会社基本情報
- 会社名:Pepper(法人名: Pomegranate Technologies, Inc.)
- 所在地:米国ニューヨーク
- 設立:2021年1月ローンチ
- 代表者:Bowie Cheung(共同創業者兼CEO、元Uber Eats)
- 共同創業者:Chetan Narain(元Uber Eats / Google エンジニア)、Ivana Tesanovic(元Siemens アナリスト)
- 従業員数:100名以上(うち約3分の1が食品流通業界出身者)
- 累計調達額:約9,900万ドル(Series Cまで)
- 顧客数:500社以上の独立系食品ディストリビューター(2026年2月時点)
- 公式サイト:https://www.usepepper.com/
CEOのBowie Cheung氏はUber Eatsの初期メンバーで、サンタモニカの数店舗から100万以上の加盟店へのグローバル展開を経験しました。共同創業者のChetan Narain氏もUber Eatsで4年間エンジニアとして勤務した後にGoogleを経てPepperを共同設立しています。フードデリバリー・プラットフォームの構築経験を食品流通のB2Bに応用したのがPepperの出発点です。
事業概要
Pepperは、独立系食品ディストリビューター向けのB2B eコマース・プラットフォームを提供しています。独立系食品ディストリビューターとは、SyscoやUS Foodsのような全米規模の大手食品卸ではなく、特定の地域や食品カテゴリに特化した中小の食品卸売業者のことです。日本で言えば、三菱食品や国分グループのような大手ではなく、地域密着型の中小食品問屋・卸売業者にあたります。米国には約25,000社の独立系食品ディストリビューターが存在し、米国の食品消費の約3分の2を担っています。
Pepperはこうした中小卸とレストラン、コンビニエンスストア、その他の食品事業者をつなぐデジタルプラットフォームです。単なるeコマース機能だけでなく、受注自動化、営業支援AI、商品データベース、メーカー向け広告プラットフォーム、決済・回収まで、食品卸の業務全体をカバーする統合プラットフォームとなっています。
対応する食品カテゴリは、総合食品(ブロードライン)、青果物、水産物、食肉、業務用洗剤・清掃用品(JanSan)、コンビニ向け商品、コーヒー、酒類、アイスクリームなど多岐にわたります。
プロダクト構成
Pepperのプラットフォームは以下の主要プロダクトで構成されています。
Storefront(eコマースプラットフォーム)
Pepperの中核プロダクトです。各ディストリビューターのブランドで完全にカスタマイズされた専用アプリとWebサイトを提供します。買い手(レストランや小売店)がダウンロードするのはPepperのアプリではなく、その卸売業者自身のブランド名が付いたアプリです。
注文の80%以上がモバイルデバイスから行われており、70%の注文が5分以内に完了します。バーコードスキャン、プラノグラム対応、オフラインモード、プッシュ通知、配送追跡などの機能を備えています。また、カスタマイズ可能な注文ガイド(アカウントごとに複数設定可能)や、よく注文する商品のリマインダー機能で、リピート購入を促進します。
Order Agent(自動受注処理AI)
Order Agentは、テキスト、ボイスメール、メール、写真、PDFなど、あらゆるチャネルからの注文をAIが自動的にデジタル注文に変換するプロダクトです。複数言語に対応しており、初回の変換精度は80〜90%です。注文ガイドや過去の注文履歴を学習データとして活用し、ERPと直接連携して処理します。
このプロダクトの重要な点は、買い手に新しいツールの使い方を強制しないことです。FAXや電話で注文したい買い手はそのまま注文でき、Pepper側でデジタル化を行います。これにより、デジタル化への移行障壁を大幅に低減しています。
DSR Connect(営業支援ハブ)
DSR(Distributor Sales Representative=卸の営業担当者)向けの営業支援ツールで、Lite・Pro・Enterpriseの3ティアで提供されています。
主な機能は以下の通りです。
- 見込み客開拓:地図ベースのプロスペクトファインダー、Datassentialデータベースとの連携による飲食店データの即時取得
- メニュースキャン:レストランのメニュー(Yelp連携)をAIがスキャンし、食材をディストリビューターの在庫と照合して、数秒で見積もり付きの注文ガイドを自動生成
- 販売インテリジェンス:価格編集・競合モニタリング、在庫可視化、粗利管理、失注商品アラート
- CRM機能:顧客ノート、タスクマネージャー、注文ガイドのエクスポート
Casey(AIコパイロット)
Caseyは営業担当者向けの自然言語チャットインターフェースを持つAIアシスタントです。全アカウントと商品のデータを参照でき、以下のような質問に即座に回答します。
- 支払い遅延のある顧客の特定
- 特定カテゴリのベストセラー商品の分析
- 注文パターンの異常検知(解約リスクの早期発見)
- 在庫切れ時の代替商品提案(スマート代替機能)
- 顧客の購買行動に基づくアップセル推奨
解約リスクの検知では、注文金額の微減や定番商品の注文停止といった小さな変化をCaseyが検出し、営業担当者にアラートを送ります。
SALT(Smart Attribute Library & Taxonomy)
SALTは1,800万以上の商品属性を持つ食品データベースです。GS1準拠のデータで、Syndigo、1WorldSync、USDA、メーカーからの直接データフィードを統合しています。AIによるデータギャップの特定と属性の自動補完を行い、さらに人間による検証レイヤーを設けてデータ品質を担保しています。
過去90日間に販売された商品の90%をカバーしており、商品画像、栄養情報、原材料情報を含みます。Pepper専任のプロダクトコンテンツチームがデータの維持・更新を行っています。競合のCut+Dryが500〜600万属性であるのに対し、SALTは1,800万以上と3倍以上の規模です。
Smart Solutions(メーカー向け広告プラットフォーム)
Smart Solutionsは、食品メーカーがPepperネットワーク上でディストリビューターの買い手(レストランや小売店)に向けて広告キャンペーンを展開できるプラットフォームです。Pepperネットワーク全体で150,000以上のオペレーター(買い手)にリーチでき、ネットワークの総取引額は200億ドル規模です。
広告フォーマットは、注文ガイド内のディスプレイ広告、検索結果のキーワード優先表示、サンプルリクエスト機能の3種類です。料理ジャンル、業態、地域、購買行動によるターゲティングが可能です。
平均ROAS(広告費用対効果)は6〜8倍を実現しています。参加メーカーにはIndiana Packers、Pilgrim’s、General Mills、Conagra Brands、McCain Foods、Aspire Bakeriesなど40社以上が名を連ねています。
Finance Hub(決済・回収)
アプリ内およびWeb上での決済処理、請求書管理、自動支払い機能を提供します。導入企業のPalmer Food Servicesでは、売掛金回収業務で週20〜40時間の削減を実現しました。全体ではDSO(売掛金回転日数)が平均2日短縮、請求・決済業務で週4時間の削減が報告されています。
Endless Aisle(ドロップシッピングプラットフォーム)
2025年7月に発表された新プロダクトで、フードサービス業界初のオープンなドロップシッピングプラットフォームです。ディストリビューターが自社の倉庫スペースを使わずに取扱商品を拡大でき、Pepperのeコマース体験の中でシームレスに提供されます。
どういう課題をどう解決しているか
食品流通が抱える課題
米国の食品流通業界は、3,820億ドル規模(17,100の配送センター、43万1,000人の従業員)の巨大市場でありながら、デジタル化が著しく遅れています。多くの独立系食品卸売業者は依然としてFAX、電話、メールで受注を行い、手作業でのデータ入力や在庫管理に多大な時間を費やしています。大手企業はSyscoやUS Foodsなどが自社システムを構築していますが、独立系の中小卸売業者にはそうしたテクノロジーが行き届いていません。
Pepperのアプローチ
Pepperは独立系食品ディストリビューターに特化した統合プラットフォームを提供し、営業チームと顧客の両方の業務を簡素化・自動化します。AIを活用した注文予測、CRMツール、コンテンツ管理、分析プラットフォームなどを統合的に提供します。
2025年8月にはAIプラットフォームと販売支援ソリューションを提供するKimelo社を買収し、フードサービス業界向けの機能をさらに強化しました。買収時点でPepperは400社以上の顧客と70以上の連携パートナーを擁しており、Kimeloの顧客もPepperネットワークに統合されました。
なぜPepperはFAX・電話の置き換えに成功したのか
食品卸の受発注デジタル化は以前から試みられてきましたが、多くのソリューションが定着しませんでした。日本でも同様に、FAX・電話・メールによる受発注は依然として根強く残っています。Pepperが成功した背景には、従来のツールとは異なるいくつかの明確な特徴があります。
ホワイトラベル方式で卸のブランドを守る:従来のデジタル発注プラットフォームの多くは、レストラン側を向いたマーケットプレイス型で、複数の卸売業者を同じ画面に並べて比較・競合させる構造でした。これでは卸側にとって導入メリットが薄く、むしろ価格競争を招くリスクがありました。Pepperは逆に、各卸売業者のブランドでカスタマイズされた専用アプリを提供するホワイトラベル方式を採用し、卸と買い手の個別の関係性を維持できるようにしました。
あらゆる注文チャネルを受け入れるOrder Agent:多くのデジタル化ツールが失敗した理由の一つは、買い手にアプリの使い方を強制したことです。PepperのOrder Agentは、テキスト、ボイスメール、メール、FAXなど従来のチャネルからの注文もAIが自動的にデジタル化します。買い手は従来通りの方法で注文でき、卸側だけがデジタル化の恩恵を受けられます。この「買い手に変化を強いない」設計が、導入障壁を大幅に下げました。
40以上のERPとの連携モジュールを自社開発:食品卸は数千点の商品カタログを管理しており、既存のERP・基幹システムとのデータ連携が不可欠です。過去の競合サービスはこの連携部分を簡略化しようとして失敗しました。PepperはCEO自身が「ショートカットしようとした競合は失敗した」と述べているように、40以上のERPシステムに対応する200以上の統合モジュールを自社で構築し、リアルタイムの在庫・価格情報の反映を実現しました。
社員の約3分の1が食品流通業界出身:テック企業にありがちな「業務フローの単純化しすぎ」を回避するため、食品流通の現場を熟知した人材を積極的に採用しています。創業チームは実際に卸売業者の現場でボイスメールを聞き、電話を取り、手作業でデータ入力を行うところから製品設計を始めました。
こうしたアプローチの結果、Pepperは創業以来の顧客離脱率ゼロ(100%リテンション)を達成しています。
導入実績
Pepperは公式に複数の導入事例と成果指標を公開しています。
プラットフォーム全体の平均実績
- 導入後16週間で注文単価(バスケットサイズ)が平均20%増加、投資対効果は40倍
- 1店舗あたり月間売上が平均400ドル増加(導入後16週間)
- 既存店売上が平均20%以上向上
- 営業担当者1人あたり週10時間以上の時間削減
- 売掛金回転日数(DSO)が平均2日短縮
個別の導入事例
- Sirna & Sons:1日あたり新規オペレーター100件増加、ドロップあたり売上23%増、顧客維持率94%、時間削減10時間以上
- 東海岸の青果ディストリビューター:15週間で平均注文額25%増、注文SKU数75%増、月間の増分売上は数十万ドル規模
- 東海岸の総合食品ディストリビューター:平均注文額29%増、アプリ内プロモーションによる月間粗利が27万ドル増加
- Palmer Food Services:売掛金回収業務で週20〜40時間削減
- Brown Foodservice:Order Agentにより営業担当者1人あたり毎日1〜2時間の時間削減
- Glacier Point(アイスクリーム専門):1,200ユーザーから10,000〜15,000ユーザーへの成長を見込む。従来FAXや電話で最大40分かかっていた注文がアプリで大幅短縮。顧客に見せたことのなかった商品が初めて表示され、新たな売上を創出
- Mr. Greens(フロリダ・テキサス):レガシーERPのeコマースモジュールからPepperに移行後、1年以上にわたり毎月売上が成長
Smart Solutions(広告プラットフォーム)の実績
- Aspire Bakeries:キャンペーンあたりケース販売数20〜30%増、ROAS 6.5〜8倍、年間約300件の新規バイヤー獲得、キャンペーン後の週間注文数40%増加、新商品の5件に1件が定番商品化
- 鶏肉メーカー:ROAS 7倍、新規バイヤー52件獲得
- ベーカリー:ROAS 14倍、新規バイヤー227件獲得
- 冷凍食品メーカー:ROAS 22倍、新規バイヤー306件獲得
- Henry’s Foods:プロモーション対象商品の売上3倍増
- Loffredo Fresh Foods:週間売上10万ドル以上の増加
ビジネスモデル
Pepperは複数の収益源を持つマルチサイドプラットフォームです。
1. ディストリビューターからのSaaS月額課金:料金体系はStarter・Growth・Enterpriseの3プランで、販売先の顧客数や利用する機能に応じたカスタム見積もり方式です。顧客数が多いほど1顧客あたりの単価は割引されます。具体的な金額は非公開です。ACV(年間契約額)は導入後に決済や広告などの追加機能の利用拡大に伴い、大幅に成長する傾向があります。
2. メーカーからの広告収入(Smart Solutions):食品メーカーが40社以上参加し、Pepperネットワーク上でディスプレイ広告、キーワード優先表示、サンプルリクエストなどのキャンペーンを実施します。1オペレーターあたり月間10〜20ドルの広告収入が報告されています。
3. 決済手数料(Finance Hub):アプリ内決済処理による手数料収入です。
資金調達の経緯は以下の通りです。
- 2021年:Series A(Greylock主導、Index Ventures、Imaginary参加)
- 2024年5月:Series B 3,000万ドル(ICONIQ Growth主導、Harmony Partners、Index Ventures、Greylock、Imaginary参加)
- 2026年2月:Series C 5,000万ドル(Lead Edge Capital主導、ICONIQ、Index Ventures、Greylock、Harmony Partners、Interplay参加)
Series Bまでの累計調達額は約6,000万ドルで、Series AからSeries Bまでに売上は20倍、顧客数は5倍に成長しました。Series BからSeries Cまでの間に顧客基盤と売上をさらに3倍以上に拡大しています。年間GMV(流通総額)は10億ドル以上に達しています。
競合との比較
vs Cut+Dry
Cut+DryはPepperの主要競合ですが、いくつかの構造的な違いがあります。Cut+Dryはホームページからマーケットプレイスを提供しているのに対し、Pepperはディストリビューターファーストでマーケットプレイスを持ちません。モバイル対応では、Pepperがネイティブモバイルファースト(注文の80%以上がモバイル)であるのに対し、Cut+DryはWebベースです。Order Agentの精度はPepperが80〜90%で多言語対応、Cut+Dryは英語のみです。ERP連携ではPepperが50以上のシステムに対応するのに対し、Cut+Dryは限定的で、顧客からは連携に数ヶ月から数年かかるとの報告があります。商品データはPepperのSALTが1,800万以上の属性を持つのに対し、Cut+Dryは500〜600万属性です。
vs Sysco・US Foods
PepperはSyscoやUS Foodsのような大手ディストリビューターの直接の競合ではなく、独立系ディストリビューターに大手と同等以上のテクノロジーを提供する立場です。Pepperを導入した独立系ディストリビューターの売上成長率は、Sysco、US Foods、PFGの売上成長率を80%以上上回ったと報告されています。
今後の計画
Series Cの5,000万ドルを活用し、以下の展開を計画しています。
- eコマース機能のさらなる拡充
- CRMツールとAI機能(Casey)の強化
- Endless Aisle(ドロップシッピング)プラットフォームの本格展開
- Smart Solutions広告ネットワークの拡大
- Kimelo買収を活かしたフードサービス業界向けソリューションの統合
コメント
Pepperのビジネスモデルには、単なるSaaSを超えたいくつかの構造的な強みがあります。
第一に、ディストリビューターとメーカーの双方から収益を得るマルチサイドモデルです。卸からのSaaS月額課金に加え、メーカーからの広告収入(Smart Solutions)、決済手数料と、3つの収益源を持ちます。ネットワーク上のディストリビューターと買い手が増えるほど広告プラットフォームの価値が上がるため、ネットワーク効果が働きます。
第二に、Order Agentによる「買い手を変えない」戦略です。デジタル化ツールの最大の敵は「現場が使ってくれない」ことですが、PepperはFAXやボイスメールからの注文もAIで自動処理する仕組みを用意し、買い手に新しい操作を覚えさせずにデジタル化を実現しました。
第三に、SALTという商品データベースが競合参入障壁になっている点です。1,800万以上の属性と専任チームによる継続的なデータ更新は、後発企業が容易に追いつけない資産です。
第四に、創業以来の顧客離脱率ゼロは特筆に値します。B2B SaaSにおいてこの数字は極めて異例であり、プロダクトマーケットフィットの強さを示しています。
生鮮食品流通のデジタル化は、農家と消費者をつなぐサプライチェーン全体の効率化に直結するため、農業関係者にとっても注目すべき動向です。
参考URL
- Pepper nab $30 million led by ICONIQ Growth – TechCrunch
- Pepper 公式サイト
- Pepper raises $50 million in new funding – Digital Commerce 360
- Pepper $30M Series B – Fresh Plaza
- Pepper Series C $50M – TAMradar
- With Pepper, Independent Distributors Have a Trusted Partner – Greylock
- Powering the Digital Transformation of Food Distribution – ICONIQ
- Pepper Raises $30M – AlleyWatch
- Interplay Invests in Pepper – Interplay VC
- Pepper brings in $16M – TechCrunch (2021)
- Pepper Launches Endless Aisle Platform – BusinessWire