Saga Robotics「Thorvald」:UV-C光で農薬を使わず病害防除する自律ロボット

ノルウェー発の農業ロボット企業 Saga Robotics は、紫外線(UV-C)の光を照射して作物の病害を防ぐ自律走行ロボット「Thorvald(ソルバルド)」を展開しています。化学農薬に頼らずにうどんこ病などの菌類を抑え込むこのアプローチは、米国カリフォルニア州のワインブドウ園で1,300エーカー超、英国のイチゴ栽培で市場の約2割という実績を積み上げてきました。2026年には米国担当ゼネラルマネージャーの新任とワイン業界特化ファンドからの出資を得て、米国でのワインブドウ向け展開を一段と加速させています。

会社基本情報

  • 社名:Saga Robotics AS
  • 本社所在地:ノルウェー・オース(Ås)。英国・米国にも拠点を持つ
  • 設立:2016年
  • 創業者:Pål Johan From 博士、Lars Grimstad 博士
  • 主力製品:UV-C照射による自律型病害防除ロボット「Thorvald」

創業者の Pål Johan From 氏は2026年1月に米国ゼネラルマネージャー職から退き、新設の最高成長責任者(Chief Growth Officer)に就任しました。戦略的パートナーシップ、UV-C技術開発、新規作物・市場への展開、資金調達支援を担当します。

事業概要

Saga Robotics は、自律走行ロボット「Thorvald」を用いた病害防除サービスを農家に提供しています。Thorvald はUV-Cの光を作物に照射しながら畑やブドウ園を自律走行し、化学農薬を使わずに病害の原因となる菌類を抑制します。最新モデルにはカメラが搭載され、病害の検知や収量予測のためのデータ収集も行えます。

対象作物は主に次の2つです。

  • ワインブドウ:米国カリフォルニア州で1,300エーカー超に導入
  • イチゴ:英国でテーブルトップ式(高設栽培)のイチゴを対象に展開し、市場の約20%をカバー。英国の主要イチゴ生産者13社が顧客となっている

課題と解決策

ブドウやイチゴの栽培では、うどんこ病をはじめとする菌類性の病害が大きな脅威となります。従来はこれらを抑えるために化学農薬を繰り返し散布する必要があり、コスト・労力・環境負荷、さらに薬剤耐性菌の発生といった課題を抱えてきました。とりわけワイン用ブドウでは、化学農薬に頼らない栽培(ケミカルフリー)の実現が長年の悲願とされてきました。

Thorvald はこの課題に対し、UV-C光による物理的な防除という解決策を提示します。UV-Cはうどんこ病菌のDNAを損傷させ、DNA複製や細胞機能を阻害することで、菌の増殖と繁殖を防ぎます。重要なのは、ロボットが夜間に作業する点です。日光に当たると菌類のDNA修復機構が働き、UV-Cによるダメージが回復してしまうため、太陽光のない夜間に照射することで防除効果を最大化しています。自律走行のため、夜間の重労働を人に強いることなく繰り返し処理できる点も特徴です。

ビジネスモデル

Saga Robotics は「Robots as a Service(RaaS、サービスとしてのロボット)」を基本モデルとし、農家はエーカーあたりの処理料金を支払うことでサービスを利用できます。高額な機体を購入せずに導入できるため、農家にとって初期投資のハードルが下がります。一方、米国カリフォルニア州のワイン生産者の一部は、CORE と呼ばれる導入支援プログラムを通じて機体そのものを購入する動きも出ています。

資金面では、これまでに複数回の調達を実施してきました。2025年には1,120万ドルのラウンドを実施し、Praesidium Agri-FoodTech、Aker Capital、Nysnø Climate Investments、Blystad、Hatteland、Melesio、Sanden、MP Pensjon が出資しています。さらにこのラウンドの追加クローズとして、ワイン業界向け技術に特化した投資ファンド Xinomavro Ventures(Guillaume De Pracomtal 氏と Gregoire Letort 氏が率いる)から戦略的出資を受け、米国ワイン市場での展開を後押ししています。

今後の計画

Saga Robotics は米国ワインブドウ市場を重点領域と位置づけています。2025年のカリフォルニアでのワインブドウシーズンでは処理面積を前年の10倍に拡大しており、2026年にはさらにおよそ3倍へ伸ばす計画です。英国のイチゴ市場では、2026年にテーブルトップ式イチゴ栽培面積の30%へのカバー拡大を目指しています。

米国事業の指揮を執るのは、2026年1月26日付で米国ゼネラルマネージャーに就任した Caine Thompson 氏です。同氏は米国とニュージーランドで農業・サステナビリティ・商業運営にわたり20年以上の経験を持ち、直前は O’Neill Vintners & Distillers でゼネラルマネージャー兼サステナビリティ責任者を務めていました。Saga Robotics は今後、病害防除にとどまらず、早期の病害検知、収量予測、ウイルス・赤葉病(red blotch)の検出、益虫の放飼、さらには除草・草刈りといった機能への展開も視野に入れています。

コメント

UV-C光を用いた自律ロボットによる病害防除は、農薬削減と省力化を同時に実現しうる点で、日本の施設栽培農家にとっても示唆に富みます。とくに高設栽培のイチゴや、病害圧の高いブドウは、Thorvald が実績を積んだ作物と重なります。日本国内では薬剤耐性や減農薬への関心が高く、夜間に自律走行して物理的に菌を抑えるという発想は、既存の防除体系を補完する選択肢になり得ます。一方で、UV-C防除の効果は対象病害・作物・栽培様式に依存し、国内の気候や栽培環境での実証はこれからの段階です。エーカー単位の課金を前提とした海外のビジネスモデルが、日本の圃場規模や栽培形態にどう適合するかも、導入を検討する際の論点となるでしょう。

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