空中でジャガイモが育つ栽培技術「エアロポニック」とは。病原体フリーの種イモを農家に届ける企業、CBA sementes を紹介します

ジャガイモ生産では、最初に植える「種イモ」の品質が重要です。そこでブラジルの企業CBA sementes は、高品質な種イモを生産して農家に供給するため、「エアロポニック」という技術を導入しています。一体どのような技術なのでしょうか。

CBA sementes 基本情報

住所:Diviolandia, Sao Paolo, Brazil

CEO:Licas Moreira

設立年:2016年

従業員数:10人以下

CBA sementes は「種イモ」の品質を高める企業

ジャガイモの出来は種イモで決まる

ジャガイモの市場規模は世界で3.9億t、4000億米ドルに達し、加工食品やデンプン原料など多様な用途があります。

ジャガイモは、地下茎を使って栄養繁殖を行う作物です。「種イモ」と呼ばれる清潔なイモを土に植えつけて、出てきた芽から新たな株を育てます。種イモが病原体に感染していた場合は、種イモから育った株にも病原体が移行してしまい、収量低下や枯死に至ります。そのためジャガイモ農家にとって、仕入れる種イモの品質は収量・品質に直結する重要項目です。ジャガイモ農家は信頼できる種イモを求めるため、病原体フリーの種イモを作る専門の「種イモ農家」も存在します。

高品質な種イモで農業に貢献する

CBA sementes は、高品質で病害の無い種イモを生産することで、ジャガイモ農家の収益向上に貢献することを目指す企業です。種イモが清潔で健康であれば、枯死による収量低下が抑えられます。さらに病害予防のための農薬投入も減るため、ジャガイモ農家にとって大幅なコスト削減になるでしょう。

CBA sementes のコア技術はエアロポニック

エアロポニックとは

高品質な種イモを生産するため、CBA sementes ではエアロポニックという栽培技術を採用しています。エアロポニックとはaero(空気)とponic(栽培)を合わせた造語であり、植物を空中で栽培する技術を意味します。

ジャガイモのエアロポニックでは、ジャガイモの株を空中に吊るし、地下茎および根が剥き出しで垂れ下がった状態にします。水分は水蒸気やミストによって供給し、ミストに肥料を混ぜれば施肥も可能です。

エアロポニックには以下のメリットがあります。

  • 気温、湿度、灌水量、養分などの微調整が可能です。このため栽培環境の再現性・均一性が高く、種イモの品質や生育を揃えやすくなります。
  • 土を使わない閉鎖系で育てるため、土壌や昆虫を介する病気(放線菌による「そうか病」、ウイルスによるモザイク病など)を防ぐことができます。
  • 露地栽培では地下部の生育状況を目視できませんが、エアロポニックでは地下茎や根が剥き出しであるため、生育状況を可視化して管理できます。

CBA sementes の栽培設備

Brazilian Venture CBA Sementes Licenses Seed Potato-Growing Aeroponic Systems to Empower Farmers

CBA sementes はブラジルのサンパウロに栽培圃場を所有しており、500㎡のエアロポニック施設で種イモを栽培しています。栽培棚に並んでいるのは、地下茎や根が剥き出しのジャガイモ。根の周りは普段は暗幕で覆われていますが、暗幕をめくって生育状況を目視確認できます。

このエアロポニック施設の生産能力を通常の露地栽培と比較すると、以下の長所があります。

  • 同じ面積の露地栽培に比べて、18倍の密度でジャガイモを栽培できます。
  • 同じ量の種イモを露地栽培する場合に比べ、水を98%削減農薬を95%削減肥料を80%削減できます。
  • 病害が発生しません。

CBA sementes のビジネスモデル

企業向けに無菌種イモ「G0 Seed Potatoes」を販売

現在、CBA sementes では自社農園で栽培した種イモを販売しています。種イモは「G0 Seed Potatoes」という商品名で売られており、主な取引先は「ペプシコ」などの企業です。これらの企業が保有する農場で、CBA sementes の種イモから業務用のジャガイモが生産されます。

今後はライセンスビジネスも展開

種イモを販売するだけでなく、今後はライセンスビジネスの展開も目指しています。エアロポニックの設備を種イモ農家に提供して「G0 Seed Potatoes」の生産・販売を許可し、ライセンス料を得るというビジネスモデルです。

種イモ農家はCBA sementes のノウハウを活用して品質の高い種イモを生産し、ジャガイモ農家に売って収益をあげることができます。CBA sementes は種イモ農家からライセンス料を得るため、自社での栽培コストを抑えられます。

このビジネスモデルを構築するには、農家に提供する資材や技術指導への追加投資が必要です。そのためCBA statement は複数のベンチャーキャピタルから出資を募っています。

CBA sementes の最近のトピック

ジンバブエでの活動

CBAはジンバブエでの事業展開を目指しており、担当省庁(Ministry of Lands, Agriculture, Water and Rural Resettlement of Zimbabwe)の事務次官との会談や現地視察を行っています。

ジンバブエでは、2017年以降ジャガイモの生産量減少が続いています。原因は環境的要因だけではなく、社会インフラの未発達も背景にあります。そのため単に栽培技術を移植するだけでなく、運用に必要な電気や水の確保、人材育成といった課題もあるでしょう。ジンバブエでのエアロポニック導入が成功すれば、アフリカにおける先端農業のモデルケースになるかもしれません。

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