近年、食品メーカーのみならずIT企業や不動産業など、さまざまな業種が農業への参入を検討・実施しています。その理由やメリットは多岐にわたりますが、ここでは大きく4つの観点から整理してみましょう。
1. 担い手不足と高齢化による社会的ニーズ
日本の農業従事者数は年々減少しており、農業就業人口の平均年齢も高齢化が進んでいます。農林水産省のデータによると、令和2(2020)年時点で農業従事者の平均年齢は67.8歳に達しています。こうした担い手不足の状況を受け、国や自治体は企業の農業参入を積極的に支援し始めました。
▼参考:農林水産省 統計情報
- 耕作放棄地は令和3年時点で約42万haに上り、農地の維持・活用が急務となっている
- 生産人口の確保が将来的な食料自給率にも大きく影響している
2. 食の安全・安心への高まり
食品偽装事件や輸入食材の安全性への懸念から、消費者の「食の安全・安心」志向が高まっています。企業が自ら農場を持ったり、提携農家と協力して生産体制を整えたりすることで、生産履歴の透明性を確保しやすくなり、自社ブランドの信頼を高めることが可能です。
- 原料生産から加工・販売まで一貫管理し、品質基準を自社で統制できる
- 「国産原料100%」や「トレーサビリティ完備」といった付加価値を訴求できる
3. 技術革新と新規ビジネスチャンス
ドローンやIoT(モノのインターネット)、AI(人工知能)などを活用する「スマート農業」の台頭により、従来の農業とは異なるビジネスモデルが登場しています。例えば、ビッグデータを活用した精密農業や、都市部での植物工場など、これまで参入障壁が高かった分野でも新規事業を展開しやすい環境が整いつつあります。
- IT企業が農業データをもとにソリューションを提供し、新たな収益源を確保
- 都市型農場(植物工場など)による年間通じた生産と安定的な供給体制の構築
▼参考:農林水産省 スマート農業の推進
4. 企業としてのメリット
(1)安定調達とコスト削減
食品メーカーや外食産業など、自社の主力商品に必要な原材料を安定的に確保する目的で農業参入を行うケースが増えています。契約栽培や自社農場を持つことで、市場価格の変動や輸送コスト、品質ばらつきのリスクを抑えられる点は大きなメリットです。
(2)事業多角化とリスクヘッジ
農業参入は新たな収益源となるだけでなく、他事業が不振に陥った際のリスクヘッジ効果も期待できます。農作物の生産から加工・流通までを一貫して手掛ける「6次産業化」によって、ビジネス領域をさらに拡張することも可能です。
(3)ブランド強化と社会的評価
自社での農業参入は、消費者や投資家の目線から見たときに企業イメージを高める効果もあります。特に、地域の耕作放棄地を活用して雇用創出やコミュニティ活性化に貢献する取り組みは、CSR(企業の社会的責任)やSDGs(持続可能な開発目標)の観点からもプラスに評価されます。
(4)技術・ノウハウの横展開
農業事業で得られたノウハウや技術は、本業や他の事業領域に応用できる場合もあります。たとえば、IT企業が栽培データや環境制御システムを独自開発し、他社や農家向けに提供するといった形で新ビジネスに発展する可能性があります。
まとめ
企業が農業に参入する背景には、高齢化・担い手不足といった社会課題から、「スマート農業」の普及に伴う新規ビジネスチャンスまで、多様な要因があります。参入のメリットは、安定した原材料の確保や新規事業の創出、企業ブランド向上などさまざまです。
一方で、農業は天候リスクや法規制、ノウハウ不足といった課題も抱えています。メリットとリスクを正しく理解し、十分な調査や専門家の協力を得て計画的に進めることで、社会的にも企業的にも意義ある事業展開が期待できるでしょう。
次の記事では、実際に企業が農業に参入する際の手続きや流れについて、具体的にご紹介します。ぜひご覧ください。