微生物による化学物質の合成は、古くから人類の暮らしに利用されてきました。酵母によるアルコール発酵や、アオカビによるペニシリン合成などが例です。
現代ではさらに技術が進み、エレクトロニクスや医薬品の分野で利用できる機能性素材を、遺伝子組換えした微生物に合成させられるようになりました。本記事で紹介する Zymergenは、微生物による機能性素材合成を工業スケールで行うベンチャー企業です。微生物の自動培養や、機械学習を駆使した遺伝子組換えの設計など、バイオテクノロジーとITが融合した技術力で新規市場を開拓しています。
Zymergen 基本情報
住所:US 94608 CA Emeryville Suite 105 5980 Horton Street
CEO:Josh Hoffman
設立:2013年
従業員数:501〜1000人
微生物の力で機能性素材を合成
バイオテクノロジーとITの融合
Zymergen は、微生物を利用して様々な機能性素材を合成するメーカーです。2013年に設立された新しい企業ですが、高い技術力が評価されてソフトバンクなどから出資が集まっており、NASDAQにも上場しています。
Zymergen のコア技術は、遺伝子組換えを施した微生物による物質合成、および遺伝子組換えをシミュレーションする機械学習システムです。Zymergen は微生物の代謝経路や遺伝子に関する膨大なデータベースを保有しており、目的の成分を得るための遺伝子組換えや培養条件を自社で設計できます。さらに遺伝子組換えや培養の工程はオートメーション化されており、効率的な生産が可能です。これらのノウハウを駆使し、Zymergen では従来製法の「半分の時間と10分の1のコスト」で素材を生産することをコンセプトに掲げています。
様々な素材の研究開発
Zymergen は、ポリマーや生理活性物質などの機能性素材を、企業向けに製造・販売しています。特に収益の柱となっているのは、エレクトロニクス分野で用いられる素材です。たとえば Hyaline Z2という製品は、透明なポリイミドの一種であり、曲げに強い特性があります。この特性を活かし、折り曲げられるタッチパネルに利用できます。
エレクトロニクス以外にも、化粧品や農業分野への進出も進めています。安全性と効果の高さを兼ね備えた防虫剤など、新素材の開発が進行中です。そのための研究開発投資も盛んであり、2020年には約$2200万を研究開発に投じました。2021年には約$4000万の研究開発投資を計画しています。
Zymergenの技術が求められる背景
従来製法の課題
機能性素材を工業スケールで生産するとき、一般的には植物や菌類などの原料から溶媒で抽出したり、単純な化合物から合成したりする製法が主流です。しかし、これらの既存製法では以下のような課題があります。
- 天然物は雑多な成分を含んでいるため、目的の成分だけを取り出すのは困難。
- 大量の原料を採集するため、持続可能性が低い。
- 原料の輸送や、溶媒の大量使用による環境負荷が大きい。
Zymergen の技術を用いて目的成分を微生物に合成させれば、植物などから抽出するよりも、高い純度で効率的に精製できます。また、野生植物の採集や天然鉱物の採掘を行わないため、持続可能性の高い製法だと考えられます。環境負荷の観点では、遺伝子組換えされた微生物の封じ込めが必要になるものの、大量の溶媒を使う従来製法よりも環境負荷を抑えられる可能性があります。
新素材による差別化
他社との差別化のため、特定の機能に特化した素材が求められていることも背景にあります。
エレクトロニクスや化粧品・食品の分野でも、既存品のマイナーチェンジだけでは顧客の離脱や価格競争が進む恐れがあります。そこで、他社と差別化するために、特定の用途や機能に特化した新規素材の開発を、多くのメーカーが進めています。そのような研究開発型メーカーにとって、Zymergen が保有する膨大な物質データベースは、既存品と一線を画する機能性素材を見出すことに役立つでしょう。
具体的な Zymergen の開発製造プロセス
データベースの活用
Zymergen は、天然に存在する成分やそれらをもとに合成できる様々な化学物質について、膨大なデータベースを保有しています。それらの中から、顧客が求める機能に適したものを提案します。顧客は主にエレクトロニクス素材や医薬品・化粧品のメーカーであり、Zymergen の知見を活用することで効率的に新規素材を探索できます。
微生物の設計
製造する物質が決まると、微生物に遺伝子組換えを施し、目的の成分を生合成するように設計します。
微生物の設計を効率良く進めるために、Zymergen では機械学習を用いたシミュレーションを行います。どのような種類の微生物に、どのような遺伝子組換えを施せば目的の成分が得られるか、シミュレーション結果からスピーディに予測可能です。
スケールアップ
微生物の遺伝子組換えと培養はロボットにより自動化されているため、最小限のオペレーターで運営できます。ロボットアームが行き交う培養工場で、工業スケールでの生産が可能です。培養した微生物から目的の成分を分離・精製し、顧客に納品します。
まとめ
Zymergen は遺伝子組換えした微生物を培養することで、機能性素材を合成する技術を持ちます。目的の成分を合成するための遺伝子組換えを機械学習でシミュレーションし、効率的な製法開発を可能にしました。従来よりも環境負荷の小さい低コストな方法で、暮らしに役立つ様々な機能性素材を生産できる可能性をもった企業です。
URL
Zymergen https://www.zymergen.com
Zymergen | Linkedin https://www.linkedin.com/company/zymergen/
SoftBank-backed Zymergen files for $100 mln U.S. IPO
(ロイター通信 2021/3/24) https://jp.reuters.com/article/zymergen-ipo-idCNL4N2LL45O