Pentasweet:砂糖1,500倍の甘味タンパク質ブラッザインを精密発酵で量産、欧州初の工場をリトアニアに建設

リトアニア発のフードテックスタートアップ「Pentasweet(ペンタスイート)」が、砂糖の約1,500倍の甘さを持つ天然タンパク質「ブラッザイン(brazzein)」の量産工場を、首都ヴィリニュスで着工しました。総投資額は6,500万ユーロ(約7,600万ドル)にのぼり、欧州初のブラッザイン生産拠点として2027年上半期の稼働を予定しています。血糖値を上げず、熱やpHにも強いこの甘味タンパク質は、砂糖代替の新たな選択肢として乳製品・菓子・製パン分野からの注目を集めています。

会社基本情報

Pentasweetは2022年に設立された、リトアニアを拠点とするフードテックスタートアップです。共同創業者は、Danas Tvarijonavičius(ダナス・トヴァリヨナヴィチュス)博士と、最高科学責任者(CSO)を務めるSaulė Sūdžiuvienė(サウレ・スジュヴィエネ)の両氏です。Tvarijonavičius氏は取締役会長として同社を率いています。本社および新工場の建設地は、首都ヴィリニュスの「ヴィリニュス・シティ・イノベーション・インダストリアル・パーク」内にあります。

事業概要

Pentasweetの中核製品は、天然の甘味タンパク質「ブラッザイン」です。ブラッザインはもともと、中央アフリカから西アフリカにかけて自生する果実「オウブリ(Oubli)」に含まれる成分で、砂糖(スクロース)の約1,500倍という極めて強い甘味を持ちます。野生原料に含まれる量はごくわずかであるため、同社はこれを精密発酵(プレシジョン・ファーメンテーション)で量産する道を選びました。

製法の要となるのは、遺伝子組み換えによって改変された酵母です。目的とするブラッザインを生成するためのDNA配列を酵母に組み込み、発酵によってタンパク質を効率的に産生させます。この手法により、果実を大量に栽培・収穫することなく、安定した品質と供給量を確保できます。

ブラッザインは食品素材として扱いやすい特性を備えています。主な特徴は次のとおりです。

  • 砂糖の約1,500倍の甘味を持ち、ごく少量で甘さを付与できる
  • 熱およびpHに対して安定で、加熱・加工を伴う食品にも使いやすい
  • クリーンな味わいで、後味のクセが少ない
  • 血糖値の急上昇(血糖スパイク)を引き起こさず、腸内細菌叢にも悪影響を与えないとされる

課題と解決策

世界的に砂糖の過剰摂取が健康上の課題とされるなか、食品メーカーは「砂糖の量を減らしつつ、満足できる甘さとクリーンラベルを両立する」という難題に直面しています。既存の高甘味度甘味料には、後味や安定性、消費者の人工甘味料への忌避感といった制約がつきまといます。

Pentasweetは、天然由来の甘味タンパク質ブラッザインを精密発酵で量産することで、この課題に応えようとしています。砂糖の約1,500倍という強い甘味により、わずかな添加量で甘さを再現でき、しかも血糖値を上げません。熱・pH安定性が高いため、加熱工程のある製品でも甘味が損なわれにくく、乳製品・菓子・製パンといった幅広い用途で「砂糖の置き換え・減糖」を実現できる素材として位置づけています。

ビジネスモデル

Pentasweetは、ブラッザインを食品メーカー向けの原料(B2B素材)として供給するビジネスモデルを描いています。新工場は1.2ヘクタールの敷地に延床面積8,000平方メートル超の規模で建設され、稼働後はおよそ30名の高度人材の雇用を見込んでいます。工程の大部分は自動化される計画です。AgFunderNewsの報道によれば、フル稼働時には砂糖換算で最大5万トン相当の生産能力を目指すとされています。

資金面では、Pentasweetはこれまで創業者の自己資金で運営されてきました。今回の産業用工場の建設にあたっては、リトアニア国立開発銀行ILTEからの融資で一部を賄います。リトアニア経済イノベーション省はこのプロジェクトを国家的な重要投資案件と位置づけており、官民が連携して資金を支える構図になっています。

環境面の工夫として、生産工程で生じる副産物は廃棄せず、バイオ燃料などのエネルギー生成に活用する計画です。これにより、発酵プロセス全体の資源効率を高めることを狙っています。

今後の計画

新工場はフェーズ制で立ち上げられます。フェーズIは2027年上半期の稼働を予定しており、その後にフェーズIIが続く計画です。販売面では、まず欧州市場を主戦場とし、将来的には米国市場への展開も視野に入れています。

規制面では、欧州でブラッザインを食品添加物として流通させるために、欧州食品安全機関(EFSA)への申請を2026年に予定しています。当面はリトアニアを「欧州初のブラッザイン生産拠点」として確立し、ライフサイエンス分野での国際的な存在感を高めることを目指しています。

コメント

Pentasweetは、Bonumose社のタガトースに代表される「次世代の天然甘味料」の系譜に連なる、注目度の高いプレイヤーです。砂糖の約1,500倍という甘味の強さと、熱・pH安定性、そして血糖値を上げないという特性は、減糖ニーズが高まる食品業界にとって魅力的な組み合わせと言えます。一方で、EFSAなど各国の規制承認を経て初めて本格的な市場投入が可能になる点や、フル稼働に向けた量産の立ち上げが今後の鍵を握ります。

遺伝子組み換え酵母を用いる精密発酵は、農地や気候に左右されにくい食料生産の手法として、農業の枠を超えた広がりを見せています。日本ではブラッザインの認知度はまだ高くありませんが、欧州での量産が軌道に乗れば、甘味料市場の地図を塗り替える可能性を秘めた動きとして、引き続き注視する価値があります。

参考URL

  • Sweet protein: Pentasweet breaks ground on $76m precision fermentation facility for brazzein(AgFunderNews) リンク
  • A new phase in Pentasweet’s €65 million investment – foundations laid for Europe’s first sweet protein production facility(Invest Lithuania) リンク
  • Brazzein goes commercial: Pentasweet’s €65M Lithuanian facility targets sugar reduction(Food Ingredients First) リンク
  • Pentasweet Breaks Ground on $76M Factory for Brazzein Sweet Protein(Green Queen) リンク