土壌のN・P・K(窒素・リン酸・カリ)を正確に知るには、これまで土壌サンプルを実験室へ送り、数日から数週間待つのが当たり前でした。米カリフォルニア州のスタートアップ「TerraBlaster(テラブラスター)」は、トラクターやATVで圃場を走りながらリアルタイムで土壌養分をマッピングするセンサーを開発し、2026年後半の商用ローンチを目指しています。可変施肥(VRA)の精度を一段引き上げ、肥料コストの削減と環境負荷の低減を同時に狙う技術として注目を集めています。
会社基本情報
- 社名:TerraBlaster(テラブラスター)
- 本社所在地:米国カリフォルニア州レッドウッドシティ
- 設立:2025年
- 共同創業者:Jorge Heraud氏(CEO)、Matt Colgan氏
CEOのJorge Heraud氏は、画像認識で雑草だけにピンポイント散布する技術を開発したBlue River Technologyの共同創業者です。同社は2017年にジョンディア(John Deere)へ買収され、現在の「See & Spray」システムの基盤となりました。Heraud氏はその後もジョンディアで精密農業部門を率いた経歴を持ち、共同創業者のMatt Colgan氏も同じくBlue River Technology出身です。土壌計測という新たな領域で、精密農業のベテランが再び起業した形です。
事業概要
TerraBlasterが開発するのは、トラクターやATVで牽引しながら走行中に土壌養分を計測する堅牢なセンサーです。地表から約6インチ(約15cm)の深さで土壌を分析し、窒素・リン酸・カリの3要素に加え、pHや陽イオン交換容量(CEC)といった複数の土壌指標をリアルタイムで取得します。
核となるのはレーザー誘起ブレークダウン分光法(LIBS:Laser-Induced Breakdown Spectroscopy)という分析技術です。高エネルギーのレーザーパルスを土壌のごく微小な点に照射してプラズマを発生させ、そこから放たれる光のスペクトルを解析することで元素組成を読み取ります。この計測は1ミリ秒未満という極めて短時間で完了します。LIBSは火星探査ローバーにも搭載された分光技術で、TerraBlasterはこれを農業用の堅牢なセンサーとして圃場で使える形に落とし込もうとしています。
課題と解決策
従来の土壌養分測定には、大きく2つの限界がありました。1つは実験室分析で、精度は高いものの結果が出るまでに数日から数週間を要します。もう1つは低速の移動式センサーで、走行速度や測定密度に制約がありました。いずれも、施肥のその場で意思決定するには情報が遅すぎるという課題を抱えていました。
TerraBlasterはこの課題に対し、走行しながらの高速・高密度な養分マッピングで応えます。具体的には次のような特長があります。
- 従来の一般的な土壌サンプリングが約2.5エーカー単位だったのに対し、TerraBlasterは約6分の1エーカー単位の細かいグリッドで養分を可視化する
- 計測精度は実験室分析と同等を目指し、Mehlich 3やBray P1といった既存の標準手法に合わせて校正している
- 現状の走行速度は時速約5マイルで、CEOは近いうちに時速10マイルへ引き上げる計画を示している
Heraud氏は、施肥の判断に必要な養分情報を即座に得られることを「ホーリーグレイル(究極の目標)」と表現しています。土壌の状態をその場で把握できれば、必要な場所に必要なだけ肥料を投入する可変施肥の精度が飛躍的に高まり、肥料の無駄と環境への流出を同時に抑えられる可能性があります。
ビジネスモデル
TerraBlasterは、農業資材小売の現場で働くアグロノミスト(農学アドバイザー)や土壌診断サービス事業者への販売を想定しています。エンドユーザーである農家に直接機器を売るのではなく、診断サービスの担い手にツールを届ける形です。価格についてHeraud氏は、農家がいま土壌サンプリングに支払っている費用を上回らない水準を目指すとしています。
当初の対象作物は、トウモロコシ・大豆・小麦に加え一部の露地野菜です。点滴灌漑を用いる作付け体系は当初の対象から外れています。製造面では、基板や機器の生産を外部の受託製造に委ね、入手しやすい既存部品を活用することでコストを抑える方針です。将来的には、ジョンディア・CNH・AGCOといった大手農機メーカーの施肥機械との統合も視野に入れています。
今後の計画
TerraBlasterは2025年に、Khosla Venturesがリードする400万ドルのプレシード資金調達を実施しました。この調達はオーバーサブスクライブ(応募超過)となり、Trailhead Capital、OCPグループのコーポレートベンチャー部門であるBidra、The Reservoir、Ulu Venturesなどが参加しています。同社はこれに続くシードラウンドの調達も進めています。
開発スケジュールとしては、米アイオワ州での圃場検証を経て、2026年5月から6月にかけて第2世代プロトタイプの試験を実施し、秋に検証を行う計画です。そして2026年後半の商用ローンチを目標に掲げています。
コメント
日本は肥料原料の多くを輸入に頼っており、国際市況の変動に価格が左右されやすい構造を抱えています。原料価格の高騰局面では、いかに肥料を無駄なく効かせるかが経営に直結します。土壌養分をその場で把握して可変施肥につなげるTerraBlasterの技術は、こうした構造的な需要にこたえる方向性として注目に値します。
もっとも、同社はまだプロトタイプ段階で、商用ローンチも2026年後半の予定です。LIBSによる土壌養分の即時計測が、実圃場で実験室分析と同等の精度をどこまで安定して再現できるかは、今後の検証結果を見極める必要があります。精密農業のベテランが率いる挑戦として、ローンチに向けた動向を引き続き追っていきます。
参考URL
- TerraBlaster aims for late 2026 launch with real-time NPK soil mapping at tractor speed(AgFunderNews) リンク
- Soil health analytics start-up TerraBlaster closes oversubscribed $4m pre-seed round(AgTech Navigator) リンク
- TerraBlaster aims to revolutionize soil testing for farmers(St. Louis Magazine) リンク
- TerraBlaster 公式サイト リンク