植物性カゼイン「Caseed」でモッツァレラ市場に挑むBettani Farms

米カリフォルニア州の植物性食品スタートアップが、社名を「Climax Foods」から「Bettani Farms(ベッタニ・ファームズ)」へと刷新しました。同社は独自の植物性タンパク質「Caseed(カシード)」を武器に、乳製品チーズの主役であるモッツァレラ市場、とりわけピザ向け業務用チーズへの参入を狙っています。ニッチなブルーチーズから一転、年間140億ポンド超とされる巨大なモッツァレラ市場へ照準を定めた戦略転換の中身を整理します。

会社基本情報

Bettani Farms は、2025年10月に旧社名 Climax Foods から社名を変更して誕生しました。本社は米カリフォルニア州バークレーに置かれています。前身の Climax Foods は天体物理学者の Oliver Zahn 氏が2020年に創業し、データサイエンスと食品科学・調理技術を組み合わせて植物性チーズの開発を進めてきた企業です。創業者の Zahn 氏は今回の体制刷新にともない経営から退き、現在はチームを離れています。

新たに代表取締役兼会長に就任したのは、植物性ミルク大手 Califia Farms で最高財務責任者(CFO)を務めた Sandeep Patel 氏です。同氏は PopSockets の社長兼CFO、Goldman Sachs や Barclays のマネージングディレクターを歴任した経歴を持ちます。あわせて、研究開発・営業・製造の各部門に乳業や大手食品メーカー出身の経験者を迎え、量産と販売を見据えた布陣を整えました。

事業概要

Bettani Farms の中核となるのが、独自の植物性タンパク質「Caseed」です。Caseed は、牛乳に最も多く含まれるタンパク質であるカゼインの機能を、乳由来成分を一切使わずに再現することを目指した素材です。カゼインはチーズの「溶ける」「伸びる」といった食感を生み出す重要なタンパク質であり、植物性チーズが乳製品の食感を再現しきれなかった大きな要因でもありました。

Caseed は再生型農業(リジェネラティブ農業)で栽培される畑作物の種子に由来し、保存タンパク質を抽出・機能化して作られます。クリーミーな食感、ニュートラルな風味、白色という、チーズの土台として扱いやすい特性を備えます。Caseed を使った製品ラインには、モッツァレラ、フェタ、クリームチーズ、ブリー、ゴート(山羊乳風)、ブルーチーズなどが含まれ、いずれも乳製品不使用です。同社のモッツァレラ風チーズは100グラムあたり12〜20グラムのタンパク質を含み、乳製品チーズに迫る含有量を実現するとしています。

技術面では、Caseed のコア技術について2025年3月に米国特許が認められ、複数国で出願が進められています。また食品素材として使用するための自己認証GRAS(一般に安全と認められる)手続きもほぼ完了しているとされ、量産と販売に向けた基盤づくりが進んでいます。

課題と解決策

Bettani Farms が掲げる最大の特徴は、Caseed が乳・ナッツ・大豆といった主要なアレルゲンを含まない点です。植物性チーズの多くはナッツや大豆を原料とするため、アレルギーを持つ消費者や、これらを避けたい食品メーカーにとっては使いづらさがありました。Caseed はこうした制約を解消し、より幅広い用途で使える素材を目指しています。

もう一つの論点が、カゼイン代替をどう作るかというアプローチの違いです。カゼイン代替の分野では、フランスの Standing Ovation のように、精密発酵(プレシジョン・ファーメンテーション)で微生物に乳タンパク質と同一のカゼインを生産させる手法が注目されています。これに対し Bettani Farms は、植物の種子由来タンパク質を機能化するという別の道を選びました。植物原料を出発点とすることでアレルゲンを避けやすく、コスト面でも有利になりうるアプローチです。同じ「カゼイン代替チーズ」というゴールに、発酵と植物という異なる技術で挑む構図になっています。

さらに Caseed は、共同製造施設(コマニュファクチャリング)にある標準的な設備で扱えるよう設計されており、専用設備を新たに用意する必要がありません。これは量産時のコストとスケールアップのしやすさに直結する設計上の工夫です。

ビジネスモデル

Bettani Farms は、消費者向け小売よりも企業向け(B2B)と業務用を主軸に据えています。具体的な顧客像としては、以下のような領域を想定しています。

  • 冷凍食品メーカー(ピザなどチーズを使う加工食品向け)
  • フードサービス事業者(ピザ店、ベーグル店、サラダチェーンなど)
  • 配合改良を求める既存の植物性チーズブランド

戦略転換の背景には、市場規模の見極めがあります。同社はニッチなブルーチーズへの注力を2025年初頭にいったん止め、米国チーズ消費の約4割を占めるとされるモッツァレラを中心に、クリームチーズやフェタといった量産しやすいカテゴリーへと舵を切りました。ピザ業界という巨大な需要を取りに行くための選択です。

販路の面では、Whole Foods や Apollo Bagels、&Pizza といった取引先の名前が挙がっているほか、食品流通の Dot Foods との連携も報じられています。あわせて Numu(植物性モッツァレラ)や Stockeld Dreamery(植物性チーズ)、Hungry Planet(植物性食肉)といった企業の事業も取り込み、業務用チャネルでの足場を広げています。

今後の計画

資金面では、Bettani Farms はシリーズA資金調達の初回クローズで650万ドルを調達しました。リード投資家は S2G Investments で、At One Ventures、Gratitude Railroad、Manta Ray Ventures、Toba Capital が参加しています。調達資金は、Caseed を用いた植物性チーズの開発と量産体制の強化に充てられる見通しです。

製品の市場投入については、2026年春時点の報道で「今後数か月以内」の発売が見込まれていました。アレルゲンフリーかつ高タンパクという特徴を武器に、まずは業務用・加工食品向けで採用を広げ、モッツァレラを足がかりに植物性チーズ市場そのものの拡大を目指す構えです。

コメント

植物性チーズの普及を阻んできた「溶けない・伸びない」という壁に、カゼインの機能再現という根本から挑む点が Bettani Farms の面白さです。Patel 氏は、オーツミルクが優れた味わいでこの5年でコーヒー市場を制したことになぞらえ、自社のチーズもアレルゲンを含まずに溶けと伸びを実現すると語っており、嗜好品としての完成度で市場を取りに行く姿勢がうかがえます。

精密発酵による Standing Ovation のような「乳タンパク質と同一のカゼイン」路線と、植物種子由来でアレルゲンを避ける Bettani Farms の路線は、同じ代替乳製品でも前提が大きく異なります。アレルゲン対応、コスト、量産設備との相性といった条件で、どちらのアプローチが業務用市場に受け入れられるのか。日本でも植物性食品への関心が高まるなか、技術の選択肢が広がっていく動きとして注目に値します。

参考URL

  • Climax Foods Announces Rebrand to Bettani Farms, $6.5 Million in New Funding, and Industry Veteran Sandeep Patel as New CEO(PR Newswire)リンク
  • New name, new strategy: Bettani Farms targets mozzarella market with game-changing plant-based casein(AgFunderNews)リンク
  • Bettani Farms closes Series A funding for its allergen- and animal-free casein(FoodNavigator-USA)リンク
  • Standing Ovation|Our technology(公式サイト・参考)リンク