JAの生産履歴記帳簿はどこまで同じか|6JAの様式を比べて分かった共通の欄・違う欄・提出時期

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JA(農協)に野菜や米を出荷している農業者と、これから出荷を始める農業者に向けた記事です。出荷の前に生産履歴の記帳簿を出すよう求められたとき、「JAが違えば様式も違うのか」と迷う人は少なくありません。部会に入って複数のJAの様式を見比べた人でなければ、どこが共通でどこが違うのかは分かりにくいものです。

この記事では、6つのJAが公開している記帳簿の様式と、農林水産省の省令や通知資料、JA全農と北海道の取り組みを記した資料を使っています。様式の欄を比べ、共通する欄、JAごとに違う欄、提出の時期を整理しました。記帳簿の書き方そのものは、既存の栽培履歴(生産履歴)の書き方と提出方法の記事で扱っています。

目次

JAグループに共通の生産履歴記帳簿の様式はあるのか

全国統一の様式は、調べた範囲では見つかりませんでした

結論から書くと、JA全農が定めた全国統一の青果物用記帳簿は、今回の調査で確認できませんでした。調べた6つの様式は、JAごと、品目ごと、直売所向けかどうかで別の形をしていました。

ただし、これは取得できた資料から見えた範囲の話です。全農の指針は記帳の目的と必須項目の考え方までで、様式は各JAや県に任されているように見えます。この点は推測であり、断定はできません。

全農は1985年から記帳を進めてきました

全農の肥料農薬部が2005年に書いた記事によると、全農は1971年に安全防除運動を始めました。1985年からは、農薬名、散布日、使用量、収穫日などを日誌に書いてもらう防除日誌記帳運動を進めています。

生産履歴記帳運動は、2003年のJA全国大会で組織決定されたJAグループ全体の取り組みだと、同じ記事に書かれています。目的は、安全な農産物を正しい方法で作ったことを、生産者が記帳で自ら示すことです。2003年の大会決議の原文は、今回は確認できていません。

北海道は、これより早く動いていました。北海道中央会の資料によると、JAグループ北海道は2002年度から、道と連携して農畜産物生産履歴記帳運動を進めています。

法律上の記帳は努力義務です

農薬使用者が守る基準を定めた省令には、農薬を使ったときに5つの事項を帳簿に記載するよう努める、という規定があります。5つは、使用した年月日、場所、農作物、農薬の種類または名称、単位面積当たりの使用量または希釈倍数です。

記帳は努力義務であり、罰則はありません。JAに記帳簿を出す決まりは、JAの出荷基準やGAP、取引先の求めによる運用です。法律の定めは見つかっていません。掲載ページが平成14年改正時のものだったため、現行の条番号は確認できていません。

食品衛生法のポジティブリスト制度は2006年5月29日に始まりました。農林水産省と厚生労働省のQ&Aは、農薬の使用状況を記帳しておくことも重要だと述べています。北海道の資料も、この制度で記帳運動の強化が求められると書いています。記帳運動はそれ以前から始まっていたため、制度は強化のきっかけの一つと読むのが妥当です。

6つのJAの記帳簿を並べて見る

調べたのは6つの様式です

公開されている様式のうち、実際にファイルを開いて項目を確認できた6つを比べました。神奈川県から2つ、滋賀、東京、山形、奈良から1つずつで、5つの都県にまたがります。

JA(県) 様式名 形式 特徴
JAあつぎ(神奈川) 栽培管理記録簿、同・提出用 Excel 提出用に出荷先チェック表と提出日の欄があります。
甲賀農業協同組合(滋賀) 栽培管理記録(野菜はOCRシート、米はOCRカード) OCR 米のカードは肥料名と農薬名がJA取扱品の事前印刷です。
JA東京スマイル(東京) 生産日誌 PDF 栽培、出荷、防除の記録を1つにまとめています。
JA庄内みどり(山形) 令和6年度 みずな 薬剤防除実績 PDF 農薬登録番号つきで、様式の末尾に外部団体の提供表記があります。
さがみ農業協同組合(神奈川) 生産履歴記帳用紙(年版) PDF(コピー厳禁) 適正使用基準を印刷し、JA確認日と確認印の欄があります。
JAならけん(奈良) 生産履歴記帳簿(いちご例) PDF 農薬リストと適用基準が品目別に印刷されています。

ならけんの様式は、2012年の講習資料に収録されていたものです。ほかに兵庫六甲、北新潟、福山市、丹波篠山の様式ページも確認しましたが、Excelの中身を解析できず、項目は比べていません。

形式は4種類に分かれます

形式はExcel、OCRシート、OCRカード、PDFの4種類でした。あつぎはExcelで、提出用と通常版の2つがあります。甲賀は野菜がOCRシート、米がOCRカードで、同じJAでも品目で形式が違います。

東京スマイル、庄内みどり、さがみ、ならけんはPDFで、印刷して手で書く形式です。庄内みどりは、みずなという作物ごとの様式でした。ならけんの様式もいちご用です。JAの様式は、品目ごとに用意されることが多いと考えられます。

同じJAの中でも、様式は複数あります

あつぎには、直売所に出荷する人向けの生産履歴システムもあります。システムで記帳用紙を発行して店舗に出す方式で、システムに登録のない品目は提出用の記録簿を使います。

出荷先が市場か直売所かで、同じJAでも使う様式が変わります。自分のJAに複数の様式がある場合は、出荷先に合うものをJAの担当者に確認してください。

全部の様式に入っていた欄と、JAごとに違う欄

6つの様式を1つの表にまとめます

6つの様式の項目を、実際に開いて確認した結果で比べました。◎は欄があったもの、△は欄名が違うか間接的なもの、×は見た範囲で見当たらなかったものです。甲賀は野菜のOCRシートで見ています。

項目 あつぎ 甲賀 東京スマイル 庄内みどり さがみ ならけん
生産者名 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
品目 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
播種日または定植日 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
農薬の使用日 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
薬剤名 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
希釈倍数または使用量 ◎ ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
生産者コード × ◎ ◎ ◎ ◎ ◎
圃場の特定 住所 圃場名 番号 圃場名 番号 ×
肥料欄 △ ◎ ◎ × ◎ ×
使用回数 △ △ × ◎ ◎ ×
収穫前日数または使用時期 × × × △ ◎ ◎
生産者の押印または署名 × ◎ × ◎ × ×
JAの確認印または確認欄 × ◎ △ ◎ ◎ ×
残留分析の欄 × × × × × ×

あつぎの肥料欄は、薬剤名と肥料名を同じ欄に書く形のため△にしました。庄内みどりの「使用時期」は「7日前」のように書く欄で、収穫前日数に相当すると思われますが、欄名は違います。

全部に入っていたのは、省令の5項目に近い欄です

6つすべてに入っていたのは、生産者名、品目、播種日か定植日、農薬の使用日、薬剤名、希釈倍数か使用量でした。先に挙げた省令の記帳事項と、ほぼ重なります。

圃場については、ならけんの様式に欄が見当たりませんでした。省令の「場所」にあたる項目ですが、確認できたのは講習資料の一部で、様式の全体ではありません。記入例に出てこない欄が実物にある可能性もあります。

違いが出たのは、コード、圃場、肥料、確認欄です

生産者コードは、あつぎを除く5つにありました。圃場の特定方法は、住所、圃場名、番号とJAごとに違います。肥料欄は、成分量まで書く東京スマイルから、欄そのものがない庄内みどりとならけんまで幅がありました。

収穫前日数や使用回数の欄も、そろっていません。さがみは使用時期の「〜日前」と回数を事前に印刷しています。あつぎ、甲賀、東京スマイルの3つには、収穫前日数の欄が見当たりませんでした。押印やJA確認の欄も、様式ごとに有無が分かれます。

残留分析の欄は、6つとも見当たりませんでした

残留農薬の検査結果を書く欄は、どの様式にもありませんでした。全農の資料では、残留検査はJAの自主的な取り組みとして実施されると説明されています。記帳簿とは別に行われる検査です。

薬剤を印刷済みにして、日付だけ書かせる様式が多い

印刷済みの様式は、6つのうち4つでした

甲賀、庄内みどり、さがみ、ならけんの4つは、JAが取り扱う農薬や使用基準を事前に印刷しています。農家が書くのは、おもに使用日や回数です。

甲賀の米のOCRカードは、肥料名と農薬名がJA取扱品の事前印刷です。庄内みどりは農薬のリストをJAが印刷し、対象病害虫も事前に印字しています。さがみは適正使用基準を載せ、使用時期と回数を先に書き込んでいます。ならけんは、いちごの農薬リストと適用基準を印刷しています。

庄内みどりの様式は、外部団体が提供したものです

庄内みどりの様式には、農薬登録番号が入っています。様式の末尾には「製作・提供:特定非営利活動法人 農業ナビゲーション研究所」と書かれていました。JAが自前で作った様式とは限らず、外部の団体が提供する様式をJAが使う例もあります。

岩手県の資料の検索結果には、同じ団体のGAPナビゲーションシステムがJAや生産部会向けのSaaS型だとする記述があります。ただし、この資料は原文を開けていないため、ここでは参考にとどめます。

印刷済みの様式は、JAが点検しやすい作りです

印刷済みの農薬名は、JAが基準と照らし合わせやすい形です。甲賀の米のカードには、JA担当者が「記載内容検証」の印を押す欄があります。

ただし、JAが実際にどう点検しているかは、様式からは分かりません。確認できたのは、様式にそのための欄があることまでです。

提出の時期と点検は、JAによって違う

提出の時期は、出荷の5日前から年3回まで幅があります

公開されている提出の運用を並べると、時期はそろっていません。

JA 提出の時期
JA福山市(広島) 農作物の出荷5日前と、販売終了後1ヵ月以内
JAあつぎ(神奈川) 出荷開始日まで
JA庄内みどり(山形) 収穫予定日の7日前まで
JA兵庫六甲(兵庫) 農産物を出荷する際
JA北新潟(新潟) 水稲は5月末、8月末、10月末の年3回

福山市は、チェック後に原本を返却し、出荷期間中の提出は任意だと説明しています。北新潟のGAPチェックシートは10月末です。福山市、兵庫六甲、北新潟は、ページの記載内容によるもので、様式は確認していません。

営農指導員などの点検を受ける流れが多く見られます

あつぎは、JAが記帳内容を点検すると案内しています。ならけんの講習資料には、JAに提出して点検を受け、JAが生産基準に沿って作られているかを確認する、とあります。履歴はJAが保管し、クレーム対応や情報開示に使うとも書かれていました。

北海道の2006年2月の調査では、出荷前に生産履歴を点検し、記帳がない、または不備のあるものは分別して管理・出荷する方針が示されています。履歴の記帳の有無で出荷規制をしているJAは、農産物全体でおよそ2〜3割でした。水稲は20.4%、馬鈴薯は22.8%、果樹は33.3%です。

この数字は北海道の、しかも2006年の調査です。特定のJAの規約として「未提出なら出荷できない」と書かれたページは、今回は確認できていません。部会ごとの決まりも同じです。自分のJAや部会の扱いは、規約か担当者に確かめてください。

電子で提出できるJAも出ています

JA丹波篠山は、Excelに入力してメールで出す方法と、手書きのPDFを使う方法を案内しています。JA兵庫六甲は、直売所でバーコード発券機から栽培日誌を出力して提出します。一部は端末やスマートフォン、パソコンから出せます。

NTTデータの「あい作」は、手書きで出していた栽培履歴簿を電子で出せるサービスです。登録した情報はExcelやPDFで出力できると、同社のページに書かれています。JAや農事組合法人向けに、生産者を束ねる設計です。

JA全農の営農管理システムZ-GISは、2018年4月25日に運用を始めました。栽培履歴などの管理項目は、Excelの1行目に自由に設定する方式です。固定された全国共通の項目はありません。生産履歴をJAへ提出する機能との関係は、記事からは分かりませんでした。JA共通の生産履歴データの標準も、今回の調査では見つかっていません。

自分の記録簿からJAの様式へ転記するときの考え方

JAの指定様式がある場合は、その様式で提出します

ここまでの比較から、共通する欄は省令の5項目に近い部分だと分かりました。自分の記録簿にこの欄があれば、JAの様式に転記する元の記録として使えます。一方で、生産者コード、押印、JA確認の欄は、JAが決める部分です。

JAが様式を指定している場合は、その様式で提出してください。自分の記録簿をそのまま出せるかどうかは、JAごとに違います。出す前に、担当者へ確認すると確実です。

ミノリスの農薬使用記録簿は、転記元の帳簿に使えます

ミノリスの農薬使用記録簿は、省令の5項目に、使用回数と収穫前日数を確かめる欄を加えた記録簿です。ミノリスの栽培履歴テンプレートも、共通核の欄を持っています。どちらもJAの生産者コードや押印欄、JA確認欄はありません。

そのため、JAの様式の代わりには使えません。使い道は、日々の防除を自分の手元に記録し、提出のときにJAの様式へ写すことです。防除の記録のつけ方は、防除日誌(農薬使用記録簿)の書き方の記事に書いています。

無料テンプレート:農薬使用記録簿

省令の5項目に、使用回数と収穫前日数の確認欄を加えた記録簿です。JAの様式へ転記する元帳に使えます。Excel、PDFがあり、登録は不要です。

農薬使用記録簿をダウンロード(登録不要)

JAの様式にない項目も、手元に記録しておくと役に立ちます

6つの様式で欄を確認できなかった項目でも、自分の記録に残しておくと、後から原因を調べるときに使えます。農水省と厚労省のQ&Aは、記帳の目的に、基準超過時の原因究明と、問題のあるロットの特定を挙げています。

施肥の記録は、施肥計画・施肥記録の書き方の記事で扱っています。肥料欄の粒度はJAごとに違うため、手元には成分量まで書いておくと、どの様式にも転記できます。

まとめ

JAグループに全国統一の生産履歴記帳簿の様式は、今回の調査では確認できませんでした。6つの様式を比べると、生産者名、品目、播種日か定植日、農薬の使用日、薬剤名、希釈倍数か使用量は、すべてにありました。違いが出たのは、生産者コード、圃場の特定、肥料欄、収穫前日数、押印と確認欄、提出の時期です。残留分析の欄は6つとも見当たりませんでした。自分の記録は共通の欄をそろえて手元に残し、提出はJAが指定する様式に転記する流れが無理のない方法です。

よくある質問

JAの生産履歴記帳簿は全国で同じ様式ですか

同じではありません。全国統一の様式は、今回の調査で確認できませんでした。調べた6つの様式は、JAや品目ごとに形が違い、共通していたのは省令の記帳事項に近い欄です。

提出はいつまでですか

JAによって違います。出荷の5日前と販売終了後1ヵ月以内、出荷開始日まで、収穫予定日の7日前まで、年3回など、公開された運用に幅がありました。自分のJAの案内を確かめてください。

記帳簿に残留農薬の検査結果を書く欄はありますか

調べた6つの様式には、残留分析の欄がありませんでした。全農の資料では、残留検査はJAの自主的な取り組みとして行われると説明されています。

JAの様式にない項目も自分で記録しておくべきですか

法的には、農薬の5項目の記帳が努力義務です。それ以外の項目は義務ではありません。ただし、問題が起きたときに原因を調べる助けになるため、手元に残しておくと役に立ちます。

Excelやアプリで作った履歴をJAに出せますか

JAによって違います。丹波篠山のようにExcelをメールで受け付けるJAや、あい作のように電子提出ができる仕組みもあります。指定様式があるJAもあるため、担当者に確認してください。

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参考URL