TERMS a.s.の会社概要
Robotonは、チェコ共和国に本社を置くTERMS a.s.(BUDEXハブ)が開発する農業ロボットブランドです。TERMS a.s.は1990年代から事業を展開し、農業技術と太陽光発電の分野で30年以上の実績を持つ企業です。
- 会社名:TERMS a.s.
- 本社所在地:チェコ共和国、チェスケー・ブジェヨヴィツェ(Ceske Budejovice)近郊プラナー(Plana)
- CEO:Petr Kantor
- 共同創業者:Pavel Schwarz
- 事業領域:農業技術、太陽光発電、ロボティクス
同社は決済サービスのGoPay、モバイル通信のGoMobilなどを傘下に持つBUDEXグループの一員であり、テクノロジー企業としての幅広いバックグラウンドを活かして農業ロボットの開発に取り組んでいます。
事業概要:Roboton Farmerとは
Roboton Farmerは、TERMS a.s.が開発した完全電動・自律走行型の多機能フィールドロボットです。最大の特徴は、1台で土壌準備、精密播種、除草、灌漑、作物モニタリングといった複数の農作業をこなせる点にあります。
従来の農業ロボットの多くは、除草なら除草、播種なら播種と、1台1機能に特化した設計が一般的でした。Roboton Farmerはロボットアームと自動ツール交換機構を搭載することで、この制約を打ち破り、中小規模の野菜農場が1台の投資で複数の作業を自動化できる設計を実現しています。
現在、チェコ国内の2つの農場でパイロット運用が行われており、レンタルベースでの提供も開始されています。2026年中の本格販売・リース開始、2027年にはフルモジュラー版の市場投入が計画されています。
なぜ中小農場にロボットが必要か
欧州の中小農場が抱える課題
欧州の農業は深刻な人手不足に直面しています。高齢化と若年層の農業離れに加え、厳格な環境規制により化学除草剤の使用制限が進む中、手作業による除草コストは増加の一途をたどっています。
特に3〜10haの中小規模農場は、大規模農場のように高額な自動化設備を導入する資金力がなく、かといって手作業では労働力が足りないという板挟みの状況にあります。欧州農業ロボット市場は2022年の18.6億ドルから2030年には54.2億ドルに成長すると予測されていますが、中小農場への普及率は依然として低い状態です。
従来の農業ロボットの限界
既存の農業ロボットには大きな課題がありました。それは「1台1機能」という設計思想です。
たとえば、デンマークのFarmDroid FD20は播種と除草の2機能に対応しますが、灌漑やモニタリングには別の機器が必要です。フランスのNaïo Technologiesは除草ロボットのOzやDinoなど複数モデルを展開していますが、それぞれ特定の作物や作業に最適化されており、1台で全作業をカバーすることはできません。
中小農場にとって、作業ごとに異なるロボットを購入するのは現実的ではありません。必要なのは、1台で多くの作業を自動化できる汎用的なプラットフォームです。
Roboton Farmerの機能と仕様
ロボットアーム搭載による汎用性
Roboton Farmerの核心的な技術は、ロボットアームの搭載です。このアームにより、播種ユニットの操作、精密な除草、局所的な灌漑など、さまざまな作業を1台で遂行できます。アーム操作時にはカメラ映像をもとにミリメートル単位まで動作を微調整でき、高い精度での作業が可能です。
さらに、3点ヒッチとスマートコネクタインターフェースを備えた自動ツール交換機構により、作付計画に基づいてロボットが自律的に必要なツールを選択し、人の手を借りずに交換します。これにより、1日に複数の異なる作業を連続して行うことが可能になります。
この「1台多役」のアプローチは、Carbon RoboticsのLaserWeederやVerdant RoboticsのSharpShooterのように特定の作業で極限まで精度を追求するロボットとは対照的です。Roboton Farmerは1つの作業の性能で最先端を競うのではなく、中小農場が必要とする複数の作業を1台で担える汎用性に価値を置いています。
電動+ソーラーの動力設計
Roboton Farmerは完全電動で駆動し、車体上部にソーラーパネルを搭載しています。ソーラーパネルの補助充電により、長時間にわたる連続稼働が可能です。さらに、グリッド接続された充電ステーションへ自律的にドッキングしてバッテリーを充電する機能を備えており、数日間にわたる無人運転を実現します。同様に、灌漑用の水タンクの補充も自律ドッキングで行います。
Monarch Tractorの電動自律走行トラクターと同様に、ディーゼルエンジンを使わないことで年間約400リットルの燃料削減を実現し、CO2排出量の大幅な低減と燃料コストの削減に貢献します。また、電動駆動は土壌への圧力が小さく、土壌圧密(コンパクション)の問題を軽減するメリットもあります。
対応作業と精密ナビゲーション
Roboton Farmerが現在対応している作業は以下のとおりです。
- 土壌準備
- 精密播種
- 機械式除草(化学除草剤不使用)
- 局所的な灌漑(水使用量を最大83%削減)
- 作物モニタリング
- 精密施肥(個体ごとのカスタマイズ対応)
ナビゲーションには、デュアルRTK-GNSSによるセンチメートル精度の測位に加え、マシンビジョンとLIDAR(レーザーセンサー)による障害物検知を組み合わせたハイブリッドシステムを採用しています。GNSS信号が不安定な環境では、ビジュアルオドメトリとAI物体検出によるフォールバック機能が作動し、安定した自律走行を維持します。
初回使用時にはユーザーが手動でロボットを圃場内で走行させてマッピングを行い、以降の全作業はモバイルアプリで管理できます。アプリ上で圃場をデジタル化し、区画分けや作業計画の設定が可能です。
競合との比較
Roboton Farmerの位置づけを明確にするため、欧州の主要な農業ロボットと比較します。
除草ロボット市場には複数の有力なプレイヤーが存在しますが、Roboton Farmerは「多機能性」と「中小農場向けの価格帯」で差別化を図っています。
FarmDroid FD20(デンマーク)は、ソーラー駆動で播種と除草の2機能に対応し、RTK精度8mmという高い精密性を誇ります。欧州を中心に500台以上の導入実績があり、実績面では先行しています。ただし、灌漑やモニタリングには対応していません。
Naïo Technologies(フランス)は、Oz、Orio、Tedなど用途別に複数モデルを展開しています。Orioは最大10ha/日の処理能力を持ち、Ozは2年で投資回収が可能とされています。ただし、複数の作業を自動化するには複数のモデルを購入する必要があります。
Catteraのレーザー除草ロボットやRootwaveの電気除草技術のように、特定の除草方式で革新的なアプローチを取る企業もあります。これらは除草精度や効率では優れていますが、播種や灌漑には対応していません。
Roboton Farmerの強みは、これらの「単機能ロボット」では実現できない「1台で複数作業」という汎用性にあります。3〜10haの中小農場が限られた予算で最大限の自動化を実現するには、この多機能アプローチが合理的な選択肢になりえます。
ビジネスモデル
Roboton Farmerは、販売とリース・サービスの両方のモデルでの提供が計画されています。現在のパイロット段階ではレンタルベースで提供されており、農家は初期投資を抑えながらロボットの効果を検証できます。
具体的な価格は公表されていませんが、同社は中小規模農場(3〜10ha)をターゲットとしており、大規模農場向けの高額ロボットとは異なる価格帯を目指していると考えられます。2026年中に販売・リースの本格提供が開始される予定で、まずは中央ヨーロッパ市場を中心に展開し、その後他の地域への拡大も視野に入れています。
このレンタル・リースモデルは、農業ロボットの普及における最大の障壁である「高額な初期投資」を解消する可能性があります。FarmDroidやNaïoのロボットは購入前提のモデルが中心であり、リース対応を前面に打ち出しているRoboton Farmerは、中小農場の導入ハードルを下げる戦略として注目に値します。
今後の計画
Roboton Farmerの今後のロードマップは以下のとおりです。
2026年は販売・リースの本格開始の年と位置づけられており、まずは中央ヨーロッパ市場での展開が予定されています。2027年にはフルモジュラー版の市場投入が計画されており、さらに多様な作業への対応や、異なる圃場条件への適応力が強化される見込みです。
同社はAgritechnica 2025(ハノーバー)にも出展しており、国際的な認知度の向上を進めています。農業分野だけでなく、モジュラー設計を活かして緊急サービスや建設、人道支援、さらには宇宙探査まで視野に入れた展開を構想している点も特徴的です。
コメント
農業ロボット市場は「1台1機能」の単機能ロボットが主流ですが、Roboton Farmerはロボットアームと自動ツール交換という汎用的なアプローチで多機能化を実現しようとしています。この設計思想は、資金力に限りがある中小農場にとって魅力的な選択肢になりえます。
ただし、多機能であるがゆえの課題もあります。1つ1つの作業で、専用ロボットに匹敵する精度と効率を発揮できるかどうかが今後の普及の鍵を握るでしょう。FarmDroidの播種精度8mm、Carbon Roboticsのレーザー除草の速度など、各分野の専用機は日進月歩で進化しています。
現在はチェコ国内2農場でのパイロット段階であり、実際の農場での長期的なパフォーマンスデータはまだ限られています。2026〜2027年にかけての本格展開で、どこまで実績を積み上げられるかが注目されます。日本の農家にとっても、「1台で複数作業を自動化する」というコンセプトは、特に中小規模の施設園芸において参考になるアプローチといえるでしょう。
参考URL
- Roboton公式サイト
- Autonomous robot from Roboton tackles multiple field tasks – Future Farming
- Czech robot targets autonomous row crop farming – FreshPlaza
- Roboton Farmer: autonomous robot for precise vegetable cultivation – Messe.tv
- Scientists test unbelievable robot with the potential to revolutionize food production – The Cool Down