
RootWaveは、電気エネルギーを利用して雑草を根から枯死させる「電気除草(eWeeding)」技術を開発・販売する英国の農業テクノロジー企業です。除草剤を一切使わずに、1回の処理で最大99%の除草効果を実現します。本記事では、RootWaveの技術・製品・ビジネスモデル・競合比較について解説します。
会社基本情報
- 会社名: Ubiqutek Ltd.(商号: RootWave)
- 設立: 2012年
- 所在地: 8 Brook Business Park, Brookhampton Lane, Kineton, CV35 0JA, Warwickshire, United Kingdom
- 代表者: Andrew Diprose(CEO)
- 創業者: Robert Diprose(Chief Research Officer)
- 事業内容: 電気除草(eWeeding)技術の開発・製造・販売
- 資金調達: Series A EUR 650万(2020年1月)、Series B $1,500万(2025年6月)、累計約$2,300万
- 主要投資家: Clay Capital、V-Bio Ventures、Rabo Food & Agri Innovation Fund、PYMWYMIC
- 公式サイト: https://www.rootwave.com/
経営陣には、Blue River Technology(2017年にJohn Deereが約$3.05億で買収)の元CEOであるJorge Heraud氏が非常勤取締役として参画しています。
事業概要
RootWaveは「The Global Leader in Electrical Weed Control(電気除草のグローバルリーダー)」を標榜する企業です。同社が開発する電気除草技術は、電極を雑草に接触させて回路を形成し、高電圧の電流を流すことで雑草内部の水分を沸騰させ、維管束組織を地上部・地下部ともに破壊するというものです。
特筆すべきは、RootWaveが特許取得済みの18,000Hz(18kHz)の高周波交流を使用している点です。同社によれば、一部の競合が使用する直流やメインス周波数(50Hz)の交流と比較して「桁違いに安全」であり、50Hzの交流と比べて心臓停止を引き起こす可能性が10,000分の1とされています。
日本の除草剤規制との関連
世界的に除草剤の規制強化が進んでいます。EUでは2023年11月にグリホサートが2033年まで再承認されましたが、フランス、ドイツ、オーストリア、オランダなどでは部分的な使用禁止措置が取られています。2025年6月には、欧州委員会がラマッツィーニ研究所の新たな発がん性データの評価をECHA・EFSAに要請しています。
日本においても、有機農業の推進やみどりの食料システム戦略など、化学農薬の使用削減に向けた動きが加速しており、除草剤に頼らない除草技術へのニーズは今後さらに高まると考えられます。RootWaveの電気除草技術は、こうした世界的な潮流に合致したソリューションです。
プロダクト構成
RootWaveは用途別に複数の製品ラインを展開しています。
RootWave Pro(ハンドヘルド型)
受賞歴のあるプロフェッショナル向けハンドヘルド型電気除草機です。大規模公園、庭園、道路・鉄道沿線、産業用地などでの使用を想定しています。イタドリ(Japanese Knotweed)やジャイアント・ホグウィードなどの侵入種にも効果を発揮します。動力源にはガソリンまたは電動があり、英国・欧州で150台以上が販売されています。
F601 / M601(トラクター搭載型・果樹園向け)
果樹園、ブドウ園、ベリー類の圃場向けに設計されたトラクター搭載型の電気除草機です。2024年に発売されました。
- 周波数: 18,000Hz
- 出力: 最大60kW
- 作業速度: 最大5km/h
- 処理幅: 30〜65cm(調整可能)
- 行間幅: 2〜6m(油圧調整)
- 必要トラクター馬力: 75〜80hp以上
- 重量: 1,500kg
- 動力: 標準トラクターPTO
有機農業認証にも対応しており、30〜50cm幅の雑草フリーストリップを形成します。
Garford Electric Weeder(パートナーシップ製品)
英国の農業機械メーカーGarford Farm Machinery社と提携して開発された、野菜・畑作物向けの3m幅電気除草機です。Garford社は30か国に販売網を持っており、この提携によりRootWaveの技術は果樹園にとどまらず、穀物、トウモロコシ、ヒマワリなどの畑作物にも展開されます。今後は6m幅モデルも計画されています。
どういう課題をどう解決しているか
除草剤が抱える課題
現代農業における除草剤の課題は深刻化しています。
- 除草剤耐性雑草の拡大: 世界72か国で272種の雑草が除草剤耐性を獲得(約530の固有の耐性事例)
- 経済的損失: 雑草による作物の収量損失は全世界で約34%、経済的損失は年間320億ドル(約1,800の雑草種による)
- 英国の事例: 除草剤耐性だけで年間4億ポンドの粗利損失、小麦換算で年間80万トンの減収
- 使用量の増大: 1990年以降、世界の除草剤散布量は260%以上増加し、年間300万トン以上に達している
- 環境・健康リスク: 各国で規制強化が進み、使用制限区域が拡大
これらの課題に対し、除草剤の市場規模は約300億ドルにのぼり、代替技術への需要は極めて大きいとされています。
なぜ電気除草が従来の除草手法より優れているのか
ケンブリッジ大学のWeed Science誌に掲載された研究では、1.1〜1.4km/hの作業速度において、電気除草(24または36kW)による雑草バイオマスの削減率は84〜87%であり、除草剤の88%と同等、草刈りの65%を大きく上回ることが示されました。同論文は「電気除草がブドウ園において除草剤と同等の効果を持つことを初めて研究で示した」と結論づけています。
電気除草の主な利点は以下のとおりです。
- 化学残留物が環境や食品に残らない
- 散布後の耐雨時間(レインファストピリオド)が不要
- 風によるドリフト(飛散)の制約がない
- 耐性雑草が発生しない(物理的破壊のため)
- 隣接する植生や水路への影響がない
- 除草剤より作業可能な気象条件の幅が広い
一方、学術研究で指摘されている課題としては、作業速度がやや遅いこと(1.1〜1.4km/h)、燃料消費が大きいこと、完全に乾燥した植物バイオマスでは火災リスクがあること、非常に広大な面積や深根性の多年生雑草には不向きな場合があることなどが挙げられています。
導入実績
RootWaveは英国を中心に着実に導入を拡大しています。
- RootWave Pro: 英国・欧州で150台以上を販売
- 独立フィールド試験: 畑作物で1回の処理で最大99%の除草率を達成(国際的な除草剤の効果基準は80%)
- 果樹園での試験: 甜菜やトウモロコシでの試験と同等の「雑草の完全制御」を確認(2022年)
導入農家からは「除草剤と同等かそれ以上」「すべての解決策の中で最も有望」「除草剤を使ってもこれほどきれいな作物は見つからない」といった評価が寄せられています。英国政府も同技術を評価しており、Defra(環境・食料・農村地域省)の大臣がRootWaveの施設を訪問しています。
同社はTIME誌 Best Inventions 2025、World Ag Expo 2025 Top 10 New Product、SIVAL Innovation Awards 2025、LAMMA Innovation Awards 2026、Solar Impulse Efficient Solutionラベルなど、数々の賞を受賞しています。
ビジネスモデル
RootWaveのビジネスモデルは、機械の販売を軸としています。
- 機械販売: F601の販売価格は公式には非公開ですが、英国政府のFETF助成金(最大50,000ポンド)が「機械のリスト価格の半額以上」とされていることから、100,000ポンド未満と推定されます
- ヘクタールあたりのコスト: Garford社の算定によると、eWeedingのコストはヘクタールあたり55〜120ポンドで、化学除草剤のコストより大幅に低いとされています
- 損益分岐点: 80ヘクタール以上の農場で除草剤よりも低コストとなり、助成金を活用すると50ヘクタールで損益分岐に達します
- 販売チャネル: 自社直販に加え、地域パートナー(ベルギー・オランダ: Cofabel、ドイツ・オーストリア・スイス: Zuhn Harvesting、英国: Kirkland UK)を通じて販売
英国ではFETF助成金に加え、eWeedingで除草剤を代替した農場にヘクタールあたり101ポンドの年間補助金が支給される制度もあり、導入への経済的インセンティブが整備されています。
競合との比較
電気除草の分野では、スイスのZasso社が最も直接的な競合企業です。
- RootWave: 特許取得済み18kHzの高周波交流、電圧8,000〜15,000V、1回の処理で最大99%の除草率。ハンドヘルド型(Pro)とトラクター搭載型を展開。主に果樹園・ブドウ園向け
- Zasso: パルス電気を独自周波数で使用、電圧7,000〜10,000V、最大95%の雑草削減率(XPRモデル)。CNH Industrial(2020年に少数株式取得)のAGXTENDプラットフォームを通じてグローバルに展開
RootWaveの差別化ポイントは、18kHzの高周波交流による安全性の高さと、1回の処理での除草率の高さです。また、Garford社との提携により30か国への販売網を獲得している点も強みです。
その他の代替除草技術としては、以下が挙げられます。
- The Weed Zapper(米国): 畑作物向けの電気除草機
- crop.zone: 電気と除草剤のハイブリッドアプローチ
- Weeding Tech: 高温フォーム技術(異なる方式)
- Carbon Robotics: レーザー除草(電気除草とは異なるアプローチ)
今後の計画
RootWaveは2025年6月のSeries B調達($1,500万)を受けて、以下の成長戦略を推進しています。
- 地理的拡大: 英国の果樹園市場から、欧州大陸(ベネルクス、DACH地域)および米国市場への進出
- 畑作物への展開: Garford社との提携により、野菜、穀物、トウモロコシ、ヒマワリなどの畑作物にも対応
- 自律走行技術: ビデオカメラとAIを統合し、作物識別と雑草ターゲティングの自動化を推進
- 製品ラインの拡充: 3m幅に加え6m幅モデルの開発を計画
コメント
RootWaveの電気除草技術は、除草剤耐性雑草の増加と除草剤規制の強化という二つの世界的トレンドに正面から応えるソリューションです。ケンブリッジ大学の研究で除草剤と同等の効果が学術的に裏付けられている点、TIME誌のBest Inventions 2025に選出されている点は、技術の信頼性を示しています。
日本の農業においても、高齢化に伴う除草作業の負担軽減は重要な課題です。電気除草という手法は、除草ロボットや自律型除草ロボット(Aigen)、AI除草剤散布(Blue River Technology)などと並んで、除草作業の革新を担う選択肢のひとつといえます。
80ヘクタール以上の農場で除草剤より低コストになるという経済性、有機農業認証への対応、そして耐性雑草が発生しないという本質的な優位性は、長期的な農業経営にとって大きな魅力です。今後のGarford社との畑作物向け展開や自律走行技術の統合にも注目が集まります。
参考URL
- RootWave公式サイト
- RootWave会社概要
- RootWave bags $15M to expand its autonomous weeding platform to Europe, US – AgFunder News
- RootWave raises $15M to replace chemical herbicides
- RootWave launches tractor-powered electrical weed control machine – Future Farming
- TIME Best Inventions 2025 – RootWave eWeeder
- Electric Weed Control: How Does It Compare to Conventional Weed Control Methods? – Weed Science
- UKRI Farming Innovation Programme – RootWave Case Study
- Defra Minister visits RootWave as £50k grower grant announced
- RootWave – Crunchbase