
10人未満は任意だが、作ることが望ましいとされている
常時使う労働者が10人未満の事業場に、作成と届出の義務はありません。ただし厚生労働省の「農業者・農業法人 労務管理のポイント」は、職場の秩序を保ち、労働条件と経営の安定を図り、無用なトラブルを防ぐために、10人未満でも作成が望まれると書いています。労働者を1人でも雇えば労働基準法の適用を受けるので、小さな農場でも、始業・終業の時刻や賃金の締め日を文書にしておく意味があります。
書く事項は「必ず記載」と「定める場合に記載」に分かれる
第89条の記載事項は2種類です。どの就業規則にも必ず書く事項は、始業・終業の時刻、休憩時間、休日、休暇、交替制の就業時転換、賃金の決定・計算・支払の方法、賃金の締切りと支払の時期、昇給、退職に関する事項(解雇の事由を含む)です。
もう一方は、その制度を設けるなら書かなければならない事項で、退職手当、臨時の賃金等と最低賃金額、食費や作業用品などの負担、安全衛生、職業訓練、災害補償と業務外の傷病扶助、表彰と制裁、そして事業場の全員に適用されるルールが当てはまります。チェック表は、この2種類を行ごとに並べた形です。
意見聴取・届出・周知の手続きも法律で決まっている
就業規則を作成または変更するときは、労働者の過半数で組織する労働組合の意見を聴きます。そのような組合がない事業場では、労働者の過半数を代表する者から意見を聴く決まりです(第90条第1項)。届出には、聴いた意見を記した書面を添付してください(同条第2項)。
作った就業規則は、作業場の見やすい場所への掲示、備え付け、書面の交付などの方法で、労働者に周知しなければなりません(第106条第1項)。農場では、休憩所の掲示板やタブレット、配布する冊子が現実的な方法です。
記入例
下の記入例は、架空の農業法人が記載事項を1行ずつ確かめた想定で書いたものです。通常期は8時から17時、夏期の6〜9月は6時から15時とし、年間休日は105日、定年は65歳、月末締めの翌月15日払いと決めています。実在の人名や商品名は入っていません。

表は左から、区分、記載事項(労基法89条)、決めた内容、農業での注意点の4列です。区分が「必ず記載」の6行は、必ず決めた内容を書き込みます。「定める場合」の8行は、その制度がなければ空欄で構いません。記入例では、賞与の欄に「業績により年1回」、寮費の欄に「月1万円」と書いています。
右端の「農業での注意点」は、規則本体には書かない補足です。たとえば休日の行には、法定休日の規定は適用除外でも、休日の決め方は必ず書くと添えてあります。深夜の割増賃金や年次有給休暇のように、農業でも適用される規定は、この列で見分けられます。
書き方(項目ごと)
書き方は、チェック表の行の順に見ていきましょう。条文の文章は、厚生労働省のモデル就業規則に規程例があるので、決めた内容を整理してから当てはめてください。
事業場名・常時使用する労働者数・作成日
表の上部に、事業場名、常時使用する労働者数、作成日を書きます。労働者数は、パートや季節雇用の人を含めて、普段働いている人を数えてください。10人以上かどうかは、事業場ごとの判断です。
農場が複数の場所に分かれている法人は、場所ごとの人数を書き分けておくと、届出が必要な事業場がわかります。
始業・終業の時刻、休憩時間
始業と終業の時刻、休憩の長さを書きます。記入例は、通常期を8時から17時で休憩60分、夏期(6〜9月)を6時から15時で休憩90分です。季節で時刻を変える農場は、季節ごとに期間と時刻を書きます。
農業の事業には労働時間と休憩の規定が適用されませんが、始業・終業の時刻と休憩時間は第89条第1号の絶対的記載事項です。適用除外を理由に空欄にはできません。天候で作業時間が変わる場合は、「天候により始業・終業の時刻を変更することがある」という変更の規定も加えます。
休日
休日の日数と決め方を書きます。記入例は「日曜日と会社カレンダーで定める日。年間休日105日」です。収穫期など繁忙期に休日を動かす農場は、振替の手順も書きます。
第41条により、休日の規定は農業の事業に適用されません。1週間に1日以上の休日を与える義務はありませんが、休日の定めそのものは就業規則に書く必要があります。休日を設けない農場でも、何日ごとに休みを与えるのかを決めて、文書にします。
休暇
この行の内容は、年次有給休暇と、会社が独自に設ける休暇です。年次有給休暇は、雇入れの日から6か月間継続して勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に、10労働日を与える決まりです(第39条第1項)。農業にも適用され、適用除外にはなりません。
年次有給休暇が10日以上与えられる労働者には、そのうち5日について、使用者が時季を定めて取得させる義務があります(同条第7項)。慶弔休暇や夏季休暇のような特別休暇を設けるなら、対象者と日数を書きます。
交替制の就業時転換
労働者を2組以上に分けて交替に就業させる場合に、組み替えのルールを書きます。当てはまるのは、畜舎の早番・遅番や、施設園芸の夜間管理を班で回す農場です。
交替制がなければ、「該当なし」と書きます。記入例も「該当なし」として、早番・遅番がある場合は書くとメモしています。
賃金の決定・計算・支払の方法、締切り・支払時期、昇給
賃金の決め方(月給、日給、時給)、基本給と手当の内訳、締め日と支払日、支払方法、昇給の時期を書く行です。記入例の内容は、月給制で基本給に手当を加え、月末締めの翌月15日払い、口座振込、昇給は年1回です。
賃金は毎月1回以上、一定の期日に支払う必要があります(第24条第2項)。農業でも、午後10時から午前5時までの深夜労働には25%以上の割増賃金を支払います(第37条第4項)。割増賃金の計算方法も賃金の一部なので、規則に書いておきます。最低賃金は都道府県ごとに定められ、農業の労働者にも適用されます。
退職に関する事項(解雇の事由を含む)
書く項目は、定年、自己都合で退職するときの申出の期限、解雇の事由です。記入例は、定年65歳、自己都合退職は14日前までの申出、解雇の事由は列挙という内容です。
解雇の事由は第89条で必ず書く事項なので、具体的に列挙します。解雇する場合は、30日前までの予告が必要です。定年や継続雇用は高年齢者雇用の制度とも関わるため、厚生労働省や労働局の案内で確認してください。
退職手当、臨時の賃金(賞与)、最低賃金額
退職手当を支給する場合は、対象となる労働者の範囲、決定・計算・支払の方法、支払の時期を書きます。記入例は、勤続3年以上の人に支給し、中小企業退職金共済に加入している設定です。
賞与のような臨時の賃金を支給するなら、支給の条件と時期を書きます。記入例では「業績により年1回」としました。退職手当も賞与も、制度がなければ「定めなし」とします。
食費・作業用品などの負担
食費や作業用品、寮費などを労働者に負担させるなら、その内容を書きます。記入例では、作業着と長靴は会社の支給で、寮費は月1万円です。
農業では、住み込みの寮や食事を用意する農場があります。賃金から寮費や食費を引く場合は、賃金の全額払いの原則(第24条第1項)に関わるので、労働者の過半数を代表する者との書面による協定が必要です。具体的な手続きは労働基準監督署で確認してください。
安全・衛生、職業訓練、災害補償
この3行は、定める場合に書きます。安全衛生には、農業機械の作業手順の遵守、年1回の健康診断、熱中症対策を書き込めます。農業機械や農薬を使う作業があるため、雇入れ時や作業内容を変えたときは、使用者が安全衛生の教育をしなければなりません。
職業訓練の欄には、入社時の機械操作研修や技能講習の受講を書きます。災害補償の欄には、業務上の災害は労働基準法と労災保険によると書きます。事業形態や人数によっては労災保険が任意加入になる個人事業もあるので、加入状況は労働基準監督署で確認してください。
表彰・制裁
表彰と制裁は、定める場合にその種類と程度を書きます。記入例の制裁は、けん責、減給、出勤停止、懲戒解雇です。どの行為にどの制裁が当たるのかも、あわせて書いておきます。
減給の制裁には上限があります。1回の額は平均賃金の1日分の半額まで、総額は1賃金支払期の賃金総額の10分の1までです(第91条)。この範囲を超える規定は設けられません。
その他、事業場の全員に適用するルール
服務規律、ハラスメントの禁止、副業・兼業など、全員に適用するルールを書きます。第89条第10号により、全員に適用される定めをするなら、就業規則に書く必要があります。
農業では、圃場への出入りや農薬・肥料の管理、収穫物の持ち帰り、SNSへの写真の投稿といったルールが、この欄の候補です。モデル就業規則の服務規律の章を読みながら、自社に必要な項目を選びます。
気をつけること・よくある間違い
農業だから始業・終業の時刻は不要だと考える
農業の事業は、労働時間・休憩・休日の規定の適用除外です(第41条第1号)。一方、第89条の記載事項は適用除外になりません。始業・終業の時刻、休憩時間、休日は、農業でも就業規則に必ず書きます。
農業部門と販売・加工部門を区別しない
農産物の販売や加工を主な業務とする事業場は、商業または製造業に当たります。厚生労働省の資料によると、その事業場の労働者には、労働時間・休憩・休日の規定の適用除外が及びません。直売所や加工場を持つ法人は、1日8時間・週40時間の上限や、時間外・休日労働の割増賃金の規定が適用される人がいないかを確認します。
外国人技能実習生を適用除外の対象と考える
厚生労働省の資料は、外国人技能実習生について、農業であっても労働基準法の労働時間・休憩・休日の基準に準拠することとしています。実習生を受け入れる農場が適用除外の前提で規則を書くと、基準と合いません。実習生の記録のつけ方は、技能実習日誌の記事で説明しています。
作っただけで周知していない
作成と届出を終えた就業規則は、労働者へ周知して初めて機能します。労働契約法第7条は、合理的な労働条件を定めた就業規則を労働者に周知させていたときに、その労働条件が労働契約の内容になると定めています。周知の方法は、掲示、備え付け、書面の交付のいずれかです。必ず実施してください。
雇用契約書と内容が食い違う
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定めた労働契約は、その部分が無効になり、就業規則の基準が適用されます(労働契約法第12条)。入社時に渡す労働条件通知書や雇用契約書と、就業規則の内容をそろえておきます。
労働者に不利な変更を一方的に行う
使用者は、労働者と合意せずに就業規則を変更して、労働条件を不利益に変更することはできません(労働契約法第9条)。変更後の規則を周知し、変更が合理的な場合には例外があります(第10条)。不利益になる変更は、事前に労働者へ説明し、社会保険労務士などに相談してから進めます。
法令に反する条文を書く
就業規則は、法令や労働協約に反してはなりません(第92条)。たとえば、減給の制裁を平均賃金の半額を超えて定めても、上限を超える部分は認められません。モデル就業規則を使うときも、法改正に合わせて条文を見直します。
届出と周知の進め方
常時10人以上の事業場では、就業規則を作成または変更したら、所轄の労働基準監督署長に届け出ます。手順は次のとおりです。
- チェック表で記載事項を決め、モデル就業規則を参考に規則の案を作る
- 過半数労働組合、または過半数代表者の意見を聴き、意見書を作る
- 規則と意見書を労働基準監督署に届け出る
- 掲示や書面の交付などで労働者に周知する
届出の様式や電子申請の可否は、労働基準監督署の案内に従います。この記事では様式番号などを扱っていません。過半数代表者の選び方にも決まりがあるので、労働基準監督署で確認してください。
紙・Excelで続かないときは
就業規則に始業・終業の時刻や休日を書いても、実際に誰がいつ働いたかの記録がなければ、賃金の計算や深夜割増の確認ができません。紙のタイムカードや出面帳は、集計の手間が大きく、作業が遠い圃場に分散する農場では記入漏れも出ます。
当社が提供しているミノリスタイマーは、作業の開始・終了・休憩をスマートフォンで記録する無料アプリです。
- 作業の開始と終了、休憩をボタンひとつで打刻できる
- 休憩所のタブレットに打刻用のページを開いておけば、ログインなしで打刻できる
- 作業時間を人ごとに集計できる
- 作業時間をCSVで出力できる
就業規則の作成や、労働基準監督署への届出の機能はありません。賃金の計算や賃金台帳の作成にも対応していないので、賃金は給与計算ソフトや帳簿で管理してください。法令への適合を判断する機能もありません。栽培の記録は、同じミノリスシリーズのミノリス日誌で付けられます。
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初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
家族だけで経営していますが、就業規則は必要ですか?
同居の親族だけを使う事業には、労働基準法は適用されません(第116条第2項)。就業規則の作成義務も生じません。家族以外の人を1人でも雇った時点で労働基準法の対象になるので、常時10人未満でも、雇用契約書と就業規則の整備を考えてください。
従業員が10人未満でも就業規則を作ってよいですか?
作成できます。厚生労働省の資料も、10人未満であっても作成が望まれるとしています。届出の義務はありません。ただ、第90条の意見聴取や第106条の周知は、作る場合も同じ手順で進めると後でもめにくくなります。
パートや季節雇用の人にも同じ就業規則が適用されますか?
適用範囲は、就業規則で決めます。正社員と労働条件が違うなら、パート用の規則を別に作るか、条文ごとに適用する人を書き分ける方法もあります。パート・有期雇用の人に関わる規則では、その人たちの代表の意見も聴くよう努める定めです(パートタイム・有期雇用労働法第7条)。
モデル就業規則をそのまま使ってもよいですか?
モデル就業規則は規程例です。令和7年12月の版が厚生労働省のサイトに掲載されています。農業では労働時間・休日の条文を、適用除外や季節ごとの作業時間に合わせて書き換えてください。
就業規則を変えたら、また届け出るのですか?
常時10人以上の事業場では、変更したときも労働基準監督署長への届出が必要です(第89条)。意見を聴いた書面も添えます。変更後は、あらためて全員に周知してください。
届出をしないと、就業規則は無効になりますか?
届出を怠った場合の効力について、この記事では断定しません。労働契約法第7条は、就業規則を労働者に周知していることを、労働契約の内容になる要件の一つにしています。周知は届出とは別に済ませてください。
まとめ
就業規則の記載事項は、労働基準法第89条が定めています。始業・終業の時刻、休憩、休日、休暇、賃金、退職は必ず書き、退職手当や安全衛生、表彰・制裁などは制度を設けるなら書きます。農業は労働時間・休憩・休日の規定の適用除外です。ただし記載事項の義務は残り、深夜の割増賃金と年次有給休暇の規定も農業に適用されます。
常時10人以上の事業場では、意見聴取、届出、周知の3つの手続きも必要です。チェック表で決めた内容を整理し、厚生労働省のモデル就業規則を参考に規則を作ってください。直売所や加工場がある法人、技能実習生を受け入れる農場は、適用除外の範囲を社会保険労務士や労働基準監督署に確認してから条文を決めます。
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