精密発酵ホエイの生産量を5ヶ月で30%向上、ViviciとEnduro Geneticsの細胞生産性技術

精密発酵による代替タンパク質は、味や栄養価で動物由来品に肩を並べつつあるものの、量産化に伴う製造コストの高さが普及の最大の壁となってきました。この課題に対し、デンマークの細胞工学スタートアップEnduro Geneticsが提供する技術を導入したオランダの精密発酵企業Viviciが、ホエイタンパク質の生産量を5ヶ月で30%向上させたと発表しました。本記事では、両社の取り組みと「高生産性の細胞だけが生き残る」という独自技術の中身を紹介します。

会社基本情報

今回の成果は、製品を持つVivici(ヴィヴィチ)と、生産性向上技術を提供するEnduro Genetics(エンデューロ・ジェネティクス)の2社の協業によるものです。それぞれの概要は以下のとおりです。

Vivici

  • 所在地:オランダ・デルフト(Biotech Campus Delft)
  • 設立:2022年(2023年に本格始動)
  • 代表者:Stephan van Sint Fiet氏(CEO)、Marcel Wubbolts氏(CTO)
  • 事業内容:精密発酵による動物不使用の乳タンパク質の製造
  • 資金調達:シリーズAで3,400万ドルを調達

Viviciは、乳業大手のニュージーランドのFonterra(フォンテラ)と、バイオテクノロジー大手のdsm-firmenich(DSMフィルメニッヒ)が共同で設立した合弁会社です。両社の発酵技術と乳製品科学の知見を組み合わせ、牛を介さずに本物の乳タンパク質を生産することを目指しています。

Enduro Genetics

  • 所在地:デンマーク・コペンハーゲン
  • 出自:デンマーク工科大学(Technical University of Denmark)からのスピンアウト
  • 代表者:Christian Munch氏(CEO)、Peter Rugbjerg氏(CSO・共同創業者)
  • 事業内容:細胞の生産性を高める遺伝子プラグイン「Enduro Sense」の開発・提供
  • 資金調達:2025年2月にシリーズAで1,200万ユーロ(約1,240万ドル)を調達。出資者はSupernova Invest、NOON Ventures、Sandwater

事業概要

Viviciの主力製品は、精密発酵で製造する乳タンパク質「Vivitein BLG」です。BLGとはベータラクトグロブリン(β-lactoglobulin)のことで、ホエイ(乳清)に多く含まれる主要タンパク質です。微生物に乳タンパク質の遺伝子を組み込んで発酵させることで、牛を飼育せずに本物と分子構造が同一のホエイタンパク質を生産します。同社によれば、この製法は従来の乳タンパク質製造に比べて水使用量を86%、炭素排出量を68%削減できるとしています。Viviciはこのほか、母乳や初乳に含まれる希少タンパク質ラクトフェリンの精密発酵製品「Vivitein LF」も展開し、米国で自己認証GRAS(一般に安全と認められる)ステータスを取得しています。

一方のEnduro Geneticsが提供する「Enduro Sense」は、製品そのものではなく、発酵生産の効率を底上げする基盤技術です。あらゆる製品・微生物種・生産規模に適用できる「製品非依存」の技術として位置づけられており、精密発酵に限らず広くバイオ生産全般を対象としています。

課題と解決策

精密発酵の量産では、「時間とともに生産性が落ちていく」という根深い課題があります。生産菌は目的物質をつくること自体が代謝上の負担になるため、放っておくと、目的物質をあまりつくらない代わりに速く増える細胞が自然に出現し、培養槽の中で優勢になっていきます。Enduro Geneticsによれば、遺伝的に同一の細胞であっても、本来の能力どおりに高い生産性を発揮するのは全体の15〜20%程度にとどまるといいます。残りの低生産性の細胞が増えるほど、全体の生産量は伸び悩んでしまうのです。

Enduro Senseは、この問題を「細胞を高生産に依存させる」というアプローチで解決します。生育に不可欠な必須遺伝子の発現を、目的物質の高い生産と連動させる遺伝子プラグインを組み込むことで、細胞は「目的物質を多くつくらないと生き残れない」状態に置かれます。結果として、生産性の高い細胞だけが増殖し、低生産性の細胞は淘汰されるため、培養全体の生産性が長期にわたって安定します。

この技術の実務上の利点として、Enduro Geneticsは次の点を挙げています。

  • 培地(餌)や生産プロセスそのものに変更を加える必要がない
  • 外来DNAを新たに導入しない
  • 既存の設備・原料・工程をそのまま使える

外来DNAを持ち込まず既存プロセスに統合できる点は、規制対応や生産ラインの維持の面で導入のハードルを下げる要素といえます。

ビジネスモデル

Enduro Geneticsは、自社で最終製品を製造・販売するのではなく、生産性向上技術「Enduro Sense」をライセンス的に他社の生産菌へ組み込む形でビジネスを展開しています。今回のViviciとの協業はその実例にあたり、Viviciの既存のVivitein BLG生産菌にEnduro Senseを統合する形で実施されました。技術移管から培養槽での検証完了までの5ヶ月間で、既存の工程設定のまま、同じ量の原料を使いながら、生産タイター(生産物の濃度)と収率を30%向上させたとしています。

製品を持つ企業(Vivici)と、生産効率を高める基盤技術を持つ企業(Enduro Genetics)が役割分担して組むこのモデルは、精密発酵のコスト構造を改善する一つの実装パターンとして注目されます。

今後の計画

Viviciは生産能力の拡大に向けた動きを進めており、米国インディアナ州での生産確保や、中東での製造拠点の検討も報じられています。精密発酵タンパク質を「ニッチな特殊製品」から「日常的に使われる製品」へと広げていくうえで、今回のような生産性向上は量産コスト低減の鍵を握ります。Enduro Geneticsも、精密発酵だけでなく従来型のバイオ生産を含む幅広い領域へ技術を展開していく方針を示しています。

コメント

今回の協業について、Vivici CTOのMarcel Wubbolts氏は、Enduro Senseが「性能の即時的な段階的改善を可能にし、生産菌の安定性を高める」とコメントしています。Enduro Genetics CEOのChristian Munch氏は、「ViviciのVivitein BLG生産菌は、もともと業界でも最高水準のものだった」と述べ、すでに優れた生産菌に対してもさらなる上積みが可能であることを強調しました。

精密発酵による代替タンパク質の分野では、カゼインを手がけるStanding Ovationなど、本物の乳タンパク質を微生物でつくる動きが各社で進んでいます。製品開発だけでなく、Enduro Geneticsのように「生産そのものの効率」を引き上げる技術が組み合わさることで、精密発酵が代替タンパク質を現実的な選択肢へと押し上げていく流れが加速しそうです。

参考URL

  • Vivici sees 30% boost in titers, yield, via cell productivity tech from Enduro Genetics(AgFunderNews) リンク
  • Enduro Sense™ boosts VIVICI’s precision fermentation platform(Enduro Genetics公式) リンク
  • Enduro Genetics 公式サイト リンク
  • Vivici launches flagship precision-fermented animal-free dairy protein to the US market(NutraIngredients) リンク
  • Vivici enters the precision fermentation industry(PR Newswire) リンク