会社基本情報
LettUs Growは、2015年に英国ブリストルで設立されたアグリテックスタートアップです。
- 会社名: LettUs Grow Ltd(Company No. 09893012、イングランド・ウェールズ登記)
- 所在地: Chapel Way, Bristol, England, BS4 4EU, UK
- 設立: 2015年
- 創業者: Charlie Guy(CEO)、Jack Farmer(CSO)、Ben Crowther(CTO) — いずれもブリストル大学の卒業生
- 会長: Hadyn Parry
- チーム規模: 約20〜33名(2025年時点)
- 認証: B Corp認証取得(2018年〜)
- 公式サイト: https://www.lettusgrow.com/
同社のミッションは「生鮮食品の炭素コストを削減し、消費地の近くで誰もが生産・消費できるようにすること」です。
事業概要
LettUs Growは、ノズルを使わない超音波式エアロポニックス技術を開発・ライセンス提供している企業です。
エアロポニックス(噴霧耕)とは、植物の根を空中に露出させ、栄養分を含んだ微細なミストを噴霧して育てる栽培手法です。従来の水耕栽培と比較して、根により多くの酸素を供給できるため成長速度が向上し、使用する水量も削減できます。
LettUs Growの技術が独自なのは、超音波を使って高周波の音波で栄養水を微細なミスト(霧)に変換する点にあります。従来のエアロポニックスではノズルを使用しますが、栄養液の成分がノズルに詰まるため大規模展開が困難でした。同社のノズルフリー設計はこの課題を解決し、ヘクタール規模での導入を可能にしています。
プロダクト構成
エアロポニック・ローリングベンチ(主力ハードウェア)
超音波技術により栄養水を微細なミストに変換し、空中に浮かせた植物の根に散布するシステムです。ノズルを使用しないため、メンテナンスが容易で目詰まりの問題がありません。
温室への統合を想定して設計されており、ピートフリーで培地を選ばず、ヤシ殻、麻、ジュートなどの培地と互換性があります。開発キット(トライアル・検証用)やコンテナ型の制御環境システムとしても提供されています。
Drop & Grow(コンテナファーム)
40フィートの輸送用コンテナ内にエアロポニックス農場を構築したモジュール型製品です。事前設置済みで、複数台の追加によりスケールアウトが可能です。小型モデル「Drop & Grow:24」は起業家や教育機関向けに設計されています。
当初は1台あたり10万ポンド(約1,900万円)以上で販売していましたが、現在はライセンスモデルへと事業を転換しています。
Ostara(ソフトウェア — 独立会社として分社化)
CEA(環境制御農業)向けの農場管理ソフトウェアプラットフォームです。照明、灌漑、施肥、環境制御を統合管理し、作業の自動化と最適化された栽培レシピを提供します。2015年以降、30以上のCEAプロジェクトで採用されてきました。
2024年9月26日にOstaraは独立企業として分社化され、Dan Peel氏がCEOに就任しました。Bethnal Green Ventures(BGV)からの出資を受け、ポリトンネルやガラス温室などの被覆型園芸にも展開しています。これにより、LettUs Growはエアロポニクスのハードウェアとライセンス事業に専念する体制となりました。
どういう課題をどう解決しているか
従来の垂直農業の課題
植物工場・垂直農業は食料安全保障や都市農業の切り札として期待されていますが、深刻な課題を抱えています。2023年には業界全体でVC投資が前年比91%減少し、AeroFarms、Fifth Season、AppHarvest、Infarmなど大手企業が相次いで破綻・閉鎖に追い込まれました。
最大の問題は人工照明のエネルギーコストです。完全閉鎖型の植物工場では、太陽光の代わりにLED照明を使用しますが、このコストが農産物の利益を大幅に圧迫します。植物工場の初期費用やランニングコストの記事でも解説している通り、エネルギーコストは採算性を左右する最重要要因です。
また、従来のエアロポニックスにはノズルの目詰まりという技術的課題がありました。栄養液に含まれるミネラル成分がノズルに蓄積し、定期的な清掃や交換が必要となるため、大規模な商業運用には不向きでした。
なぜLettUs Growのアプローチが異なるのか
LettUs Growは主に2つの観点で業界の課題に対処しています。
1. ノズルフリーの超音波式エアロポニックス
超音波で栄養水を霧化するため、従来のノズル式エアロポニックスの目詰まり問題を解消しています。これにより、ヘクタール規模での商業運用が初めて現実的になりました。同社はこの方式を商業規模で実用化している唯一の企業とされています。
2. 温室統合戦略(Greenhouse-First)
CEOのCharlie Guy氏は「化石燃料を燃やして電力に変え、その電力でライトを点けて植物を育てることに意味はない」と述べています。同社は人工照明に頼る完全閉鎖型の垂直農場ではなく、太陽光を活用する温室にエアロポニックス技術を統合するアプローチを推進しています。これにより、エネルギーコストの問題を根本的に回避できます。
水耕栽培と比較した場合のエアロポニックスの優位性は以下の通りです。
- 成長速度: 水耕栽培と比べて最大70%速い成長(一部の作物では最大2倍)
- 水使用量: 露地栽培比で95%削減、水耕栽培比でも30%削減(培地からの蒸発が少ないため)
- 病害リスク: 培地を使用せず根が乾燥状態を保つため、藻類の発生や根腐れのリスクが最も低い
- 収穫物の日持ち: 最大30%長い保存期間
導入実績
LettUs Growは英国・欧州を中心に15拠点以上に技術を納入しています。2025年時点での展開地域はイタリア、インド、クウェート、スイス、オランダ、英国で、次のターゲットは北米市場です。
Grow It York / SPARK:York(英国ヨーク市)
2021年6月にヨーク市中心部で稼働を開始したコンテナファームです。ヨーク大学のFixOurFoodプログラムの一環として運営され、バジル、ケール、マイクログリーンを地元レストランに供給しています。
Ro-Gro / G H Dean & Co
LettUs Growのコンテナファームを導入し、従来農法と比較して水使用量を90%削減しています。雨水回収と太陽光発電を組み合わせ、当初40%のエネルギーを太陽光でまかない、最終的には90%を目標としています。
第三者機関による性能検証
LettUs Growの技術は独立した研究機関によって検証されています。
- Stockbridge Technology Centre(英国): マイクロラディッシュの10日間栽培試験で、水耕栽培(ebb-and-flood方式)と比較してバイオマスが平均22%増加
- Wageningen University(オランダ): バジルの栽培試験で20%以上のバイオマス増加を確認
- UK Agri-Tech Centreの評価: これらの収量向上により、顧客は投資に対して7倍のリターン(ROI)を得られると報告
ビジネスモデル
LettUs Growのビジネスモデルは設立以来、大きく進化してきました。
- 2015〜2020年: R&Dフェーズ。プロトタイプ開発とシード資金の確保
- 2020〜2023年: Drop & Growコンテナファームの販売(1台10万ポンド以上)とOstaraソフトウェアの提供
- 2024年〜現在: ライセンスモデルへの転換。温室建設会社やVF建設企業にエアロポニックス技術の設計をライセンス供与
ハードウェアを直接販売するモデルから、技術ライセンスモデルへの転換は、垂直農業業界の教訓を踏まえた戦略的判断です。自社農場の運営には莫大な資本が必要であり、AeroFarmsのように大規模な資金調達をしても破綻するリスクがあります。ライセンスモデルは資本効率が高く、収益性の向上に集中できます。
資金調達状況
- シードラウンド(2020年1月): 235万ポンド(約310万ドル)を調達。Longwall Venture Partners(リード)、University of Bristol Enterprise Fund(Parkwalk運用)、Bethnal Green Ventures、ClearlySoが参加
- 累計調達額: 約1,980万ドル(PitchBook調べ)
- 企業評価額: 1,450万ポンド(Tracxn調べ)
- 売上実績: 初の100万ポンド(約1.9億円)の売上を達成
競合との比較
グローバルな垂直農業・エアロポニックス市場において、LettUs Growは283社の競合のうち第3位にランクされています(Tracxn調べ)。主要な競合との違いを整理します。
AeroFarms(米国): 独自のエアロポニックス技術で最大手でしたが、2023年6月にChapter 11(連邦破産法第11条)を申請しました。約2.38億ドルを調達したにもかかわらず、自社農場運営の資本負担に耐えられませんでした。再建後はマイクログリーンに特化して事業を継続しています。LettUs Growがライセンスモデルを採用している理由の一つがここにあります。
Plenty(米国): SoftBankの支援を受け、9億ドル以上を調達した水耕栽培ベースの垂直農業企業です。エアロポニックスではなく水耕栽培を採用しており、技術アプローチが異なります。
Bowery Farming(米国): 独自OSを搭載した水耕栽培システムを展開しています。ソフトウェア駆動型のアプローチですが、やはり水耕栽培ベースです。
Infarm(ドイツ): 分散型の屋内農場を展開していましたが、2023年に経営破綻しました。店舗内設置型のモデルは、エネルギーコストと物流の課題を克服できませんでした。
LettUs Growの差別化ポイントは、超音波式のノズルフリー・エアロポニックス技術(他社はノズル式または水耕栽培)、技術ライセンスモデル(自社農場運営の資本リスクを回避)、そして温室統合戦略(人工照明依存を軽減)の3点に集約されます。
今後の計画
KG Systemsとのグローバルパートナーシップ
2025年3月、米国ラスベガスで開催されたIndoor AgConにて、オランダの温室建設大手KG Systemsとのグローバルパートナーシップを発表しました。KG Systemsは年間数百ヘクタール規模の温室を建設している企業であり、このパートナーシップを通じて2030年までに世界で10ヘクタール以上のエアロポニック・ローリングベンチシステムの導入を目指しています。
QuBOOSTRプロジェクト
2026年2月に発表された240万ポンド規模の研究プロジェクトです。QuberTech、John Innes Centreと共同で、温室内でタンポポを栽培して天然ゴムを生産する技術を開発します。UK Farming Innovation Programme(Innovate UK)の資金支援を受けています。食料以外の用途にエアロポニックス技術を展開する注目のプロジェクトです。
北米市場への進出
現在の展開地域(英国、イタリア、インド、クウェート、スイス、オランダ)に加え、次のターゲットとして北米市場を位置づけています。
コメント
LettUs Growの最も注目すべき点は、垂直農業業界が直面している「資本集約的な自社運営モデルの限界」に対して、早期にライセンスモデルへ転換した戦略的判断です。AeroFarmsが2.38億ドルを調達しながらも破綻したことは、技術の優位性だけでは垂直農業ビジネスが成立しないことを示しています。
植物工場の成功事例を見ても明らかなように、収益化に成功している企業は、コスト構造を最適化したモデルを構築しています。LettUs Growが温室統合を重視し、人工照明への依存を最小化する方針は、この業界の本質的な課題であるエネルギーコストに正面から取り組むアプローチと言えます。
技術面では、第三者機関(Stockbridge Technology Centre、Wageningen University)による検証で水耕栽培比20%以上のバイオマス増加が確認されている点が信頼性を高めています。さらに、葉物野菜だけでなく、玉ねぎ、イチゴ、リンゴの苗木、ジャガイモ、天然ゴム用タンポポなど幅広い作物での実証試験を行っている点も、エアロポニックス技術の応用可能性を広げています。
グローバル垂直農業市場は2025年の96.2億ドルから2033年には392億ドル(年平均成長率19.3%)への拡大が予測されています。その中でエアロポニクスセグメントは2032年までに20億ドルを超える投資が見込まれています。英国は果物消費の84%、野菜の約50%を輸入に依存しており、食料安全保障の観点からもLettUs Growのような国産技術の重要性は増しています。
参考URL
- LettUs Grow 公式サイト
- LettUs Grow Aeroponic Technology
- Is Aeroponics Better Than Hydroponics? — LettUs Grow Blog
- LettUs Grow Ostara Spin-out Announcement
- LettUs Grow and KG Systems Global Partnership
- UK Agri-Tech Centre: Accelerating Agri-Tech — LettUs Grow
- AgFunderNews: LettUs Grow Raises £2.35M Seed Round
- techSPARK: Silicon Gorge — Where Are They Now: LettUs Grow
- iGrowNews: Charlie Guy Outlines LettUs Grow’s Shift
- HortWeek: LettUs Grow Joins £2.4M UK Dandelion Rubber Project
- Grand View Research: Vertical Farming Market