農業参入とは?企業が知っておきたい基礎知識

農業参入とは、これまで農業と直接関わっていなかった企業が、自社で作物を栽培・生産するビジネスを始めたり、農業関連のサービス事業に乗り出したりすることを指します。近年では、食品メーカーやIT企業、不動産業など、さまざまな業種・業界の企業が農業に注目しています。その背景には、国内農業の担い手不足や食の安全意識の高まり、技術革新などがあり、ビジネスチャンスの広がりが期待されているからです。

農業参入が注目される背景

  • 担い手不足と高齢化: 農業従事者数はこの20年で半分に減り、平均年齢は67歳を超えています。生産基盤を維持し、国内の食料自給率を確保するためにも、新しいプレイヤーの参入が求められています。
  • 食の安全・安心: 食のグローバル化が進む中、消費者の間では国内産や生産者が明確な農産物へのニーズが高まっています。企業が自社で生産から携わることで、品質や安全性をより一層コントロールできます。
  • 規制緩和と行政の後押し: 2009年の法改正により、企業が農地を借りやすくなりました。農地中間管理機構(いわゆる農地バンク)などの制度も整備され、参入ハードルが下がっています。
  • 技術革新・スマート農業: ドローンやIoT、AIなどを活用するスマート農業が普及しつつあり、データ活用を得意とするIT企業などが参入しやすい環境が整っています。

農業参入の主な形態

ひとくちに「農業参入」と言っても、さまざまな形態があります。企業の目的やリソースに応じて最適な方法を選ぶことが重要です。

  • 自社で農場を運営: 自社で農地を借り、農業生産法人を立ち上げて直接作物を栽培する方法。生産から流通まで一貫管理できるため、品質やブランドのコントロールがしやすい一方、農業ノウハウの蓄積や人材の確保が課題となります。
  • 農家との契約・提携: 既存の農家や地域の生産法人と契約を結び、栽培指導や資金提供を行う代わりに、収穫物を買い取るモデル。自社が農地を直接運営するリスクを軽減できますが、生産管理の自由度は低くなります。
  • 投資・出資: 自社では農場を運営せず、農業関連のベンチャー企業や既存の農業法人に出資し、事業拡大をサポートする方法。ノウハウ不足を補いやすい一方、投資先に経営を任せる形となるため、自社ブランドへの反映は限定的になります。

農地法と企業参入

企業が農地を取得したり、利用したりするには、農地法という法律上の制約をクリアしなければなりません。従来は農家以外が農地を所有することが厳しく制限されていましたが、2009年の法改正により、一定の条件を満たす法人であれば農地を借りる形で農業に参入できるようになりました。

  • 農業生産法人を設立し、農地を借りる方式
  • 農地バンク(農地中間管理機構)を通じた農地リース

これらは行政や地元農業委員会の承認を得る必要があるため、企業としては早い段階で専門家に相談することがおすすめです。

農業参入のメリット

  • 安定調達・品質管理: 食品メーカーなどが自社の原料を自ら生産することで、価格変動リスクを低減し、品質もコントロールしやすくなります。
  • 新規ビジネスの可能性: 農業における技術革新や6次産業化(加工・販売の一体化)など、新たな事業展開のチャンスが広がっています。
  • CSR・地域貢献: 高齢化や耕作放棄地問題が深刻な地域では、企業参入により雇用創出や地域活性化を期待できます。

農業参入のリスク

  • 天候や自然災害のリスク: 台風や豪雨、干ばつなど、農業特有のリスクがあり、収益が不安定になりがちです。
  • ノウハウ不足: 企業が農業経験者を確保できない場合、生産管理や流通ノウハウの獲得に時間とコストがかかります。
  • 初期投資の負担: 農地取得(リース)費用や設備投資、技術導入など、事業開始時のコストが高額になることがあります。

まとめ

企業の農業参入は、担い手不足や規制緩和、技術革新といった社会的背景の中で大きな可能性を秘めています。しかしながら、農業は気候や自然条件に影響を受けやすく、ノウハウ不足や法制度上の規制など、他業種にはないリスクも存在します。参入を検討する際は、まずは基本的な制度と現状を正しく理解し、自社の目的やリソースに合った形態を選択することが大切です。

次回の記事では、さらに深く「農業参入が注目される背景」や「市場規模」などに迫ります。ぜひご覧ください。