玄武岩粉・強化岩石風化(ERW)の効果 実証事例集|収量と炭素除去を出典つきで【2026年版】

玄武岩粉などの岩石粉を畑にまく「強化岩石風化(ERW)」は、ミネラル供給・pH改善による収量アップと、CO2を岩石に固定して除去するカーボンクレジットの両面で注目されています。では実際、作物は増えるのか、そして本当にCO2を除去できるのか。このページは査読論文を横断して、「作物ごとの効果と炭素除去の実績、その根拠となる出典」を一覧できる実証事例集です。

このページの方針:対照区つきの査読論文だけを採用しています。効果が出なかった事例、炭素除去がほぼゼロだった事例も同じ基準で載せています。

はじめに:これは「農業資材」より「炭素除去ビジネス」寄り

玄武岩粉の散布は、収量改善だけを目的にするなら石灰などより割高で、主役はむしろCO2除去(カーボンクレジット)です。ただし、その炭素除去量の実測が非常に難しく、成否は土壌の条件に強く左右されます。同じ玄武岩でも、圃場によって結果が真逆になります。

  • 収量が上がる条件:酸性〜微酸性の土壌、リン・カリが効く土、ケイ酸を好む作物(イネ科・水稲・モロコシ)。玄武岩のpH改善・ケイ酸・微量要素供給が効きます。
  • 炭素除去が出る/出ない条件:高温多湿で微酸性〜中性の土(米コーンベルトなど)では出やすい一方、強酸性土・寒冷な温帯・粒径が粗すぎる場合はほぼ出ません。
  • 測定が最大の壁:「何トンのCO2を除去したか」の実測手法(MRV)が未確立で、実験室・モデルの値は過大評価に振れやすいことが指摘されています。

収量・土壌改善の効果

  • トウモロコシ+12%・大豆+16%(米コーンベルト・4年圃場)【査読論文】…イリノイ大学ほか。玄武岩50t/ha/年を4年施用。土壌pHが有意に上昇(対照は酸性化)。同時にCO2除去も年2.6t/ha(2024年)。出典(PNAS, 2024)
  • 春まきオート麦+9〜21%(英国・温帯圃場)【査読論文】…ニューカッスル大学。玄武岩約19t/haで、直播区+20.5%・耕起区+9.3%、土壌pHも上昇(2024年)。出典(PLoS ONE, 2024)
  • モロコシ+21%(リン・カリ無添加でも増収)【査読論文】…シェフィールド大学ほか。玄武岩を施用したメソコスム試験で、茎葉ケイ素も+26%(2020年)。出典(Global Change Biology, 2020)
  • 【条件依存】牧草地では収量に有意差が出ない事例も…微酸性の採草地では、土壌・植物の養分は変化したが干し草の収量・品質に有意差がなかったという報告もあり、作物・土壌で効果は一様ではありません。

炭素除去(CDR):圃場で結果が真逆になる

ここがERWの最も難しい部分です。同じように玄武岩をまいても、除去できるCO2量は圃場によって桁違いに変わります。

  • 【効く例】米コーンベルトで4年累積10.5t CO2/ha【査読論文】…上記イリノイ大の試験。高温多湿・微酸性〜中性という好条件で炭素除去が確認された(2024年)。出典(PNAS, 2024)
  • 【ほぼゼロの例】豪州の酸性サトウキビ畑では有意な除去なし【査読論文】…ジェームズクック大学。5年で累積250t/haもの玄武岩を施用しても、炭素除去は年0.026t/ha(統計的に有意でない)で収量増もなし。強酸性土では、炭酸より強い酸が玄武岩を溶かしてしまい、CO2固定の担い手である重炭酸イオンができない(2024年)。出典(Science of the Total Environment, 2024)
  • 【1/10の例】スイスのブドウ畑(寒冷・非酸性の温帯)【査読論文】…玄武岩の溶解は確認できたが、CO2除去は年約100kg/haにとどまり、好条件の研究の1/10〜1/30だった(2025年)。出典(Environmental Science & Technology, 2025)
  • 【検出不能の例】米ミネソタでは粒径が粗く3年間で除去を検出できず【査読論文】…玄武岩の約63%が砂粒サイズと粗く、反応性の低い鉱物も混じっていたため、測定可能な炭素除去がなかった(2026年)。出典(Frontiers in Climate, 2026)
  • 【国内事例】北海道の大豆畑で0.81t C/ha除去(根圏が主役)【査読論文】…北海道大学。玄武岩粉150Mg/haで炭素除去を確認したが、圃場全体の炭素収支は依然マイナス(炭素を失う側)のまま軽減にとどまった(2025年)。出典(Nutrient Cycling in Agroecosystems, 2025)

「測定の難しさ」がクレジット化の壁

ERWをカーボンクレジットにするには「何トン除去したか」を検証(MRV)する必要がありますが、これが極めて難しいことが複数のレビューで指摘されています。

  • 風化速度が過大評価されやすい【査読論文】…岩石粉の初期の速い溶解だけを測ってしまう、岩石中の微量な炭酸塩不純物を風化と誤認する、といった落とし穴で、除去量が過大に計上されうる(2025年)。出典(Frontiers in Climate, 2025)
  • 3つの測定法すべてに限界【査読論文】…土壌の陽イオンを測る方法は精度が低く、浸出水を測る方法は降雨で変動し、CO2フラックスを測る方法は土壌呼吸(有機炭素由来)がERWシグナルの約10倍あって埋もれる。単一手法では測れず複数併用が必要(2024年)。出典(Frontiers in Climate, 2024)

まとめ

玄武岩粉・強化岩石風化(ERW)は、酸性〜微酸性の土壌やケイ酸を好む作物で収量+10〜20%の効果があり、好条件では相当量のCO2も除去できます(米コーンベルトで4年10.5t/ha)。しかし、強酸性土・寒冷な温帯・粗い粒径では炭素除去がほぼゼロ〜検出不能になり、同じ玄武岩でも圃場次第で結果が真逆です。さらに除去量の実測手法が未確立で、実験室・モデルの値は過大評価に振れやすい。カーボンクレジットとしての価値は「測定・検証コスト」が最大の壁であり、農業資材としては「自分の土壌が酸性でケイ酸を好む作物か」を見極めて使う技術です。

参考URL

※本ページの数値は各出典の特定条件下での実証値です。対照区つきの査読論文を採用しています。玄武岩粉の効果(収量・炭素除去とも)は土壌pH・気候・粒径・散布量で大きく異なり、炭素除去量の測定には未確立の難しさがあります。