FAOのIPMガイドを日本向けに読む|トビイロウンカ・タバココナジラミ・ミカンコミバエ・ジャガイモ疫病の対策とチェックシート

国連食糧農業機関(FAO)が2025年に公開したIPM(総合的病害虫管理)ガイドは、世界の主要な病害虫8種について「まず予防と観察、薬剤は最後の手段」という同じ原則で対策を整理しています。日本でも問題になるトビイロウンカ、タバココナジラミ、ミカンコミバエ、ジャガイモ疫病の4つを取り上げ、FAOのガイドで示されている要点を日本の生産現場向けにまとめました。そのまま使えるIPMチェックシート(Excel)も用意しています。

FAOのIPMガイドとはどんな資料か

元になったのは、FAOが2025年に公開した英文の報告書「Guidance on integrated pest management for the world’s major crop pests and diseases」です。コムギのアブラムシとさび病、ミカンコミバエ、バナナのパナマ病(TR4)、トウモロコシ致死性壊死病、ジャガイモ疫病、トビイロウンカ、タバココナジラミの8つを扱い、各章に政策担当者向けの要約と「実務者向けの要点(Take-home messages for practitioners)」が付いています。ライセンスはCC BY 4.0で、出典を示せば翻案して公開できます。本記事はその実務者向けの要点とIPMの節を中心に、日本向けに要約・翻案したものです。

ガイド全体に共通する考え方は、次の3つに整理できます。

  • 発生を見つけて数え、地域で決められた要防除水準(それ以上なら防除する目安)と比べてから対策を決める
  • 耕種的防除、物理的防除、天敵の保護と活用を「第一の防衛線」とする
  • 化学農薬は「最後の手段」とし、使うときは天敵への影響と抵抗性の発達を考えて選ぶ

なお、FAOのガイドは主に熱帯・亜熱帯アジアやアフリカの事例を基にしています。日本の気候や作型、登録農薬の事情とは前提が違う部分もあるため、本記事では「FAOのガイドではこう整理されている」という形で紹介し、日本の状況を公的資料から補足します。

トビイロウンカ:薬剤の使いすぎが多発を招く

FAOのガイドの要点

FAOのガイドでは、トビイロウンカの大発生は「作物管理がうまくいっていないことの表れ」とされています。典型的な原因として挙げられているのは、農薬と化学肥料の使いすぎ、そして有機物を入れていないことです。被害は中程度の発生で10〜20%、激しい場合は40〜60%、ときには全滅に至るとされています。

実務者向けの要点は次のとおりです。

  • 抵抗性品種はウンカ側がすぐに適応するため、品種だけに頼らず、ほかの非化学的な対策と組み合わせる
  • 有機物の施用、水管理、植え付け時期、栽植密度、作物の多様化といった栽培管理で発生の圧力を下げる
  • 生育初期の40日間は殺虫剤を使わず、田んぼにもともといるクモやカスミカメ類などの天敵を増やす
  • 天敵の働きは、農家自身が参加する圃場試験で確かめると理解が進む

観察の方法も具体的です。苗床は毎日、本田は週1回見回り、株元や水面をよく見ます。生育が進んだ稲は茎を軽く傾けて株元をたたき、水面に落ちたウンカを数えます。予察灯の誘殺数が1日数百頭に達したら毎日圃場を確認し、急に誘殺数が増えたら飛来のサインと読みます。窒素肥料は分げつ期・穂ばらみ期・出穂期の3回に分けて施すことや、作付け時期を地域でそろえてウンカの生活環を断つことも挙げられています。

薬剤については、早い時期の散布や広く効く殺虫剤の散布で天敵が死ぬと、かえってウンカが増える「リサージェンス」が起きると強調されています。浸透移行性の殺虫剤を予防的に使うことにも、天敵や送粉昆虫への影響から慎重な姿勢です。使う場合は作用機構の異なる系統でローテーションすることが求められています。

日本での状況

農林水産省のリーフレットによると、トビイロウンカは主に6〜7月に大陸から風に乗って飛来し、日本では越冬できません。飛来後に短翅型が現れて急に増え、株元を吸汁して坪枯れを起こします。令和2年(2020年)は飛来が早くて量も多く、夏の高温も重なって東海以西の広い地域で坪枯れが出ました。同リーフレットは、都道府県の病害虫防除所が出す発生予察情報をこまめに確認することと、株元を見逃さない見回りを呼びかけています。

注意したいのは、日本の防除対策がFAOのガイドと異なる前提に立っている点です。農林水産省のリーフレットは、被害が懸念される地域で効果の高い育苗箱施用剤を使うことを勧めています。一方、FAOのガイドは種子処理のような予防的な一律処理をIPMの原則に反するとしています。熱帯で一年中ウンカがいる地域と、毎年飛来する日本とでは事情が違います。箱施用剤を使うかどうかは、地域の発生予察と県の防除指針に従って判断してください。

江戸時代の人々がウンカとどう向き合ったかは「江戸の害虫防除書『除蝗録』に学ぶ」で紹介しています。

タバココナジラミ:侵入させない施設づくりが基本

FAOのガイドの要点

タバココナジラミは見た目では区別できない35種以上を含む「種群」で、600種以上の植物を加害します。種によって薬剤抵抗性やウイルスを運ぶ力が違うため、FAOのガイドでは種の特定が対策の出発点とされています。2024年時点で、世界で770件、少なくとも69の有効成分に対する抵抗性が報告されています。

実務者向けの要点は次のとおりです。

  • 適切な定植時期、水と肥料の管理、残さ処分などの衛生管理で発生を防ぐ
  • 単価の高い作物では、防虫ネット、紫外線(UV)カットのネットやフィルム、黄色粘着板、誘殺用のおとり作物、光反射マルチで密度を下げる
  • 天敵昆虫や微生物資材は市販されており、バンカー植物などを使って定期的に放す
  • 多様な作付けは発生を抑え、ウイルスの広がりを遅らせ、土着天敵を助ける
  • 化学農薬は選択性の高い低リスクのものを控えめに使い、非化学的な対策と組み合わせる

モニタリングでは、24cm×20cmの黄色粘着板を群落の高さに置く方法が紹介されています。施設では3〜5mに1枚が目安です。中国の条件で決められた例として、粘着板1cm²あたり成虫0.25〜0.5頭で天敵放飼、3〜4頭で薬剤や生物農薬の散布という段階的な基準が載っています。ただしガイド自身も、基準は作物や地域で大きく変わり、現地での検証が必要だと書いています。そのほか、窒素の多肥がコナジラミを増やすこと、残さが虫とウイルスの供給源になることも挙げられています。

日本での状況

日本ではタバココナジラミが媒介するトマト黄化葉巻病が大きな問題です。農研機構の成果情報(2009年)は、本病が関東以西のトマト産地で重要な生産阻害要因になっていること、殺虫剤抵抗性が高度に発達したバイオタイプQ(FAOのガイドではMED)が侵入して薬剤中心の防除が難しくなったことを指摘しています。そのうえで、健全苗の定植、施設開口部への0.4mm以下の目合いの防虫ネット、発病株の抜き取り、栽培終了時の蒸し込み、施設内外の雑草除去を組み合わせる総合防除を示しています。考え方はFAOのガイドとほぼ一致します。

ミカンコミバエ:日本では「入れない・見つけたらすぐ叩く」

FAOのガイドの要点

ミカンコミバエは果実や果菜類を加害し、収量や品質だけでなく、輸出入の規制を通じて市場へのアクセスも奪います。FAOのガイドの実務者向けの要点は次のとおりです。

  • 未発生地域では、寄生された果実などの農産物を持ち込まないよう細心の注意を払う
  • 雄を誘う誘引剤や、タンパク質などの餌を使ったトラップで密度を把握し、発生の圧力も下げる
  • 殺虫成分を含む餌を園内に配置した「ベイトステーション」は成虫の防除に非常に有効
  • 果実の袋掛けと園地の衛生管理(落果や被害果の回収・処分)は損失を防ぐ有効な方法で、袋掛けは高単価の作物に向く
  • 殺虫剤の散布を控え、多年生の草生栽培を取り入れると土着天敵が増え、予防につながる

ガイドでは、樹全体への散布は成虫に効きにくく、人や環境への負担が大きいとされています。袋掛けは果実が色づく前、未熟なうちに行うのがよいとされています。また、餌の設置、被害果の定期的な除去、園内の耕起を組み合わせると被害が70〜100%減ったという事例も紹介されています。

日本での状況

農林水産省によると、ミカンコミバエ種群はかつて南西諸島と小笠原諸島に分布していましたが、18年と約50億円をかけて昭和61年(1986年)に根絶されました。いまも台風などの強風に乗って毎年数頭から数十頭が飛来するため、植物防疫所と都道府県がトラップで侵入を警戒し、見つかればすぐに防除します。平成27年(2015年)には奄美大島で誘殺が続き、植物防疫法に基づく緊急防除として寄主植物の移動禁止などが行われました(平成28年に解除)。日本の生産者にとっては、旅行や通販で海外の果実を持ち込まないこと、異常な被害果を見つけたら防除所に知らせることが第一の対策になります。

ジャガイモ疫病:湿気を減らし、菌の持ち込みを断つ

FAOのガイドの要点

ジャガイモ疫病は湿度90%以上、気温10〜23℃の条件で急速に広がり、条件がそろうと5〜10日で圃場全体が枯れることもあります。ヨーロッパでは1作で最大16回散布しても15%の減収が出ていると紹介され、薬剤だけに頼る防除の限界が強調されています。

実務者向けの要点は次のとおりです。

  • 耕起、圃場衛生、輪作、施肥、除草、かん水といった栽培管理が予防の要
  • 病気のない種いもを選ぶことが、流行を防ぐ最初の一歩
  • 発生予測などの意思決定支援ツールで、気象条件に応じて散布の時期と回数を決める
  • 有用微生物や植物由来成分は、地域で検証できれば農薬を使わない防除になりうる
  • さまざまな非化学的な対策を意識して組み合わせる

ガイドの対策は「湿りすぎを避ける」と「最初の伝染源を減らす」の2つの原則で組み立てられています。具体的には、排水と通気をよくする、夕方のかん水を避けて点滴かん水を優先する、株間と培土で葉や塊茎への感染を減らす、前作のくずいもや野良生えのいもを処分する、ナス科雑草を除く、窒素を与えすぎない、収穫前に茎葉を処理する、といった方法です。卵胞子は土の中で2年以上生き残るため、非寄主作物との輪作は3〜4年が勧められています。種いもの切断や傷は感染の入口になるので避け、やむを得ない場合は消毒で補うとされています。薬剤を使う場合は地域の作物の状態と病気の動きをもとに計画し、有効成分をローテーションします。

日本での状況

日本では発生予察システムがすでに実用化されています。北海道病害虫防除所が公開しているFLABSは、最高・最低・平均気温と降水量から「感染好適指数」を計算し、萌芽日からの累積が21に達した日を「危険期到達日」として初発を予測します。同所は、FLABSはあくまで目安であり、圃場観察をきちんと行って適期防除を逃さないことが重要だとしています。FAOのガイドがいう意思決定支援ツールと、そのまま対応する仕組みです。

4つに共通する「見回りと記録」

4つの章を並べると、どの病害虫でも最初にやることは同じです。地域の発生予察情報を確認し、自分の圃場で数え、記録してから防除を決めます。日々の見回りの記録の付け方は「病害虫の見回り記録の書き方」、年間の防除計画への落とし込みは「防除暦の作り方と読み方」で解説しています。

IPMチェックシート

FAOのガイドの実務者向けの要点とIPMの節から、農家が実行・確認できる項目を害虫・病害ごとに抜き出し、「予防」「観察と判断」「防除」「記録」の段階に分けました。各項目には、ガイドの該当箇所と、日本で確認すべき点(県の発生予察、登録農薬など)を添えています。以下は抜粋です。

害虫・病害 段階 チェック項目 日本で確認すること
トビイロウンカ 観察と判断 株元を軽くたたき、水面に落ちた虫の数を週1回数える 県の要防除水準
タバココナジラミ 予防 施設の開口部に細かい目合いの防虫ネットを張る 県の指針が示す目合い
ミカンコミバエ 予防 海外や発生地域から寄主果実を持ち込まない 植物防疫所の持ち込み規制
ジャガイモ疫病 観察と判断 発生予察の危険期に合わせて圃場観察を強める FLABSなど道県の予察情報

IPMチェックシート(Excel)をダウンロード

日本で使うときの注意

FAOのガイドには具体的な薬剤名も出てきますが、本記事とチェックシートでは農薬の商品名や有効成分名は省きました。使える薬剤や回数、使用時期は国や作物によって違います。薬剤は必ず日本の農薬登録の内容と、都道府県の防除指針で確認してください。系統ローテーションを考えるときは、殺虫剤はIRAC、殺菌剤はFRACの作用機構分類コードで「同じ系統を続けて使わない」ように組み立てるのが基本です。要防除水準や観察の頻度も、ガイドの数値は海外の条件で決められたものなので、県の病害虫防除所や普及指導センターの情報を優先してください。

出典と免責事項

本記事は、FAOの報告書を日本の読者向けに要約・翻案したものです(原文から抜粋・再構成し、日本の公的資料による補足を加えています)。図表は転載していません。

出典:FAO. 2025. Guidance on integrated pest management for the world’s major crop pests and diseases. Rome. https://doi.org/10.4060/cd4890en(ライセンス:CC BY 4.0)

This adaptation was not created by the Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO). FAO is not responsible for the content or accuracy of this adaptation. The original English edition shall be the authoritative edition.

(和訳:この翻案は国連食糧農業機関(FAO)が作成したものではありません。FAOはこの翻案の内容や正確性について責任を負いません。英語の原版を正式版とします。)

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