Agriodor(アグリオドール):植物の香りで害虫を操る嗅覚型生物農薬のフランス発スタートアップが€1500万調達

フランス発のアグリテックスタートアップ「Agriodor(アグリオドール)」が2026年4月、シリーズAで1,500万ユーロ(約24億円)の資金調達を完了しました。同社が開発するのは、農薬でも天敵昆虫でもない第三の防除技術——植物が自然に放つ香り(セミオケミカル)を使って害虫の行動そのものを操る「嗅覚バイオコントロール」です。

会社基本情報

  • 会社名:Agriodor(アグリオドール)
  • 設立:2019年
  • 本社:フランス・レンヌ(Biopôle, 6 Rue Pierre Joseph Colin, 35000 Rennes, France)
  • 創業者:Alain Thibault(会長・共同創業者)、Dr. Ené Leppik(共同創業者・CTO)
  • 出自:INRAE(フランス国立農業・食品・環境研究所)スピンアウト
  • 従業員:42名(6カ国籍、博士号保持者8名)
  • 特許:3ファミリー8件
  • 公式サイトagriodor.com

事業概要

Agriodorは「セミオケミカル(semiochemicals)」と呼ばれる、植物が本来もつ香気成分に着目した農業用生物農薬を開発しています。セミオケミカルとは、植物と昆虫のあいだで交わされる化学的なシグナルのこと。植物が害虫に食われたとき放つ忌避物質や、送粉者を誘引するための香りなど、自然界では古くから使われてきたコミュニケーション手段です。

同社はこの仕組みを農業に応用し、「害虫を引き寄せて罠にかける」「作物から遠ざける」「個体群の増殖を妨害する」という三つのアプローチで病害虫防除を実現します。化学農薬とは異なり、ミツバチなどの有益な昆虫への影響を避けながら標的種にだけ働きかけられる点が特徴です。

課題と解決策

農業において害虫被害は年間700億ドル規模の損失をもたらすとされています。これに対応するため、従来は化学農薬が主力手段として使われてきましたが、耐性を持つ害虫の出現や生態系への影響が問題視されてきました。生物農薬(天敵昆虫やBt剤など)も普及しているものの、効果の安定性や作物・害虫ごとの適合範囲に制限があります。

Agriodorのアプローチはこの中間を狙います。天然由来の物質であるため残留農薬の懸念が少なく、かつ化学農薬に近い安定性と作付けシステムへの適合性を持ちます。同社によれば、セミオケミカルを用いた製品は従来の農薬と比べて開発コストが10分の1、開発期間が半分で済むとのことです。これは、作用機序の探索が昆虫の嗅覚という普遍的なメカニズムに絞られるためです。

具体的な研究手法として「高スループット化学生態学」と「逆化学生態学」を組み合わせています。多数の植物由来香気成分を短期間でスクリーニングし、害虫に対して最も強い行動変容をもたらす成分の組み合わせを特定。さらにその成分を実際の農場環境で安定して機能するよう製剤化します。

ビジネスモデル

同社の最初の商業製品「INSIOR®GR A」は、砂糖大根のアブラムシ対策を目的としたもので、フランスの砂糖大根畑での商業展開に世界で初めて成功しました。この製品はシンジェンタとの独占流通契約を通じて農家に届けられます。大手農薬メーカーを流通パートナーに持つことで、既存の販売チャネルを活用しながら普及を加速する戦略をとっています。

2026年4月に完了した1,500万ユーロのシリーズAには、Crédit Mutuel Impactが運営する環境・社会連帯革新基金がリードし、Région Sud Investissement、CAAP Création(Crédit Agricole Alpes-Provence)が新たに参加。既存投資家のCapagro、CapHorn、SWEN Capital Partnersも継続参加しています。

今後の計画

調達資金は主に三つの目的に充てられます。

  • 砂糖大根のアブラムシ以外の害虫(フルーツフライ・コナジラミ・アザミウマ)への製品展開
  • ヨーロッパ・ラテンアメリカ・北アメリカへの市場拡大
  • AIを活用した研究開発の加速

ターゲットとする複数の害虫・作物の組み合わせが対象とする市場は、合計で40億ドル規模に上ります。

コメント

創業者のAlain Thibaultは「将来の農作物保護は化学ではなく生物学にある」と語ります。共同創業者でCTOのDr. Ené Leppikは「嗅覚は昆虫の普遍的な言語であり、私たちはそれを解読した」と述べています。

化学農薬の後継となる次世代防除技術をめぐっては、ゲノム編集した天敵生物、AIで設計したタンパク質型除草剤(Quercus Bio)、分子接착剤を使った農薬(Bindbridge)など、各社がまったく異なるアプローチで開発を進めています。Agriodorの嗅覚バイオコントロールは、植物と昆虫の40億年にわたる共進化の産物を利用するという意味で、もっとも自然界に近いアプローチのひとつといえます。

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