アグリッド:工業的アプローチで日本の大規模施設園芸に挑む農業ベンチャー

日本の農業就業人口は過去15年で半減し、その70%以上が60歳以上という深刻な労働力不足に直面しています。株式会社アグリッドは、浅井農園の施設栽培技術とデンソーの工業化技術を融合し、国内最大級の4.2haの大規模ハウスでミニトマトの周年栽培を実現する農業ベンチャーです。

会社基本情報

  • 会社名:株式会社アグリッド(AgriD, Inc.)
  • 所在地:三重県津市(本社)、三重県いなべ市(農場)
  • 設立:2018年8月
  • 代表者:浅井雄一郎
  • 資本金:5,000万円
  • 出資比率:株式会社浅井農園 51%、株式会社デンソー 49%
  • 従業員数:108名(栽培・出荷スタッフ、2022年4月時点)

社名の「アグリッド」は、浅井農園の「A」、農業を意味する「Agri」、デンソーの「D」を組み合わせた造語です。

事業概要

アグリッドは、大規模ハウスを使った次世代施設園芸モデルの構築・普及拡大をミッションに掲げています。三重県いなべ市に建設された軒高6mの大規模温室は全長256m、全幅164m、栽培面積4.2haに達し、一棟建てのハウスとしては国内最大級です。

2020年4月1日に稼働を開始し、年間生産量は約1,260トンのミニトマトを出荷しています。生産されたトマトは浅井農園が品種の研究開発を行うオリジナル品種で、全国のスーパーマーケットやレストラン、直売所、トマト直販サイトを通じて販売されています。

どういう課題をどう解決しているか

日本の施設園芸が抱える課題

日本の施設園芸には以下の構造的な課題があります。

  • 労働力不足:農業就業人口が15年間で約半減し、後継者不在の経営体が増加しています
  • 小規模分散:国内のハウス農業は小規模経営が主流で、スケールメリットを活かした効率化が困難です
  • 属人的な栽培管理:ベテラン農家の経験と勘に依存する部分が大きく、技術継承が難しい状況です
  • 肉体的負担:収穫や運搬は手作業が中心で、長時間の重労働が求められます

工業的アプローチによる解決

アグリッドは、デンソーが自動車産業で培った「ものづくりの考え方」を農業に適用し、上記の課題を解決しています。具体的には以下の3つの柱で生産性を向上させています。

人と機械が協働するスマート生産体制

従業員のシフト、作業内容、勤務時間をクラウドで管理し、栽培から出荷までの全工程を可視化します。これにより作業のムリ・ムダ・ムラを削減し、生産量のばらつきを最適化しています。

自動収穫ロボット「FARO」

FAROは浅井農園とデンソーが共同開発した自動収穫ロボットです。デンソーウェーブ製の6軸ロボットアーム(VS-060)を搭載し、トマトの切断と把持を同時に行う専用ハンドを備えています。3台のカメラ(手先1台+固定2台)とAI画像認識により、トマトの位置・熟度・障害物を認識し、房ごとの収穫を自動化します。6つのディープラーニングモデルを使用し、果実検出、房の向き判定、熟度評価、障害物検知、切断位置のピクセルレベル検出、深度補正を行います。

収穫物の自動搬送装置

1回あたり最大160kgのトマトを自動搬送するシステムで、最適ルートを計算し、収穫から出荷までの時間を短縮します。夜間の自動収穫も可能で、24時間稼働による生産効率の最大化を実現しています。

テクノロジー

アグリッドの技術基盤は、浅井農園の施設栽培・品種開発技術デンソーの工業化技術の融合にあります。

  • 環境制御:ハウス内の温度・湿度・CO2濃度を最適化し、安定した周年栽培を実現。デンソーの「Profarm-Controller」を活用
  • 品種開発:浅井農園が独自に研究開発するミニトマト品種を栽培。AIによるリアルタイムの植物生態情報センシングで、光合成量や色づきを計測し、栽培管理を最適化
  • 作業自動化:収穫ロボットFARO、自動搬送装置に加え、クラウド型の生産管理システムで省人化を推進
  • データ駆動型栽培:リアルタイムで植物の生育状態をセンシングし、データに基づく栽培管理の最適化を実施

ビジネスモデル

アグリッドの収益は、大規模ハウスで生産したミニトマトの販売が中心です。浅井農園が持つ全国の流通ネットワーク(スーパーマーケット、レストラン、直売所等)を活用し、安定した販路を確保しています。

ハウス内の環境制御による周年栽培と自動化・省人化による24時間稼働で、従来の施設園芸と比較して大幅な生産効率の向上と労働コストの削減を実現しています。

出資企業の概要

株式会社浅井農園

1907年創業の研究開発型農業カンパニーです。大学や企業との共同研究開発に積極的に取り組み、ミニトマト品種の研究開発、生産管理技術の標準化・システム化、AIを活用したトマト生産管理技術の高度化、農作業ロボットの開発による労働生産性向上といったテーマに取り組んでいます。国内トップクラスの施設栽培技術と品種開発力を有しています。

株式会社デンソー

世界有数の自動車部品メーカーであり、エンジン制御やロボット技術、空調システムなどの工業技術を農業分野に応用しています。環境制御コントローラ「Profarm」シリーズの開発など、農業の工業化に向けた取り組みを進めています。

今後の計画

アグリッドは、いなべ農場で実証される次世代施設園芸モデルを、国内外に普及させることを目指しています。自動収穫ロボットFAROの適用範囲を、現在の房どりミニトマトから大玉トマトやその他の作物へ拡大する計画があります。

また、スマート大規模農場で培った知見をもとに、生産性が高く持続可能な農業経営モデルを構築し、日本の農業が抱える労働力不足の解決に貢献することを目指しています。

コメント

アグリッドは、自動車産業の工業技術を農業に本格適用した国内でも数少ない事例です。4.2haの大規模ハウスでの実証は、日本の施設園芸が小規模分散型から大規模集約型へ移行する可能性を示しています。

同社の取り組みは、植物工場の成功事例としても注目に値します。また、完全閉鎖型植物工場とは異なり、太陽光を活用した大規模ハウスという点で、植物工場の中でも「太陽光利用型」の先進モデルといえるでしょう。

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