AIが水の必要量を判断して灌漑を自動化「Viridix」

今回は、Viridix社による、圃場への灌漑量制御についての新技術を紹介します。この新技術は、土壌の水ポテンシャルを自動的に測定することで、容易に土壌中の水分条件を把握できることから、灌漑量制御の効率化がはかれる可能性があります。

Viridix社の概要

Viridix社は、イスラエル・HaMerkazにおいて、2016年に設立された企業です。現在$2.35 millionを調達しているArik Shitrit氏、Mor Yegerman氏、Tal Maor氏により設立されたスタートアップ企業です(1)。農作物生産における、新たな灌漑量制御システムの構築を目指しています。

Viridix社の事業

日本ではあまり問題になってはいませんが、世界各地、特に地中海性気候の地域(地中海沿岸・アメリカ西海岸)では、農作物生産時の灌漑量をいかに減らすかが大きな課題となっています。

Viridix社は、土壌中の水分含量を常時測定できる新たなセンサ“Viridix”を開発しました。従来は、灌漑量の決定に多くの情報や計算を必要としました(2)。一方、このセンサは、土壌における水ポテンシャルを常に自動で測定することにより、土壌中の水分条件を容易に把握することができます。

開発されたセンサー(公式サイトより)

この情報をもとに、灌漑水を節約しながらも、十分に植物が生育できる灌漑量を機械学習なども組み合わせて自動で判断し、灌漑量が過剰もしくは不足している場合や、気象条件が大きく変化する場合には、専用のシステムで通知される仕組みになっています。このため、農家は通知内容を確認し、灌水開始の指示を出すだけで済むことから、容易に灌漑量の削減が可能となります。

さらに、測定センサ自体の管理も容易で、ソーラー電源で駆動し、メンテナンスも不要、データはインターネットを介して取得することができます。

2020年8月には、灌漑コントローラーの製造で30年以上の歴史を持つ、Talgil社と提携することが発表されました。Talgil社のYosee Ochman氏は、灌漑コントローラに加え、Viridix社のセンサにより取得したデータを組み合わせることにより、圃場の灌漑計画や天候への対応を手動で調整する必要がなくなる点が、2社の提携のメリットであると述べています(3)。Viridix社の製品により得られた、必要な灌漑量データをもとに、Talgil社の灌漑装置により、各植物に容易に灌漑できる仕組みが構築されることが、期待されます。

現在開発中の灌漑装置「I-DRIPPER」

コメント

日本ではあまり大きな話題となりませんが、世界では、農作物栽培における灌漑量をいかに減らすかが課題であり、水利用効率や節水に関する研究は多数行われています。従来の技術の多くでは、ペンマン式がベースとなっていることが多いですが、個々の圃場条件では、この式が当てはまらないこともあるなど、適応上の注意点があることが知られています(4)。一方、今回のViridix社の土壌水分センサでは、土壌水分条件を直接測定することから、確実に各圃場における土壌水分状態の情報を得ることができるため、これまで方法と比べ、容易にさらに正確に、灌漑量の決定ができる可能性があります。

さらに、トマトやカンキツを栽培する際、一般的に高糖度の収穫物を得るため、植物を可能な限り乾燥条件に置く場合があります。このことに対し、現状では、農家の経験をもとに、灌漑量を決めることも多いです。一方、土壌水分センサを用いた灌漑水制御技術の開発を目指した例もあります(5)。今回の技術は、このような分野にも応用できるかもしれません。Viridoxセンサにより、土壌水分含量を適宜制御できるようになれば、容易に高糖度果実の生産を行うことができるようになる可能性を秘めているのではないかと考えられます。

参考サイト