Castoro Cellars×Saga Robotics:UV-C自律ロボットで有機ブドウ園600エーカーの化学薬剤を60〜90%削減

米国カリフォルニア州の有機ワイン生産者Castoro Cellars(カストロ・セラーズ)が、ノルウェー発のSaga Robotics(サガ・ロボティクス)が手がけるUV-C自律走行ロボット「Thorvald(トールヴァル)」を、認証取得済みの有機ブドウ園600エーカー超に本格導入しました。3年間の実証を経た判断で、化学薬剤を使わずにうどんこ病などの病害を抑える「光による農業」を、米国のブドウ栽培で最大級の規模に拡大した事例です。化学防除への依存を減らしたい中規模以上の農業経営にとって、商用導入の経済性を考える材料になります。

会社基本情報

Saga Roboticsは2016年にノルウェーで設立されたアグリテック企業です。創業者はPål Johan From氏とLars Grimstad氏で、いずれもノルウェー生命科学大学(NMBU)での研究をルーツに持ちます。主力プラットフォーム「Thorvald」は、もともと2014年に同大学の修士研究として始まったものです。本社はオスロに置き、従業員はおよそ50名。ノルウェー・英国・米国で事業を展開しています。

2025年8月には1,120万ドルを調達し、累計の調達額は3,300万ドル近くに達しました。この資金は自律ロボットの保有台数拡大と、初期の市場開拓から本格的な商用導入への移行に充てられます。米国市場、とりわけうどんこ病の被害が拡大しているカリフォルニアのワイン産地への展開を強化しており、創業者のFrom氏自身がカリフォルニアに移って米国事業を率いています。

一方の導入先であるCastoro Cellarsは、1983年にNiels Udsen氏とBimmer Udsen氏が創業した生産者です。カリフォルニア州パソロブレス(セントラルコースト地域)を拠点とし、カリフォルニア最大級の有機認証ワイン生産者として知られています。

事業概要

Saga Roboticsが提供するThorvaldは、電動で自律走行する農業ロボットです。ブドウ栽培向けには、樹冠(キャノピー)に直接UV-C(紫外線C波)を照射し、病害菌の繁殖サイクルを物理的に乱すことで病気を抑えます。化学薬剤を散布しないため、残留物を残さず、土壌のかく乱や生態系への副作用も避けられます。

照射作業は夜間に行うのが特徴です。日光が当たると病害菌側の修復機構(光回復)が働いてしまうため、効果を最大化するうえで夜間照射が理にかなっています。Thorvaldは病害防除だけでなく、カメラを搭載して収量予測や欠株(植わっていない株)の検出、ウイルス病の検知といった圃場の見える化にも対応します。主な防除対象は次のとおりです。

  • うどんこ病(パウダリーミルデュー)
  • 灰色かび病(ボトリティス)
  • サワーロット(果実の腐敗)

Castoro Cellarsでは、3年間にわたってThorvaldを実証導入し、効果を確認したうえで600エーカー超へと一気に対象を広げました。Saga Roboticsは米国全体でおよそ1,300エーカーのブドウ園にロボットを展開しており、Castoroはそのなかでも最大級の自律UV-C病害管理プログラムとなっています。

課題と解決策

有機ブドウ栽培では、うどんこ病などの防除に硫黄剤や油剤を散布するのが一般的な手立てでした。しかし散布には資材コストがかかり、トラクターでの作業には燃料(軽油)と人手も必要です。重量のある農機が圃場を繰り返し走ることで、土壌の踏圧(圧密)も問題になります。

ThorvaldはUV-C照射という物理的な方法でこの課題に応えます。重量は約800ポンド(約360キログラム)で、従来のトラクターやスプレー機が10,000〜15,000ポンドに達するのと比べて格段に軽く、土壌への踏圧を大幅に抑えられます。化学薬剤に頼らないため、有機栽培の難所であったうどんこ病対策を、散布資材なしで進められる点が大きな転換です。実際に導入した生産者では、化学薬剤の使用量を一般に60〜90%削減できるとされています。

共同創業者のNiels Udsen氏は「Thorvaldプラットフォームと3年間取り組んだ結果は明確で、規模を拡大するのが正しい判断だった。私たちのブドウ園全体で見えているのは、土地から化学物質の負担を取り除いたときに何が起こるか、ということだ」と述べています。

ビジネスモデル

Saga Roboticsは、ロボットそのものを販売するのではなく、サービスとして提供する「Robots as a Service(RaaS)」モデルを採用しています。生産者はエーカー単位の処理料金を支払う形で利用するため、高額な機体を購入する初期投資を負わずに済みます。

運用にかかるコストは、化学薬剤・人件費・トラクター・軽油といった従来支出の削減分で相殺されるという考え方です。化学薬剤を60〜90%減らせれば、その分の資材費と散布作業の負担が軽くなり、サービス料金との収支が見合いやすくなります。導入の進み方としては、初年度に10〜20ヘクタール規模で始め、3年目には農場全体へ広げていく典型パターンが示されています。Castoro Cellarsの3年間の実証から600エーカー超への拡大も、この段階的な導入の流れに沿った動きといえます。

今後の計画

Saga Roboticsは2025年の調達を機に、米国のブドウ園での展開規模を3倍にすることを目指しています。背景には、カリフォルニアでうどんこ病の被害が広がっているという事情があります。英国ではテーブル(高設栽培)イチゴの約20%をすでにThorvaldで処理しており、翌年には30%への引き上げを目標に掲げています。UV-Cによる病害防除は、メンドシーノ郡のBonterra(ボンテラ)など他の生産者にも広がりつつあり、米国ワイン業界における新しい防除手法として裾野を広げています。

コメント

Saga Roboticsの創業者Pål Johan From氏は「600エーカーを超える規模を光で栽培することは、米国のブドウ栽培における自律・無化学の病害管理にとって画期的な節目だ」と述べています。日本でも、ブドウやイチゴの施設栽培ではうどんこ病・灰色かび病が大きな課題であり、夜間に自律走行するロボットでUV-C照射を行う方式は、薬剤散布の回数や踏圧の問題を抱える産地にとって示唆に富みます。ロボットを所有せずサービスとして使うRaaSの料金体系が、削減できる薬剤費・人件費と見合うかどうか――この経済性の検証こそが、商用導入を判断するうえでの分かれ目になりそうです。

参考URL

  • Castoro Cellars deploys Saga Robotics’ UV-C bots across 600 organic acres(AgFunderNews) リンク
  • Castoro Cellars and Saga Robotics Expand Farming with Light to 600 Acres(Wine Industry Advisor) リンク
  • Saga Robotics raises $11.2m to expand fleet of bots blasting powdery mildew with UV-C light(AgFunderNews) リンク
  • About(Saga Robotics 公式) リンク
  • Thorvald platform(Saga Robotics 公式) リンク