なしの袋かけマニュアル|小袋・大袋の時期、袋の種類、無袋栽培の品種

なしの袋かけは、幼い果実に紙の袋をかぶせて、病気・害虫・果面のさびやアザ・外観の傷みから守る作業です。袋は2段階でかけるのが基本で、二十世紀では5月ごろに小袋、6月ごろに大袋をかけます。一方で幸水・豊水・あきづきのように、無袋で栽培する品種や県も多くあります。

要点は3つです。第一に、時期は小袋が受粉後15〜30日から満開1か月後(宮城1・山口1)、大袋が小袋の約25日後から6月中〜下旬(山口1・宮城1)で、新高では高知が「遅くても6月中旬まで」、福井は新興と二十世紀の大袋を「6月上旬までに完了」としています(高知2・福井2)。第二に、袋をかける前に摘果を終え、病害虫の防除をしておきます。袋の中に病原菌や虫を閉じこめないためです(宮城1・島根3)。第三に、袋かけの回数は省力化のため減らす方向にあり、鳥取は2回を1回にする半無袋栽培を進め、兵庫の但馬1号は小袋を省いて満開30日後に大袋だけをかけます(鳥取10・兵庫4)。

この記事は19都道府県の公的資料26本から、袋かけに関わる記述を拾ってまとめました。資料の多くは病害虫の防除指針や栽培暦で、袋かけだけを主題にした資料は少ないため、記述のない項目(たとえば除袋の時期)は「資料に記載なし」と書いています。

時期の目安

資料に時期が書かれていた県と品種を、袋の種類ごとに並べました。表の「満開後」「受粉後」は、資料の書き方のままです。

県 品種 袋の回数と時期 出典
佐賀 ナシ(防除暦) 防除暦の区切りが、小袋掛け前=4月下旬、小袋掛け後=5月上・中旬、大袋掛け前=5月下旬。袋かけの作業日そのものの記載ではない 佐賀2
京都 二十世紀 摘果・小袋かけは5月、大袋かけは6月(図から読み取り) 京都1
宮城 二十世紀 小袋は受粉後15〜30日(防除の項では落花15〜20日ごろまで)。大袋は6月中旬〜下旬 宮城1
山口 二十世紀 小袋は満開1か月後を目途(5月)。大袋は小袋の25日後を目安(6月) 山口1
鳥取 なつひめ(試験) 小袋は5月下旬、大袋は6月中旬(試験の値) 鳥取32
鳥取 おさゴールド(特別栽培の防除暦) 袋掛け期は6月25日頃 鳥取12
東京 平棚栽培 袋かけは6月上旬〜中旬(図から読み取り) 東京1
福井 新興・二十世紀 新興の袋かけと二十世紀の大袋かけは6月上旬までに完了 福井2
兵庫 但馬1号(なしおとめ) 小袋は省略。満開30日後に黄色の大袋のみ 兵庫4
高知 新高 5月と6月に摘果・袋かけ。袋かけは遅くても6月中旬までに終える 高知2
長崎 新高 5月中旬〜6月上旬に大袋1回がけ。輪紋病が多発する園は小袋・大袋の2回 長崎1
熊本 甘太 満開約20日後に予備摘果、40日後に本摘果、50日後に白一重袋 熊本22

宮城1は1993年、京都1は2000年の資料で、品種構成や袋の資材は現在と違う可能性があります。また、時期の表は県の資料に書かれた県・品種だけで、袋かけを行う全県を網羅したものではありません。

暖地から寒冷地へ見ていくと、早い県では4月下旬に小袋掛けの準備(防除)が始まり(佐賀2)、東北の宮城は大袋が6月中〜下旬までずれます(宮城1)。ただし、満開の時期も年によって動くため、暦の日付ではなく「満開(受粉)から何日目か」で合わせるほうが確実です。熊本は日数で、山口は満開1か月後・小袋後25日という日数で示しています。

やり方(標準の手順)

袋かけの目的

資料が挙げる目的は、大きく4つです。

  • 黒斑病を防ぐ。黒斑病は二十世紀の最重要病害で、小袋・大袋をかけて果実を保護するのが普通です(島根3)。宮城は大袋の目的を、黒斑病とハマキムシ類の食害を防ぐことだとしています(宮城1)
  • 輪紋病・心腐れ症を防ぐ。福岡は、輪紋病は無袋の幸水・豊水で被害が大きく、発病の多い園では有袋栽培にするとしています(福岡2)。愛知は、心腐れ症を防ぐために、できるだけ早く袋かけをするとしています(愛知2)
  • 虫害を減らす。福岡はナシヒメシンクイの被害が袋かけで軽くなり、ナシホソガは無袋栽培の重要な害虫だとします(福岡2)。栃木は、有袋栽培ではカメムシ類に対して早めに袋がけをするとしています(栃木3)
  • 果面を整える。宮城は、二十世紀は果実にさびが出やすく肌が荒れるが、小袋をかけると外観がきれいになるとしています(宮城1)。京都は、無袋でも栽培できるが果実の外観が落ちて評価が低いとしています(京都1)。福井は、新興でも袋かけで虫害果や傷果が減り、秀品率の向上につながるうえ、袋の数で着果数を管理できるとしています(福井2)

袋が効くのは、病害虫に限りません。熊本の甘太は、白一重袋をかけた果実は無袋より糖度が高くなります(熊本6)。袋をかけると果実表面からの水分の蒸散量が増え、果汁が濃縮されることが理由とされています。

手順

  1. 仕上げ摘果(修正摘果)を、小袋かけの前に終えます。宮城は、袋かけに先立って仕上げ摘果を終わらせるとし、二十世紀では受粉後14〜15日から仕上げ摘果を始め、小袋をかけるときに修正摘果をします(宮城1)。袋をかけてからは果実が見えにくく、着果数の調整がしにくくなるためです
  2. 袋をかける前に、病害虫の防除をします。宮城は、袋は防菌袋を使い、小袋をかける前に十分に防除して、すぐに袋をかけるとしています(宮城1)。大袋の前にも防除をして、袋の中に病原菌を包みこまないようにします(宮城1)。山口は、交配後・袋かけ前・梅雨期・梅雨明け・収穫後を重点防除の時期にしています(山口1)。薬剤を使う前に、最新の県の防除暦と農薬登録(FAMIC 農薬登録情報提供システム https://pesticide.maff.go.jp/ )を確認してください
  3. 小袋をかけます。宮城は、袋は14切のパラフィン袋またはワックス袋を使うとしています(宮城1)。早くかけると果実の肥大はよくなりますが、仕上げ摘果の時期が狭まり、変形果も増えます(宮城1)。小袋掛けの時期に雨が多い年は、黒点(アザ果)が出やすくなるため、山口は早めの小袋掛けを勧めています(山口1)
  4. 小袋の約25日後に、大袋をかけます(山口1)。二十世紀や新水などの赤なしに行います(宮城1)。小袋だけで済ませる、あるいは大袋だけをかける省略型は、あとの章に書きます
  5. かけたあとに、袋の破れや外れを点検します。宮城は、有袋でも袋の破れ目や、果実と袋の接触面から、ナシヒメシンクイが食い入ることがあるとしています(宮城1)。破れた袋は、早めにかけなおします
  6. 収穫のときに袋を外し(除袋)、使った袋と落ちた袋は園に放置せずに処分します。福岡は、ナシヒメシンクイが粗皮の隙間や放置されたナシ袋の隙間で越冬するため、放置袋の処分を越冬幼虫の密度抑制の手段に挙げています(福岡2)。佐賀も、心折れの被害枝・被害果と、使用した袋は早く焼却するとしています(佐賀2)。除袋の時期自体は、東京が図で収穫と同じ区間(除袋・収穫は8月中旬〜10月中旬)に示すだけで、他の県の資料には記載がありません(東京1)

袋の種類

資料に出てくる袋は次のとおりです。

  • 小袋: 宮城は14切のパラフィン袋またはワックス袋(宮城1)
  • 大袋: 宮城は、防菌防虫処理をしたパラフィン紙とロール紙、またはハトロン紙の合わせ袋で、遮光率の高い袋は果実品質を下げるので避けるとしています(宮城1)。兵庫の但馬1号は黄色の大袋です(兵庫4)
  • 白一重袋: 熊本の甘太で使います(熊本6)
  • 鳥取園芸試験場の令和7年度の試験(試験の値): 新甘泉の収穫期拡大のため新聞袋と褐色一重袋をかけると、無袋より収穫始めが1週間ほど早まりました。ただし新聞袋は遮光率が高く、白熟れになるため実用性は低いとされています。鳥園Lと甘太では、鳥園Lの外観は袋による差が小さく、糖度は褐色一重袋と無袋が白パラ袋と改良合わせ袋より高くなりました。甘太の外観は、袋によって大きく異なりました(鳥取38)
  • 日焼け果の対策として、新甘泉でチタン袋が効果的ですが市販されておらず、代わりの新聞袋は同等の効果でした。王秋のコルク状果肉障害を減らそうと遮光率が高い袋5種類をかけた試験は、どれも低減効果がなく、糖度が下がり白熟れもしたので実用性は低いとされています(いずれも試験の値、鳥取38)

品種による違い

袋が必要かどうかは、黒斑病に弱いか、外観を何で売るか、で決まります。資料の記述を品種別に整理します。

袋の扱い 品種・県 出典
小袋・大袋の2回が通常 二十世紀(鳥取・山口・島根・宮城・京都)。鳥取はこれを1回に減らす半無袋・網掛けを進めている 鳥取10・山口1・島根3・宮城1・京都1
大袋1回が必要 ゴールド二十世紀。山口は外観をある程度のレベルにするため、大袋1回が必要としている。鳥取の経営指標では網掛け・小袋1回 山口1・鳥取10
小袋を省略 但馬1号(なしおとめ)。小袋を省いて満開30日後の黄色大袋のみでアザが少ない 兵庫4
半無袋が可能 夏さやか。果皮の仕上がりが良く、半無袋栽培が可能 鳥取2
有袋が前提 甘太(熊本)。晩生で病害虫防除のため有袋が前提。新高は高知・長崎とも有袋で、長崎は大袋1回 熊本6・高知2・長崎1
有袋・無袋の両方がある 新甘泉(鳥取の経営指標には有袋、ジョイント・有袋、ジョイント・網掛け・無袋の3つ)。王秋(有袋)。おさゴールド(有袋) 鳥取10・鳥取33
できるだけ袋をかける 新興(福井)。虫害果・傷果が減り、秀品率が上がる 福井2
無袋で栽培 幸水・豊水・あきづき(長崎。広島の経営指標も幸水・豊水を無袋としている)。富山の推奨品種の調査はすべて無袋 長崎1・広島1・富山1
袋なしでも栽培できる 新美月・新王(新潟)。黒斑病抵抗性があり、自家和合性で人工受粉も要らない 新潟2

幸水と豊水は黒斑病に強く、山口は幸水を、無袋栽培が可能な品種としています(山口1)。そのかわり無袋では、輪紋病・黒星病・カメムシ類に特に注意が必要です(長崎1)。大分も、無袋の幸水・豊水は、収穫前の黒星病と輪紋病が年によって問題になるとしています(大分3)。

なお、新潟の西洋なしル レクチエは、田植え後の6月上旬の袋掛けが栽培管理の重要なポイントとされています(新潟2)。日本なしとは別の作業になるため、この記事の時期の表には入れていません。

県によって違うところ

袋かけの時期を、日数で書く県と月で書く県があります。宮城の資料でも、栽培の項は「受粉後15〜30日」、防除の項は「落花15〜20日ごろまで」と幅が違います(宮城1)。これは、仕上げ摘果を終える日と、病気の感染を避けたい日という目的の違いがあるためと読めますが、資料には理由の説明がありません。実際には、自分の園の満開日から数えて、地域の防除暦と合わせて決めるのが安全です。

大袋を省く、小袋を省く、袋を減らす方向でも、県ごとの考え方が分かれます。

  • 鳥取は、袋掛け回数削減栽培(半無袋、大袋1回など)と網掛け施設を進めています。目的は、袋掛けや収穫の作業人夫の確保が課題になっているための省力化です(鳥取10)。同じ資料の意向調査では、無袋栽培に取り組みたい農業者が48名で、ジョイント栽培の45名、網掛け栽培の34名を上回ります(鳥取10)
  • 兵庫は但馬1号で、小袋を省いて満開30日後に黄色大袋だけをかける方法を示しています(兵庫4)
  • 長崎の新高は省力化のため大袋1回がけです。ただし輪紋病が多発する園では、小袋・大袋の2回にします(長崎1)
  • 鳥取の令和7年度の試験では、大袋を省くため中袋をかけ、破袋してくる時期に果面保護剤を散布すると、中袋だけの果実よりアザが抑えられました(試験の値、鳥取38)

無袋にする県は、袋のかわりの対策が必要です。山口は、無袋栽培では吸蛾類の被害を受けやすいため、防蛾ネットか防蛾灯を勧めています(山口1)。長崎は、LED防蛾灯で無袋栽培の品質向上と省力化を図るとします(長崎1)。福岡は、果実吸蛾類に目合い8mm以下の防除網や黄色蛍光灯、栃木はカメムシ類に目合い4mm以下の防災網を挙げています(福岡2・栃木3)。ネットの目合いは、虫の種類によって決まります。

ナシヒメシンクイについて、熊本は、果実を食べるのは8月以降の第4〜5世代で、無袋・晩生の品種で多いとしています(熊本15)。福岡も、7月以降の第2〜3世代が果実を加害するとしており、袋をかけた果実と無袋の果実で、危険な期間が違います(福岡2)。コナカイガラムシは逆で、福岡は無袋にすると果実の被害がほとんどなくなるとし、島根も果実の被害は有袋栽培で多く、無袋では問題にならないとしています(福岡2・島根10)。

失敗しやすい点・注意

  • 袋かけが遅れる。資料は「遅れるとどの障害が何割出る」とは書いていませんが、「早めに」と指示している病害虫が複数あります。黒斑病(福岡2)、輪紋病(福岡2)、心腐れ症(愛知2)、ナシヒメシンクイ(福岡2)、カメムシ類(栃木3)です。島根は、黒斑病の胞子が小袋かけまでに多いと、胞子のついた幼果を小袋で包みこみ、発病して落果する果実が多くなるとしています(島根3)。小袋をかける日が延びるほど、袋の中に胞子が入るおそれが増えると読めます
  • 防除をしないで袋をかける。福岡は、黒斑病は袋かけ前が小雨・高温・多照の気象条件でも、防除を怠ると多発することがあるとします(福岡2)。コナカイガラムシも、袋の中に入られると防除が困難なので、その前に防除します(福岡2)。袋の中にナシヒメシンクイやコナカイガラムシがいたまま袋をかけると、守るはずの袋が虫の隠れ場所になります
  • 雨による感染。大分は、黒星病は袋掛け後の果実でも、雨が果梗を伝って感染が起こるとしています。果実を対象にした防除は、袋掛け期までを徹底します(大分3)
  • 早すぎる被袋。熊本の甘太は、満開60日目以前に袋をかけると糖度は無袋より上がりますが、果実が小さく、日持ちが短くなります。満開80日目の被袋では、無袋との糖度差がありません。2017年は満開50日目の被袋で糖度15.4、無袋で13.1、1果重は463gと586g、さびの発生程度は26%と97%でした。2018年は満開40日目の被袋で糖度16.5、1果重448g、さび20%、満開80日目で糖度14.4、515g、さび57%でした(いずれも試験の値、熊本6)。早く袋をかけた果実は、収穫後に速やかに出荷する必要があります(熊本6)
  • 袋の破れ・接触。宮城は、袋の破れ目や果実との接触面から、虫が食い入ることがあるとしています(宮城1)
  • 遮光率の高い袋。宮城は果実品質を下げるとして避けるとし(宮城1)、鳥取の試験でも、新聞袋は白熟れになり、王秋の高温障害対策袋は糖度が下がりました(試験の値、鳥取38)
  • 小袋掛けの時期の天候(アザ果)。山口は、アザ果は小袋掛けの時期(5月中〜下旬)に雨が多い年に黒点症状が多くなるとし、早めの小袋掛けが有効だとしています。梅雨明け後が少雨で8月下旬に多雨の年に出る別型のアザ果には、摘蕾・摘果の徹底、土壌改良、排水対策で細根を増やす対策を挙げています(山口1)
  • 放置袋。使った袋や落ちた袋は、ナシヒメシンクイの越冬場所になるので、園内に置かず処分します(福岡2)

薬剤を使う防除の日程は、県の最新の防除暦と農薬登録(FAMIC 農薬登録情報提供システム https://pesticide.maff.go.jp/ )で必ず確認してください。この記事は、薬剤名・濃度・回数を扱いません。

作業の前後とつながり

袋かけの前には、摘蕾・摘果で着果数を決めておきます。摘果はなしの摘蕾・摘果マニュアル、授粉はなしの人工受粉マニュアルにまとめています。袋をかけたあとの収穫と除袋はなしの収穫マニュアル、袋かけの前後に必要な防除はなしの病害虫防除マニュアルを見てください。

ほかの作業の時期は、全国まとめ記事(なし栽培暦 全国まとめ)の年間作業表でも確認できます。マニュアルの全体はなしの栽培マニュアル 目次から探せます。

参考URL

なしの栽培マニュアル(目次)に、ほかの作業のページをまとめています。