ハチに頼らない自律受粉。Polybeeが切り拓く施設園芸のRaaS|$4.3M調達、英・豪・米の温室で商用稼働

会社基本情報

  • 社名:Polybee Pte Ltd.
  • 本拠地:シンガポール(英国にも事業拠点)
  • 設立:2019年(シンガポール国立大学からのスピンオフ)
  • CEO・創業者:Siddharth Jadhav(シッダールト・ジャダブ)氏
  • 資金調達:2026年2月にシードラウンドで430万米ドルを調達。Paspalis Capitalとelev8 VCがリードインベスターを務め、SEEDS Capital、Blue River Technology創業者のJorge Heraud氏らがエンジェル投資家として参加
  • これまでの主な出資者:Temasek Foundation、シンガポール国立大学エンダウメント、DBS Bank ほか

事業概要

Polybeeは、超小型の自律飛行ドローンとコンピュータビジョンAIを組み合わせ、温室や植物工場における自律受粉収量予測を提供するアグリテック企業です。同社のフラッグシップ製品である「BeeOS」は、ドローンが施設内を自動で巡回し、花を識別して受粉作業を行うと同時に、果実の数・サイズ・成熟度・植物の健康状態をデータとして収集します。これによって生産者は、収穫量の予測精度を高め、出荷計画や価格設定を最適化できます。

課題と解決策

温室トマトやイチゴ、パプリカなどの施設園芸では、長年にわたりマルハナバチ(バンブルビー)が受粉作業を担ってきました。しかし近年、世界各地で以下のような課題が顕在化しています。

  • 世界的なハチの個体数減少と養蜂コストの上昇
  • マルハナバチが媒介するToBRFV(トマト褐色しわ果ウイルス)など病害伝播リスク
  • 夏季や厳冬期など、ハチの活動が低下する時期の着果率低下
  • 外来種マルハナバチの輸入規制(豪州、英国の一部地域など)

Polybeeはこれらの課題に対し、特許出願中の「Aerodynamically Controlled Pollination(空気力学制御受粉)」と呼ぶ手法を開発しました。ドローンの後流(ダウンウォッシュ)を最適化し、マルハナバチが羽音で行う「バズ受粉」と同じ周波数帯で花を振動させることで、花に接触せずに花粉を放出させます。ハチに依存せず、病害リスクも抑えながら、受粉のタイミングと頻度を完全にコントロールできる点が最大の強みです。

技術詳細

Polybeeのシステムは、自己離発着・自己充電が可能なドックステーションと、カメラを搭載した自律ドローン、そしてクラウド上のAIプラットフォームで構成されています。

  • コンピュータビジョン:ドローンが撮影する画像から、開花した花、未受粉の花、果実、葉の状態をAIがリアルタイムで識別
  • 自律ナビゲーション:GPSが使えない屋内環境でも、画像とセンサー融合により列ごとに自律走行
  • ハードウェア非依存:自社開発の制御ソフトウェアはドック対応ドローンであれば機種を問わず動作し、現在はDJI製ドローンを利用
  • 受粉精度のエビデンス:豪州Hort Innovationが資金提供した1年間の試験では、温室トマトおよびイチゴでドローン受粉の有効性が確認されています。CEOのJadhav氏によれば、推奨運用に従った顧客は収量が10〜15%以上向上したとされています

ビジネスモデル

Polybeeはハードウェアを売り切るのではなく、ドローン本体、ソフトウェアサブスクリプション、現地サポートを一括で提供するサービス型(RaaS/SaaS)モデルを採用しています。料金は1ヘクタール当たりの固定フィー方式で、生産者は初期投資を抑えつつ、栽培面積に応じた費用で導入できます。価格レンジは公開されていませんが、AgFunderNewsのインタビューでは「即座に投資回収可能(immediate, bankable ROI)」を訴求ポイントとしています。

導入実績・パートナー

  • オーストラリア最大級のガラス温室生産者複数社と商用契約を締結
  • 米国の大手生鮮野菜・果実生産者で導入
  • 英国第2位の温室ベリー生産者で運用中
  • 豪州政府系のHort Innovationが主導する施設園芸向け非生物受粉技術プロジェクト(PH19000)に参画

今後の計画

同社は2026年中に運用面積を5倍に拡大し、合計4,000エーカー(約1,620ヘクタール)超をカバーする計画を公表しています。また、ドローンのペイロードをアップグレードし、マルチスペクトル画像による病害・ストレス検知機能の追加も計画中です。地域的には、北米、欧州、オセアニアの主要施設園芸地帯を中心に展開を加速する方針です。

コメント — 日本市場における意義

日本の施設園芸でも、トマト、イチゴ、ピーマンの受粉にマルハナバチが広く使われていますが、外来種マルハナバチに関する環境リスクの議論、夏季の活性低下、養蜂コストの高騰など、海外と共通する課題を抱えています。とくに大規模ガラス温室や植物工場では、Polybeeのような労働力に依存しない受粉ソリューションは導入インパクトが大きいと考えられます。国内では物理的なハチ代替装置(電動バイブレータ)やArugga(イスラエル)の類似ドローン受粉サービスが知られていますが、Polybeeは「収量予測との一体提供」という点でユニークです。受粉単体ではなく、データ駆動の収穫オペレーション全体を置き換える提案として、国内の大手施設園芸事業者にとって検討に値するプレイヤーです。

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