病害虫の見回り記録(発生調査の記録)は、農薬を「いつ使ったか」ではなく、その前の「何が・どこに・どれだけ出ていたか」と「防除が必要だと判断した理由」を残す表です。防除日誌が散布の結果を書く記録だとすれば、見回り記録は散布するかどうかを決める過程を書く記録です。
結論から言うと、見回り記録は「毎回同じ場所で同じ株数を見て、何株に出ていたかを数字で書き、防除の要否と理由を一言添える」だけで役に立ちます。この記事では、国の総合防除(IPM)の指針での位置づけを確認したうえで、発生程度の付け方、各欄の書き方、よくある間違いを記入例つきで解説します。
病害虫の見回り記録の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
病害虫の見回り記録とは/なぜ必要か
総合防除の「判断」を記録に残す
植物防疫法にもとづく「指定有害動植物の総合防除を推進するための基本的な指針」(令和4年農林水産省告示第1862号)では、総合防除を次の3つの段階で説明しています。
- 予防:土壌診断に基づく施肥管理や健全な種苗の使用、作物残さの除去などで、発生と増加を抑える
- 判断:発生予察情報の活用や、ほ場の見回り等で農業者自らが発生状況を観察することにより、防除の要否と実施時期を判断する
- 防除:防除が必要と判断した場合に、適切な方法で駆除やまん延防止を行う
同指針の総論では、ほ場内を見回り、必要に応じて粘着シート等を設置して発生や被害の状況を把握し、都道府県の発生予察情報や過去の発生動向、作物の生育状況や気象予報などを踏まえて、防除の要否と時期を判断するとしています。見回り記録は、この「判断」の部分を書き残すための記録です。
見回りと記録が求められる場面
- 補助事業の「みどりチェック」:チェックシート(農業経営体向け)に「病害虫・雑草の発生状況を把握した上で防除の要否及びタイミングの判断に努める」という項目があります
- IPM実践指標:農林水産省の「IPM実践指標モデル(大豆)」では、ほ場を見回って病害虫の発生や被害を把握し防除の要否を判断すること、病害虫防除所の発生予察情報などを確認すること、病害の発生状況や農薬の使用を作業日誌に記録することが管理項目に挙がっています
- 都道府県の総合防除計画:植物防疫法にもとづき都道府県が定める計画に、農業者が守るべき事項が定められている場合があります。お住まいの県の計画を確認してください
防除日誌・防除暦との違い
散布した農薬の名前・量・回数は防除日誌(農薬使用記録簿)に、季節ごとの防除の予定は防除暦に書きます。防除暦には「やる防除」と「見て決める防除」がありますが、後者を実際に決めるときの根拠になるのが見回り記録です。
記入例
ハウスのトマトで、各畝10株・計40株を週1回見回った記入例です(数値は説明用の架空のものです)。

5月7日(第5花房開花)はコナジラミ類の成虫がいる株が40株中4株(10%)、黄色粘着板は12頭/枚で、発生程度は「少」。前回から増えていないので防除は不要と判断し、5月14日に再確認と書いています。同じ日に葉かび病が1株(3%)で「微」、病葉を取り除き換気を増やす対応です。1週間後の5月14日はコナジラミ類が14株(35%)、粘着板38頭/枚に増え、県の予察情報も「やや多い」だったため「要」と判断し、翌日に防除して「防除記録へ」とつないでいます。
書き方(項目ごと)
見回り日・生育ステージ
見回った日と、その日の生育の段階(例:第5花房開花、分げつ盛期、結球始め)を書きます。病害虫は生育ステージによって出やすさが変わるので、翌年の同じ時期を振り返るときの手がかりになります。
見た場所・株数
どこを何株見たかを書きます(例:各畝10株・計40株、ハウス入口側と奥側を各20株)。分母を書くことが大事で、これがないと「4株に出ていた」が多いのか少ないのか判断できません。発生しやすい場所(出入口や側窓の近く、風通しの悪い所)と、毎回決まった場所の両方を見ると比べやすくなります。
病害虫・雑草の名前
見つけたものを書きます。名前がわからないときは「葉裏に白い小さな虫」「下葉に黄色い斑点」のように特徴を書き、写真を撮って番号をメモしておきます。JAや普及センターに写真を見てもらうと確実です。
発生程度(無・微・少・中・多・甚)
県の病害虫防除所が行う発生予察の調査では、病害虫ごとに病斑の面積歩合、被害株率、被害茎率、株当たり虫数などを使い、便宜的に甚・多・中・少・無の5階級に分けるとされています(「発生予察事業の実施について」)。何を数えるかと、段階の区切りは病害虫ごとに決められています。
区切り方の一例として、兵庫県の生育・収量調査法(水稲)では、病害・虫害の種類ごとに程度と発生面積に応じて次のように分けています。
- 無:0%
- 微:1〜4%
- 少:5〜14%
- 中:15〜29%
- 多:30〜49%
- 甚:50%以上
自分の圃場で見る病害虫ごとに「何を数えて、どこで区切るか」を決めておくと、毎回同じ物差しで判断できます。テンプレートには、この目安を病害虫ごとに書いておく「発生程度の目安」シートがあります。
数えた結果
発生程度の根拠になった数字を書きます(例:成虫のいる株が4株(10%)、下葉に病斑1株(3%)、1株あたりアブラムシ20頭)。程度だけ書くより、あとで基準を見直すときに役立ちます。
粘着板・トラップ
黄色・青色の粘着板やフェロモントラップに付いた数を書きます(例:黄色板12頭/枚)。粘着板は交換日も書いておかないと、1週間分なのか2週間分なのかがわからなくなります。
防除の要否と判断の理由
防除するかしないかと、その理由を一言で書きます(例:不要。前回から増えていない/要。増加中で予察情報も多い)。「不要」と判断した記録も同じくらい大切です。防除を考える目安(要防除水準)は、県の防除指針や普及センターの資料で確認してください。
対応・次に見る日
したこと(病葉除去、換気、防除など)と、次の見回り予定を書きます。防除したときは日付と「防除記録へ」と書き、防除日誌と照らせるようにします。
記入用・記入例・発生程度の目安・発生予察情報の確認記録のシートが入ったExcel版は、ミノリスの病害虫の見回り記録テンプレートのページからダウンロードできます。
気をつけること・よくある間違い
「いた」「いない」だけを書く
数が書いていないと、増えているのか減っているのかがわかりません。見た株数と、そのうち何株に出ていたかを必ず書きます。
見回る場所や株数が毎回違う
先週は40株、今週は10株では比べられません。場所と株数を決め、目印を付けておきます。
発生程度の物差しが人によって違う
家族や従業員で分担すると、同じ状態でも「少」と「中」に分かれがちです。「発生程度の目安」を病害虫ごとに書いて共有し、迷ったら数字(株率・頭数)だけを書くようにします。
予察情報を見ていない
自分の圃場だけ見ていると、地域で急に増えている病害虫への備えが遅れます。都道府県の病害虫防除所が出す発生予報や注意報・警報・特殊報を見た日と内容も、記録に1行残しておきます。国の発生予報と各県の予察情報へのリンクは、農林水産省の「病害虫発生予察情報」のページにまとまっています。
防除した記録と見回りの記録がつながらない
見回り記録に「5/15防除」とだけあって、防除日誌に対象の病害虫が書かれていないと、効果があったのか振り返れません。防除後の見回りで、数がどう変わったかまで書いて1セットです。
防除後の効果確認をしない
散布して終わりにせず、数日〜1週間後に同じ場所・同じ株数を見て、減ったかどうかを書きます。効きが悪ければ、系統(作用機構)の違う薬剤に替える判断材料になります。
写真と記録が結びつかない
名前のわからない病害虫の写真は、撮ったらすぐ番号を表に書きます。後から見ても、どの日・どの場所のものかがわかるようにしておきます。
紙・Excelで続かないときは
見回り記録が続かない一番の理由は、ハウスや畑の中でノートを広げにくく、写真はスマホ、数字は紙、防除の記録は別のファイル、とばらばらになることです。
当社の無料アプリミノリス日誌では、作付けごとに観察メモと写真をその場で記録できます。「コナジラミ類 14/40株 黄色板38頭」のように数字をメモに書き、葉裏の写真を添えておけば、同じ作付けの防除・肥料・作業の記録と時系列で並びます。防除すると決めたら、登録農薬(農薬適用情報10万件以上)から選ぶだけで、使用回数と収穫前日数をその場で確認できます。圃場マップで圃場を切り替えながら記録することもできます。記録は栽培履歴としてCSV・Excelで出力できます。
一方、発生程度を自動で判定したり、予察情報を自動で取り込んだりする機能はありません。発生程度の物差しや予察情報の確認はテンプレートのシートで管理し、日々の観察と防除はアプリで残す、という使い分けがおすすめです。収支管理やGPSによる作業の自動記録にも対応していません。
見つけた病害虫を写真で残し、防除の記録とつなげる
ミノリス日誌なら、観察メモと写真を作付けごとに残せます。防除したら登録農薬から選ぶだけで、使用回数と収穫前日数をその場で確認できます。全機能0円です。
初期費用・月額0円/クレジットカード不要
よくある質問
どのくらいの頻度で見回ればよいですか?
作物・時期・病害虫によって違います。施設の果菜なら週1回、同じ曜日に見ると比べやすくなります。発生が増えやすい時期は間隔を短くします。なお、病害虫防除所が行う巡回調査は原則として月2回とされていますが、これは地域全体の発生を把握するための調査で、自分の圃場ではもっと短い間隔で見るのが一般的です。
防除日誌とはどう違いますか?
防除日誌は発生状況と実際の防除をあわせて書く記録、見回り記録は防除する前の「観察と判断」を詳しく残す記録です。防除した内容(農薬名・使用量など)は、防除日誌や農薬使用記録簿にも書いておきます。
要防除水準はどこで調べられますか?
都道府県の病害虫防除指針や、普及指導センター・JAの資料に載っていることがあります。設定されていない病害虫も多いので、その場合は前年の記録と予察情報をもとに、自分の判断基準を決めて書いておきます。
粘着板は必ず使うべきですか?
必須ではありませんが、コナジラミ類やアザミウマ類など、株を見るだけでは数えにくい小さな害虫の増減をつかむのに役立ちます。国の総合防除の指針でも、必要に応じて粘着シート等を設置して発生状況を把握することが挙げられています。
雑草も書いたほうがよいですか?
除草剤を使うかどうかの判断に使うなら、雑草の種類と覆っている割合を同じように書いておくと便利です。みどりチェックの項目も「病害虫・雑草の発生状況を把握した上で」となっています。
まとめ
病害虫の見回り記録は、総合防除の「予防・判断・防除」のうち判断を書き残す記録です。同じ場所で同じ株数を見て、何株に出ていたかを数字で書き、発生程度(無・微・少・中・多・甚)と防除の要否・理由を添える。予察情報を見た日も1行残し、防除したら防除日誌につなげ、数日後に効果を確かめる。この流れが回り始めると、「なんとなく散布」が減り、防除の回数と費用を見直すきっかけにもなります。
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