Essento:スイスで世界に先駆けて昆虫食の小売販売を実現した欧州パイオニア

会社基本情報

  • 会社名:Essento Food AG(旧 Essento Insect Food AG)
  • 本社所在地:スイス チューリッヒ・アルトシュテッテン(生産施設も同所に併設)
  • 設立:2013年
  • 共同創業者:Christian Bartsch、Matthias Grawehr
  • 出資元:Net-Zero.Vision、SilverFoxHub(金額非公開)
  • 公式サイト:https://www.essento.ch/

事業概要

Essentoは、スイスを拠点に昆虫由来の食品を製造・販売するスタートアップです。共同創業者のChristian BartschとMatthias Grawehrは、アジア・アフリカ・ラテンアメリカへの旅行で食用昆虫に繰り返し出会い、2013年にFAO(国連食糧農業機関)が昆虫食の生態学的・栄養学的ポテンシャルに関する報告書を発表したことをきっかけに起業を決意しました。

設立当初は食用昆虫の販売がスイスでも EU でも法律で禁止されていましたが、Essentoは政治・業界パートナーとの4年間の交渉を経て法改正を実現させ、2017年5月1日にスイスで3種の昆虫(ミールワーム、コオロギ、トノサマバッタ)が食品として正式に認可されました。これにより、スイスは西洋で初めて食用昆虫の販売を恒久的に法制化した国となりました。

プロダクト構成

  • 昆虫バーガー:ミールワームをベースに野菜を混ぜたパティ。チューリッヒの自社工場で手作り
  • 昆虫ボール(ファラフェルスタイル):ミールワームベースのミートボール代替品
  • プロテインバー:昆虫タンパク質をベースとしたエナジー・プロテインバー
  • 昆虫スナック:フレーバー付きのホールインセクトまたは昆虫粉末を使用したスナック(最初に販売開始した製品)
  • プロテインシェイク:昆虫由来のタンパク質飲料

すべての製品は、良質な動物性タンパク質、食物繊維、不飽和脂肪酸(オメガ3・6)が豊富であることが特徴です。

どういう課題をどう解決しているか

欧州における食用昆虫の法規制の壁

食用昆虫は世界的に見れば約20億人が日常的に食べているとされますが、欧米では長らく「ノベルフード(新規食品)」として規制され、人間向け食品としての販売が認められていませんでした。Essentoは創業時点でこの法的障壁に直面し、製品開発と同時に法改正のための政治的・業界的な働きかけを並行して進めるという、食品スタートアップとしては異例の道を歩みました。

4年間の交渉の結果、2017年5月にスイスで法改正が実現。少なくとも4世代を管理下で飼育した昆虫のみが食品として認可されるという品質基準も設けられました。EUが昆虫の新規食品承認を開始したのは2021年1月以降であり、Essentoはそれに約4年先行しています。

Essentoが従来の昆虫食企業と異なる点

昆虫タンパク質産業では、飼料・原料向けの大量生産に注力する企業が多数を占めます(Ynsect、Protixなど)。これに対してEssentoは、一般消費者が手に取れる完成品としての食品を開発・販売している点で異なります。

また、Essentoは自ら法改正を推進し、大手小売チェーンでの棚を獲得するという「市場そのものを作り出した」企業です。単に昆虫を加工するのではなく、消費者に受け入れられるバーガーやボールといった馴染みのある形状の製品を開発し、文化的な抵抗感を下げるアプローチを取っています。

導入実績

Coopスイスでの販売

2017年8月21日、スイス第2位の小売チェーンであるCoop200店舗以上の冷蔵棚にEssentoの昆虫バーガーと昆虫ボールが並びました。現在は6SKUが取り扱われており、Coopのオンラインプラットフォームを通じてEU(特にドイツ)への流通も可能になっています。

循環型食品モデル

Essentoはスイス初の有機昆虫飼育農場を共同運営しており、循環型の食品システムを構築しています。

  • 昆虫の飼料として農業の副産物(フードウェイスト)を活用
  • 昆虫の排泄物を肥料として農業に還元

ビジネスモデル

Essentoは完成品としての昆虫食品をB2C(小売)およびB2B(フードサービス・外食産業)チャネルで販売するモデルを採用しています。主要な販売チャネルはCoopスイスの店舗網(200店舗以上)であり、自社ECサイトおよびガストロノミー(レストラン・外食)チャネルも展開しています。

競合との比較

  • Ynsect(フランス):ミールワームの大規模自動生産。年間2万トン以上の生産能力を持つが、主力は飼料・食品原料向けのB2B事業
  • Protix(オランダ):アメリカミズアブの幼虫を活用した飼料・食品原料。年間2万トン以上の生産能力を持つ大手
  • Jimini’s(フランス):消費者向け昆虫食品(バー、パスタ、スナック)。Essentoと最も直接的に競合する消費者ブランド
  • Sens Foods(チェコ):昆虫プロテインバーとスナックの消費者ブランド
  • Bug Foundation(ドイツ):小売向け昆虫バーガーを展開。製品カテゴリで直接的な競合

Essentoの優位性は、法改正の推進者としての先行者利益と、スイスの大手小売チェーンでの確立された販売チャネルにあります。また、チューリッヒの自社工場での生産と有機昆虫農場の共同運営により、サプライチェーンの垂直統合が進んでいる点も特徴です。

今後の計画

欧州の昆虫タンパク質市場は2024年時点で約3億349万ドルと評価されており、2032年には約23億1,299万ドルに成長する見込みです(年平均成長率28.9%)。Essentoは欧州の先行者としてのブランドを活かし、EUでの規制緩和が進む中で他の欧州市場への展開を図る立場にあります。

コメント

昆虫食は環境負荷の低いタンパク質源として注目されていますが、欧米市場では文化的な受容がビジネス上の最大のハードルです。Essentoは法規制そのものを変え、大手小売チェーンでの販売を実現したという点で、単なる食品メーカーではなく市場創造者としての役割を果たしています。

同じ昆虫タンパク質産業でも、Ynsectのような大規模B2B生産企業とは戦略が大きく異なります。Essentoのように消費者の食卓に直接届く製品を作るアプローチは、市場啓蒙のコストが高い反面、ブランド構築においては有利です。

また、InsectBiotechのように廃棄物を昆虫で高付加価値タンパク質に変換する取り組みとも共通するのが、循環型食品システムの思想です。昆虫の飼料に農業副産物を使い、排泄物を肥料に還元するEssentoのモデルは、食品産業全体のサステナビリティを考える上で参考になるアプローチと言えるでしょう。

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