CarbonFarmが700万ユーロ調達、衛星で水田メタン削減を検証し稲作クレジットを19か国で展開

フランスのCarbonFarmは、人工衛星とAIで水田のメタン排出を計測し、稲作のカーボンクレジットを開発する企業です。2026年10月13日、同社はシリーズAで700万ユーロを調達したと発表しました。日本でもJ-クレジット制度に「中干し期間の延長」の方法論があり、稲作農家は水田メタンの削減量を収入に変えられます。

会社基本情報

  • 社名: CarbonFarm(CarbonFarm Technology)
  • 本拠地: フランス・パリ
  • 設立: 2021年
  • 共同創業者: Vassily Carantino氏(CEO)、James Hastwell氏(CTO)
  • 事業展開: アジア、欧州、アフリカ、米州の19か国
  • 資金調達: 2023年10月にシードで250万ユーロを調達。2026年10月にシリーズAで700万ユーロを調達。リード投資家はColam Impactで、Proparco、Suma Capital、elea、Working Capital Fund、Albo、Bpifranceが参加し、既存投資家のSerena & makesense(Racine²)とTechmindも出資しました

事業概要

公式サイトによると、同社の事業は、衛星とAIで稲作の排出削減プロジェクトを監視し認証することです。農家や農業法人向けには、プロジェクト設計、MRV(計測・報告・検証)、カーボン登録機関での認証手続き、クレジット販売までを一括で引き受けます。企業向けの商品は、登録機関が認証し衛星で検証したクレジットです。

技術面では、同社の機械学習モデルが衛星画像から水管理や稲わら処理などの栽培実践を圃場単位で読み取ります。過去の衛星画像からベースラインを求め、観測した実践、生育条件、土壌タイプなどをもとに温室効果ガスの排出量を推定する仕組みです。中核技術はIRRI(国際稲研究所)、AgroParisTech、INRAE、欧州宇宙機関、コーネル大学と共同で開発しました。

顧客はMars Food、Ebro、Tilda、BENEO、Livelihoods Fundsなどの食品・穀物企業です。2023年のAgFunderNewsの記事では、UNDP(国連開発計画)がガーナで実施したパリ協定6条2項に基づく初の水田メタン事業で、同社がMRVを担当したと報じられました。

課題と解決策

同社の説明では、稲作は人為的なメタン排出の約12%を占めます。水田を常時湛水せずに定期的に落水する水管理に切り替えると、メタン排出を最大50%、水使用量を最大30%減らせます。農家の追加費用はほとんどかかりません。

問題は、その削減量をどう証明するかです。Carantino氏は2023年のインタビューで、従来の検証は農家の自己申告が中心だったと話しています。1haほどの小規模な水田が何万筆も集まるアジアの産地では、現地調査で全圃場の湛水状況を確認するのは難しいのが実情でした。

同社は衛星で水田の水位を作期中毎日監視し、落水の実施を圃場ごとに独立した立場で確認します。IRRI、NGOのRikolto、Gold Standardと行った実証では、小規模圃場で衛星によるメタン推定が95%の精度を示したと同社は説明しています。クレジットの買い手は、この検証結果から削減の追加性を圃場単位で確かめられる仕組みです。

ビジネスモデル

CarbonFarmは農家と直接契約せず、農家と信頼関係を持つ現地組織と組みます。契約栽培を行う米の買い手、精米業者、地方政府の普及機関、現地NGOなどが相手です。同社はこれらの組織にプロジェクト開発のノウハウ、デジタルMRV、気候資金へのアクセス、クレジット買い手との接点を提供します。

認証はVerraやGold Standardなどの登録機関で行い、認証後のクレジット販売も同社が手がけます。2023年時点で同社のクレジットは1トンあたり25ドルで取引され、従来型の水田メタンクレジットの5〜6ドルを大きく上回りました。衛星で検証した削減量に対して、買い手が高い価格を払う構図です。同社はクレジット収入の70〜75%を農家に還元する方針も示しています。

販売先は自主的カーボン市場だけにとどまりません。食品企業の調達先におけるスコープ3の排出削減量の算定や、パリ協定6条に基づく国家間の排出量取引にもMRVを提供しています。

今後の計画

今回の資金で、同社はデジタルMRVとプロジェクト開発の体制を、食品企業のサプライチェーンと規制カーボン市場の両方に向けて拡充します。地域ではアジア、アフリカ、欧州での事業を拡大し、中南米へ新たに進出する計画です。

リード投資家Colam Impactの投資ディレクターBenjamine Friderich氏は、プロジェクト開発力、気候資金の知見、デジタルMRVの組み合わせが、稲作に特化して規模を広げられる仕組みになると述べています。

コメント

日本では2023年4月にJ-クレジット制度で「水稲栽培における中干し期間の延長」の方法論が承認され、同年9月には農林水産省が最初の認証プロジェクトを発表しました。欧州発のCarbonFarmと日本のJ-クレジット制度は、水田のメタン削減を農家の収入にする点で共通しています。

違いは検証の手段です。J-クレジットの中干し延長では、農家が中干しの開始日と終了日を記録し、プロジェクト実施者がまとめて申請します。CarbonFarmは衛星画像で落水の実施を圃場ごとに確認し、その独立性を根拠にクレジットの単価を引き上げました。日本でも衛星や水位センサーで中干しの実施を客観的に示せれば、申請の手間を減らし、クレジットの信頼性を高める余地があります。稲作農家にとっては、中干し延長の記録をどう残すかが、クレジット収入を得るうえでの実務上の論点になります。

参考URL

  • CarbonFarm raises €7 million Series A to scale high-integrity rice decarbonisation worldwide(CarbonFarm) リンク
  • CarbonFarm 公式サイト リンク
  • CarbonFarm Technology lands $2.6m to decarbonize rice through satellite-verified carbon credits(AgFunderNews) リンク
  • Rice methane technology startup closes €2.5m fundraise(Quantum Commodity Intelligence) リンク
  • Paris-based CarbonFarm raises €7 million to tackle methane emissions from rice farming(Infor Capital) リンク
  • 「水稲栽培における中干し期間の延長」の方法論に取り組んだ案件の承認について(農林水産省) リンク
  • 令和5年度 食料・農業・農村白書 第1章第4節(農林水産省) リンク