CAPSULE SENSE:牛の胃に入れるカプセル型センサーで発情・分娩・疾病を検知|タイヤ空気圧センサーの太平洋工業が開発

牛の胃内に投入するカプセル型センサー CAPSULE SENSE の製品概要
出典:CAPSULE SENSE(太平洋工業株式会社)

タイヤの空気圧監視システム(TPMS)で世界トップシェアを持つ自動車部品メーカー、太平洋工業が、そのセンシング技術を畜産に応用しています。牛の胃の中に小さなカプセル型センサーを入れ、体温と動きを24時間モニタリングして、発情・分娩・疾病の兆候を検知する「CAPSULE SENSE(カプセルセンス)」です。本記事では、異業種からのユニークな農業参入事例として、その仕組みと特徴を紹介します。

会社基本情報

CAPSULE SENSE を開発・販売するのは、岐阜県大垣市に本社を置く太平洋工業株式会社です。自動車用のプレス製品や樹脂製品、タイヤバルブなどを手がける東証プライム上場の部品メーカーで、国内唯一の TPMS(タイヤ空気圧監視システム)送信機メーカーとして知られています。

  • 会社名:太平洋工業株式会社(PACIFIC INDUSTRIAL CO., LTD.)
  • 本社所在地:岐阜県大垣市久徳町100
  • 代表者:代表取締役社長 小川哲史
  • 設立:1938年(創業1930年)
  • 資本金:73億1,600万円
  • 従業員数:連結5,130名(単独2,250名)
  • 公式サイト:https://www.capsulesense.net/

事業概要

CAPSULE SENSE は、牛の胃内に投入したカプセル型センサー(子機)で体温と活動量を計測し、そのデータをAIで解析して体調変化の兆候を検知する牛体調モニタリングシステムです。太平洋工業が2022年6月に販売を開始しました。

同社が自動車のタイヤ用に培った無線通信技術とセンシング技術、そしてAI解析技術を組み合わせた製品で、自動車部品事業のコア技術を異分野の社会課題解決に応用した新規事業と位置づけられています。2023年には「超モノづくり部品大賞」で「ものづくり生命文明機構 理事長賞」を受賞しました。

課題と解決策

畜産現場が抱える課題

太平洋工業は、畜産業界が抱える課題として、一戸あたりの飼育頭数の増加、後継者不足、受胎率の低下による生産性低下、疾病や病傷事故による経済損失などを挙げています。

とくに繁殖管理では、発情の見逃しが受胎率の低下に直結します。従来は飼養者が一頭ずつ体温を測ったり、目視で観察したりして体調を確認してきましたが、数十頭から数百頭の牛を扱う現場では多くの時間と手間がかかり、常に牛の状態を気にかける負担が続きます。発情や分娩の兆候は昼夜を問わず現れるため、24時間体制での見守りは人手だけでは限界があります。

CAPSULE SENSE のアプローチ

CAPSULE SENSE は、子機・親機・クラウド・アプリの4つで構成されます。

  • 子機(カプセル):温度センサーと加速度センサーを内蔵した小型カプセル。牛の口から挿入し、第2胃に滞留させて胃内の温度と活動量を定期的に計測する
  • 親機(ゲートウェイ):子機からのデータをプライベートLoRaで受信し、クラウドへ送信する。牛舎の温度・湿度も計測する
  • クラウド・AI:蓄積したデータを独自のAIが解析し、発情・分娩・疾病などの兆候を検出する
  • アプリ:検知結果をスマートフォンやタブレットへ通知し、遠隔から個体ごとの状態を確認できる(iOS/Android対応)

子機は φ26.4mm×94mm・約87g の大きさで、最適な重量バランスにより第2胃に留まり続け、他の胃へ移動したり排出されたりしない設計です。電池寿命は約5年で、いったん投入すればメンテナンスはほとんど不要です。牛に配慮した形状・素材を採用しており、動物用一般医療機器(種別:温度計)として農林水産省に届出・登録されています(届出番号 3動薬第1816号-2)。

体内に直接センサーを置く方式のため、首輪型や歩数計型のウェアラブル端末と比べて、外気温の影響を受けにくく、装着のずれや脱落の心配がないのが特徴です。1台の親機で最大100頭の子機を管理でき、発情・分娩・疾病という複数の兆候をこの1つのシステムでまとめて検知できる点を、太平洋工業は自社製品の優位性として挙げています。

ビジネスモデル

CAPSULE SENSE は、酪農家・肉用牛農家など牛を飼養する畜産事業者を対象に、太平洋工業が直接販売しています。子機・親機といったハードウェアと、クラウドでのデータ解析・アプリ通知を組み合わせて提供する製品です。

センサーで計測したデータはモバイル回線経由でクラウドに集約され、AIによる解析結果が継続的にアプリへ届く仕組みです。料金は、本記事執筆時点(2026年6月)の公式プロモーションサイトによると、子機の通信料が月額170円/頭、親機の通信料が別途月額2,000円となっています。これに加えて子機本体の代金や通信費が別途必要で、親機の設置は導入者側で行う形です(工事を希望する場合は別途見積もり)。

また、本記事執筆時点では、通常233,000円の親機・子機投入機のセットを6か月間無料で試せるお試しキャンペーンも実施されています(試用期間の終了後は親機・子機投入機を返却)。1台の親機で最大1,000頭規模まで対応できるとされ、小規模から大規模の農場まで導入を検討しやすい料金体系といえます。価格やキャンペーンの内容は変更される場合があるため、最新の条件は公式サイトで確認してください。

今後の計画

太平洋工業は、CAPSULE SENSE を起点に畜産IoT事業を広げる方針を示しています。具体的には、子牛向け製品へのラインナップ拡充や、体調モニタリング機能のさらなる強化が挙げられています。

加えて同社は、家畜が排出する温室効果ガス(世界の排出量の約6%を占めるとされる)の計測といった、環境分野への展開も視野に入れています。受胎率の向上や疾病の早期発見による生産性改善にとどまらず、畜産の環境負荷の可視化までを射程に入れた事業構想です。

コメント

牛の発情・分娩を検知するセンサーは、首輪型や耳標型、歩数計型など各社からさまざまな方式が出ています。そのなかで CAPSULE SENSE が際立つのは、センサーを胃の中に置く「体内留置型」を採用し、しかも電池寿命5年でメンテナンスフリーを実現している点です。体外装着型につきまとう脱落や装着位置のばらつき、外気温の影響といった課題を、発想を変えて回避しています。

もう一つ注目したいのは、これがタイヤ空気圧センサーのメーカーによる製品だという点です。自動車部品で磨いた小型・低消費電力のセンシングと無線通信の技術が、そのまま牛の体調管理へ転用されています。農業に参入した企業43社のように異業種からの農業参入は増えていますが、自社のコア技術が農業現場の課題とかみ合ったときに生まれる製品は強く、CAPSULE SENSE はその好例といえます。

一方で、体内留置型は一度投入すると交換のハードルが体外型より高く、導入判断には飼養規模や繁殖管理の方針に応じた検討が必要です。異業種参入には特有の落とし穴もあるなかで、上場メーカーならではの開発力と医療機器登録まで取得した堅実さは、畜産現場が長く使ううえでの安心材料になりそうです。子牛向け製品や温室効果ガス計測など、今後の展開にも注目です。

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