企業版ふるさと納税×農業の活用事例15選|寄附企業・寄附額・選んだ理由がわかる事例集

企業版ふるさと納税を農業分野で使いたい。そう考えたとき、最初に困るのは「どんな寄附の形があるのか」が見えないことです。制度解説はいくらでもありますが、実際に企業がどの事業にいくら寄附し、なぜその自治体を選んだのかがわからないと、社内の検討が進みません。

この記事は、内閣府が公表している活用事例集・大臣表彰資料から農業に関わる事例を集め、寄附企業名・寄附額・事業内容・寄附を決めた理由まで整理した事例集です。企業経営者・寄附担当者が「自社に近い形はどれか」を探すために使えるよう並べました。

前提として制度の骨格を確認しておくと、企業版ふるさと納税は寄附額の最大約9割が法人関係税から軽減され、実質負担が約1割まで圧縮される制度です。1回10万円以上から使えます。令和6年度の寄附額は631.4億円(前年比34%増)、寄附企業数は8,464社と、いずれも過去最高を更新しました。

並べ方は、内閣府の事例集が使っている「主な支援の区分」に沿っています。事例集では各事業に、寄附する企業側の動機にあたる区分が付けられています。区分は創業地等支援、環境保護活動支援、被災地支援、子育て支援、原材料産地支援、集客施設整備支援、人材育成支援、移住・定住推進支援の8つです。農業分野で目立つのは原材料産地支援と人材育成支援で、これが寄附の理由を組み立てるうえでの型になります。

目次

原材料産地支援:調達先の生産基盤に投じる

農業分野で最も筋が通しやすいのがこの型です。自社が扱う原材料の産地に寄附し、その生産基盤を支える形です。本業との接点が明確なため、社内説明も対外説明もしやすくなります。

酒類メーカーがりんご産地の人手不足に寄附:青森県弘前市

令和6年度に企業版ふるさと納税の大臣表彰を受賞した「ひろさき援農プロジェクト」は、農業分野の活用として最も参考になる事例です。

弘前市は日本一のりんご産地です。農業産出額(果実部門449億円)は全国の市町村中第1位、りんご収穫量は全国の約25%・青森県の約40%を占め、日本のりんご4個のうち1個が弘前産です。一方で品種「ふじ」の月別労働時間を見ると労働ピークが短期間に集中しており、農閑期は家族で労働力を確保できても、農繁期は知人等をアルバイト雇用してもなお人手の確保に苦慮していました。

この課題に対し、市とニッカウヰスキー株式会社、アサヒビール株式会社が官民共創の取組方針を協議し(現地訪問と数十回にわたる打合せを実施)、令和5年度に「ひろさき援農プロジェクト」が発足。援農ボランティアツアーは株式会社JTBが企画・運営を担い、旅行業のプロとしてボランティア参加者の送迎や昼食手配のオペレーションを担当しました。

  • 寄附企業:ニッカウヰスキー株式会社
  • 寄附額:計10,000千円(企業版ふるさと納税)
  • 連携企業:アサヒビール株式会社(援農ボランティア)、株式会社JTB(ツアー企画・運営)
  • 令和6年度大臣表彰受賞
  • 区分:原材料産地支援

令和5年度のツアー実績は、10月~11月のうち5日間の開催で受入農家29名、参加者282名。参加者の居住地別内訳は県外204名(70%)・県内87名(30%)で、宿泊者は219名(75%)でした。行程は弘前駅集合からりんご収穫作業、移動は全てハイヤー対応、雨合羽・長靴・手袋・シードル等の備品やノベルティを用意し、1泊3,000円の宿泊補助(2泊まで)も付けています。

受入農家からは「りんごのことを知ってもらえて良かった」「他県、他産業の人と関わることでいい刺激になった」、参加者からは「ツアーをきっかけに初めて弘前を訪れ、観光も楽しめた」といった声が挙がっています。市は援農活動に取り組む企業等を認定する「ひろさき縁農サポーター認定制度」も設け、第1号にニッカウヰスキー、第2号にアサヒビールを認定しました。

この事例の要点は、企業側が語っている寄附の理由です。ニッカウヰスキーは「りんごの風味を生かした弊社のシードルには地域のりんごが不可欠。りんご農家さんの抱える幾つもの課題を少しでも支援したいとの想いが共創を通じて今回の援農に繋がりました」「お手伝いを通じて社員のりんご産業への理解や製品への想いも深くなりました」「地域に根差す企業として次の70年それ以降も、りんごを原料とした製品を弘前の地で作り続けたい」としています。

アサヒビールは「ニッカ弘前生シードルのリブランディングにあたり、持続可能な事業の実現をしていくためには、根幹であるりんご産業の発展、支援が欠かせないと考え、工場のある弘前市を地域貢献の地に選びました」「社員自らも参加することで、一体感も生まれ、関係者全員が想いを持ったプロジェクトになりました」と述べています。

原材料が自社製品に不可欠であり、その産地の人手不足が事業の持続性に直結する。だから寄附する。この論理は、農産物を原料とする企業すべてに応用できます。しかも資金だけでなく社員がボランティアとして現地に入ることで、社内の理解にも跳ね返っている点が示唆的です。

製薬企業が薬用植物の国内栽培基盤に寄附:大分県杵築市

杵築市は市全域が世界農業遺産「クヌギ林とため池がつなぐ国東半島・宇佐の農林水産循環」に認定されています。一方で農場規模や主要市場までの距離の点で競争力が高いとはいえず、農業従事者の高齢化により重量のある作物の出荷が困難となって農地の荒廃が進んでいました。この状態が続けば集落の維持が困難になり、農業を基盤に受け継がれてきた農地・農業システムが失われるという課題を抱えていました。

市は需要が高まっている薬用植物に着目し、廃校となった農業高校の圃場等を活用した薬用植物の試験栽培や医薬メーカーからの受注生産に取り組んできました。事業では、それまでに培ったノウハウと人的資源を生かし、種苗確保から生薬加工までの包括的な事業化を目指しています。農業者への栽培指導や農地の安全性の確認も事業に含まれます。

  • 寄附企業:株式会社龍角散
  • 寄附額:16,000千円(2020年9月末現在。総事業費20,336千円)
  • 事業期間:2018年4月~2021年3月
  • 数値目標:薬用植物栽培面積 0.35ha(2017年度)→1.0ha(2019年度)
  • 区分:原材料産地支援、人材育成支援

成果としては、市民・農業従事者向けの薬用植物基礎講座を全9回実施し、その実習者から栽培ボランティアを募集したところ計67名が参加。キキョウやカワラヨモギなどの出荷量が増加しました。

生薬を扱う企業にとって薬用植物の国内栽培基盤は中長期の調達リスクに直結するテーマであり、同時に自治体側の遊休農地・荒廃農地対策でもあります。企業の調達課題と自治体の農地課題が同じ方向を向いた例です。

油脂企業がエゴマ栽培の効率化に寄附:島根県奥出雲町

奥出雲町は高機能食品エゴマに着目し、2005年から町民の健康増進と農業振興策としてエゴマ栽培に取り組み、2015年には栽培面積が全国トップとなりました。しかし需要が高まるなか供給が間に合わず、収穫量の安定確保が課題でした。

事業では、収穫に使う農業機械の購入や商品開発にかかる経費の助成、栽培農家への買取上乗せ助成などを実施。あわせて生産農家に対して出荷量に応じた経営所得安定対策交付金を交付し、「奥出雲町産えごま油」として販売する6次産業化を目指しています。

  • 寄附企業:カネダ株式会社
  • 寄附額:12,024千円・3件(総事業費15,640千円)。うち2017年度分は3,421千円
  • 事業期間:2017年6月~2020年3月
  • 区分:原材料産地支援

成果は、栽培農家のモチベーション向上、機械導入による収穫作業の効率化、エゴマを使った新商品開発による6次産業化の足掛かり、そして寄附企業との新たな繋がりによる交流人口の拡大です。

寄附のきっかけは、同社のグループ会社が奥出雲町産のエゴマを販売していた縁でした。同社は「過去にも椿油の産地への寄附を通して、定住者増加など地域貢献に寄与した経緯があり、今回は将来性の高いエゴマ油の産地である奥出雲町への寄附を決定した」「社会貢献は社員の誇りにつながっており、油脂業界に対してもCSRに取り組んでいることをアピールできている」と述べています。

自治体側は、取引の縁がある同社を訪問し、町の取組や目指す姿、寄附企業のメリットをまとめたプレゼン資料を用いて寄附を依頼。寄附後も毎年訪問して進捗と次年度の事業内容を説明したことが、継続的な寄附につながったとしています。産地との寄附関係は単年で終わらせず継続する前提で設計されている点が参考になります。

漢方薬メーカーが薬木の植栽に寄附:北海道夕張市

夕張メロンは夕張市の農業生産額の9割以上を占める重要な農作物ですが、高齢化や後継者不足により作付面積が減少し、使用されていないハウス施設が市内全体の4.3%を占めるなど生産の衰退が問題となっていました。また市有林3,054haのうち844haは炭鉱の坑木として植栽されたカラマツで、炭鉱の衰退とともに大部分が使われていませんでした。

事業では、夕張メロンの産地力を強化するため新しいハウス施設を設置し、老朽化したハウスの更新や土壌・土層改良への補助を実施。あわせて漢方薬の需要を見据え、キハダとホオノキといった薬木をカラマツ伐採跡地に植栽し、林業の就労機会創出を図っています。

  • 寄附企業:株式会社ツムラ、株式会社ホリ
  • 寄附額:23,988千円(2017年度。総事業費95,880千円)
  • 数値目標:夕張メロン生産額 2,246,769千円(2016年3月)→2,337,970千円(2020年3月)/加工用夕張メロン生産量 100トン(2018年3月)→200トン(2020年3月)/薬木植栽総面積 13.66ha(2017年1月)→24.00ha(2020年3月)
  • 区分:環境保護活動支援、原材料産地支援

薬木植栽ではエゾシカやノネズミによる食害対策も施されています。原材料の産地を「これから作る」タイプの寄附であり、数値目標が生産額・生産量・植栽面積で明示されている点が、成果を追いやすい設計になっています。

食品企業が伝承野菜のブランド化に寄附:石川県穴水町

能登半島の中央に位置する穴水町は農業や漁業が盛んで、奥能登地域の食の集積地を目指す「まいもんの里づくり」を掲げてきました。一方で人口は1955年をピークに減少が続き、第一次産業をどう支えるかが課題でした。新たな農産物の品目の出荷が必要とされ、「からし菜」の在来種である唐川菜等の伝承野菜を特産品に育てることが望まれていました。

事業では、伝承野菜の安定栽培に向けた技術習得、栽培面積の拡大、加工品開発等の取組を支援しています。

  • 寄附企業:株式会社ミスズアグリ
  • 寄附額:1,000千円(2017年度。総事業費3,000千円)
  • 数値目標:栽培品目の拡大 0品目(2017年3月)→3品目(2020年3月)/農業従事者の拡大 0人(2017年3月)→3人(2020年3月)
  • 区分:原材料産地支援

この事例は寄附の入口が特徴的です。2014年に穴水町に農業参入した同社が、地域食材を利用したベビーリーフの商品開発に取り組みたいという意向を示したところ、町が下唐川集落の希少食材である唐川菜を提案しました。集落が種子を提供し、同社は「奥能登オリジナル」ベビーリーフ商品の開発・販売を目指すという流れです。集落側でも粒マスタード等の新商品開発が進み、企業と地域が連携した特産品づくりに発展しました。同社は過疎化が進む集落に再び元気を取り戻したいという思いから寄附を決定したとされています。

寄附額1,000千円という規模でも成立している点に注目してください。制度の下限は10万円以上であり、大企業でなければ使えない制度ではありません。

人材育成支援:担い手そのものを増やす

農業共通の課題である担い手不足に寄附する型です。特定の産地や品目と結びついていなくても説明が成立するため、産地との取引関係がない企業でも入りやすい領域です。

研修牧場と養殖で基幹産業を活性化:北海道八雲町

八雲町は日本で唯一、太平洋と日本海の2つの海を持つ町です。基幹産業である第一次産業では、農業における担い手不足、漁業の漁獲量減少、ホタテ稚貝のへい死による低迷など複数の問題を抱えていました。

「研修牧場整備事業」では、町や地域の生産者などが出資して設立した株式会社が牧場を経営し、その収益で新規就農希望者向けの研修部門を運営することで就農サポートを行う仕組みを構築しました。あわせて「サーモン試験養殖事業」でトラウトサーモンの養殖体制確立を進め、「北海道二海サーモン」のブランド化を目指しています。

  • 寄附企業:八雲産業株式会社、ホクレン農業協同組合連合会、トリタ設備工事株式会社ほか36社
  • 寄附額:33,600千円・39件(2020年12月末現在。総事業費1,880,000千円)
  • 事業期間:2020年4月~2025年3月

成果はサーモン養殖試験の好成績によるブランド化推進、研修牧場の2021年4月稼働、各事業のメディア注目による町の認知度アップです。

39件・36社超という集まり方は他の事例と性質が違います。自治体側は、庁内各部署で町に縁のある企業をリストアップしてPRパンフレットを作成・発送し、メディアで注目されたことでパンフレット送付先から寄附の申し出を受けるケースもあったと説明しています。町に縁のある企業には町長自らが出向き、職員では難しい企業トップとの面談を実現。その場で寄附が決まったケースも多かったとされています。寄附企業からは「明治維新後に尾張徳川家が運営していた旧徳川農場を引き継ぐという開拓時代からの深い縁もあり、同町の発展を祈念して寄附した」というコメントが出ています。

担い手不足というテーマは、多くの企業が「自社にも関係がある」と認識しやすい。だから寄附が広く集まるという構図が読み取れます。

移住者と児童養護施設卒園者への就農支援:大分県杵築市

人口減少に加えて第一次産業の後継者不足が深刻な課題となっているため、移住者への新規就農支援を行う事業です。市に拠点を置く児童養護施設の卒園者への就農支援も併せて実施しているのが特徴です。農業用の大型特殊機械等の資格取得支援や、就農支援のためのサポート相談員の配置を行っています。

  • 寄附予定者(申請時点):文化シャッター株式会社、食品加工業
  • 事業費:全体27,800千円(H28:2,000千円)
  • 事業年度:H28~H31
  • 数値目標:本事業を活用した新規就農者数(移住者数)17人/児童養護施設卒園者の短期就農体験者数75人/同インターンシップ者数14人(いずれもH28~H31)

就農支援と福祉的な支援を組み合わせた設計で、農業を人材育成・社会課題解決の文脈で捉えたい企業に向く形です。

環境保護活動支援:エネルギーや資源循環と農業を組み合わせる

木質バイオマスの廃熱で温室農業:群馬県川場村

村土の約83%を森林が占める川場村では、かつて林業が主要産業の一つでしたが、木材需要の低迷や安価な輸入材の流入により長く衰退が続いていました。2012年に清水建設株式会社と東京農業大学とで3者協定を結び「ウッドビレジ川場」を設立し、製材・発電・温室の3つを柱とする木材コンビナート事業に取り組んでいます。

この事業では、製材所で製造される木質チップを燃料とする木質バイオマス発電(発電規模45kW)と、その廃熱を利用した温室農業を行っています。

  • 寄附企業:株式会社エコ計画、日本スキー場開発株式会社
  • 寄附額:6,500千円・8件(総事業費45,296千円)
  • 事業期間:2016年8月~2020年3月
  • 区分:環境保全・エネルギー

成果は、山に放置された間伐材の活用方法の確立による環境・景観保全、温室で栽培されるイチゴが村の新しいブランド作物として定着し冬季観光客が増加したこと、雇用拡大による村内経済の活性化、縁組協定を締結している東京都世田谷区内の約40世帯への電力供給、区の施設への木質チップ販売という新事業創出です。

農業単独ではなくエネルギー事業の副産物として農業が成立している構造で、脱炭素や資源循環の文脈で寄附を位置づけたい企業に参考になります。寄附企業のうち日本スキー場開発株式会社は村内でスキー場を運営しており、地域貢献の思いから寄附を決定したとされています。

スマート農業の推進:青森県六ヶ所村

六ヶ所村は、村の地域再生計画にスマート農業推進事業を位置づけており、企業版ふるさと納税の寄附対象事業としています。機械の自動化やドローンを活用して農業の担い手不足に対応し、持続可能な農業を目指す取組です。同村は寒冷地の根菜類(ながいも、ごぼう等)の産地で、ながいもが特産品となっています。

なお、この事業について寄附企業名や寄附額を示す一次資料は確認できませんでした。村のサイトには令和3年度~令和7年度の受入実績一覧がPDFで掲載されているため、検討する場合は村の担当課に直接確認するのが確実です。スマート農業関連の技術やサービスを持つ企業であれば、製品の実証と地域貢献を重ねられる余地があります。

地熱水を活用した高収益園芸:秋田県湯沢市

基幹産業である農業で耕作放棄や後継者不足が問題となっていることから、豊富な地域資源である地熱を活用した周年ハウス栽培を行い、農業の低コスト化・高収益化を図る実証事業です。温泉水を引き込んだハウスを整備し、高収益が見込める香草類(パクチー・ミント)の水耕栽培を行います。

  • 寄附予定者(申請時点):地熱開発関連事業者、精密機器関連事業者
  • 事業費:全体18,100千円(H28:14,100千円)
  • 事業年度:H28~H30
  • 数値目標:新規生産園芸作物のハウス1棟あたり販売額 H30:1,200千円

食品ロス削減:企業側から事業を持ち込んだ事例

段ボール製造企業が規格外野菜の活用に寄附:神奈川県横須賀市・三浦市

三浦半島に位置する両市は温暖な気候を生かした農業と、海に囲まれた立地を生かした海業が盛んな地域です。事業では、豊かな一次生産物や自然環境を全国のこどもたちの支援に活用し、食や体験の格差を解消することを目指しました。地元の生産者・農協、およびフードバンク事業に取り組むベンチャー企業のネッスー株式会社と連携して実施されています。

三浦市では「三浦モデル」として、品質に問題はないがサイズ規格外のため廃棄になる大根・人参を農家から有償で購入し、全国のこども食堂やひとり親世帯支援団体等に提供。横須賀市では「横須賀モデル」として、よこすか野菜や企業の食品ロス予備軍(品質に問題はないが外装破損や賞味期限が短くなったことで行先のなくなった商品)も活用し、市内のこども食堂や児童扶養手当受給世帯に食品を提供したほか、観光農園でのいちご収穫による自然体験も実施しました。

  • 寄附企業:横須賀市 株式会社トーモクほか3社/三浦市 株式会社トーモク
  • 寄附額:横須賀市 10,000千円・4件(総事業費25,000千円)/三浦市 5,000千円・1件(総事業費5,118千円)
  • 事業期間:2023年12月~
  • 区分:食品ロス削減

両市ともに、こども支援活動の中で地元産品を活用して生産者の所得ややりがいの増進を実現しつつ、同時に食品ロス削減も達成している点が特徴です。今年度には北海道旭川市でも同様の事業が開始されています。

この事例で最も参考になるのは寄附の入口です。全国規模の段ボール製造会社であり三浦半島内の農協にも資材を供給している同社から、制度を活用して生産者とこども支援を両立させる取組をサポートしたいと自治体に相談があり、寄附企業とともに地域のニーズに合った支援の形を検討して両モデルの立ち上げに至りました。同社は「接点のある三浦半島の農家より、規格外野菜の行先がなく困っているという話を聞き、何か支援ができないかと考えていたところ、制度のことを知り、両市へ相談した」「こどもの貧困に課題感をもっていたことや、三浦市農協に規格外野菜を活用したこども支援の実績があったため、こども支援の用途を希望した」と説明しています。その後も事業に共感した企業から寄附の申し入れがあり、着実に寄附が集まっているとのことです。

つまり、既存の対象事業リストから選ぶだけが道ではありません。企業側から持ち込んだ提案が事業として組み立てられ、他社の寄附まで呼び込んだ実例です。

集客施設整備支援・6次産業化に関わる事例

遊休農地を使った「稼げる農業」のモデル化:奈良県明日香村

明日香村は歴史遺産と豊かな自然環境を有する観光名所ですが、良好な景観維持のため建築規制が厳しく、宿泊施設の不足や放置空き家の問題を抱えていました。事業では省力化野菜の生産強化などによる稼げる農業のモデル化や農業の担い手支援を進めるほか、古民家を改修した宿泊施設の開設調整、新たな観光スポットとして期待される牽牛子塚古墳等の整備を進めました。

  • 寄附企業:株式会社長谷工コーポレーションほか2社
  • 寄附額:57,100千円・4件(総事業費269,390千円)
  • 事業期間:2018年4月~2020年3月
  • 令和元年度大臣表彰受賞

成果として、遊休農地を利用した貸し農園の開業により交流人口が増加しました。

同社は官民連携包括協定を機に寄附を決定し、寄附を契機に社員を村役場に派遣するなど新たなパートナーシップを構築したとしています。「明日香村プロジェクト推進室」では特産品の販売支援や、農体験ができる貸農園事業を通した参加型観光メニューの創出を行っているとのことです。寄附が人材派遣とセットで動いた例です。

遊休農地を活かした6次産業化:鳥取県江府町

基幹産業である農業の高齢化・後継者不足が深刻化し、遊休農地や荒廃農地も増加していることから、既存の地域農業である玄ソバの生産振興に加えて6次産業化による高付加価値化に取り組み、雇用創出等の地域産業活性化を図る事業です。玄ソバの作付助成、機械設備導入補助、奥大山蕎麦ブランド化協議会による新商品開発やイベント開催を行います。

  • 寄附予定者(申請時点):サントリープロダクツ株式会社
  • 事業費:全体38,760千円(H28:10,500千円)
  • 事業年度:H28~H31
  • 数値目標:新規雇用者数2人(H29~H31)/玄ソバ生産額 1,500千円(H27)→5,000千円(H31)/ソバ加工販売額 1,000千円(H27)→15,000千円(H31)

農業テーマパークを核とした観光振興:福島県いわき市

いわき市は原子力災害の風評等の影響もあり、2015年度の観光交流人口が808万人と震災前2010年の1,073万人の約75%にとどまり、観光地としての魅力向上が課題でした。事業では複合型農業テーマパーク「ワンダーファーム」等を中心とした観光施設を周遊するモニターツアーの実施や、観光ハイシーズンのシャトルバス運行を展開しています。

寄附を決定したのは、市内に所在する農業生産法人JRとまとランドいわきファームに出資している東日本旅客鉄道株式会社です。同農業生産法人は市の交流人口拡大に向けた企画のサポートも行っています。さらなる寄附企業の募集に向けては、市内に工場等を有するいわき市外企業に事業を案内しているとされています。

出資先の農業生産法人が所在する自治体に寄附するという形で、農業への出資と寄附を組み合わせた例です。

寄附額の相場観

ここまでの事例を寄附額で並べると、農業分野の寄附は必ずしも大型ではないことがわかります。

  • 1,000千円:石川県穴水町(伝承野菜)
  • 5,000千円:神奈川県三浦市(規格外野菜)
  • 6,500千円:群馬県川場村(バイオマス・温室)
  • 10,000千円:神奈川県横須賀市(規格外野菜)/青森県弘前市(援農プロジェクト)
  • 12,024千円:島根県奥出雲町(エゴマ)
  • 16,000千円:大分県杵築市(薬用植物)
  • 23,988千円:北海道夕張市(メロン・薬木)
  • 33,600千円:北海道八雲町(研修牧場・養殖)
  • 57,100千円:奈良県明日香村(稼げる農業・観光)

制度の下限は1回10万円以上です。100万円規模から成立している事例があることは、検討の入口として知っておく価値があります。

制度を使う前に押さえる3つの条件

事例を見て自社の方向性が決まったら、次は制度側の条件を確認します。

控除の上限は自社の納税額で決まる

軽減の内訳は、損金算入による約3割の軽減に加え、令和2年度税制改正で拡充された税額控除が最大6割。合計で寄附額の最大約9割が軽減され、実質負担は約1割です。1,000万円の寄附で最大約900万円の法人関係税が軽減されます。

ただし税額控除には税目ごとに上限があります。

  • 法人住民税:寄附額の4割を税額控除(法人住民税法人税割額の20%が上限)
  • 法人税:法人住民税で4割に達しない場合、その残額を税額控除。ただし寄附額の1割を限度(法人税額の5%が上限)
  • 法人事業税:寄附額の2割を税額控除(法人事業税額の20%が上限)

「最大約9割」は上限であり、寄附額が自社の法人関係税の規模に対して大きすぎると9割には届きません。寄附額を決める前に直近の法人住民税法人税割額と法人事業税額を確認し、控除上限に収まるか試算してください。

本社所在地への寄附は対象外

対象となる寄附の条件は次のとおりです。

  • 1回あたり10万円以上の寄附であること
  • 本社が所在する地方公共団体への寄附は対象外
  • 寄附企業への経済的な見返りは禁止
  • 寄附先の自治体が地方版総合戦略を基に地域再生計画を策定していること

地元貢献のつもりで本社のある自治体に寄附しても税制優遇は受けられません。産地や仕入先が本社所在地と一致していないかを最初に確認してください。なお、東京都および市区町村のうち地方交付税の不交付団体で三大都市圏の既成市街地等に所在する市区町村は、寄附を受ける側として制度の対象外です。

経済的な見返りの禁止をどう読むか

内閣府令(地域再生法施行規則第13条)により、自治体が寄附企業に対してその代償として経済的な利益を供与することは禁止されています。内閣府は解説文書を公表しており、令和8年4月1日に一部改正されています。

禁止されるのは次のような行為です。

  • 寄附を理由とした補助金の交付
  • 寄附を理由とした、他の法人の場合より低い金利での貸付け
  • 入札や許認可での便宜の供与
  • 合理的な理由なく、市場価格より低い価格で財産を譲渡すること
  • 寄附を理由とした換金性の高い商品(商品券やプリペイドカード等)の提供
  • 寄附を行うことを、公共事業の入札参加要件とすること
  • 寄附を活用して整備した施設を専属的に利用させること
  • 合理的な理由なく、他の利用者より低廉な料金で公共施設を利用させること

一方、次は禁止されていません。

  • 感謝状やこれに類するものの贈呈
  • 自治体のHPや広報誌等で、事業紹介に併せて寄附企業の名称を他の寄附者と並べて紹介すること
  • 整備した施設等に銘板等を設置し、寄附企業の名称を他の寄附者と並べて列挙すること
  • 社会通念上許容される範囲内での記念品等の贈呈

個人向けふるさと納税の返礼品を想像していると戸惑うかもしれません。企業版で得られるのは、税の軽減、企業名公表によるPR効果、自治体との関係構築です。寄附した産地の農産物が返礼品として届く制度ではありません。

農業分野で特に気になるのが、産地の自治体とすでに取引がある場合です。この点について内閣府は、過去に契約関係にあった自治体や現に契約関係にある自治体への寄附は、原則として経済的な利益の供与に該当しないため寄附できるとしています。

また寄附した自治体から工事の受注等を行うことも、競争入札か随意契約かにかかわらず、自治体において次の3つすべてが行われることを前提とすれば経済的な利益の供与には当たらないとされています。

  • 条例・規則等を含む法令を遵守すること
  • 手続きにおいて、寄附を行った法人への便宜の供与など、寄附の受領を理由に他の法人との間で別異に取り扱うことがないようにすること
  • 手続きの公正性・透明性等に係る説明責任を十分に果たすこと

3点目については、随意契約の基準が法令の範囲内で自治体の自主的判断に委ねられていることに照らし、一般競争入札や指名競争入札の場合に比べてより一層の説明責任が必要とされています。疑問が生じた場合は該当自治体に確認するよう内閣府は求めています。

整理すると、取引関係の存在自体が障害になるのではなく、寄附を理由に他社と異なる扱いを受けることが問題になります。産地と関係を持つ企業がその産地の農業振興事業に寄附する設計は、制度の想定内です。

なお、寄附で整備した施設を寄附企業が使う場合は、専属的な利用に当たらないか、利用条件で合理的な理由なく異なる扱いがないかが判断軸になります。専属利用に当たらないと認められるには、自治体が利用のための公募を行い、寄附企業以外も同じ条件で利用できる手続きが採られることが必要です。寄附で整備した集出荷施設や加工設備、実証圃場を自社で使いたい場合、「自社専用」を前提にした設計は避けてください。

人材派遣型という選択肢

資金だけでなく人を送る形もあります。企業版ふるさと納税(人材派遣型)は、寄附があった年度にその企業の人材が寄附活用事業に従事する自治体の職員として任用される場合などを指し、派遣期間中の人件費相当額などの事業費が寄附金として扱われます。専門的知識・ノウハウを持つ企業人材の自治体への派遣を促進する制度で、2025年4月からは「副業タイプ」も導入されています。

農業関連の技術やノウハウを持つ企業であれば、資金提供だけより実効性を高められる場面があります。前述の明日香村では寄附を契機に社員を村役場へ派遣し、新たなパートナーシップを構築したとされています。

寄附先の農業事業を探す手順

内閣府のポータルサイトには「企業版ふるさと納税対象事業(地域別)」のページがあり、全国都道府県地図から8つの地域ブロックを経由して都道府県別に対象事業を閲覧できます。令和8年4月1日時点で1,613団体が計画を策定しているため、候補は相当数あります。

検討は次の順序が現実的です。

  • 自社の本社所在地を確認し、その自治体を候補から外す
  • 自社の法人住民税法人税割額・法人事業税額から、控除上限に収まる寄附額のレンジを試算する
  • 仕入先・産地・工場所在地・出資先など、本業との接点がある自治体を洗い出す
  • ポータルサイトの地域別ページで、その自治体の対象事業に農業分野のものがあるか確認する
  • 該当事業がなければ、自治体の担当課に直接相談する

最後の項目を軽く見ないでください。トーモクの事例のように企業側から相談を持ち込み、地域のニーズに合わせて事業を組み立てたケースが実在します。ミスズアグリの事例では、企業の商品開発の意向に対して町が地域の希少食材を提案するという逆方向の展開も起きています。

自治体側が寄附を得るために企業を訪問している事実も事例集の随所に出てきます。八雲町では庁内各部署で縁のある企業をリストアップして町長がトップセールスを行い、川場村では人員が少なく営業体制を整えるのが難しいなか村長自らが出向き、奥出雲町では取引の縁がある企業を訪問してプレゼン資料で説明したとされています。寄附の相談は、企業から持ち込んでも自治体から来ても成立します。

コメント

事例を通して見えるのは、機能している農業分野の寄附には本業との具体的な接点があるということです。

酒類メーカーがシードルの原料であるりんご産地の人手不足に、生薬メーカーが薬用植物の国内栽培基盤に、漢方薬メーカーが薬木の植栽に、油脂メーカーがエゴマの産地に、段ボールメーカーが資材を供給する農協のある地域の規格外野菜活用に、食品企業が自ら農業参入した町の伝承野菜に寄附しています。いずれも「縁もゆかりもない自治体への社会貢献」ではなく、調達や取引、出資の延長線上にあるテーマです。内閣府の事例集が「原材料産地支援」という区分を設けているのは、この型が制度の主要な使い道として認識されているからでしょう。

最も明快なのは弘前市の事例でニッカウヰスキーが述べた「弊社のシードルには地域のりんごが不可欠」という一言です。原材料が自社製品に不可欠で、その産地が労働力不足で揺らいでいるなら、産地を支えることは社会貢献であると同時に事業の持続性の話になります。この筋書きが立つ企業にとって、制度は使いやすいはずです。

実質負担1割で調達先の生産基盤や産地の担い手確保に資金を投じられる制度だと捉えると、使いどころがはっきりします。特に、原材料の国内調達を中長期の課題として抱えている企業にとっては、産地の農地荒廃や担い手不足という自治体側の課題と重なる部分が大きいはずです。

一方で、見返りを期待する設計は成り立ちません。禁止行為のリストを見れば、寄附と引き換えに優先的な扱いを受ける仕組みは明確に排除されています。得られるのは税の軽減、企業名公表によるPR、自治体との関係構築、そして社員の誇りやモチベーションといった内部的な効果です。カネダ株式会社が「社会貢献は社員の誇りにつながっている」と述べ、明日香村の寄附企業が社内でCSRへの関心が高まったとし、たつの市の事例で寄附企業が「寄附を契機に市との関係が深まり相談しやすくなったことがメリットだった」と語っているのは、この制度から実際に得られるものの現実的な姿です。

最後にもう一度、寄附額を決める前に自社の法人関係税の規模を確認してください。「最大約9割」は各税目の上限に収まる範囲での話であり、規模の大きな寄附では軽減率が想定を下回る可能性があります。

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