なしの摘蕾・摘果マニュアル|時期と着果基準を品種別に

なしの摘蕾・摘花・摘果は、貯蔵養分を果実の初期肥大と新梢の展葉に回し、翌年の花芽も確保する作業です。全国の時期は、開花前の3月下旬〜4月中旬の摘蕾から始まり、予備摘果が満開後7日〜3週間、本摘果が満開後30〜50日、仕上げ摘果が満開後50〜80日と続き、7月に着果量を見直す県もあります。佐賀県の果樹試験場は、摘蕾・摘果を早く終えた樹は果そう葉が満開後40日ごろまでに成葉になり、新梢が満開後70日ごろに伸長を止めると書いています(佐賀3)。

いちばん大事な点は、早く、段階を踏んで、品種ごとの基準に合わせることです。佐賀県は、1果そう2花に授粉しても結局5分の1ほどに摘果が必要になると書いています(佐賀3)。福井県の最終着果量は、幸水が1㎡あたり10果、豊水が12果です(福井2)。一方、品種によっては早すぎる摘果が障害を増やします。鳥取県の試験では、新甘泉は満開後40日ごろからの摘果で変形硬化症状が減り、王秋は受粉22日後の早い粗摘果と1mあたり8果の着果でコルク状障害が減っています。

この記事は20都道府県の公的資料28本から、時期と着果基準の数値を拾って組み直しました。表と図は転載していません。数値には資料IDを「(福井2)」のように付けています。基準日は資料ごとに満開後、落花後、受粉後と違うので、表では資料の書き方のまま載せています。

時期の目安

表は、暖地から寒冷地へ、おおよそ作業の早い順に並べています。「満開後」と書いてある日数は資料のとおりです。

地域・県 品種 作業 時期の目安 出典
九州 熊本 秋麗 除芽(せん定後の花芽整理) 3月ごろ(開花前) 熊本5
九州 熊本 あきづき 摘蕾、または早期の予備摘果 摘蕾か、満開後15日以内。満開10日後は果実が小さく摘みにくい 熊本7
九州 熊本 甘太 予備摘果、本摘果 満開約20日後、満開40日後(白一重袋は50日後) 熊本22
九州 長崎 幸水 粗摘果、仕上げ摘果 4月中旬、5月上旬 長崎1
九州 長崎 幸水以外 粗摘果、仕上げ摘果 4月下旬、5月中旬 長崎1
九州 佐賀 全般 摘蕾、摘果 摘蕾は開花前。摘果は授粉2週間後に判断を始め、開花後30日までに適正着果量にする 佐賀3
九州 佐賀 全般 仕上げ摘果、修正摘果 仕上げは満開後70日ごろまで。幸水の修正摘果は満開後100日近くまで遅らせる 佐賀5
四国 高知 全般 摘花、摘果、最終摘果 摘花は4月、摘果は5月、最終摘果は6月 高知2
中国 山口 二十世紀 摘果(第1回)、仕上げ 交配15日後ごろから開始。仕上げは5月 山口1
中国 山口 幸水・豊水 予備摘果、仕上げ摘果、再点検 満開3週間ごろまで、満開45日ごろまで、7月上旬に再点検 山口1
中国 鳥取 新甘泉 摘果の開始 満開40日ごろから 鳥取19
近畿 兵庫 なしおとめ 摘蕾、摘花、摘果 摘蕾は4月中旬、摘花は4月下旬、摘果は二十世紀の通常(5月中旬)より早く 兵庫4
近畿 三重 筑水 予備、本摘果、仕上げ 満開15日後、30日後、80日後(5県の共同検討) 三重2
北陸 福井 幸水・豊水ほか 1次摘果、2次摘果 開花後1週間〜10日から1果そう1果。2次は遅くても満開後50日まで 福井2
北陸 新潟 二十世紀 摘果 結実確定後に速やかに(満開20日ごろ) 新潟1
中部 岐阜 全般 摘らい、摘果 3月下旬、5月上旬(図から読み取り) 岐阜1
中部 山梨 全般 摘花、摘果 4月、5月(図から読み取り) 山梨1
関東 埼玉 全般 摘果 4月末〜5月(図から読み取り) 埼玉1
関東 千葉 幸水・豊水 摘蕾、予備、本、仕上げ 4月、5月、6月、7月(図から読み取り) 千葉1
東北 宮城 幸水・豊水・二十世紀ほか 摘蕾、摘果、仕上げ 摘蕾は開花前のつぼみが白くなり始めるころ。摘果は受粉3週間ごろまでに1果そう1果、45日ごろまでに仕上げ 宮城1
東北 青森 幸水 予備摘果、仕上げ摘果 落花5日後ごろから、仕上げは落花15日後ごろから始め遅くとも25日後まで 青森1

やり方(標準の手順)

資料に共通する流れは、摘蕾→摘花→予備摘果→本摘果(仕上げ)→見直しの順です。

  1. せん定のころに花芽を整理します。短果枝のしょうが芽は元に近いところで切り返して1〜2芽にし、腋花芽は下向きや弱い花芽をかき取ります(福井2)。花芽の数を減らすと、あとの摘果の手間が減るからです。
  2. 開花前に摘蕾します。主枝・亜主枝・側枝の先端1〜2芽の蕾はすべて取ります。福井県は、これで着果管理の労働時間が約3割短くなると書いています(福井2)。佐賀県は、予備枝の花芽はすべて、短果枝は1花芽に、突出した花芽(子花)も取ると書いています(佐賀3)。蕾の横の幼葉を傷つけないでください。葉が傷むと果実の生育に響きます(福井2)。
  3. 摘蕾が間に合わなかった分は、摘花で補います(福井2)。摘蕾をした樹は人工受粉をしないと着果不足になるおそれがあります(福井2)。受粉は1果そうに1花だけにすると、あとの摘果が楽になります。
  4. 授粉後の着果を確かめてから、予備摘果で1果そう1果にします。福井県は、大玉になる素質(果実の細胞数)が満開後30日ほどで決まるので、特に生育期間の短い幸水は1次摘果の適期実施が必須としています(福井2)。
  5. 残す果実を選びます。形がよく大きく、軸が太くて長く、斜め上向きか横向きの果実です。番果は2〜4番果から選び(長崎1、青森1)、福井県は3〜5番果を挙げています(福井2)。
  6. 本摘果で、品種の基準の着果量に近づけます。福井県は側枝で20cmに1果を目安にしています(福井2。同じ資料の別の頁には15cmに1果ともあります)。
  7. 落果や裂果、病害虫の被害がはっきりしてから、最終の仕上げと見直しをします(後述)。

摘果の目的は「素質のよい果実を選んで初期肥大を良くすること」と「貯蔵養分の浪費を防いで樹の初期生育を進めること」で、早いほど効果が高いと福井県は書いています(福井2)。人手を確保して、早生品種から計画的に進めてください。

残す果実と摘む果実

  • 残す果実は、肥大と形がよく、軸の長い、斜め上向きか横向きのものです(佐賀3、福井2)。青森県は、2〜4番果のうち肥大と形のよい1果を残すとしています(青森1)。
  • 摘む果実は、子持ち花の果実、変形果と傷果、上向きの果実(特に豊水)です(福井2)。青森県は、主枝・亜主枝の延長枝、枝ずれを起こす位置、上向きの果実もすべて摘果としています(青森1)。
  • 長崎県は、仕上げ摘果で小玉果と変形果を中心に摘み、子花果と葉のない短果枝の果実も摘除としています(長崎1)。
  • 主枝・亜主枝の先端から1mは着果させない、と山口県は書いています(山口1)。
  • 二十世紀では、最初の摘果で果形の判断が難しいときは2果残す方法が山口県の資料にあります(山口1)。

品種による違い

着果基準は、品種、樹齢、単位(1㎡、側枝1m、10aあたり)によってばらばらです。同じ単位で比べられるものを下の表にまとめました。試験の値は試験の値と書いています。

県 品種 着果基準 備考 出典
福井 幸水、豊水 1㎡あたり10果、12果。側枝で15〜20cmに1果 最終摘果数の目安 福井2
秋田 幸水 1㎡あたり12〜13果(日当たり良好、樹勢やや強、葉数多)。3果以下(日当たり不良、樹勢やや弱、葉数少) 条件で4倍近く違う 秋田1、秋田2
青森 幸水 3〜4頂芽に1果 頂芽の数で数える方式 青森1
三重・千葉・埼玉・栃木・秋田 筑水 1㎡あたり8〜12果。三重12(目標果重280g)、千葉10(300g)、埼玉10(300g)、栃木8(300g)、秋田8(280g) 5県の共同検討。着果量の差は糖度や硬度に影響しなかった 三重2
宮城 幸水・豊水、二十世紀、新水・南水 10aあたり14,000個、18,000個、11,000個 1993年の指針 宮城1
山口 幸水、豊水、二十世紀 10aあたり約10,000果、約12,000果、約11,000果 生産目標の着果数 山口1
山口 愛甘水 10aあたり8,000果程度 着果過多で低糖度になる 山口1
長崎 幸水、豊水、あきづき、新高 10aあたり10,000果、10,000果、8,000〜9,000果、6,000果 収量の目安の前提 長崎1
熊本 秋麗 側枝1mあたり4果 本摘果後の適正着果数 熊本5
熊本 甘太 側枝1mあたり3〜5果 試験の値。5果は満開100日後ごろから肥大が鈍り、600g以上の大玉の割合が低い 熊本22
鳥取 新甘泉 着果枝長1mあたり8果 試験の値。糖度13度以上を安定して確保できる量。10果では年により13度に届かず、6果では収量が少ない 鳥取18
鳥取 王秋 現行基準は1mあたり5〜6果 試験では8果のほうがコルク状障害が少なかった 鳥取17
福島 甘太、王秋(ジョイントV字) 3年目2,000〜3,000果、4年目4,000〜5,000果、5年目以降8,000果(10aあたり) 側枝1本あたり約5果/m。1〜2年目は着果させない 福島3、福島4
長野 幸水(ジョイント) 2年目に2果/㎡程度、3年目から3〜4果/㎡(約1t/10a) 樹冠が埋まるのに合わせて徐々に増やす 長野2

長崎の「収量の目安」は、幸水が10,000果×350g、豊水が10,000果×400g、あきづきが8,000〜9,000果×450〜500g、新高が6,000果×800gです(長崎1)。

筑水の共同検討では、各県の基準に葉果比と葉面積指数も載っています。葉果比は千葉85、栃木75、三重40、秋田100、葉面積指数は2.6〜3.0の範囲です。県で値が大きく違い、資料の図表には葉果比の単位の説明が見当たらないので、参考にとどめ、自分の園では葉の量を見て決めてください(三重2)。

品種ごとの注意

  • あきづきは、果軸が短いので、上向きの果実は収穫直前に軸折れするおそれがあり、横向きを残します(佐賀3)。長崎県は、葉のない短果枝が多いので、着果数を確保するために「葉のない短果枝、葉のある長果枝、葉のある短果枝」の順で摘むとしています(長崎1)。熊本県は、摘蕾(1花叢1花)か満開15日以内の予備摘果で、コルク状果肉障害が減り、果実も大きくなると報告しています(熊本7)。
  • 秋麗は着果が非常に多く、大玉には早い予備摘果が要ります。せん定後の3月ごろに側枝1mあたり花芽を6芽残して除芽すると、予備摘果の時間が短果枝側枝で48%、長果枝で26%減りました。4芽まで減らすと、本摘果で果実を選べなくなります(熊本5)。
  • 新甘泉は、摘果を早くすると変形硬化症状が増えるので、満開後40日ごろから始めます。ただし結実が極めて良好な年や、花芽の確保に苦労する園では、予備摘果の開始が遅くなりすぎないようにします(鳥取19)。
  • 王秋は、受粉22日後の早い粗摘果と1mあたり8果で、コルク状障害の発生率が早期・4果区の49.0%から早期・8果区の22.3%に下がりました。果重は4果区が大きい(809g対700g)ので、障害の多い園では着果をやや多めにします。試験の値です(鳥取17)。
  • 秋甘泉・秋栄・おさゴールドは自家和合性で、受粉は楽な反面、摘果の手間が増えます。せん定時に花芽を1mあたり8芽まで除芽して8果を着けると、摘果の時間が短くなりました。4芽まで減らして8果を着けると、秋栄でみつ症が増え、袋かけも難しくなります。秋甘泉の長果枝には除芽をしないほうが良いとされています(鳥取28)。
  • なしおとめ(但馬1号)は、4月中旬の摘蕾、4月下旬の摘花をして、二十世紀の通常の摘果時期(5月中旬)より早く間引きます(兵庫4)。
  • ジョイント栽培の若木は、早く着果させすぎないことが大切です。福島県は1〜2年目は着果させず、側枝を養成するとしています(福島4)。長野県も、早期の着果過多に十分注意するよう書いています(長野2)。

県によって違うところ

  • 日数の基準日 満開後(山口、熊本、三重)、開花後(福井、佐賀)、落花後(青森)、受粉後(宮城、鳥取)が混ざっています。比べるときは同じ基準日に直してください。
  • 予備摘果の早さ 福井は開花後1週間〜10日、熊本のあきづきは満開15日以内、三重は満開15日、山口は満開3週間ごろ、熊本の甘太は満開20日、鳥取の新甘泉は満開40日と、品種の障害の出方で開始日が大きく違います。早いほど大玉と初期肥大に有利ですが、新甘泉は逆に早い摘果が変形硬化果を増やしました(鳥取19)。
  • 仕上げの終わり 福井は2次摘果が満開後50日まで、山口は45日ごろ、佐賀は70日ごろ、三重は80日です。
  • 着果量の数え方 1㎡、側枝1m、頂芽数、10aあたりの個数と、県で単位が違います。栃木の筑水は目標果重300gで8果/㎡、三重は280gで12果/㎡と、同じ品種でも目標果重と気象条件で変わります。資料も、土質や日照などの地域条件に留意するよう書いています(三重2)。
  • 幸水の裂果対策 山口は幸水の予備摘果を裂果対策として早めに進めます(山口1)。佐賀は幸水の修正摘果を満開後100日近くまで遅らせて、曇天のあとの急な肥大による裂果を避けます(佐賀5)。早くやる作業と遅らせる作業が、同じ品種で別々にあります。

見直し摘果と遅れたときの影響

見直し摘果は、仕上げ摘果のあとに、傷果や小玉果、病害虫の被害果を取り除いて着果量を整える作業です。山口県は7月上旬に結果量を再点検し、小玉果、変形果、病虫害果を摘んで最終の仕上げとしています(山口1)。福井県は、キズ果や極端な小玉果を早めに摘むよう書く一方、落としすぎると樹勢が乱れるので、着果数が極端に少なくなりそうなときは傷果でも残すとしています(福井2)。

裂果が出たときは、程度にもよりますが、すぐ摘むと周りの果実の裂果を助長するので、すぐには取らないと福井県は書いています。黒星病で裂けた果実は取り除きます(福井2)。

摘蕾・摘果が遅れると、次のことが起こります。

  • 貯蔵養分が果実の肥大に使われて、いったんは急に肥大しますが、展葉が遅れて新梢の伸びも鈍り、6月以降の肥大が鈍って結果的に小玉になります。7月に大雨があれば裂果が増え、新梢が遅くまで伸びるので花芽分化が遅れ、翌年の生産にも響きます(佐賀3)。
  • 摘果が遅れると、翌年に盲芽になりやすくなります。早く摘果すると花芽の着生率が上がります(佐賀3)。鳥取県も、摘果の遅れで着果負担が大きくなり、翌年の花芽着生に影響するおそれがあると書いています(鳥取19)。
  • 着果過多は、短果枝が中間芽になって花芽の確保を難しくします(鳥取18)。熊本県の試験では、あきづきの予備摘果が満開30日以降だと、摘蕾や満開15日以内の予備摘果より果実が小さく、コルク状果肉障害も多い傾向でした(熊本7)。
  • 摘果が遅い満開60日後の園では果実どうしが密着して、摘果に時間がかかりました(鳥取19)。
  • 開花が早まった年は、管理暦の「4月上旬」などに頼ると適期を逃します。佐賀県は、満開後の日数に応じて作業するよう勧めています(佐賀7)。

失敗しやすい点・注意

  • 低温(15℃以下)が予想される日は、授粉を控えるよう佐賀県は書いています。一度受精した花には再度の授粉が効かないので、摘蕾をした園は、授粉のタイミングを合わせないと着果が足りなくなります(佐賀3、福井2)。
  • 摘蕾や摘果の作業で、蕾の横の幼葉を傷つけると果実の生育に悪影響があります(福井2)。
  • 果梗に塗る植物生長調整剤の処理は、2次摘果を終えてから行います(福井2)。使う前に最新の県の防除暦と農薬登録(FAMIC 農薬登録情報提供システム https://pesticide.maff.go.jp/ )を確認してください。
  • 黒星病の果実や葉は、摘果のときに一緒に取り除きます(福井2)。

作業の前後とつながり

参考URL(出典)

なしの栽培マニュアル(目次)に、ほかの作業のページをまとめています。