実質ゼロカロリー脂肪を量産する米David Protein|代替脂肪EPGで2026年売上3億ドルへ、Epogee買収&$75M調達

「脂肪なのにカロリーがほぼゼロ」。そんな夢のような素材を量産し、わずか1年で数億ドル規模のブランドに駆け上がった米国のフードテック企業があります。プロテインバー発の新興企業 David Protein(デイビッド・プロテイン) です。同社が中核に据えるのは、植物油を分子レベルで作り替えた代替脂肪 EPG。1990年代に華々しく登場しながら大失敗に終わった「夢の脂肪」の系譜を継ぎつつ、過去の失敗を技術で乗り越えた点が世界の食品業界の注目を集めています。日本ではまだほとんど報じられていないこの企業を、技術と事業の両面から詳しく解説します。

David Protein 公式サイト
出典:David Protein

David Proteinとは|RXBAR創業者が再び挑む「壊れた食のシステム」

David Protein(運営会社名は Linus Technology)は、2024年9月に米国で立ち上がったプロテイン食品ブランドです。創業者でCEOを務めるのは Peter Rahal(ピーター・ラハル)氏。彼は2013年にプロテインバーブランド「RXBAR」を共同創業し、2017年に食品大手ケロッグ(現Kellanova)へ約6億ドルで売却した実績を持つ、シリアルアントレプレナー(連続起業家)です。

Davidの主力商品は、1本あたりタンパク質28g・砂糖ゼロ・150kcal という尖ったスペックのプロテインバー。創業時、ラハル氏自身に加え、医師のPeter Attia(ピーター・アティア)氏や健康系ポッドキャスターのAndrew Huberman(アンドリュー・ヒューバーマン)氏らが出資する1,000万ドルのシードラウンドで始動しました。同社は自らを単なる菓子メーカーではなく「壊れた食のシステムへの解決策」と位置づけており、後述する独自の脂肪技術がその主張の根拠となっています。

事業概要|「代替脂肪」を自社で囲い込んだ垂直統合戦略

Davidの事業の核心は、プロテインバーそのものではなく、その低カロリーを支える EPG(後述)という代替脂肪の供給を自社で掌握した ことにあります。

2025年5月、Davidは 7,500万ドル(約110億円)のシリーズA を実施しました。ラウンドをリードしたのはGreenoaks、Valor Equity Partnersも参加し、調達後の企業価値は 7億2,500万ドル に達しています。創業からわずか1年弱でこの評価額は、米CPG(消費財)業界でも異例のスピードです。

この資金の大半は、EPGを製造する素材スタートアップ Epogee(エポジー)の買収 に充てられました。Davidは買収前からEpogeeの売上の約9割を占める最大顧客でしたが、成長に必要なEPGの供給量を確実に押さえるため、サプライヤーごと買い取るという垂直統合に踏み切ったのです。原料を握る者が市場を握る——農業・食品の世界に通じる発想が、ここでも貫かれています。

プロダクト構成|代替脂肪「EPG」とは何か

EPG=エステル化プロポキシル化グリセロールの正体

EPG(Esterified Propoxylated Glycerol/エステル化プロポキシル化グリセロール) は、菜種(キャノーラ)油などの植物油を分子レベルで作り替えた代替脂肪です。製法はおおまかに次の通りです。

  • 植物油を「グリセリン」と「脂肪酸」に分解する
  • その間に「プロポキシル基」という食品グレードの連結部位を挿入する
  • 再び結合させ、見た目も調理特性も本物の脂肪そっくりな物質を作る

ポイントは、この人工の連結部位が 体内の脂肪分解酵素「リパーゼ」に分解されない ことです。通常の脂肪は腸内でリパーゼに分解されてカロリーとして吸収されますが、EPGは分解されずほぼそのまま体外へ排出されます。その結果、1gあたりのカロリーはわずか0.7kcal。一般的な脂肪が1gあたり9kcalであることと比べると、脂肪由来カロリーの約92%を削減 できる計算です。製造元のEpogeeは、これにより食品全体の総カロリーを最大45%削減できるとしています。

FDAのお墨付きと「植物由来の改質油」という表示

EPGはもともと1990年代に開発された素材で、米FDA(食品医薬品局)から GRAS(一般に安全と認められる) の認定を複数カテゴリーで取得済みです。FDAは焼き菓子・アイスクリーム・菓子・スナック・バー・揚げ物・ソース・ナッツバター・スプレッドなど多数の用途で「異議なし」の見解を示しており、食品ラベル上は「EPG(modified plant-based oil=植物由来の改質油)」と表示されます。GMOフリーである点も特徴です。

過去の失敗をどう乗り越えたか|「夢の脂肪」Olestraの教訓

ここがDavidの技術ストーリーで最も重要な部分です。実は「カロリーゼロの脂肪」というアイデアは、今回が初めてではありません。1990年代、P&Gが開発した代替脂肪 Olestra(オレストラ/ブランド名Olean) が「夢の脂肪」として大々的に登場し、そして消えていきました。

Olestraは砂糖と脂肪酸を結合させた合成脂肪で、1996年に米国でポテトチップス向けに発売されました。分子が大きすぎて腸で吸収されず、そのまま通過することでカロリーを抑える仕組みでしたが、ここに致命的な欠陥がありました。

  • 消化器系の深刻な副作用:吐き気・腹部膨満・下痢、そして「肛門からの油の漏れ(anal leakage)」がFDAの警告表示を義務づけられるほど問題化した
  • 脂溶性ビタミンの吸収阻害:ビタミンA・D・E・Kやカロテノイドの吸収を妨げた
  • 体温で液体:体温下で液状のまま腸を素早く通過し、油漏れの一因となった
  • 風味の違和感:本物の脂肪と比べ味に不自然さがあった

これらの理由でOlestraは消費者の信頼を失い、2000年代後半に市場から姿を消しました。2023年時点で米国内でOlestra使用製品は販売されていません。

EPGは、この「失敗の教科書」を踏まえて設計されている点が決定的に異なります。

  • 体温で固体:EPGは体温下で固体のため腸を素早く通過せず、Olestraのような油漏れ・消化器症状を起こしにくい
  • ビタミン吸収を阻害しない:脂溶性ビタミンの吸収を妨げないとされる
  • 砂糖や人工甘味料を必要としない:植物油の構造を組み替えただけなので、Olestraのような甘味料の追加が不要
  • 本物の脂肪に近い味と食感:味・調理特性ともに脂肪に近く再現される

「これは第2のOlestraではない」——Epogee自身がそう強調してきた通り、過去の象徴的失敗をエンジニアリングで克服したことこそ、Davidの技術的な強みの本質です。

実績と流通|1年で3,000店舗、TargetとWalmartへ

Davidの成長スピードは数字に表れています。2024年9月のローンチからおよそ1年で 3,000以上の店舗 に商品を並べ、初年度売上は当初予想の1億ドルを上回るペースで推移しました。

  • Target・Walmart:大手小売チェーンへ展開
  • Costco:テキサス地域から導入を開始
  • Amazon・自社EC:オンライン販売も並行

主力の「David Gold」バーは、150kcalという低カロリーに28gのタンパク質を詰め込んでおり、この高タンパク・低カロリーの両立を可能にしているのが、まさにバターやチョコレートの脂肪をEPGで置き換える技術です。

ビジネスモデル|素材を握り、ブランドで稼ぐ二段構え

Davidの収益構造は二層になっています。表側はプロテインバーを中心としたD2C/小売ブランド事業。裏側には、買収したEpogeeを通じてEPGという希少な代替脂肪の供給を独占的に押さえる素材事業があります。

自社ブランドでEPGの価値を実証しながら、将来的には他の食品メーカーへの素材供給も視野に入る——原料の供給網を垂直統合することで、模倣されにくい競争優位(堀)を築く戦略です。一方で、この囲い込みは波紋も呼んでおり、Epogee買収後にEPGの供給を断たれた競合3社が、独占的行為だとして2025年6月に提訴する事態にも発展しています(Davidは初期段階で有利な判断を得たと報じられています)。素材を握る戦略の強さと、それゆえの軋轢が同時に現れた格好です。

競合との比較|代替タンパクから代替脂肪へ広がるフードテック

近年のフードテック投資は、植物肉や代替タンパクに集中してきました。しかしDavidが切り拓くのは「タンパク質を増やす」のではなく「脂肪のカロリーを消す」という別の軸です。同じく分子・細胞レベルで食材を作り替える企業群との対比で見ると、Davidの位置づけが鮮明になります。

代替脂肪というニッチで、すでにFDA認定済みの素材を量産し、ブランドで需要を自ら作っているDavidは、技術・規制・販路の三拍子が揃った稀有なポジションにあります。

今後の計画|2026年に売上3億ドル超を狙う

CEOのラハル氏は、2026年に「3億ドル超」の売上 を目標に掲げています。バーにとどまらず、EPGを活かしやすいアイスクリームなどのCPG(消費財)カテゴリーへの展開を2026年内に予定しており、EPGの生産能力増強にも投資を進めています。低カロリーで脂肪のコクを再現できるEPGは、アイス・プロテインバー・スナック・スプレッドなど「脂肪が美味しさの鍵を握る食品」全般に応用余地があり、ここがDavidの成長ドライバーになります。

編集部コメント|なぜDavidは強いのか

Davidの強さは「カロリーゼロの脂肪」という素材の物珍しさだけではありません。第一に、過去に大失敗したアイデア(Olestra)を、固体化やビタミン非阻害といった技術改良で再生させた という、失敗の教科書に学んだ堅実さ。第二に、素材(Epogee)を買収して供給を垂直統合し、模倣されにくい堀を築いた 事業設計。第三に、RXBARで証明済みの強力なブランド構築力で、素材の価値を消費者に届ける出口を自前で持っている こと。この三つが噛み合っているからこそ、創業1年で7億ドル超の評価額がついたのだと考えられます。

日本では代替脂肪という分野はまだほとんど知られていませんが、健康志向と「我慢しない美味しさ」を両立する素材として、加工食品・外食・健康食品の各分野に波及する可能性があります。素材を握る垂直統合の発想は、原料供給に課題を抱える日本の食品・農業関連企業にとっても示唆に富む事例といえるでしょう。

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