育苗管理表は、種をまいてから定植するまでの苗の温度、水、肥料、農薬、生育の様子を、日付ごとに残す表です。野菜のセル育苗にも水稲の箱育苗にも使えます。育苗管理表そのものの作成を義務づける法令は確認できませんでしたが、特別栽培農産物のガイドラインでは育苗期間も生産過程等に含まれ、育苗中に使った化学肥料や農薬は使用量や回数の計算に入ります。
この記事では、農林水産省の特別栽培ガイドラインのQ&Aと国際水準GAPガイドライン、千葉県などの水稲育苗の資料、長野県の果菜類の育苗温度の目安をもとに、記入例の読み方、項目ごとの書き方、発芽率の出し方、育苗中の農薬と肥料の扱いまでを、この順に取り上げる構成です。提出先のJA・部会・取引先・認証機関に指定の様式がある場合は、そちらを先に確認してください。
育苗管理表の無料テンプレート(Excel・PDF/記入例つき)
育苗管理表とは/なぜ必要か
作成が義務づけられた書類ではない
育苗管理表は、法令で書き方が決まった様式ではありません。農家が自分の育苗を振り返るために作る記録です。農業の現場では「苗半作」という言葉があり、千葉県などの水稲育苗の資料も、健全な苗を育てることが作柄だけでなく品質にも大きく影響すると述べています。
記録があると、発芽のそろいが悪かった年や、苗が徒長した年に、温度とかん水の管理をさかのぼって調べられます。来年の播種日や加温の期間も、今年の記録から決めやすくなる点も利点です。育苗中に使った農薬や肥料を、定植後の栽培履歴に転記する場面でも、元の記録が手元にあれば確認が早く済みます。
育苗中の農薬と肥料は記録と回数に入る
農林水産省の特別栽培農産物に係る表示ガイドラインQ&Aは、育苗期間も生産過程等にあたると説明しています。育苗培土に施用した化学肥料の窒素成分は、原則として使用量に数えます(Q10)。本圃での肥効を意図して培土に施した分は、使用量として計算するよう示されています。
種子や苗に使った農薬についても、Q12が扱っています。購入種苗に使われた農薬を含めて、すべて栽培管理記録簿に書き、節減対象農薬は使用回数に数える扱いです。ただし、節減対象農薬を使っていない種子や苗が入手しにくい作物では、入手以前に使われた農薬は回数に含めません。種子繁殖の作物は種子、栄養繁殖の作物は入手できる最も若い苗を基準に、その後の使用分を数えます。
購入したポット苗の培土に含まれる化学肥料が不明な場合は、その分を使用量に含めないとQ10に書かれています。苗の購入先に培土の肥料と使用した農薬を尋ねておくと、記録を埋められる範囲が広がるでしょう。
GAPでは種苗の入手と育苗の管理が取組事項になっている
農林水産省の国際水準GAPガイドラインには、信頼できる供給元から適正な手段で種苗を入手すること、育苗を管理すること、種苗の調達に関する記録を保管することが取組事項として載っています。GAPに取り組む産地や取引先から育苗の記録を求められたときも、育苗管理表と種苗の購入記録があれば答えやすくなります。
ガイドラインは「登録品種の種苗の適切な使用など知的財産の保護・活用」も取組事項に含め、根拠の法令として種苗法を示しているのが特徴です。登録品種の扱いは、この記事の後半でもう一度説明します。
記入例
下の記入例は、架空のトマト農家が3月1日に128穴のトレイ4枚へ1粒ずつ播種した想定で書いたものです。ロット番号はL-01とし、日々の記録を5日ぶん載せています。播種した粒数は128穴×4枚で512粒、発芽した本数は486本としました。

3月1日の行は、播種後にたっぷりかん水して、発芽まで被覆する管理を記録しています。3月4日は床土の温度が27℃で、かん水は表面が乾かない程度にとどめ、発芽が始まった様子を書きました。3月6日に発芽がそろったので、被覆を外して日中に換気しています。
3月15日は本葉1枚で徒長がなく、液肥を1,000倍で与えました。3月22日は雨で最高気温が18℃までしか上がらなかったため、保温を続け、乾いた所だけにかん水しています。この日の予防散布の欄は、製品名を伏せて「△△水和剤 1,000倍」と書いてあります。実際に記入するときは、ラベルに書かれた製品名を正確に写してください。
発芽率は日々の記録の表には入れず、別シートのロット記録で計算します。512粒をまいて486本が発芽したので、486÷512×100で約95%になります。右端の記入者の欄に名前を残しておくと、複数人で苗を見ている農場でも、誰が何を判断したかをあとで確認できるからです。
書き方(項目ごと)
テンプレートは、日々の記録を書く1枚目と、播種と発芽を書く2枚目に分かれています。日々の記録の項目順に書き方を説明し、最後にロットごとの記録を取り上げます。
作物・品種とロット番号
最初に書くのは、どの苗の記録かという情報です。作物名と品種名に加えて、ロット番号を付けます。ロットは、同じ日にまいた同じ品種のまとまりです。同じ品種でも播種日が違えば別のロットとして番号を分けます。
ロット番号は、2枚目の播種と発芽の記録に書く番号と合わせます。番号がそろっていれば、日々の温度やかん水の記録と、発芽率の記録を結び付けて読めるようになるからです。記入例では「L-01」としましたが、「トマト0301」のように作物と播種日を組み合わせる付け方もあります。
日付と天気
記録した日と、その日の天気を書きます。区別は晴れ、曇り、雨くらいで足りるでしょう。天気を残しておく理由は、かん水の量や換気の時間を、あとから天候と照らして判断できるからです。
毎日書く決まりはありません。発芽までの期間、天気が大きく変わった日、追肥や農薬を使った日は、書き落とさないようにしてください。
育苗施設の気温(最高・最低)
苗の近くに置いた温度計の最高値と最低値を書きます。最高最低温度計を使うと、朝夕に見に行くだけで1日の幅を拾えます。記入例の3月4日は、最高22℃、最低9℃でした。
作物ごとに適温は大きく違います。長野県の資料は、トマトの育苗目標温度を日中20〜25℃、夜間8〜13℃、最低限界を5℃としています。ナスは日中23〜28℃、夜間15〜18℃、ピーマンは日中25〜30℃、夜間15〜20℃です。キュウリは日中18〜25℃、夜間12〜15℃、スイカは日中23〜28℃、夜間13〜20℃とされています。自分が育てる作物の目標温度を表の余白に書いておくと、記入のたびに比べられます。
この表は長野県が野菜栽培指標と農業技術大系を参考にまとめたものです。品種や育苗方法、地域によって適温の考え方が変わるため、県の栽培指針や種子の袋の説明も合わせて確かめてください。
床土・培土の温度
床土や培土の温度は、地温計で測って書きます。発芽までは気温よりも床土の温度が発芽の早さとそろいを左右するので、この欄の値は特に参照価値があります。長野県の資料では、発芽適温はトマトが25〜30℃、ナスが25〜35℃、ピーマンが28〜30℃、キュウリが25〜30℃です。
水稲では、千葉県などの資料が、播種後から緑化期にかけてハウス内の気温よりも、種子や苗のある遮光シートの内部と床土の温度に気を配るよう示しています。細菌性の病害を防ぐため、床土の温度は30℃より高くしないことが目安です。
測る位置と時刻を決めておくと、日ごとの値を比べられます。朝8時にトレイの中央付近へ差し込む、といった決め方で構いません。発芽までのあいだは、毎日の記入を続けると、あとで発芽のばらつきを調べるときに役立ちます。
かん水
水をやった時刻と、量の目安を書きます。量はリットルで測れなくても、「播種後たっぷり」「表面が乾かない程度」「乾いた所だけ」のような言葉で十分です。記入例もこの書き方をしています。
トレイの表面や培土の乾き具合は、場所によって違います。ハウスの端と中央、日の当たる側と陰になる側で乾きが異なる場合は、「端のトレイ多め」のように場所も書いてください。
曇りや雨の日に晴れの日と同じ量を与えると、苗が徒長したり、病気が出やすくなったりしました。天気の欄と並べて見られるので、翌年のかん水の加減を決める材料になります。
換気・保温・遮光
被覆を掛けたか外したか、日中に換気した時間、夜の保温、遮光資材の有無を書きます。記入例では、播種から発芽まで被覆し、発芽がそろった日に被覆を外して日中の換気を始めました。
水稲の育苗では、出芽、緑化、硬化と段階ごとに管理が変わります。それぞれの開始日と、その日の温度を、この欄か備考に残しておくと、翌年の播種日の逆算に使えます。
追肥・農薬
使った資材の名称、希釈倍率、量を書いてください。記入例は「〇〇液肥 1,000倍」の形です。農薬は、ラベルに書かれた製品名を正確に写し、倍率と散布量も添えます。
この欄の内容は、定植後の栽培履歴や農薬使用記録簿に転記します。特別栽培に取り組む場合は、前述のQ10とQ12にあるとおり、育苗培土の窒素成分と、種子や苗に使った農薬が計算の対象です。使用した日は必ず書き、散布の目的(予防か防除か)も添えてください。
農薬のラベルには使用時期と使用回数が定められています。育苗期の使用分がその回数に含まれるかどうかは、製品ごとの記載と購入先の説明で確かめてください。
生育の様子
発芽の状況、葉の数、徒長、病害虫、葉色などを短く書きます。記入例では「発芽が始まる」「発芽がそろう」「本葉1枚。徒長なし」「本葉2枚。病害虫なし」としました。
写真を撮って、日付とロット番号を紙の表に書き添えておく方法もあります。苗の高さや葉の色は言葉にしにくいので、写真があると翌年の比較がしやすくなります。異常を見つけた日は、症状と場所を詳しく書き、対処した内容は次の行に続けてください。
播種と発芽の記録(ロットごとの発芽率)
2枚目は、ロットごとに1枚書きます。種子の情報として、袋に書かれた発芽率と種子消毒の有無を記入します。そのうえで、播種日、トレイの穴数と枚数、培土の種類、播種した粒数を書き込む欄です。
発芽がそろったら、発芽した数と発芽率を書きます。計算式は次のとおりです。
- 発芽率(%)= 発芽した数 ÷ 播種した粒数 × 100
- 例:128穴×4枚に1粒ずつまいて512粒、発芽が486本なら、486÷512×100=約95%
種子の袋に書かれた発芽率と、自分の育苗で出た発芽率を並べると、育苗環境のよしあしが判断できます。大きな差が出たときは、床土の温度、かん水、培土の詰め方、播種の深さを記録から調べます。
水稲では、「トレイ・穴数×枚数」の欄に育苗箱の数を書くとよいでしょう。千葉県などの資料では、浸種の水温は10〜15℃で、10℃なら10日、15℃なら7日が期間の目安です。積算水温では100℃にあたります。品種によっては少し長い浸種が必要で、同じ資料は「ふさおとめ」「ふさこがね」を水温10℃で12日、積算水温120℃としています。浸種の水温と日数、催芽の温度と時間は、日々の記録か備考に残してください。
育苗場所と記入者
育苗場所は、ハウスの番号やトレイを置いた棚の位置を書きます。ハウスが複数ある農場では、場所によって温度が違うため、この欄が記録を読み解く手がかりになります。
記入者の欄には、実際に温度を測り、水をやった人の名前を入れてください。家族や従業員が交代で見る場合に、判断の理由を聞く相手がわかります。
気をつけること・よくある間違い
温度計をハウスの出入り口や通路に置く
苗の高さ、被覆の内側の温度は、出入り口や通路の温度と大きく異なることがあります。千葉県などの資料も、水稲ではハウス内の気温よりも、苗のある遮光シートの内部や床土の温度への注意を促した資料です。温度計は苗のすぐ近くに置いてください。
育苗中の農薬を作付けの記録に写し忘れる
定植後に使った分だけを栽培履歴に書くと、育苗期の散布が抜けます。特別栽培のQ12にあるように、種子や苗に使った農薬は栽培管理記録簿に書く対象です。育苗管理表の「追肥・農薬」の欄を見ながら、作付けの記録へ転記しておきます。
発芽率を数えずに「だいたい」で済ませる
播種した粒数と、発芽した数を数えておくと、翌年に何トレイまけばよいかを計算できます。数えていない年は、不足した苗の本数も、原因がどこにあったかもわかりません。
天気に関係なく同じ量のかん水をする
曇りや雨の日は、培土の乾きが遅くなります。晴れの日と同じ量を与え続けると、徒長や病気につながります。天気の欄とかん水の欄を並べて記録し、乾き具合を見ながら量を加減してください。
他の作物の適温をそのまま使う
長野県の資料を見ても、ナスとトマトでは発芽適温も育苗の目標温度も違います。トマトの発芽適温は25〜30℃、ナスは25〜35℃です。作物と品種ごとに、県の栽培指針や種子の袋の説明で確かめて、表の余白に書き込んでから使います。
購入苗の培土や農薬を確認しない
苗を買った場合、育苗中の管理は購入先が行っています。特別栽培やGAPに取り組むなら、購入先に培土の肥料と、使った農薬を尋ねて記録に残しておきましょう。苗の購入先と購入日を書いた記録があれば、あとから問い合わせるときにも使えます。
登録品種の種苗を許諾なく増やす
種苗法の第20条は、品種登録を受けた登録品種を業として利用する権利を、育成者権者が専有すると定めています。育成者権者などから日本国内で譲渡された種苗や収穫物の利用には権利が及びませんが、登録品種等の種苗を生産する行為は第21条第2項のただし書で例外とされた点に注意してください。
自家採種した種子から苗を作る、挿し木や株分けで苗を増やすといった場合は、育成者権者の許諾が必要になる登録品種があります。登録品種かどうか、許諾が要るかどうかは、種苗の購入元か農林水産省の品種登録の窓口に確認してください。
育苗の記録を定植後の栽培履歴につなぐ
育苗管理表の記録は、定植後の書類に引き継ぐ場面があります。使った農薬は農薬使用記録簿へ、肥料は施肥の記録へ、作付けの履歴は栽培履歴へ書き写します。特別栽培の栽培管理記録簿にも、育苗期の農薬と化学肥料を載せる決まりです。
転記するときは、育苗期の日付と、本圃での日付を区別して書きます。育苗の終わりは定植日です。苗の購入先、品種、ロット番号を栽培履歴の備考に残しておくと、あとで苗の由来をたどれます。
育苗管理表の保存期間を定めた規定は確認できませんでした。提出先や認証機関に保存年数の指定がある場合は、その年数に従ってください。指定がなければ、翌年の播種日や温度管理を決めるまでの手元に置いておきます。
紙・Excelで続かないときは
毎日の温度とかん水を紙に書くのは、忙しい時期に続けにくい作業です。苗の様子は、文字よりも写真で残したほうが、あとから比べやすい場面もあります。
当社が提供しているミノリス日誌は、作付けごとに生育の観察メモを天候と写真つきで残せる、無料の栽培記録アプリです。
- 作付けごとに、作業・肥料・農薬・収穫を記録できる
- 生育の観察メモを、天候・写真つきで残せる
- 作付けに、種苗区分(購入苗・自家育苗)を登録できる
- 栽培履歴をCSV・Excelで出力できる
育苗中の気温、床土の温度、かん水を記録する専用の欄はありません。毎日の温度管理は、この表と併せて使ってください。発芽率の自動計算にも対応していません。
よくある質問
毎日書かないといけませんか?
毎日書く決まりはありません。発芽までのあいだ、天気が大きく変わる日、追肥や農薬を使った日は、特に記録を残しておくと振り返りに役立ちます。時間が取れないときは、床土の温度と生育の様子の2つだけでも書いてください。
苗を買った場合はどうすればよいですか?
購入先に、育苗中に使った農薬と培土の肥料を尋ねて、記録に残します。特別栽培のQ10では、購入したポット苗の培土の化学肥料が不明な場合、その分を使用量に含めないとされています。苗の購入先と購入日は、種苗の購入記録として別に残してください。
水稲の育苗にも使えますか?
使えます。「トレイ・穴数×枚数」の欄に育苗箱の数を書き、浸種と催芽の水温や日数、出芽・緑化・硬化の日付と温度を、日々の記録か備考に残してください。千葉県などの資料では、催芽は30℃で16〜20時間が目安です。
発芽率はどのくらいあれば良いのですか?
基準となる数値は、公的資料では確認できませんでした。種子の袋に書かれた発芽率が、比べる目安になります。自分の育苗で出た発芽率が袋の値を大きく下回るときは、床土の温度とかん水の記録を見直してください。
他の種類の帳票も一緒に使えますか?
苗の購入の記録には種苗の購入・由来記録、苗の注文には苗の注文書、育苗後の栽培履歴には栽培履歴のテンプレートが使えます。育苗中の農薬は、農薬使用記録簿にも書いておきます。
まとめ
育苗管理表は、気温、床土の温度、かん水、換気や保温、追肥や農薬、生育の様子を、ロットごとに残す表です。作成そのものは義務ではありません。育苗期間は特別栽培で生産過程等に含まれるため、培土の化学肥料と種子や苗に使った農薬は、記録と回数の計算に入ります。
温度の目安は作物で異なります。長野県の果菜類の表や、千葉県などの水稲育苗の資料を参考に、自分の地域の栽培指針と種子の袋の説明で確かめてから、表に目標値を書き込んでください。記録は、翌年の播種日と管理の見直しに使えます。
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