会社基本情報
- 会社名:DryGair Energies Ltd.
- 本社所在地:イスラエル ヘルツリーヤ(8 Hamanofim Street)
- 設立:2010年
- 技術開発元:Volcani Institute(イスラエル国立農業研究センター)のDr. Avraham Arbel
- CEO:Tal Netzer
- 公式サイト:https://www.drygair.com/
事業概要
DryGairは、温室やハウス栽培の除湿に特化した装置とその運用メソッドを提供するイスラエルのアグリテック企業です。イスラエル国立農業研究センター(Volcani Institute)で開発された技術をベースに、換気を行わずに温室内の湿度を制御する独自のアプローチで、従来の暖房+換気方式と比べてエネルギーコストを大幅に削減します。
栽培者からの報告では平均で総エネルギーの50%削減が達成されており、作物によっては収量の向上と病害の抑制も同時に実現しています。
プロダクト構成
DG-12 除湿ユニット
DryGairのフラッグシップ製品であるDG-12ユニットは、以下のスペックを備えています。
- 除湿能力:1時間あたり45リットル(1日あたり1,080リットル)の水分を空気中から凝縮除去
- 消費電力:10〜12 kW
- 空気循環:特許取得の360度空気循環モジュールにより、乾燥した暖気を温室全体に均一に分配
- 熱回収:凝縮プロセスで発生する潜熱を再利用し、空気を加温
「New Way to Grow」プロトコル
DryGairは除湿機単体の販売だけでなく、栽培手法自体を変える「New Way to Grow」プロトコルを提唱しています。これは3つの原則で構成されます。
- サーマルスクリーンによる環境の断熱
- 高効率LEDなどによる最適な光環境の構築
- 換気ではなく内部循環による湿度制御
どういう課題をどう解決しているか
従来の温室除湿の問題点
温室栽培における湿度制御は、作物の病害防止と品質維持のために不可欠です。しかし従来の方法には大きなエネルギーロスが発生します。
暖房+換気方式(一般的な温室)では、温室内に溜まった湿気を逃がすために換気窓を開放し、外気を取り入れます。しかし同時に暖房で温めた空気も外に逃がしてしまうため、莫大な暖房エネルギーが無駄になります。
HVAC方式(室内栽培施設)では、空気を冷却して除湿しますが、必要以上に冷やした後に再加熱する必要があるため、エネルギー効率が極めて低くなります。そもそもHVACは植物が絶えず放出する大量の水蒸気に対応するようには設計されていません。
DryGairの「閉鎖型温室除湿」が異なる点
DryGairのアプローチの核心は、温室を閉じたまま内部で除湿を完結させる点にあります。換気窓を開ける必要がないため暖房エネルギーのロスが発生しません。
さらに重要な差別化要因は凝縮時の潜熱の再利用です。空気中の水蒸気を凝縮する過程で放出される熱を、外部に排出するのではなく室内に戻して空気を暖めます。これにより除湿と加温を同時に実現し、暖房の負荷を大幅に低減しています。
また、特許取得の360度空気循環システムにより、温室内の温度・湿度のムラを解消し、安定した飽差(VPD: Vapor Pressure Deficit)を維持します。これにより植物表面の結露を防止し、Botrytis(灰色かび病)などの湿度関連病害を抑制します。
導入実績
エネルギー削減効果
ドイツでのバジル栽培を対象とした実証試験では、季節別に以下のエネルギー削減率が記録されています。
- 春季:42%削減
- 秋季:51%削減
- 冬季:78%削減
- 年間平均:57%削減
エネルギー削減効果だけで投資回収期間は23ヶ月と報告されています。
病害防止効果
花卉栽培の試験では、相対湿度を85%以下に維持することでBotrytis(灰色かび病)の発生を98%削減しました。また、国際的な有機苗木生産者であるHishtilは、DryGairの技術が「湿度に起因する病害をほぼ完全に防止する」と報告しています。
収量向上効果
- トマト:無加温ハウスで1茎あたり+25%の収量増
- バジル:+15%の収量増(うどんこ病の発生ゼロ)
- カンナビス:+30〜40%の収量増
ビジネスモデル
DryGairは除湿ユニットのハードウェア販売を主軸としたビジネスモデルを採用しています。温室の規模に応じてDG-12ユニットの導入台数を決定し、設置とトレーニングを提供します。加えて、「New Way to Grow」プロトコルとして栽培手法のコンサルティングも行い、ハードウェア導入後の継続的なサポートを提供しています。
競合との比較
- Munters Group:エネルギー効率の高い除湿技術で世界的に展開。商業温室と研究施設の両方に対応する総合的な空調ソリューション
- Quest Dehumidifiers:高容量の精密除湿ユニット。北米市場でカンナビスや農産物栽培向けに強い
- Anden:Questと類似のポジショニングで、大規模施設向け除湿に対応
- Dantherm Group:除湿・加温・冷却・換気を統合した空調制御システム
- AGAM Greenhouse Energy Systems:温室特化型の空調ソリューション
DryGairの優位性は、温室に特化した設計と潜熱回収による加温と除湿の同時実現という独自の技術にあります。汎用的なHVACシステムとは異なり、植物が放出する大量の水蒸気に対応するよう設計されている点が、栽培者にとっての実用的な差別化要因です。
今後の計画
DryGairは植物工場や室内栽培施設の世界的な拡大に伴い、これらの施設向けの除湿ソリューション需要の増加に対応する構えです。特にHVAC方式が主流の室内栽培市場においては、エネルギー効率の向上が経営上の重大な課題となっており、DryGairの専用除湿技術への切り替えニーズが高まっています。
コメント
温室の湿度制御というテーマは地味に見えますが、暖房コストはハウス栽培の経費の中でも最大の割合を占めることが多く、その削減は経営に直結します。DryGairの「換気しない」というアプローチは、従来の常識を覆すものです。
日本の温室栽培でも、冬場の暖房コストは深刻な課題です。環境制御システムの導入が進む中で、除湿を独立した制御パラメータとして最適化するDryGairのアプローチは、今後注目される可能性があります。Botrytisの98%削減という実績は、農薬使用量の削減にもつながるため、環境制御型農業を推進する施設にとって有力な選択肢となるでしょう。